ジョージ・オーウェル『1984』あらすじ解説|ディストピア小説の傑作

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1984 イギリス文学

ジョージ・オーウェルの『1984』は、全体主義の恐怖を描いたディストピア小説です。

1949年の時点から想像した近未来の監視社会が舞台となっています。

「史上最高の文学100」に選出され、音楽や思想など他分野にも大きな影響を与えました。

本記事では、あらすじを紹介して上で内容を考察しています。

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作品概要

作者  ジョージ・オーウェル  
イギリス
発表時期1949年
ジャンル長編小説
ディストピア小説
ページ数511ページ
テーマ全体主義の脅威
近未来の監視社会

あらすじ

あらすじ

1984年、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの三大国に統治されている。

主人公ウィンストンが暮らすオセアニアは、「ビッグ・ブラザー」のファシスト政権に、思想・言語・性愛を統制され、市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる装置に監視されている。反逆的な考えを抱けば、「思考警察」に逮捕され消される。

「ビッグ・ブラザー」は過去の改ざんによって市民を洗脳している。革命以前の記憶や、戦況、物資の生産量、政府の発言を改ざんすることで、市民は常に現政権が素晴らしいと盲信する仕組みになっているのだ。

そんな恐怖政治に懐疑的なウィンストンは、規則を破りジュリアという女性と性愛を繰り返すようになる。そして自分と同じように疑念を持つ人間がいると知り、反政府運動にのめり込んでいく。だが仲間と思っていた人間に騙され、「思考警察」に逮捕され、酷い拷問を受け、頭を空っぽにされてしまう・・・

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個人的考察

個人的考察-(2)

全体主義のディストピア

本作『1984』は、全体主義の監視社会を描いたディストピア小説である。

1949年時点で想像した近未来の世界がSF的に描かれているが、しかし明らかにどこかの国を彷彿とさせる風刺的な物語になっている。

その物語では、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの三大国に統治され、主人公ウィンストンが暮らすオセアニアは、一党独裁のビック・ブラザー政権に支配されている。

ビッグ・ブラザーは抜かりない恐怖政治で市民を完璧に隷従させている。市民は言語・思想・性愛を統制され、絶えずテレスクリーンと呼ばれる送受信機に監視されている。街中には「ビック・ブラザーが君を見ている」というポスターが張り巡らされ、そのポスターにも監視機能が付いている。

少しでも不穏な動きを見せれば、「思考警察」に逮捕され、拷問の末に、その人間は初めから存在しなかったことにされる。

そんな全体主義国家で、党員としてデータの改ざんを担うウィンストンが、日記を書く場面から物語は始まる。記録を残すこと、それは市民に思考力を与え、疑問を抱かせる材料になるため禁止されている。そう、ウィンストンはこの恐怖政治に疑問を抱く1人なのだ。

ウィンストンは反政府運動にのめり込む中で、この恐怖政治の実態を少しずつ掴んでいく。

一体ビッグ・ブラザーは、どのようにしてこの矛盾だらけの権力構造を維持しているのか?

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①中間層のみを監視する社会

ウィンストンが暮らすオセアニアは、市民を三つの階級に分類している。

・上層:党中枢の人間(支配者)
・中間層:党外郭の職員(ウィンストン)
・下層:労働者プロール(奴隷)

ありふれた権力ピラミッドである。

だが重要なのは、政府に監視され統制されているのは、中間層のみということだ。

つまり労働者プロールは監視されず、貧困街で自由に生活している。有史以来、下層集団が政府を転覆した試しはない。無知な彼らはいかなる場合も権力に隷従し、永久に被差別階級から脱却できない。そのため下層集団は監視するに値しない、家畜同然の扱いを受けている。

一方で中間層には反乱の恐れがある。なぜなら彼らには多少なりとも教養があり、そういう集団は自由と平等を主張して、上層の打倒を企む可能性があるからだ。

そのためビッグ・ブラザーは、絶えず中間層を監視し、少しでも不穏な動きを見せれば、反逆罪で逮捕する。

このように権力構造を覆す可能性のある階級を徹底的に弾圧することで、ビッグ・ブラザーは権力を維持しているのだ。

②過去の改ざんで市民を洗脳

全体主義国家において、データの改ざんは切っても切り離せない。

実際にウィンストンは党外郭の職員として、データの改ざんを担っている。その代表的な事例は、物資の生産量の改ざんだ。過去の生産量を低い数値に改ざんすることで、絶えず今年の生産量が前年度を上回る状態が維持されている。

他にもあらゆる改ざんが行われているが、全ての目的は、現在が過去よりも豊かだと洗脳することだ。

指導者に対する憎悪は生活の不満から生じる。ならば、常に生活は豊かになっていると信じ込ませれば、市民は指導者に対する忠誠心を損なわない。

仮に忠誠心を損った市民がいれば、反逆罪で逮捕し、その市民のデータを完全に削除する。政府に不満を持つ人間など1人もいない、という状態を意図的に作り上げているのだ。

過去を支配する者は未来まで支配する。現在を支配する者は過去まで支配する。

『1984/ジョージ・オーウェル』

まさにこの言葉通り、過去は改変可能なのだ。

そして年々、ビッグ・ブラザー政権以前の時代を知らない若い世代が増えている。そういう若者は、強烈な忠誠心で、否応なくビッグ・ブラザーを崇拝しているのだった。

仮想敵・二分間の憎悪

このような抜かりない監視と洗脳を施しても、疑問を抱く市民は現れる。なぜなら見せかけのデータ上は豊かになっていても、実生活は少しも豊かになっていないからだ。

そんな市民の不満を解消するために、2つの仮想敵が用意されている。

1つは戦争相手のユーラシアだ。

政府の発表では、常に戦況は優勢で、たびたびユーラシアを撃退したと報道される。すると市民は自国の勝利に熱狂し、政府に対する不満を忘れて、ナショナリズム的忠誠心を強める。

そしてもう1つの仮想敵は、ゴールドスタインという人物だ。彼はビック・ブラザー政権を裏切った反政府組織のリーダーである。

市民は1ヶ月に1度、「二分間の憎悪」という習慣を強いられている。ホールに集められ、ゴールドスタインがいかに悪であるかを訴える映像を見せられるのだ。すると市民は反逆者に対する憎悪を爆発させ、ビック・ブラザーへの忠誠心を回復する。しかしゴールドスタインが本当に存在するかは不明である。

このように政府は、巧みな感情コントロールによって、市民の憎悪を仮想敵に向けさせ、政府に対する不満を誤魔化すことで、権力を維持しているのだ。

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党のスローガンの意味

こうしたファシスト政権に疑念を抱いたウィンストンは、反政府運動にのめり込んでいく。

そのきっかけとなったのは、オブライエンという男との出会いだ。彼はゴールドスタインを崇拝する反政府組織の一員で、反逆の手引きとなる書物をウィンストンに与える。

その書物には、党のスローガンに隠された秘密が暴露されていた。

無知は力なり

前述の通り、ビッグ・ブラザー政権は、三つの階級で構成されている。

・上層:党中枢の人間(支配者)
・中間層:党外郭の職員(ウィンストン)
・下層:労働者プロール(奴隷)

有史以来、人間社会は、この三つの階級を上手く機能させることで富を膨れ上がらせてきた。そして富が増えると、それを分配することで、中間層や下層の人間も豊かになる。

だが支配者が懸念すべきは、中間層や下層の人間が豊かになりすぎることである。彼らが豊かになると、読み書きを覚え、自分で考えるようになり、支配者が不要だと気づいてしまう。その先には反乱が待ち受けている。

そのため支配者の重要なミッションは、中間層や下層の人間に富を分配しないことである。

あからさまに富を渋れば、市民は政府に対して不満を持つようになる。前述した通り、下層はいかなる時も隷従するが、中間層は反旗を翻す可能性を孕んでいる。だからビッグ・ブラザー政権は中間層の人間を厳しく監視し、知識を得ないよう徹底的に行動制限している。

日記や読書や、その他教養になるものを禁止しているのは、彼らが知識を得て余計な考えを巡らさないよう、無知に留めるためだ。

要するに「無知は力なり」とは、市民を無知にすることが、支配者の権力保持に繋がる、という逆説的な意味が込められているのだ。

戦争は平和なり

中間層と下層が豊かになると、権力構造の崩壊に繋がる。だからビッグ・ブラザー政権は富の分配を制限している。しかし単に富を分配しないだけでは鬱憤が溜まってしまう。

そこで役立つのが戦争だ。

戦争をすれば、膨れ上がった富を消費できる。財を軍備に回し、市民を戦場に送り込めば、自然と富や人員が削減される。そうなれば中間層や下層の人間は貧しくなり、上層の人間の権力だけが保持されるのだ。

こうした戦争の利点から、オセアニア、ユーラシア、イースタシアの三カ国は、ある種の協定の元、意図的な戦争を繰り返している。いずれの国も勝利しない、終わらない戦争を続けることで、市民の富を消費し、それぞれの国の支配層が権力を保持する仕組みになっている。だからある日突然、相手国がユーラシアからイースタシアに変わったりするのだ。

加えて前述の通り、戦争は仮想敵を生み、市民の憎悪を政府から敵国に逸らすことができる。

要するに「戦争は平和なり」とは、困窮によって市民を弱体化させ、さらに仮想的に憎悪を向けさせることで維持される、支配者にとっての平和を意味するのだ。

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二重思考とニュースピーク

この矛盾だらけの恐怖政治に、なぜ市民は疑念を抱かないのか。それは彼らが、「二重思考」という手法を教育されているからだ。

「二重思考」とは、矛盾する二つの事柄を同時に受け入れる自己洗脳方法である。

・黒いものは白い、白いものは黒い
・良いものは悪い、悪いものは良い

これらは矛盾する事柄だが、しかし人間にはそれを平然と受け入れる性質がある。それは認知的不協和のようなものだ。

例えば、粗悪な商品を高額な値段で買わされると、人間はそれを優れた商品だと信じ込もうとする習性がある。つまり、事実を都合よく捻じ曲げて矛盾を受け入れてしまうのだ。

そのため、急に戦争相手が変更されたり、政府の主張が撤回されたり、過去のデータが改ざんされても、人々はその矛盾を疑わない。政府が「2+2=5」だと主張すれば、市民はそれを信じ込んでしまうのだ。

仮に市民が矛盾に気づくとしたら、それは余計に思考を巡らせた時だ。だから政府は人々の思考を停止させるために、「ニュースピーク」という運動を推し進めている。

「ニュースピーク」とは、現在の言語に取って代わる、新しい言語の普及だ。その内容は、言語を削減する「言葉狩り」である。

人間は多くの言葉を所有するから、感情や考えを論理的に主張できる。ならば言葉それ自体を削減してしまえば、人間は物事を考えることができなくなり、政府に疑問を抱く思考回路も失ってしまう。

このように市民は、「二重思考」と「ニュースピーク」によって、物事を深く考えられなくなり、ひたすら政府の矛盾を受け入れ、盲信する状態に陥っているのだ。

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バッドエンドの先のハッピーエンド

これまで全体主義社会の構造にばかり言及してきたが、最後に物語にも触れようと思う。

ウィンストンは、反政府組織のオブライエンとの接触によって、ビッグ・ブラザーの打倒に動き出す。ところが実際のオブライエンは、不穏分子を炙り出すための政府側の人間だった。

オブライエンに騙されたウィンストンは、思考警察に逮捕され拷問を受ける。しかし拷問の目的は、罪を認めさせることでも、痛めつけて殺すことでもない。更生させるためだ。

反逆者を処刑すれば、彼らは殉教者として人々に英雄の印象を与えかねない。それを避けるためには、心からビック・ブラザーを敬愛する状態に更生させて、社会に戻す必要があるのだ。

拷問の内容は見るに耐えないものだった。それでもウィンストンは「2+2=4」だと主張し、しぶとく抵抗する。

ウィンストンの信念はこうだ。どれだけ恐怖政治で人々の思想や行動を制限しても、魂だけは縛ることはできない。そして、それが何年後、何百年後かは分からないが、いずれ魂を所有する人々によって、ビッグ・ブラザーは打ち倒されると信じているのだ。

しかしは物語の終わりは絶望だった。ウィンストンは酷い拷問の末に魂を手放し、頭を空っぽにされた。そして元の生活に戻った彼は、心からビッグ・ブラザーを愛していた。

この救いようのないバッドエンドには、実は続きがある。

本編の後には「ニュースピークの諸原理」という文書が付録されている。そこでは、ニュースピーク自体が過去のものとして記されている。つまり、遠い未来にビッグ・ブラザー政権が破られたことを暗示する内容になっているのだ。

本書の出版にあたり、この「ニュースピークの諸原理」は削除を要請されたが、オーウェルは断固拒否した。そこにはオーウェルの強い信念が感じられる。

つまり、圧倒的な恐怖政治を前に、反旗を翻す不可能性を描きつつ、しかし、その体制が破られた未来を暗示することで、魂までは支配できないというメッセージを、オーウェルはどうしても訴えたかったのではないだろうか。

これは果たしてSFなのだろうか?

あらゆる端末に生活を監視され、SNSで互いに告発し合い、言葉狩りは進み、政府による改ざんは濁され、それでも殆ど一党独裁の状態が続き、そして市民は深く物事を考えない。

これは一体どこの国の物語だろうか?

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