芥川龍之介『舞踏会』あらすじ解説|花火のような文明開化

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舞踏会 散文のわだち

芥川龍之介の小説『舞踏会』は、多くの作家が称賛する中期の傑作と言われています。

三島由紀夫は、「短編小説の傑作」「芥川の長所ばかり出たもの」と評し、本作を基に戯曲『鹿鳴館』を創作しました。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者芥川龍之介(35歳没)
発表時期  1920年(昭和9年)  
ジャンル短編小説
ページ数13ページ
テーマ美しい過去の幻影
淡い恋の物語
文明化批判

あらすじ

あらすじ

明子は父と共に、菊の花で飾られた鹿鳴館へ赴きました。初めての舞踏会だったので、当初の明子は不安を感じていました。ところがあまりに美しい明子に人々が視線を注ぐため、彼女は途端に自信を取り戻します。

フランス人の将校が明子に踊りを申し込み、2人はワルツを踊ります。踊り疲れた後、明子は試すように西洋の女性を褒めます。すると将校は、日本人も美しく、特に明子は絵の中のお姫様のようだと賛美します。そして、パリの舞踏会を見てみたいと言う明子に、舞踏会はどこも同じ事だと答えるのでした。

星月夜の露台に2人は腕を組んだまま佇んでいました。夜空を黙って見る将校に、故郷のことを思っているのですか、と明子は尋ねます。すると将校は首を振り、「私は花火の事を考えていたのです。我々の生(ヴィ)のような花火の事を」と言いました。

それから32年後、老婦人となった明子は、列車で乗り合わせた小説家が菊の花束を持っていたことから、菊の花を見るたびに思い出す舞踏会の記憶を語りました。話を聞いた作家は、舞踏会で出会った将校の名前が「Julien Viaud」だと聞き、彼の正体が作家のピエール・ロティだったことを知ります。しかし将校が作家であることを知らない夫人は、彼はロティではなくジュリアン・ヴイオだと、不思議そうに答えるのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

ピエール・ロティの著書が題材

最後に明かされる将校の正体。本名「ジュリアン・ヴイオ」、ペンネーム「ピエール・ロティ」は、実在したフランス人作家です。

彼はフランス海軍士官として世界各地を回り、訪れた土地を題材に小説を執筆しました。そして実際に日本の鹿鳴館に訪れた体験は、短編集『秋の日本』の一編である『江戸の舞踏会』に綴られています。

芥川龍之介はロティに関心を抱いており、『江戸の舞踏会』から着想を得て、本作『舞踏会』を執筆したと言われています。

文明批判と美しい過去の幻影

文章表現の美しさには圧巻ですが、どうも掴み所のない作品という印象を拭えません。

それと言うのも、作品の設定である明治時代の空気感も知らなければ、鹿鳴館が当時の日本人にどのような意味を持った建築物であったか、さっぱり判らないからです。

唯一分かるのは、老婦人の明子が回想する若き日の記憶は、ある種の幻影のように描かれているということです。美しい過去の幻影だけが煌めく明子が、その後どのような現実を送ったかは、言わずもがな想像がつきます。

鹿鳴館に訪れた明子は、その日が初めての舞踏会でした。若き少女は、まるで大人の階段を上るように、鹿鳴館の階段を上ります。その階段の両端には、人工的な菊の花が装飾されていました。この「人工的な菊の花」とは、まさに明治時代の日本が否応なく西洋文化を取り入れた様を象徴しているように感じます。事実、鹿鳴館とは欧化の一環として造られた西洋建造物なのです。

ともすれば、明子が足を踏み入れた舞踏会は、現実や伝統から乖離した、人工的な虚像だったと言えるでしょう。

作中では辮髪の支那人が、ドレスアップした明子に視線を向ける場面が描かれます。これは明らかに、辮髪という伝統を維持する中国人と、欧化によって伝統を排除した日本人という対称構造になっています。

明子は自分に向けられる視線によって不安を払拭し、むしろ見られることに優越感を抱いていました。あるいは、西洋人の美貌をわざと称賛して、将校が「君の方が綺麗だ」と賛美してくれるように誘導しました。明子の中の美意識とは、視覚で捉えるもの、それはドレスアップされた美意識、そのドレスアップは伝統を排除した欧化の象徴。つまり、老いた明子が記憶に留める、美しい過去の幻影とは、中身を伴わない虚像、そして時間と共に失われていく刹那的な幸福に過ぎなかったのです。

その記憶は一夜の夢のようにロマンティシズムを孕んでいる一方で、人工的な欧化の滑稽さや、明子の浅薄な美意識を露呈しているようでもあります。

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「花火のような生」とは

星月夜の露台に佇む二人。何を考えているのかを尋ねたときに、将校が答えた一節が、この作品の全てを物語っています。

「私は花火の事を考へてゐたのです。我々の生(ヴィー)のやうな花火の事を。」

『舞踏会/芥川龍之介』

17歳の明子がフランス人の将校に抱いた恋心。それを回想する老婦人の明子の元には、将校の姿も父の姿もなく、一切が過ぎ去ったという虚しさだけが残っています。その刹那に過ぎ去った恋の幻影を、美しく咲いて一瞬で消える花火と重ね合わせることで、明子の若き日の恋心は、悲しいくらいの美しさを帯びます。

ジュリアン・ヴイオという将校が、ピエール・ロティという作家だと明かされる結末では、明子はその事実を認めません。彼女は単にピエール・ロティという作家を知らないために、それがペンネームであることを理解していなかったのです。

この滑稽でユーモラスな結末も、まるで作品の美しさを際立たせます。

花火のように刹那な恋、その若き日の幻影の中に存在するのは、決して作家「ピエール・ロティ」ではなく、将校「ジュリアン・ヴイオ」でしかないのです。無知である故に彼がロティである事実を知らないわけですが、知らないからこそ若き日の幻影は、不純物のない冷凍保存された美しい記憶として、明子の中に生き続けるのではないでしょうか。

本当は怖いエンディングの意味

作家「ピエール・ロティ」ではなく、将校「ジュリアン・ヴイオ」としてのみ明子の中に生き続ける、というロマンチックな解釈は前述の通りです。

しかし、実際はもっと皮肉的な意味が隠されているのではないか、という考察も可能です。

なぜなら、本作の題材となった『江戸の舞踏会』の中では、ピエール・ロティは当時の日本を辛辣な言葉で批評しているからです。

この日本という国は、(中略)いかにもちぐはぐな、木に竹をついだような、本当とは思えない国である

『江戸の舞踏会/ピエール・ロティ』

ロティは決して文明の後進性を批判しているわけではありません。西洋の猿真似をする日本の違和感を訴えているのです。「アメリカ風の醜悪さ」「フランスのどこかの温泉町の娯楽場」という言葉で形容される当時の日本は、ロティの目には滑稽に写っていたのでしょう。

あるいは、ロティは和服を着た女性を賛美しています。ともすれば、彼の目には鹿鳴館に集う西洋風にドレスアップされた日本人が、いかに滑稽な存在に写っていたかが分かります。

こういった事実を踏まえてラストの場面を読み返すと、全く違った解釈ができると思います。つまり、明子が回想する美しい過去の幻影は、実際は将校には滑稽に写っていたのかもしれない、ということです。作家としてのロティを知らないがために、明子はその事実に気づくこともなく、ロマンティックな思い込みに浸っているのです。

回想されるばかりの美しい過去は、無知ゆえに成立する。それはある意味ではロマンティックであり、ある意味では滑稽極まりない。芥川が実際に描きたかったのはいずれとも知りませんが、私にはどこか彼のシニカルな態度が垣間見えてなりません。

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三島由紀夫の称賛した作品

ちなみに三島由紀夫は、本作『舞踏会』を絶賛しています。

「短編小説の傑作」「芥川の長所ばかりの出たもの」と評し、後期の衰弱したものより好きだと言及しています。

芥川の持つてゐる最も善いもの、しかも芥川自身の軽んじてゐたものが、この短篇に結晶してゐるやうな感じがする。それは軽やかさと若々しさとうひうひしい感傷とである。時代思潮に毒された擬似哲学的憂鬱ではなくて、青春の只中に自然に洩れる死の溜息のやうなものである。(中略)この短篇のクライマックスで、ロティが花火を見て呟く一言は美しい。実に音楽的な、一閃して消えるやうな、生の、又、死のモチーフ。この小説の中に一寸ワットオのことが出てくるが、芥川は本質的にワットオ的な才能だつたのだと思ふ。時代と場所をまちがへて生れてきたこのワットオには、本当のところ皮肉も冷笑も不似合だつたのに、皮肉と冷笑の仮面をつけなければ世を渡れなかつた。「舞踏会」は、過褒に当るかもしれないが、彼の真のロココ的才能が幸運に開花した短篇である。

三島由紀夫「解説」

ロティと芥川にインスパイアされた三島由紀夫は、戯曲『鹿鳴館』を創作しました。

今でも繰返し上演され続ける人気の作品です。

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