夢野久作『人間レコード』あらすじ解説|怪奇暗黒傑作選

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人間レコード 散文のわだち

夢野久作の小説『人間レコード』は、政治批判をSF調で描いた短編作品です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者夢野久作(47歳没)
発表時期  1936年(昭和11年)  
ジャンル短編小説
サスペンス
サイエンスフィクション
ページ数21ページ
テーマ反共思想
国粋主義

あらすじ

あらすじ

下関に到着した連絡船から降りてきた、見窄らしい西洋の老人。彼が電報を送る様子は日本当局に監視されていました。

なんでもその老人は「人間レコード」と呼ばれるソ連のスパイだったのです。ソ連が開発した技術で、当人の意識しない脳の部分に機密情報を録音させ、情報の運び屋に使われています。文書のように物的証拠を残さず、かつ当人は知らないため拷問も通用しません。

ところが日本政府は既に人間レコードの技術を入手していました。二人のボーイは、列車に乗り込んだ老人を催眠ガスで眠らせ、いくつかの薬品を注射で打ち、レコードの内容を入手します。

号外で機密情報が筒抜けになっていることを知った在日ソ連大使は、弁解する老人を射殺します。そうして、レコードを一枚壊しただけだ、と言って笑うのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

夢野久作の人物像

夢野久作の代名詞と言えば、『ドグラマグラ』です。その奇妙で幻想的な作品は、日本探偵小説三大奇書のひとつとされています。「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と評されていることでも有名です。

そんな独特な作風の夢野久作は、どんな人物だったのでしょうか。

政界の黒幕と呼ばれる国粋主義者の父の元に生まれた夢野久作は、祖父の熱心な教育によって、文化、学問、芸術に興味を抱くようになり、慶應義塾大学文学科に入学します。在学中には将校の教育を受け、陸軍少尉の肩書きも手に入れています。

ところが文学を嫌う父の命で、慶應義塾大学を退学します。その後は、出家したり、農園を経営したり、新聞記者として勤めたり、激動の人生を歩みます。そして新聞記者の傍で執筆した童話作品で作家デビューし、探偵小説へも進出していきます。

29歳で作家デビューした夢野久作は、間も無く『ドグラマグラ』の原型となる『狂人の解放治療』を執筆し始めています。なんと構想に10年を費やしてあの大傑作を生み出したのでした。ところが『ドグラマグラ』を発表した矢先に、脳溢血で死んでしまいます。

そんな夢野久作は、生涯の殆どを故郷の福岡で過ごした作家です。文壇とは距離がある故に、その独自発展した作風が確立されたのではないかと言われています。

彼は昭和初期の作家ですから、同世代には川端康成や横光利一がいますし、あるいはプロレタリア文学全盛の時代でもありました。

そんな中で夢野久作は、探偵小説であり、サスペンスであり、ホラーであり、されど文学的観点も備え、それでいてSFの要素も含まれている、どうも定義付けし難い作家だったのです。

今回取り上げた『人間レコード』も、当時の文壇の特色とはまるで異なります。サイエンスフィクションと政治思想を融合させた奇妙な作風が特徴的です。

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「人間レコード」とは?

タイトルにも用いられる「人間レコード」は、大戦の時代である20世紀に、国家の監視をすり抜ける記録媒体として描かれていました。

遡れば人間社会は、いかに世間の目を盗んでコトを企てるか、に知恵を絞ってきました。

例えば、室町から江戸における百姓一揆では、首謀者が判らないように円環状に署名する「傘連判状」なる手法がありました。

その一方で、ヒトラー政権において、ベルギー侵略に関する機密文書が漏洩するような前代未聞の事件もありました。あるいは政治の歴史には文章改ざんが付きものです。現代社会においては、インターネットやSNSの普及により、企業も個人も、情報漏洩にただならぬ危機感を抱いていることでしょう。

そんな情報と危機感が渦巻く人間社会に対して、夢野久作が空想的に編み出したのが、「人間レコード」だったのです。

文書では漏洩は防げない。口伝えでは、拷問によって吐かれる可能性がある。ならば、本人も知り得ない記憶として脳にレコーディングすれば、物的証拠も、人間的感情も伴わずに、秘密のやりとりが叶うと考えたわけです。

ただし、いくら完全無欠と思われる手法であっても、その根本を見抜かれれば、たちまち破綻してしまいます。つまり、いかに「人間レコード」を生み出しているかが知れ渡った時点で、日本当局が共産主義者の首根っこを捕まえることが叶ってしまうわけです。

流石に一般人の生活に、裏の首謀などは親しみがありませんが、確かに完全無欠な最新型に危険が伴うという考えは、デジタル革命期を生きる我々には身近であるように思います。

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反共的立場の作品

プロレタリア文学が、共産主義啓蒙の小説だとすれば、夢野久作の『人間レコード』は反共主義的な観点から描いた文学作品になります。

晩年の夢野久作の作品には、反共主義や国粋主義の特色が濃く現れています。昭和初期という大戦の時代だったこともひとつの理由でしょうし、あるいは、父親の思想から多大な影響を受けたとも言われています。前述の通り、父親は政界の黒幕、根っからの国粋主義者ですから、納得です。

資本主義の国が人民から搾るものはお金だけ……ところがソビエット主義が人民から搾り取るものは血から涙から魂のドン底までと云っていいんだからね

『人間レコード/夢野久作』

作中の台詞が夢野久作の反共思想を的確に表していました。

彼の考えでは、資本主義以上に共産主義は人民からあらゆるものを搾取するようなのです。他人のものは我が物、わが物は他人のもの、という没個性的平等下では、魂の自由を搾取されるという指摘は、確かに最もだと思います。

そして何より、夢野久作は共産主義の矛盾する不義を訴えていたように思います。

詳しくは次の段落です。

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人を「もの」としてう思想

「ナアニ。レコードを一枚壊したダケだよ。ハッハッハ」

『人間レコード/夢野久作』

人間レコードの機密情報が日本当局に漏洩した結果、社会主義宣伝活動の「××大使」は、例の西洋の老人を射殺します。かけつけた大使夫人には、引用の通り、まるで冷酷な台詞を口にするのでした。

作中では、共産主義者は血も涙もない連中として描かれます。人間レコードの場合、当人は機密情報を知らないわけです。つまり、老人が密告することはありえません。彼は射殺される前に弁解しますが、××大使はまるで聞く耳を持たず引き金を引きます。

この作品の最も奇妙で最もみそとなるのは、人間が「もの」として扱われている違和感です。老人の射殺は、レコード1枚の破壊と同等の価値として扱われていました。

不義も厭わない義のために人の命を「もの」として扱う共産主義に対する、痛烈な風刺が込められているようです。

「殺されるとも。ソビエットの唯物主義の奴等は血も涙もないんだからね。政治外交上の問題で少しでも疑わしい奴は片っ端から殺して行くのが奴等の方針だよ」

『人間レコード/夢野久作』

個人的には、共産主義であろうが資本主義であろうが、その末路は国家間の衝突だったわけですから、主義にかかわらず、人間社会の根底にあるエゴイズムに直結した問題提起であるように思います。

「人間レコード」その歪な名称は、しばらく頭から離れなさそうです・・・

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