魯迅『狂人日記』あらすじ解説 食人文化に秘められた儒教の虚偽

狂人日記 散文のわだち

魯迅の小説『狂人日記』は、既に38歳だった作者の処女作です。

食人文化を題材にした奇妙な物語には、当時の中国社会に対する強烈なメッセーが隠されています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

さらに魯迅のおすすめ代表作も紹介します!

目次

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『狂人日記』の作品概要

作者魯迅(55歳没)
発表時期  1918年(大正7年)  
ジャンル短編小説
テーマ旧制度の批判
儒教の虚偽を主張
カニバリズム批判

『狂人日記』あらすじ

あらすじ

精神病を患った男が書き記していた日記には、当時の病状の酷さが記されていました。

男は妙な強迫観念に襲われていました。人々が自分をおかしな目つきで見つめ、ひそひそ噂話をし、薄気味悪い笑顔を浮かべているように感じるのです。そのうちに、周囲の人間は自分のことを食べようと企んでいるのではないかと疑い始めます。往来の人間や兄の会話、あるいは歴史を思い返しても、食人文化は珍しいことではなく、男の疑念はいよいよ確信に変わっていきます。

男はついに兄に向かって、人食いの愚かさを熱弁します。人食いを改めれば、仲間同士が疑い合うことなく平穏無事に暮らせるのだと訴えたのです。改心しろ、改心しろ、男はそう叫び続けました。門外では大勢の人間が自分の様子を見物しています。それを見兼ねた兄は「気狂いを見て何が面白い」と見物人を追い払います。

男は妹が5歳で死んだことを思い返します。泣き続ける母親を兄が慰めていたのは、大方自分で妹を食ったため、気の毒に思ったのだと悟ります。もしかすると、飯の中に妹の肉が混ざっていて、自分も食べたのかもしれないと男は考えます。そして今度は自分の番が来たのだと、頭を抱えるのでした。男は、まだ食人文化に侵されていない将来の子供が人の肉を食わなくて済むよう、救いを求めるのでした。

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『狂人日記』の個人的考察

個人的考察

中国の食人文化批判

世界各地で、かつて食人文化があったのは事実です。日本でも、いわゆる万病に効く薬食として、人肉ないしは内臓を食っていた記録が残っています。

ところが中国が他国の食人文化と異なるのは、薬食や宗教儀礼とは関係なく、単純に食文化として人肉を食べていた点です。

文中に「子を易えて而して食ふ」という古語が登場します。これは、飢饉や戦争によって食糧不足になって、自分の子供を食うのは忍びないため、他人と子供を交換して食べた、という中国の記述に由来するものです。

こういった前時代的な中国社会の習わしを批判したのが、本作『狂人日記』の1つのテーマです。単純に文字だけを追えば、強迫観念に侵された男が勘違いしているだけの滑稽な物語に感じられますが、実はこのような中国の歪な食文化が背景があったのです。

魯迅はかつて日本に留学していました。当時の日本は日清・日露戦争の勝利により、アジアで勢力を拡大させていました。列強の文化に親しみ、他国の状況を肌で感じていたからこそ、依然として中国に残る非倫理的な悪習、ひいては自国民の意識の低さを実感していたのでしょう。

ともすれば、本作は精神錯乱した男の虚言癖ではなく、倫理基準を持たない中国国民の実態を揶揄していたのだと考えられます。

旧思想的な儒教を批判

食人文化について考察しましたが、これもまた一種の隠喩に過ぎないのです。魯迅が本当に批判していたのは、食人文化というよりは、儒教になります。

儒教こそが、人が人を食う、虚偽的な道徳の根源であると魯迅は主張していたのです。

儒教は中国の長い歴史において、国民の精神の支えとなっていた思想・哲学・文化です。法律によって国家を治めるのではなく、道徳によって国を治める、徳治主義の側面を有しています。これが非常に曖昧な倫理基準で、そもそも正しさという抽象的な概念を神のような超越した存在なくして規定するのは非常に危険みたいです。なぜなら、人間は自分に都合の良い考えを持つので、バレなければ大丈夫」とか「騙された方が悪い」みたいな思考が横行してしまうからです。

つまり、儒教には、悪いことをすれば神様に咎められる、という考えが存在せず、全て個人の徳に任せているため、場合によっては自分だけが良ければそれで良い、という考えに至ってしまうわけです。

この「騙された方が悪い」の精神は、結果的に仲間同士で疑い合う羽目になります。まさに『狂人日記』の主人公が訴えていた、自分が人間を食ったら、自分も相手に食われるかもしれない、という状況です。これが、いわゆる「人が人を食う封建的な教え」であり、魯迅が痛烈に批判していた儒教の真実なのです。

『狂人日記』の最後に綴られた、人間を食ったことがない子供たちを救え、という文章は、まだ儒教に毒されていない子供たちを救わなければいけない、という新思想的な時代の変革を主張していたのでしょう。

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