村上春樹『レキシントンの幽霊』あらすじ解説|深い眠りと死者の世界

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レキシントンの幽霊2 散文のわだち

村上春樹の小説『レキシントンの幽霊』は、作品集の標題になった代表的な短編作品です。

超現実的な経験を描いた小説であるため、解釈が極めて困難な物語になっています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者村上春樹
発表時期  1996年(平成8年)  
ジャンル短編小説
ページ数38ページ
テーマ死者との交わり
孤独感

あらすじ

あらすじ

小説家の主人公が、手紙を介して知り合ったケイシーの家で経験した奇妙な物語です。

ケイシーはレキシントンの屋敷に、ジェレミーというピアノの調律師と暮らしています。

ある時、主人公はケイシーに家の留守番を頼まれます。ケイシーのロンドン出張と、ジェレミーの母親の看病が重なり、しばらく空き家になるからです。

留守番の初日、大勢がパーティをしているような物音で主人公は深夜に目が覚めます。当然屋敷に誰かがいるはずはありません。これは人の仕業ではないと主人公は悟りますが、不思議と恐怖を上回る漠然とした何かを感じていました。

翌朝に屋敷を確認しても、パーティーが行われた形跡はなく、元どおりの状態でした。

それから半年後、散歩中にばったり会ったケイシーは、10歳くらい老け込んでいるように見えました。なんでもジェレミーが、母が死んで以来帰って来なくなったようです。

ケイシーは母の話題にちなんで、自分の両親の話も聞かせてくれます。ケイシーは幼少の頃に母親を事故で亡くしており、葬儀後に父親は3週間ずっと眠り続けていたようです。

不思議なもので、父親が死んだ時には、ケイシー自身がかつての父のように、何週間も深く眠り続けたのでした。ケイシーはこれらの経験について、「ある種のものごとは、別のかたちをとらずにはいられない」と語ります。そして、自分が死んでも自分のために深く眠ってくれる人はいない、と悲しい言葉を口にするのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

ケイシーの深い睡眠が暗示するもの

主人公が遭遇した幽霊の正体を紐解く前に、ケイシーの深い眠りにまつわる考察をしたいと思います。

ケイシーが幼少の頃、最愛の妻を失った父親は3週間ほど深く眠り続けました。目覚めても夢遊病者や幽霊のように食事を口にするだけで、その他はほとんど死人と変わらない様子で眠り続けていました。あるいは、ケイシーは父親が死んだ時に全く同じ経験をします。つまり何週間も深く眠り続けたのです。

これらの奇妙な経験が意味することは、「ある種のものごとは、別のかたちをとらずにはいられない」という文章に集約されていると思います。

つまり、愛する者の死がもたらす悲しみや厭世的な気持ちが、「深い眠り」という全く別のかたちで現れたということでしょう。父親やケイシーは、眠りの世界こそが自分にとって本当の世界だと感じるほど、生に対する執着を失い、悲しみにくれていました。

ともすれば、深い眠りとは疑似的な死を意味するように思われます。彼らは睡眠によって異世界への入り口を通過し、愛する死者の後を追う経験をしていたのだと考えられます。

ケイシーが自分のために深く眠ってくれる人はいないと口にしたのは、自らの孤独な運命、誰にも愛されていないという嘆きが含まれていたのかもしれません。詳しくは後述します。

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ケイシーは同性愛者だった

ケイシーはジェレミーという男性と同居していました。しかし、ジェレミーは母親が死んだ悲しみによって、実家から戻って来なくなりました。電話で会話をしても、以前は全く口にしなかった星座の話ばかりをするようで、悲しみが彼をおかしくしてしまったみたいです。これもまたジェレミーにとっての「別のかたち」だったのかもしれません。

ジェレミーの様子に対して主人公は、「気の毒だね」と口にします。しかし、「誰に対してそう言っているのか自分でもわからない」という意味深な言葉が付け加えられます。ここから推測されるのは、主人公は単にジェレミーに対して同情しているのではなく、ケイシーに対して向けられた言葉でもあるということです。つまり、ケイシーは同性愛者で、二人はただの同居人ではなく恋人同士だったことが予測されます。半年程度でかなり老け込んだケイシーの様子からしても、ジェレミーの不在が彼に影響していることは見て取れます。

ともすれば、「自分のために深く眠ってくれる人はいない」というケイシーの嘆きは、ジェレミーを失った孤独感から由来するものだったのかもしれません。あるいは、同性愛者故に血筋を途絶えさせてしまう自分の境遇を理解して、子孫に悲しんでもらえない運命を示唆していたのかもしれません。

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幽霊の正体とは

これらの考察を踏まえた上で、幽霊の正体を考えていきたいと思います。

主人公が幽霊の気配を感じたのは、既に眠りについていた深夜の1時半でした。この状況が非常に重要で、主人公が経験した出来事は現実であるかは定かではないのです。飼い犬のマイルズの姿がなかったことや、翌日の居間に何ひとつパーティの形跡がなかったことから、夢の中で経験した出来事だと考えるのが妥当でしょう。

さらには、先ほど考察した「深い眠り」の意味合いから考えても、睡眠によって死者(幽霊)に遭遇するという形式は成り立っているわけです。そして、レキシントンのケイシーの住居でパーティを開く者の正体は、ケイシーの先祖、つまり彼の父親や母親やその他多くの血の繋がった人間だと考えるのが妥当でしょう。幽霊の気配が上品だった点もしっくりきます。

つまり、深い眠りによって愛する死者の後を追いかけ異界への入り口を通過するという経験の、具体的な真相が描かれていたのでしょう。居間の扉がまさに死者がいる異界への入り口であり、かつて深い眠りを経験したケイシーや父親はその入り口を開いたと考えられます。扉の向こうの死者の世界に何週間も滞在していたのでしょう。

主人公がこの出来事を奇妙に感じなかった理由は、「遠い経験」という印象が強かったからでした。つまり、こちら側の世界(現実世界)とあちら側の世界(死者の世界)の距離が、時間的にも物理的にも遠いことを暗示しているように思われます。

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