芥川龍之介『アグニの神』あらすじ考察 誰が老婆を殺したか

アグニの神 散文のわだち
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芥川龍之介の短編小説『アグニの神』は、魔術を題材にした系統の作品です。

『仙人』『魔術』『杜子春』等とまとめて、怪奇系の作品として扱われることがあります。

『アグニの神』作品概要

作者芥川龍之介(35歳没)
発表時期1921年(大正10年)
ジャンル短編小説
児童文学
テーマ人間のエゴイズム
怪奇趣味

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『アグニの神』あらすじ

あらすじ

台湾のとある屋敷に、占いをするインド人の老婆が住んでいました。その老婆にはアグニというインドの神がついているため、占いは絶対に外れないと言うのです。屋敷には恵蓮えれん と呼ばれる少女もいて、老婆に扱き使われている様子です。

偶然屋敷の前を通りかかった日本人の遠藤は、2階の窓の恵蓮の姿を見て、行方不明になった日本領事の娘、妙子だと気付きます。遠藤は屋敷に押し入り、少女を返すよう求めますが、老婆の魔法によってあっけなく追い返されてしまいます。救出方法を考えあぐねている遠藤の元に、妙子が書いた手紙が落ちてきます。なんでも、老婆は妙子の体にアグニの神を降臨させて占いをしているみたいで、今夜に限ってはアグニの神が降臨した演技をして、脱出を試みようと言うのです。

ドアの前に立った遠藤は、儀式の様子を盗み聞きしていました。すると、少女を父親の元に返さないと酷い目に合わせる、とアグニの神が老婆に話している声が聞こえます。ところが老婆は、妙子が演技をしていると指摘し、ナイフで妙子を殺そうとします。遠藤がドアを突き破って中に入ると、老婆は自分の胸にナイフを刺して死んでいました。妙子の作戦が成功したと思いきや、彼女は眠ってしまって計画は失敗したと主張します。妙子は死んでいる老婆を見て、遠藤が殺したのかを尋ねますが、遠藤はアグニの神が殺したと答えるのでした。




『アグニの神』個人的考察

個人的考察

芥川はオカルト好き!?

芥川龍之介の作品の中には、「怪奇現象」や「妖怪」や「魔術」など、ややオカルトチックな題材を扱ったものが多く存在します。

最も有名な作品では、『杜子春』が挙げられます。仙人の啓示で何度も大金持ちになった主人公の杜子春が、人の世に飽き飽きし、仙人の修行の中であらゆる超現実的な経験をするという、まさに怪奇な物語です。

あるいは『魔術』という作品では、インド人魔術師に魔術を教わる物語の中で、人間のエゴイズムを巧みに描いています。本作『アグニの神』と非常に似た作品と言えるでしょう。

このように、芥川龍之介が怪奇現象や魔術に興味を持っていたことは、彼の書簡やエッセイを通しても知ることができます。

MYSTERIOUSな話しがあったら教えてくれ給え あの八百万の神々の軍馬の蹄のひびく社の名もその時序かいてよこしてくれ給え

井川恭宛書簡

如例静平な生活をしている時に図書館へ行って怪異と云う標題の目録をさがしてくる此間生物怪録をよんだら一寸面白かった

藤岡蔵六宛書簡

ミステリアスな話や、怪奇現象にまつわる文献に夢中になる芥川の様子が読み取れます。

芥川は高校から大学時代にかけて、妖怪や幽霊についてしたためた、『椒圖志異しゅくとしい』という聞書集をのちに発表しています。その内容を素材に執筆したのが『妖婆』という小説で、それは本作『アグニの神』の下書きになった作品と言われています。両作とも、盗んできた娘を使って神を利用した結果、その罰を与えられるという構造の物語です。

芥川が怪奇現象や魔術などに興味を抱いたのは、ある種その現象に付随する神という存在が大きく影響しているのではないでしょうか。

つまり、芥川作品の主題のひとつである「人間の利己主義」に対して、人間を超越した存在を登場させることで、その欲深さがもたらす結果(本作の場合では死)を描くことが叶ったのだと思われます。『蜘蛛の糸』なども、まさに同様の構造です。

逆に、神さえも住めないくらい腐敗した京の都では、下人が生き延びるために老婆の身包みを剥がしても、彼を裁くものはいなかったのですから。(『羅生門』)




老婆を殺した犯人は誰か

読了後にモヤモヤした人も多いと思います。

アグニの神が憑依した演技をして、自らの解放を要求する、という作戦を計画した妙子でした。日本人の遠藤はその一部始終を扉越しに覗いていました。妙子の計画通り、娘の解放を求める台詞が聞こえてきたので、遠藤は計画が上手くいった思い込んでいました。ところが部屋の中に入ると、妙子はいつも通りアグニの神が憑依して眠ってしまったと主張します。老婆が死んでいる様子を見た妙子は、遠藤が殺したのだと思いますが、遠藤は否定します。

そのぎこちない妙子と遠藤の会話のせいで、結局誰が老婆を殺したのか、曖昧な印象だけを残したまま物語が終了します。それ故に、あらゆる推測が成されています。実際は妙子の作戦が計画通り成功していたのではないかと考察する読者もいるようです。

個人的には、もっとも単純な考察である、アグニの神が老婆を殺した、という解釈を支持しています。

仮に妙子の作戦通りの結果だったすれば、老婆が死んでいる状況に驚き、遠藤の仕業と思いこむのは不自然です。事実、彼女は遠藤に起こされるまでは眠っていたのですから、彼女が嘘をついているとは考えにくいです。あるいは、遠藤が殺したという想定も不可能でしょう。遠藤が扉をぶち破ったタイミングでは既に老婆は死んでいましたし、そもそも初めて屋敷に訪問した際には、魔術を扱う老婆はピストルを持ってしても敵わなかった相手です。

ともすれば、アグニの神が、超自然的な力で老婆を裁いたとしか考えられません。

ではなぜ、アグニの神は老婆を裁いたのか。それを考察するために、次段落ではアグニの神について調べていきます。

バラモン教における「アグニ」

タイトルにもなっている「アグニ」とは、実際にインド神話に登場する神様です。ヒンドゥー教の前身であるバラモン教においては、アグニは炎が神格化された神として有名です。

バラモン教では、炎は天と地を繋ぐ役割を果たすため、供え物を炎の中に入れてアグニに食べてもらうことで、神々に与えることが出来るとされています。いわゆる神界と人間界の中継役を担うのがアグニということになります。ともすれば、妙子の体に憑依して占いの助言をするアグニの神は、まさに神界と人間界の中継役を果たしていると言えるでしょう。

アグニの炎は様々なものに姿形を変えることで有名です。太陽や稲妻や祭火、あるいは人間の中の思想の炎や、怒りの炎にもなります。これは、万物は絶対的な一者によって創造されているというインド哲学に基づいた考え方でしょう。そして、このあらゆるものに姿形を変えるというアグニの特徴は、妙子の体に憑依できるという、作中における変身的な手法とも結びついているように感じられます。

私の占ひは五十年来、一度も外づれたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね。

『アグニの神/芥川龍之介』

老婆は、アグニの神の存在を明かして、自分の占いは絶対に外れないと豪語していました。

事実、アグニは嘘をつくことが出来ない神としても有名です。アグニのお告げによる占いが絶対に外れないのは必然的と言えるでしょう。

アグニの神についての参考文献は下記です。

インドのユニークな神様が挿絵付きでたくさん紹介されているので非常に面白いです。




なぜ神は老婆を裁いたのか

では結論として、アグニの神はなぜ老婆を裁いたのか、の考察に入ります。

本作『アグニの神』は、児童文学雑誌「赤い鳥」に掲載された作品です。『蜘蛛の糸』や『魔術』も同雑誌掲載です。このことから分かるように、利己的な人間が最終的にどんな目に遭うか、という児童向けの主題が描かれているのだと考えられます。

物語の舞台である上海は、当時(日本の大正期)外国企業から投資を受けて発展しており、作中のように多くの人種が住んでいるのは珍しいことではありませんでした。そして、治安が悪かったことも周知の事実です。

つまり、老婆が娘を誘拐するなどは、往々にしてあり得たわけです。おまけに老婆は神を利用した占いによって金儲けをしているわけです。アメリカ人が占いを申し出た場面で、当初は受け付けないスタンスだったのに、大金を積まれた途端、急に態度が豹変する様子が印象的です。本作において老婆は、悪事を働いてでも金儲けをしようと考える、強欲で利己的な人間を象徴していることがわかります。

欲塗れの醜い人間である故に、老婆はアグニの神に裁かれたのでしょう。利己的な考えに囚われた結果、蜘蛛の糸がぷつりと切れたカンダタと同様の展開ですね。(『蜘蛛の糸』)

深堀するなら、老婆がアグニの神を疑ったことが、決定的な落ち度だったと考えられます。

人を莫迦ばかにするのも、好い加減におし。お前は私を何だと思つてゐるのだえ。私はまだお前にだまされる程、耄碌まうろくはしてゐない心算つもりだよ。早速お前を父親へ返せ――警察の御役人ぢやあるまいし、アグニの神がそんなことを御言ひつけになつてたまるものか。

『アグニの神/芥川龍之介』

アグニの神の忠告に対して、老婆は娘が演技をしているのだと疑っていました。

前段落にて、アグニの神は嘘をつくことが出来ない神様だと紹介しました。

つまり、娘がアグニの神を演じていると疑うこと自体が野暮なわけです。それでも老婆はアグニの神の言葉を疑い続け、その結果死んでしまいました。

絶対に嘘をつかない神の言葉を疑った時点で、災いがもたらされることは決まっていたのかもしれません。

映像で楽しむ芥川作品

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芥川龍之介の小説は、日本の偉大な映画監督である黒澤明によって映像化されています。

タイトルは『羅生門』になっていますが、ファンから人気が高い短編『藪の中』が原作です。この映画化によって「世界の黒澤明」の名を轟かすことになりました。

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