太宰治『道化の華』あらすじ解説 人間失格のスピンオフ

道化の華 散文のわだち

太宰治の短編『道化の華』は、入水自殺の実体験を描いた半自伝的小説です。

『人間失格』と同じ葉蔵が主人公なので、スピンオフ感覚で楽しめます。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

さらに太宰治関連の映画を無料で鑑賞する方法もお伝えします!

目次

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『道化の華』の作品概要

作者太宰治(38歳没)
発表時期  1935年(昭和10年)  
ジャンル短編小説
テーマ自殺直後の心境、
人間の信用
収録作品集『晩年』
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『道化の華』あらすじ

あらすじ

葉蔵は入水自殺に失敗した。相手の女性は死に、自分だけが病院に搬送されたのだ。

友人たちが見舞いに訪れる。だが彼らの哀れみの態度が、葉蔵を余計息苦しくする。

なぜ自殺を図ったのか。そう問われた葉蔵の頭に浮かぶのは、虚傲・疲労・殺意・脆弱・欺瞞・病毒。しかし結局のところ、あらゆる苦悩が原因で、自分でも明確な理由は答えられなかった。

兄の訪問、父親との軋轢。不祥事を起こした葉蔵には問題が山積みだった。だが葉蔵はひたすら楽観的な態度で、その道化の仮面によって苦しい入院生活をやり過ごしていた。

退院の日、葉蔵は病院の裏山に登る。遥か先には海水の揺らめきが見える。ただそれだけの物語なのであった。

▼合わせて読みたい情報!

太宰治の映画がおすすめ

映像で楽しむ

太宰治の映画は多数発表されています。

・『人間失格』生田斗真主演
・『ヴィヨンの妻』
松たか子主演
・『人間失格 太宰治と3人の女たち
』小栗旬主演

中でも『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、自殺するまでの怒濤の人生が描かれており、特に人気が高いです。

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『道化の華』の個人的考察

個人的考察

人間失格のスピンオフ作品

『道化の華』は、主人公の「大庭葉蔵」が女性と入水自殺を決行し、自分だけ助かる場面から物語が展開します。自殺に失敗した葉蔵の、入院生活に焦点を当てて描かれています。

もう、お気づきですよね?

代表作『人間失格』とストーリーも主人公の名前も一緒です。

つまり道化の華』は、『人間失格』では詳細に描かれなかった、入水自殺した直後のスピンオフのような物語です。

ちなみに、『道化の華』は『人間失格』が出版される11年前に書かれた作品です。正確にはスピンオフと言うよりも、元ネタになった短編作品です。

『人間失格』では、なぜ葉蔵が入水自殺を決行したのか、明確には記されていません。

一方『道化の華』では、葉蔵が自殺を試みた原因に焦点が当てられています。

さらに、本作はかなり実験的な文体で記されています。あるいは、『人間失格』とは異なる設定もちらほら含まれています。その辺の考察を順番に紹介します。

なぜ自ら注釈を加えたのか

この物語の文中には度々、太宰治本人の心の声が綴られています。

物語は、いわゆる神様の目線(第三者の目線)スタイルで書かれているのですが、なぜか途中で作者の心の声が不自然に挿入されます。

まず冒頭の、葉蔵が病院のベッドで心情を述べる場面で、「大庭葉蔵が自分の主人公にぴったりだ」と言う不自然な文章が挿入されています。初見だと、一体誰の主張なのか不可解です。

しかし、物語を読み進めていくと、「私を主人公にした小説をこの春に書いたばかりで、二度続けるのが歯痒いため、大庭葉蔵という名前を用いた」と説明されます。そこでようやく、太宰治の本作に対する注釈が、文中に組み込まれていることに気付きます。

そのことに対して、太宰治の主張が記されています。

「ほんとうは、僕はこの小説の一齣一齣の描写の間に、僕という男の顔を出させて、言わでものことをひとくさり述べさせたのにも、ずるい考えがあってのことのなのだ。僕はそれを読者に気づかせずに、あの僕でもって、こっそり特異なニュアンスを作品にもりたかったのである。それは日本にはまだないハイカラな作風であると自惚れていた。」

『道化の華/太宰治』

要するに、太宰治は前衛的な作品を作り出すために、あえて注釈を挿入していたのです。

しかしこの直後に、「その挑戦に敗北した」とも綴られています。

さらには、自分は卑怯な嘘をついていると自己嫌悪まで露呈します。太宰は執筆と葛藤する中で、自分がなぜ小説を書くのか判らなくなっているようです。しかし、最終的には、自分が小説を書く理由は「復讐」だと綴っています。その一言に読者は胸を打たれ、納得せざるを得ないのです。

物語が中盤に差し掛かれば、「この小説は面白くない」と自分の作品を批判し始めます。終いには、「自分の小説が古典になれば、読者は自分の注釈を邪魔に思うだろう」と行末の問題まで気にし始めます。

しかしそれは、「自分の作品をより多くの人に愛してもらいたい願望の現れであり、そのせいで駄作が生まれてしまうのだ」と個人的な芸術論が述べられます。そして挙句、「もうどうでもいい」とほとんど投げやりにさえなるのでした。

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『人間失格』への伏線

太宰治が前衛的な手段を使ってまで、伝えたかったことは何だったのか。

それは、この小説を通して、葉蔵を救いたかったというです。

物語の中で自分自身を具現化して、その存在を救うことで、現実の自分に対して許しのようなものを求めていたのかもしれません。結局は、太宰治は「失敗に終わった」と言っています。葉蔵のことを救えなかったのです。それどころか、「後にこの小説を読んだなら、酷い自己嫌悪に陥るだろう」と過度に自己批判を繰り返しています。

しかし私は、最後の数ページに『人間失格』に繋がる伏線のようなものを感じて仕方ありません。

それは、「もいちど始めから、やり直そうか」という一文に始まり、「僕たちはただ、山の頂上に行きついてみたいのだ」へと着地する、さらなる展望の香りのせいだと思います。

太宰治は、失敗だと投げやりな思いを露呈していますが、内心は諦めていなかったのでしょう。なぜなら、大庭葉蔵という自分の化身を物語の中で救うことこそが、現実世界で自分を救う行為に他ならないからです。

だからこそ、11年の時を経て、太宰治は再び『人間失格』という作品の中で、葉蔵という主人公を復活させたのではないでしょうか。

彼の人間に対する最後の求愛が、葉蔵に「続きの物語」を与えたのです。

そして、太宰治は最後まで、物語の中で大庭葉蔵を殺しませんでした。

「道化の華」でも「人間失格」でも、いくら破滅しても葉蔵は死にませんでした。太宰治はどうしても彼のことを救ってやりたかったのでしょう。

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