太宰治『きりぎりす』あらすじ解説 きりぎりすの鳴き声の意味

きりぎりす 散文のわだち
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太宰治の短編『きりぎりす』は、作品集「きりぎりす」の表題作です。

芸術家の妻の目線で、成功した人間の醜さが描かれます。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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『きりぎりす』作品概要

作者太宰治(38歳没)
発表時期  1940年(昭和15年)  
ジャンル短編小説
テーマ成功した芸術家の末路
名声・権力・強欲・孤独
収録作品集『きりぎりす』
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『きりぎりす』あらすじ

おわかれ致します。

画家の妻が、夫との別れを決意する。原因は人生におけるモラルの相違だった。

親の反対を押し切って、売れない画家だった夫と結婚した。生活は貧しかったが、それでも俗世間に汚されず、自分の描きたい絵を描く夫との生活は幸福だった。

だが夫は画家として成功し、別人のように変わってしまった。

かつての貧しい暮らしを軽蔑し、お金に執着し、他者を侮辱するようになり、だがメディアでは「妻のおかげで今の自分がある」などとおべんちゃらを吹聴する始末である。

人の世では、夫の生き方が正しくて、自分のように正直な人間は間違っているのかもしれない。それでも夫のような醜い生き方はどうしても受け入れられない。

その夜、布団の中で眠っていると、縁側の下からコウロギの鳴声が聞こえた。まるで自分の背骨の中で「きりぎりす」が鳴いているように感じられた。彼女はこの小さい幽かな声を、一生忘れずに生きていこうと決心した。

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『きりぎりす』の個人的考察

「きりぎりす」は何を指すのか?

成功した夫の醜い変わりように、別れを決意した主人公でした。

最後の場面では、仰向けで眠る主人公の背中の方から、こおろぎの鳴き声が聞こえてきます。それをあえて「きりぎりす」の鳴き声に例えて、内省的な心情を綴ります。

しかし、あまりにも抽象的過ぎる故に、何を表現しているのか理解できなかった方も多いのではないでしょうか?

事前知識として、昔から短歌などでは、きりぎりす」の鳴き声は、孤独感や寂しさを表現する場合に用いられてきました。芥川龍之介の小説においても、きりぎりす」の鳴き声は詫びしい雰囲気を際立たせる効果として使われています。

要するに、主人公があえて「きりぎりす」の鳴き声を用いたのは、夫の醜さに耐えかねた自分の孤独感や侘しさを表現するためだったのでしょう。ひいては、実際のきりぎりすではなく、こおろぎの鳴き声をきりぎりすに見立てたという演出も、さらなる報われなさ、儚さを演出しているように思われます。

「きりぎりす」に込められた決意とは?

きりぎりす」の鳴き声が孤独感や侘しさを象徴しているなら、主人公にとってはあまりよくない心情だったのでしょうか?

おそらく、本作では「きりぎりす」の鳴き声が表す孤独感や侘しさは、良い意味で用いられています。

「・・・なんだか私の背骨の中で小さいきりぎりすが鳴いているような気がするのでした。この小さい、幽かな声を一生忘れずに、背骨にしまって生きて行こうと思いました。」

『きりぎりす/太宰治』

このように、主人公は「きりぎりす」の鳴き声を一生忘れずに生きていこうと決心しています。つまり、孤独感や侘しさに特別な感情を抱いていることになります。

なぜ、主人公は孤独感や侘しさに強い愛着を持っているのでしょうか?

そもそも主人公は、俗世間に汚されず、自分の描きたい絵だけを描く夫の性格に強く惹かれていました。その性格を「美しい人」とさえ表現しています。

また、次のようにも綴られています。

「いいお仕事をなさって、そうして、誰にも知られず、貧乏で、つつましく暮して行く事ほど、楽しいものはありません。私は、お金も何も欲しくありません。心の中で、遠い大きいプライドを持って、こっそり生きていたいと思います。」

『きりぎりす/太宰治』

俗世間に媚びることなく、自分の美学だけを追求する人間には、貧しく孤独な運命が待っています。それでも、プライドを捨てずに慎ましく生きることが、主人公にとっての人生モラルだったのでしょう。

そして、「誰にも知られず、貧乏で、つつましく暮して行く」人生の美学を、「きりぎりす」の詫びしい鳴き声に例えたのだと思います。誰にも知られずひっそりと生きながらも、夜の縁側の下で確かに声を訴えているような、密かな美しさです。

きりぎりす」の鳴き声のような、美しいプライドを捨てた夫を寂しく思うと同時に、自分は自分の美学を捨てずに生きることを、主人公は強く誓ったのだと思います。

夢追人を好きになる女性の独占欲?

一見本作は、成功者がプライドを捨て、醜い人間になっていく様子を描いているように思われます。まさしく、世間と自己の葛藤の中で、芸術家が魂を捨てる様子が生々しく描かれていました。

しかし、もう一歩深読みするなら、妻の過剰な独占欲が冷笑的に描かれているようにも感じられます。

主人公は結婚におけるポリシーとして、「自分じゃないとお嫁に行けないような人と結婚したい」と綴っていました。つまり、世間から馬鹿にされている、誰にも相手にされない貧しい芸術家と結婚することが、主人公にとっての存在意義、自己肯定感だったのです。ある意味、夫を自分だけのものにしたい、ひいては自分だけを必要として欲しい、という所有欲の表れです。

事実、夫の作品を初めて見た時の感動を、「この絵は私でなくては分からない」と述べています。自分だけが夫の絵の良さを理解していると、強い独占欲がここに表れています。

夫が有名になり始めた頃の個展に主人公は足を運びませんでした。夫の絵を大勢の人が眺める様子を想像すると泣きそうになるからだそうです。それはもちろん嬉し涙であるのですが、良いことが起こりすぎては、後の不幸が怖いため、これ以上の幸福はいらないという本音も綴られています。

一見、謙虚な気持ちのように思われますが、やはりここにも独占欲が垣間見れます。自分だけが夫の絵の素晴らしさを理解していたのに、大勢の人が夫の絵を称賛するようになりました。少なからず、有名になった夫をもてはやす大勢の人間に嫉妬しているように思われます

もちろん有名になった夫の変化は、醜いものでした。

しかし、いずれの分野においても、成功した故に「かつての自分らしさのイメージ」と「今の自分のやりたいこと」にズレが生じるのは当然だと思います。

身近な例だと、インディーズの頃から応援していたバンドが、メジャーデビューした途端に離れていくチャチなファンが大勢います。挙句「あのバンドは売れ線になった」と非難まで付け加える始末です。

表現者は常に世間の杜撰な要求に悩まされるのでしょう。ともすれば、本作の主人公が勝手に抱く、かつての自分のやりたいことだけを貫いていた夫とは、ただのエゴに過ぎないのです。もし、今の夫がかつてやりたいと思っていたことを今はやりたいと思っていなかったとしても、妻は彼の内側にかつての姿だけを見出し続けるのだから自分勝手です。

要するに主人公は、かつて自分だけが独占していた夫が、自分のイメージから離れていくことに悲しさを感じて、このように批判的な独白を綴ったのかもしれません。

あくまで本作は、妻である「私」の目線でしか語られていないため、真相は定かではありません。成功者の天狗を描いたのか、売れた途端離れていくファンの利己的な独占欲を描いたのか、解釈は読者次第です。だからこそ小説は面白いのです。

このような反対の立場での考察も踏まえて再読すれば、本作の物語の深みがぐっと増すかもしれませんね。

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