1950年代のアメリカで異彩を放った文学集団ビートジェネレーション。
戦後カウンターカルチャーの先駆けとして多くの伝説的作品を生み出し、文化や政治に大きな影響力を及ぼし、とりわけ60年代のヒッピームーブメントにおいて神格化されたことで、世界中で広く知られるようになりました。
ロックミュージシャンとも深いつながりがあるため、生粋の文学ファンよりも音楽ファンから熱烈に支持される傾向にあります。
しかしビートジェネレーションの作家はあまり商業的な成功を収めていないため、すでに絶版になっている著書も多く、なかなか手に入らないのが現状。
本記事では現在でも手に入るビートニクのおすすめ代表作5選を紹介します。
ビートジェネレーション(ビートニク)とは?
ビートジェネレーション(ビートニク)とは、1950年代のアメリカで異彩を放った文学集団。
代表的な作家に、ケルアック、ギンズバーグ、バロウズの3名が挙げられます。。
そもそも「ビートジェネレーション」とは、ケルアックが生み出した造語。
『Beat』には「殴る」「打ちのめす」という意味があり、つまり、騙されふんだくられ、精神的肉体的に消耗した世代、という自虐的な意味が込められています。
一方で音楽的ビートとして「躍動感のある興奮した世代」という正反対の意味も有します。
そんなビートニクの思想は以下の通りです。
・標準的な価値の拒否
・スピリチュアル世界の探究
・西洋と東洋の宗教融合
・経済的物質主義の拒否
・死・感情・願望・葛藤などの描写
・ドラッグを使用した精神実験
・性の解放と探究
アメリカにおけるカウンターカルチャーの走りと言えます。
その証拠にビートニクの作品は、1960年代のヒッピーカルチャーや、多くのミュージシャンに影響を与えました。
彼らがドラッグや性行や放浪を愛好したのは、経済や物質主義に対するアンチテーゼだと考えられています。
1950年代は冷戦の時代。米露は軍事力や科学力を誇示し、しのぎを削っていた。弾道ミサイルや核実験、人工衛星の打ち上げ・・・文明の発達がいずれ世界を破壊するという強迫観念が人々を取り巻いていました。
そんな経済や物質主義を過剰に信仰する社会から逸脱し、精神的な自由を追求した集団こそ、ビートジェネレーション。
ビートジェネレーションの代表作家3人
ビートジェネレーションは後世に多大な影響を及ぼしたものの、最盛期には主に3人の作家が中心となって活動していました。
- ジャック・ケルアック
- ウィリアム・バロウズ
- アレン・ギンズバーグ
ジャック・ケルアック
名前 | ジャック・ケルアック |
出身 | マサチューセッツ州ローウェル |
生没 | 1922年ー1969年(47歳没) |
代表作 | 『オン・ザ・ロード(路上)』 『地下街の人びと』 『孤独な旅人』 |
ジャック・ケルアックは「ビート族の王」「ヒッピーの父」と呼ばれ、ビートジェネレーションので名付け親でもある最重要人物。
大学中退後にアメリカ大陸をひたすら放浪し、その経験を下敷きにした自伝的小説を多数発表しています。
代表作の「オン・ザ・ロード(路上)」は、わずか3週間で書き上げたという逸話を持ち、ジム・モリソン、デヴィッド・ボウイ、ボブ・ディランなど、数多くのロックミュージシャンに影響を与えました。
「オン・ザ・ロード」の成功に後押しされ、47歳で他界するまでの10年間に、自伝的要素を盛り込んだ小説を多数発表したものの、次第にビートニクとの親交も途絶え、晩年は表舞台から遠ざかっていました。
特にビートジェネレーションとヒッピーを結び付けられることを嫌い、酒をあおりながらベトナム戦争で盛り上がるヒッピーに悪態をつく孤独な日々を送り、アルコール依存症で健康を害していくこととなりました。
晩年のケルアックは傍目には不遇でしたが、今でも多くの芸術家から支持されており、ケルアックの生まれた町ローウェルには記念公園が作られています。
ウィリアム・バロウズ
名前 | ウィリアム・バロウズ |
出身 | ミズーリ州セントルイス |
生没 | 1914年ー1997年(83歳没) |
代表作 | 『裸のランチ』 『ジャンキー』 『ソフトマシーン』 |
ウィリアム・バロウズは「実験小説の雄」と呼ばれ、前衛的な手法を駆使した作品を生み出したビートジェネレーションの奇才。
人生の大半をドラッグに浸る生活を送り、有名なエピソードとして、ウィリアム・テルを真似て、妻を射殺した壮絶な過去があります。
そうした麻薬の錯乱状態で書き留めた「裸のランチ」は、物語の筋や登場人物に脈絡がなく、超現実的なイメージが散乱し、凡人には理解できないどころか、本人も書いた覚えがなく、自分でも読み返せないと言及しています。
また同性愛者である彼の作品には性的な表現が多く、その内容が卑猥としてアメリカ政府から発禁処分を受けるも、同時にカルト的な人気を博すようになります。
特に文章をランダムに切り刻んで新しいテキストに作り直す「カットアップ」という手法は、デヴィッド・ボウイらロックミュージシャンの作詞にも大きな影響を与えました。
1970年代以降はSF小説を執筆するなど精力的に活動し、一時的に麻薬から足を洗っていたものの、65歳で再びヘロイン中毒に陥り、それでも83歳という長寿を真っ当。
アレン・ギンズバーグ
名前 | アレン・ギンズバーグ |
出身 | ニュージャージー州パターソン |
生没 | 1926年ー1997年(70歳没) |
代表作 | 『吠える』 『カディッシュ』 |
アレン・ギンズバーグはビートジェネレーションの詩人で、朗読の名手と呼ばれていました。
現代詩人なるものが枯渇していた当時のニューヨークで、彼の幻覚的で、ジャジーで、瞑想的で、露悪的な詩は高く評価され、カウンターカルチャーの先駆けとして後世に多大な影響を与えました。
1955年サンフランシスコの小さな会場で、無名の詩人ギンズバーグが、代表作『吠える』の第1部を朗読すると、その前衛的な作風に聴衆は電撃的な反応を起こしたとか。
1960年代後半に入ってからもヒッピーや反戦活動家らと交流をはかり、ボブ・ディランのミュージックビデオに出演したり、ツアーに同行したことでも有名。
しかし日本では彼の作品はほとんど翻訳されていないため、初期の作品『吠える』『カディッシュ』が部分的に知られているのみ。
1997年にニューヨークの自宅で息を引き取るまで詩作を続け、死の直前には自分の葬式の風景を書いた「死と名声」を発表し、結果的にそれが死の予告となりました。
ビートジェネレーションの代表作おすすめ5選
ビートジェネレーションの作品は大半が絶版なので、入手困難なものが多いのが現状。
そんな中、現在でも手に入るおすすめの代表作を5つ紹介します。
- 「オン・ザ・ロード」
- 「裸のランチ」
- 「吠える」
- 「麻薬書簡」
- 「そしてカバたちはタンクで茹で死に」
『オン・ザ・ロード』
■ビートニクの金字塔、ケルアックの代表作
作者 | ジャック・ケルアック |
発表時期 | 1951年 |
ジャンル | 長編小説 |
難易度 | ★★★☆☆ |
■作品紹介
ビートニクの金字塔。ケルアックの代表作。自らの放浪体験を元にした自伝小説で、3週間で書き上げたという伝説的逸話がある。
その影響は凄まじく、ボブ・ディランが「僕の人生を変えた1冊」と明言している。
■あらすじ
主人公サル・パラダイスが、ディーン・モリアーティとアメリカ大陸を放浪する記録が描かれる。まるでモダンジャズの即興演奏のように、ひたすら刺激的な旅を続け、生きるとはどういうことか、その真実を追求する。
狂ったように生き、狂ったように暴れまわり、燃えて燃えて燃えまくる・・・
ビートジェネレーションの中で、最も伝説的かつ比較的読みやすい作品なので、入門編におすすめな1冊!
『裸のランチ』
■ビートニク随一の奇書、解読不明
作者 | ウィリアム・バロウズ |
発表時期 | 1959年 |
ジャンル | 長編小説 |
難易度 | ★★★★★ |
■作品紹介
ビートニク随一の奇書。
根っからのジャンキー・バロウズが、麻薬によって錯綜した世界を描く。バロウズ自身、本作を書いた覚えがなく、また自分でも読み返せないと言及している。
奇才クローネンバーグによって映画化され、そちらもカルト的人気を博している。
■あらすじ
ウィリアム・リーは麻薬中毒者で、警察の追手から逃れ、錯綜した超現実の世界を彷徨っている。中毒者の暴走、同性愛者の欲情、マッドサイエンス、腐敗政治・・・次々に狂気的な映像が浮かび上がり、そこで一体何が行われているのか誰にも判らない。
これは芸術か、狂人の戯言か・・・?
『オン・ザ・ロード』と並ぶ代表作だが、解読不可能な奇書のため、ビートニクに心酔した物好きにしかおすすめできない。
『吠える』
■無名の朗読会で衝撃を与えた伝説的詩作
作者 | アレン・ギンズバーグ |
発表時期 | 1955年 |
ジャンル | 詩集 |
難易度 | ★★★★☆ |
■作品紹介
ケルアックやバロウズと並ぶ、ビートニクの騎手・ギンズバーグの代表的詩作。
1955年サンフランシスコの小さな会場で、無名の詩人ギンズバーグは、本作『吠える』の第1部を朗読し、聴衆に衝撃を与えたと言われている。
■内容
幻覚的で、ジャジーで、瞑想的で、露悪的な言葉を紡ぎ、自由と反抗をうたったビートニク伝説の詩作。カウンターカルチャーの先駆けとして、後世に多大な影響を与えた。
『吠える』ほか9篇の詩が収録されている。
2020年に新訳で刊行され、そちらも入手が困難になりつつある。希少な作品であるため気になる人は今のうちに!
『麻薬書簡』
■バロウズとギンズバーグによる書簡集
作者 | ウキリアム・バロウズ アレン・ギンズバーグ |
発表時期 | 1963年 |
ジャンル | 書簡集 |
難易度 | ★★★☆☆ |
■作品紹介
ビートニクの騎手・バロウズとギンズバーグによる書簡集。
究極のドラッグ「ヤーへ」を求めて南米へ渡ったバロウズと、同じく南米を旅したギンズバーグの手紙のやり取りが収録されている。どこまでが実際の手紙で、どこからが創作なのかは判らない。
■内容
ヤヘーを求めて南米を放浪するバロウズの、麻薬体験がフィールドノート的に記される。そうした体験に対してギンズバーグは、独自の鋭い哲学によって、ヤヘーによる超越体験の意義を分析する。薬物のリアルな効能、同性愛描写、南米の旅行記。
二人の深い関係性が垣間見れる、ビートニクにおいて重要な文献。
あくまで書簡集のため、刺激的な心理描写や情景描写は期待できないが、バロウズに心酔する物好きには目が離せない1冊!
『そしてカバたちはタンクで茹で死に』
■ケルアックとバロウズの幻の共作
作者 | ジャック・ケルアック ウィリアム・バロウズ |
発表時期 | 1944年 |
ジャンル | 長編小説 |
難易度 | ★★★☆☆ |
■作品紹介
『オン・ザ・ロード』以前のケルアックと、『裸のランチ』以前のバロウズ、二人が共作した「カバ本」で知られる幻の作品。
作家として世に出る前の二人が、出版社に持ち込んでは却下され、モデルの友人には「人生の汚点だから世に出さないでくれ」と言われ、60年間も日の目を見なかった。
■内容
「ビートを生み出した事件」と言われる、ケルアックとバロウズの友人が犯した殺人事件について、二人の視点で交互に描かれる。
まだ無名で未熟な二人による共作のため、彼らの独特な文体や刺激的な内容は期待できないが、ビートたちのなんでもない日常が垣間見れる重要な文献。
ビートニクの難解な印象とは異なり、平坦で読みやすい内容なので、入門編にもおすすめな1冊。完成度はさておきビートニクファンにはマストな作品。
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