村上春樹『納屋を焼く』あらすじ解説|映画「バーニング」の原作を紹介

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納屋を焼く 散文のわだち

村上春樹の小説『納屋を焼く』は、短編集の表題作になった作品です。

2018年には韓国で映画化され、様々な映画祭に出品され、大ヒットを収めました。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者村上春樹
発表時期  1983年(昭和58年)  
ジャンル短編小説
ページ数34ページ
テーマ「存在」の不確かさ
同時存在
関連2018年に韓国で映画化

あらすじ

あらすじ

知り合いの結婚パーティで、主人公は広告モデルをしている女性と知り合います。程なく恋愛関係に発展しますが、彼女には複数のボーイ・フレンドがいることは承知です。彼女はパントマイムを習っています。蜜柑の皮を剥く動作を見せて、「あると思いこむのではなく、ないことを忘れる」というパントマイムの極意を教えてくれます。

程なくして彼女は3ヶ月ほど北アフリカを一人で旅行します。帰国の日に空港まで彼女を迎えに行くと、現地で知り合った新しいボーイフレンドを連れていました。

ある時、彼女と新しいボーイフレンドが主人公の家を尋ねて来て、一緒にお酒と大麻煙草を嗜みます。彼女が眠った後、男は奇妙な告白をします。

「時々納屋を焼くんです」

実際に納屋へガソリンをかけて火をつけるのが趣味だと言うのです。近々主人公の家の周辺で実行するつもりのようです。それからというもの、彼の不可解な告白に意識を囚われ、主人公は近所の納屋を見回るようになります。ところが何日経過しても焼けた納屋は見つかりませんでした。

暫くして男と再会した際に、主人公は近所の納屋が焼けていなかったことを指摘します。「あまりに近すぎると見落としてしまう」と彼は意味深な台詞を口にし、納屋を燃やしたことを断言します。それだけではなく、あの日以来彼女が音信不通になっているのですが、彼は何も知らないと話します。

主人公は焼かれた納屋を見つけられないだけではなく、彼女の姿を目にすることもできなくなったのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

見えない世界の物語

サスペンスにも感じられる奇妙な物語ですが、納屋を焼く行為と彼女の疾走を、事件として捉えるのはナンセンスで、恐らく何かしらのメタファーとして描かれているのでしょう。

今回は「見えない世界が存在する」という主題に焦点を当てて、メタファーについて詳しく解説していきます。

まず、物語の冒頭で彼女がパントマイムについて話していました。

「あら、こんなの簡単よ。才能でもなんでもないのよ。要するにね、そこに蜜柑があると思い込むんじゃなくて、そこに蜜柑がないことを忘れればいいのよ。それだけ」

『納屋を焼く/村上春樹』

「ある・ない」の考えが象徴的に語られます。その言葉が示唆するように、「ある・ない」を基調とした不可解な出来事が発生します。

  • 燃えた納屋を見つけられない
  • 彼女の存在が見当たらない

かつては存在した彼女が消え、男が証言する事実が主人公にとっては存在しない出来事でした。「ある」と思い込んでいたものが、突然「ない」ものになってしまったのです。

パントマイムの極意を踏まえると、これらの出来事は、「あると思い込む行為」には存在を証明する力がない、ということを言い表しているように感じられます。

主人公が燃えた納屋に気づかなかったことに対して「あまりにも近すぎて見落とした」と男は指摘します。身近過ぎて当然存在すると思い込んでいるものほど見落としてしまい、その結果失ってしまう、という教訓をメタファー的に表現していたのではないでしょうか。

冒頭では、「頭を悩まさなければいけないことが他にいっぱいあった」と主人公が話していました。つまり自分の問題に辟易していたあまりに、身近な存在を蔑ろにして彼女を失ってしまった、という物語だと解釈できます。

事実、彼女は突然一人で北アフリカに旅立つような人間で、何か心に闇を抱えていたのではないかと考えられます。それに気付けなかった主人公の元から彼女が消えた、というのは事件などではなく、ある意味単純な結果でしょう。

短編小説を描くにあたって、5〜6作をまとめて執筆し、それらには一貫性や繋がりが与えられる、と村上春樹は述べていました。本作『納屋を焼く』が執筆されたのは、ちょうど『蛍』や『めくらやなぎと眠る女』と同時期です。重要な問題に気づけなかった故に大切な存在を失った主人公の物語たちです。つまり、『納屋を焼く』の主題に喪失感が含まれていても違和感はありませんし、むしろ主人公が見落とした「見えない世界」の物語だとすれば、当時の作品群に一貫性が生まれるでしょう。

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「彼」の正体

3か月間北アフリカを放浪した彼女は、アルジェリアにて彼と出会いました。つまり彼の正体は、1980年代のアルジェリアにヒントが隠されているわけです。

フランスの植民地から独立したアルジェリアは、サハラの石油や天然ガスをもとに重化学工業化を進めます。日本は友好的にその資源を輸入していました。

これらの背景から、貿易関連の職業で、情勢にも詳しい彼は、石油関連のブローカーをしていたのではないかと考えられます。ともすれば第二次石油ショックによる石油の価格高騰によって、彼はかなりの富を手に入れたと推測できます。作中で彼を「ギャッツビー」に例える部分があります。つまり若くして富を得た男を象徴していたのでしょう。

ちなみに、1981年頃にはイランの石油販売再開等によって、石油の高騰していた価格は徐々に下がっていきます。それは確実に彼の収益に影響していたことでしょう。彼が乗っていたスポーツカーは、当初は「しみひとつない」という修飾で綴られていました。ところがラストで再会する場面では、彼のスポーツカーのヘッドライトに傷ができていました。

彼女の失踪との関連性を考えた人も多いでしょう。つまり彼が彼女を殺したのではないか、というサスペンスフルな考察です。解釈は自由ですが、個人的にはブローカーとしての儲けに陰りが見え出したことをスポーツカーの状態で表現していたのではないかと考えています。

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納屋を焼く意味(同時存在とは)

納屋を焼く行為は一体何を象徴していたのか。男が彼女を殺害した行為の象徴と考えた人が多いのではないでしょうか。つまり納屋を焼く行為が殺人のメタファーで、彼は二か月に一度のペースで殺人をしないと気が済まない精神異常者だったという考察です。

村上春樹は本作を執筆した後に、「僕はときどきこういうものすごくひやっとした小説を書いてみたくなる」と発言しています。ともすれば、殺人事件としての考察もあながち間違いではないように思います。

男は納屋を焼く行為に対して、「同時存在」というモラリティを引き合いに出していました。

「つまり僕がここにいて、僕があそこにいる。僕は東京にいて、僕は同時にチュニスにいる。責めるのが僕であり、ゆるすのが僕です。」

『納屋を焼く/村上春樹』

自分が複数存在するというある種の観念的な考え方です。簡単に言えば、「イエス」と考えると自分と、「ノー」と考える自分が同時に存在する、アンビバレントな状態でしょう。

このことから、彼は相反する考えに葛藤していることが分かります。その葛藤を沈めてバランスを保つために、納屋を燃やしていたのではないでしょうか。

納屋を燃やすのが具体的にどういった行為を象徴しているのかは作中で語られません。彼女を殺すことかもしれませんし、本当に燃やす行為かもしれません。

個人的には、同時存在の解釈を広げて、彼女のボーイフレンドが主人公も含めて複数存在することから、自分だけのものにするために何かしらの手段で独占(監禁?)しているのではないか、という考察が気に入っています。本当に近い場所に彼女は閉じ込められていて、彼に独占されているのかもしれません。

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映画『バーニング』おすすめ

本作『納屋を焼く』は2018年に韓国で映画化され、カンヌ・アカデミー賞に出品され話題になった。

原作の謎多き物語が、よりサスペンスフルな大作として描かれている。

韓国では初日に5万人以上を動員し、『デッドプール2』に次いで2位の大ヒットを記録した。

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