佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』あらすじ考察 ビートルズの曲名に込められた意味とは

きみの鳥はうたえる 散文のわだち
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佐藤泰志の小説『きみの鳥はうたえる』は、作者の死後に著しく再評価された代表作です。

芥川賞の候補に選ばれたものの受賞を逃しました。その後も佐藤泰志は賞を逃しては燻り、精神的な問題に苦しみ、41歳で自殺しました。

本作から伝わるジリジリとした憂鬱、そしてビートルズの楽曲をタイトルに用いた理由とは。映画版も紹介しながら考察していきます。

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『きみの鳥はうたえる』作品概要

作者佐藤泰志
発表時期1982年(昭和57年)
ジャンル中編小説
テーマ青春の終焉
友情と恋愛と孤独
関連2018年に映画化
主演:柄本佑、染谷将太

『きみの鳥はうたえる』あらすじ

永遠に続くような気がした22歳の夏の出来事です。不真面目な書店員である「僕」は、以前のアルバイトで知り合った静雄と同居しています。2人はお互いを深く詮索しない丁度良い距離感を保っています。ただし、静雄が母親に関する蟠りを抱えていることは何となしに判っています。

職場の書店には佐知子という女性が居て、「僕」は彼女と関係を持つようになります。自宅に招いたことで静雄とも面識を持ち、次第に佐知子と静雄が接近していきます。「僕」は正式に交際しているわけではなかったので、2人が親しくなることに口出ししませんでした。

行きつけのバーでは毎年、常連たちで海水浴に出かけることになっています。静雄と佐知子が参加するにもかかわらず、「僕」は今年に限っては留守番することにしました。2人が海水浴に出かけている間に、静雄の兄が尋ねてきて、母が精神病院に入院したことが発覚します。殆ど錯乱状態で、無理やり薬で眠っているようです。

海水浴から帰ってきた静雄に母親のことを告げ、彼は明日病院に行くことになります。それとは別に、佐知子と静雄が交際することになったと知らされます。母の見舞いから帰ってきたら、静雄は家を出ていくようです。「僕」はなすがまま受け入れるのでした。

静雄が旅立って数日後、新聞の小さな記事に、彼が母親を締殺して逃亡したという事件が掲載されました。佐知子は静雄を追って電車に飛び乗りました。「僕」は行きつけのバーにかかって来た電話で静雄と話します。こっちでは警察が張っていることを知らせ、うまく逃げ切るよう促して電話を切ります。しかし、静雄は電話ボックスを出た直後に職務質問を受け逮捕されるのでした。

『きみの鳥はうたえる』個人的考察

主人公が抱える憂鬱(大人への転換)

「僕」の主観で描かれる物語にもかかわらず、何を考えているか殆ど綴られないため、主題の解釈が難しかったと思います。あるいは、恋愛における三角関係か、静雄の母親に対する蟠りがウェイトを占めたかもしれません。

あえて主人公である「僕」に焦点を当てるなら、本作は大人への転換期に抱く複雑な心情を描いていると考えられます。

僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした。九月になっても十月になっても、次の季節はやってこないように思える。

『きみの鳥はうたえる/佐藤泰志』

いつまでも続くように感じるのは、永遠に続いて欲しいという願望の表れとも解釈できます。事実、主人公はあらゆる物事に対して懐古的で、これから何かが起こるというよりも、何もかもが起きた後の静けさに迷子になっているようでした。

それでいて主人公の心は大きな転換期を迎えており、これまで無邪気に楽しんでいたことが受け付けなくなっています。それを象徴するのが行きつけのアラのバーでしょう。

  • アラのバーに長らく立ち寄っていなかった
  • アラのバーで常連たちが始めるサッカーに参加しない
  • 毎年恒例の海水浴に参加しない

主人公はこの夏が永遠に続いて欲しいと願うと同時に、その不可能生を認め、抗えない心変わりを経験していたのでしょう。

その原因は、恐らく22歳という年齢に関係していると思います。世間一般的に、22歳と言えば新社会人への転換期です。それにもかかわらず、主人公は書店のアルバイトで体たらくに過ごし、同居人の静雄も失業中でした。かと言って彼らに夢や目的があるわけではなく、ただ単に堕落していたのです。

静雄の場合は、母親の蟠りを抱えていても、「僕」のように抗えない心変わりにそこまで苦しんでいなかったように思います。事実、静雄はアラのバーでのサッカーや海水浴に参加していました。ともすれば主人公だけが、自分はこのままでいいのだろうか、というイメージ社会における不安に敏感だったのかもしれません。

ずっとこのままで居たいのに、そのままでは居られない。そんな残酷な事実が主人公を、あらゆる物事を心から楽しめないような状態にしていたのかもしれません。

佐知子との関係における違和感

恋の三角関係における主人公の言動はいささか不可思議でした。

佐知子とセックスをして、一時の惑溺かと思えば、静雄と近づく様子をどこか気にしており、されど口出しはせず、挙句静雄と付き合うことを甘んじて受け入れました。

表層をなぞれば、親友の気持ちを尊重して三角関係から身を引いた、という解釈ができます。それをあえて深読みすれば、前述した大人への転換期が関係しているように思います。

佐知子はバイト先の店長と不倫関係にありました。そのことについて主人公は静観を貫きます。陰湿な同僚には手をあげるくらい喧嘩っ早い彼です。店長から嫌味を言われることは多々ありましたし、妻子持ちで佐知子を食い物にしているのであれば、尚更感情的になってもおかしくないでしょう。

では、なぜ主人公は静観を貫いたのか。

ここには『若者/大人』という分断されたコードが関係しているように思います。

熱意迸る若者と、物分かりのいい大人。両者はいかなる場合も対立関係にあります。ここでの「大人」像とは、定職に就き妻子持ちである店長を指します。反対に「若者」像としては主人公や静雄や佐知子が当てはまるように思えて、22歳の彼らは丁度「若者/大人」の対立コードの中間に位置するように思います。

つまり、そこまで物分かりが良い訳ではありませんが、かといって迸る純愛に身を任せるのも馬鹿らしい気がする、といった状態です。真面目になることは得てして無様だと感じる転換期だからこそ、主人公は佐知子との恋愛に対して始終一歩身を引いていたのだと思います。

お互い深く干渉し合わない主人公と静雄です。佐知子の登場によって、主人公は静雄に酷く気を遣わせることになりました。セックスの現場を目撃した初対面の日の静雄はジンを浴びるように飲んでいました。主人公は静雄の心を掻き乱していることに気付いていたから、反対に自分が掻き乱されることを甘んじて受け入れていたと考えることも出来ます。

個人的には、大人に成りきれない若者の自己嫌悪や罪悪感が、佐知子を素直に愛することを邪魔しており、それは結局自分を守るための臆病さが原因だったのではないかと感じています。




「僕」と静雄の最後の約束

大人を目前に無気力に成り果てた主人公でしたが、終盤では静雄とある約束を交わします。

主人公は陰湿な同僚に手を出したことで、彼の仲間にリンチされます。ちょうど静雄と佐知子が海に行っている間の出来事です。その事実を静雄に話すと、彼は二人で犯人を懲らしめようと言います。母親の見舞いから帰って来るまでは仕返しを待ってくれ言うのです。

この約束があってか「僕」は同僚に対して許していない旨を伝えます。無気力に成り果てていた彼であれば、いっそ水に流すこともあり得たように思いますが、反逆の決心をしたのです。静雄との仕返しの約束が、主人公にとっての最後の若さの余力だったのかもしれません。

ところが静雄は母親を絞殺したことで警察に追われる身になります。電話で話した際には、仕返しに協力出来ないことを謝っていました。そして逮捕されたことで実際に二人の約束は叶わないものへとなったのです。

あらゆる物事に辟易し、若者の心情を失いかけていた主人公は、最後に静雄との約束が叶わなかったことで、本当の意味で「若者」像を失ってしまったように感じました。主人公と静雄の間にあった若さが、季節が暮れるのと同じように、血も流さずに潰れてしまったという儚い物語だったのではないでしょうか。

何故ビートルズなのか

本作のタイトルがビートルズの楽曲「And Your Bird Can Sing」の和訳であることは有名です。

大名盤『リボルバー』に収録されています。

佐藤泰志の作品にはビートルズに限らず、ロックンロールに着想を得たものが多々あります。同書収録で、映画化され話題の『草の響き』では、チャックベリーの「ユー・キャント・キャッチ・ミー」がキーワードになっています。

『きみの鳥はうたえる』の作中では、同居を始めるにあたって静雄が新居に持って来たのがビートルズのレコードで、酔っ払って「And Your Bird Can Sing」を歌ってくれたことが、回想的に描かれます。

「And Your Bird Can Sing」の歌詞には様々な解釈がありますが、最も有名なのが、ジョンレノンが初妻であるシンシアとの結婚生活に感じていた齟齬です。

And your bird can swing
しかも君の飼っている鳥は演奏が得意って話だ

But you can’t hear me, you can’t hear me
でも君は僕の歌声を聴こうとしない 聴こうとしないんだ

『And Your Bird Can Sing/THE BEATLES』

愛する人に理解してもらえない蟠りが歌詞から読み取れます。

まさに『きみの鳥はうたえる』の「僕」が抱える不器用な人間関係、静雄の背後に存在する家族の問題、複数人と関係を持つ佐知子の精神状態など、他者と上手に分かり合えない心情を楽曲の歌詞と重ね合わせているのかもしれません。

あるいは、お金がなくてビートルズのレコードを売り払ったと記されていることから、失われた青春の象徴としても描かれていたように思います。

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原作とは設定がわりと異なりますが、新解釈としての映画版の評価もかなり高いようです。

原作には存在しない設定ですが、制作者の意図でクラブイベントでの音楽の描写が重要視されています。毎日映画コンクールで「音楽賞受賞・Hi’Spec」を受賞し、劇伴音楽の側面でも話題を集めました。

個人的には、主人公が失われる青春に抵抗する新解釈が良かったです。それから、柄本佑と染谷将太のキャスティングが原作の二人の関係性を絶妙に再現していて、それだけで満足できました。

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以上、佐藤泰志の『きみの鳥はうたえる』のあらすじ考察を終了します。

長い間お付き合いありがとうございました。この文章が気に入った方は、是非シェアをお願いいたします。




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