川端康成『眠れる美女』あらすじ解説|三島由紀夫が絶賛した傑作

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眠れる美女 散文のわだち

川端康成の小説『眠れる美女』は、後期を代表する前衛作品です。

眠る全裸の美少女と添い寝を行う、老人の性と生を描き、三島由紀夫から絶賛されました。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者川端康成(72歳没)
発表時期  1960年(昭和35年)  
ジャンル中編小説
ページ数116ページ
テーマエロティシズム
デカダンス

あらすじ

あらすじ

江口老人は、友人に教えられたある宿を訪れた。そこは、全裸で眠る美女と一晩添い寝を味わえる秘密の館だった。しかし性行為は禁止されている。

初めての夜、眠る娘の初々しい美しさに魅了された江口は、観察したり触ったりしながら、若い頃に駆け落ちした恋人のことを回想するのであった。

半月後に再び訪れた時は、前よりも妖艶な娘が用意されていた。江口は禁止行為を破りそうになったが、娘の処女のしるしを見て驚き、純潔を汚すのを止めた。そして、自分の娘が嫁入り前に処女を奪われた出来事を回想するのであった。

それからも数回通い、5回目に訪れた時には、江口はある噂を耳にしていた。この秘密の館に来た老人が、添い寝の途中に突然死し、遺体が近くの温泉宿に運び出され、別の場所で死んだことに偽装されていたのだ。その晩は、江口に2人の娘が用意されていた。2人の娘に挟まれた江口は、自分の最初の女性とも呼べる、結核で死んだ母親を回想するのであった。

回想から醒めた江口は、不意に片方の娘が死んでいることに気づく。受付番の女を呼んだ後、死んだ娘が温泉宿へ運び出される車の音が遠くに聞こえていた。

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個人的考察

個人的考察-(2)

魔界の文学

本作『眠れる美女』の発表時期は、川端康成の長い作家人生の中で後期に位置する。

三島由紀夫からの評価も高く、最高傑作に位置付けられることもしばしばある。しかし、その内容はかなり前衛的で、大衆的な面白さとは離れた場所で、特異な芸術の魅力を放っている。

この時期の川端康成は「魔界」という新たな文学テーマに挑戦していたことで有名だ。具体的に定義することは困難だが、彼が描く「魔界」には、孤独や悲しみを誘惑する神秘的な世界観が感じられる。

本作『眠れる美女』は、死を意識し始めた年齢の老人が、クラブ制の館に訪問する場面のみで構成されている。館の中には、特殊な方法で眠らされた全裸の美少女が用意されており、老人は添い寝を許されている。その外部から遮断された空間は、まるで浮世離れしており、また老人は美少女の美しい肉体を通して、あらゆる回想に耽ったり、奇妙な夢を見たりする。いわば老人は、美少女の裸体を通して、死の孤独感や悔恨を誘惑され、いつの間にか「魔界」に足を踏み入れているわけである。

また美少女は眠っているため、一切の記憶を有さない。翌日になり目覚めれば、昨夜の老人のことは覚えていないわけである。この美少女の無意識下で作り出される「魔界」によって、一層幻想的な雰囲気が強くなっている。

三島由紀夫は「デカダンス」という言葉で言い表しているが、なるほど、背徳感が生み出す、非社会的・非道徳的な物語は、まさに芸術至上主義と呼べるだろう。むしろ本作は、あえて歪な物語の意味を考察するよりも、ただそこに描かれる美的感覚にのみ大きな価値があるのかもしれない。

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処女とネクロフィリア

なぜ少女たちは眠らされているのか、という疑問は最後まで分からない。あるいは性行為などは禁止させられている。そういう意味で、この秘密の館は、通常の性風俗とは異なる、不思議な場所なのだ。

それでも老人たちは、眠れる美女にとてつもない魅力を感じ、主人公の江口老人に関しては、短期間で6回も訪れることになる。果たして眠れる美女の魅力はどこにあるのか。

一つは、ネクロフィリアの側面が考えられる。つまり、死体や人形を愛好する特殊な性癖だ。

かのサルトルは、縄で縛られた女性に最もエロティシズムがあると説いていた。その真意は、おそらく自意識の問題にある。意志や感情や言動を持った対象物を前にすると、人間は余計な自意識に支配される。簡単な例を挙げれば、相手に気に入られたい、という自意識は、その人間の行動を制限し支配する。

同様に、仮に本作の美少女が目覚めており、感情や言動を表現すれば、老人はその一つ一つに動揺しながら添い寝をしなければならない。ところが美少女は完全に眠っているため、もはやアイデンティティさえ有さない「モノ」として機能している。それ故に、老人は彼女たちを偶像的に崇拝することも、思い通りに解釈することも可能なのだ。いわば、妄想としてのエロティシズムを実現するわけだ。

そして、このネクロフィリア的な愛好の延長線上には、処女性も透けて見える。作中で江口老人は、処女の女性との記憶を回想したり、眠る女性に処女の記しを発見して下心を封じたりする。眠っている女性が持つ、無垢な処女性が、ある種の美的感覚として持ち出され、その若さや性の可能性が、死を意識した江口老人の孤独感と対比されているように思う。

女性の寝顔は年齢を偽れない、という表現が綴られるが、まさに寝顔の持つ純粋性が、生い先短い老人を魅了したのだろう。

その一方で、眠る女性が持つ処女性は、常に危険に晒されている。実際に江口老人は、眠る美少女にイタズラを試みようと考えたり、それどころか自分が簡単に彼女たちを殺害できる事実を認める。あるいは自分の娘が結婚前に、男友達に処女を奪われた出来事が回想されたりもする。こういった処女の危うさは、悲嘆を招くと同時に、希少な尊さを助長しているのかもしれない。

言ってしまえば、川端康成の性に対する執着が前面に描かれた作品なのだろう。

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鏡としての美少女たち

その人間を、その人間たらしめるのは、言葉であり、態度である。ところが、本作の美少女たちは眠っているため、言葉も態度も有さず、いかなる人間であるか、という事実が明らかにならない。これはある種、鏡のような舞台装置の役割を果たしていると考えられる。

江口老人は、眠る美少女たちを通して、過去の女性を回想し、その内容が物語の多くを占めている。つまり、個性を持たない美少女であるからこそ、彼女たちから関連づけて、過去の女性を自由に想起することが可能なのだ。そして美少女たちは眠っているため、当然老人の回想に対して意見を述べることもあり得ない。老人は個人的な回想の中で、個人的に懐かしみ、個人的に懺悔することが叶うのだ。

別の老人は、眠る美少女と添い寝をするのは、仏と添い寝する感覚と似ている、と言及していた。無個性で偶像的な美少女だからこそ、一切の横槍を排した思い思いの懺悔が実行できるのかもしれない。それはもはや、仏に対する懺悔と同様なのだろう。

生い先短い老人にとっては、過去の過ちや後悔を、他者に打ち明ける機会に恵まれていない。だからこそ、眠る美少女を通して、神への懺悔を行い、そこに僅かな救いや安らぎを見出していたのではないだろうか。

「魔界」をあえて神秘的な世界と表現したが、死を意識し始めた老人にとっては、「魔界」とは死を受け入れるために用意された信仰の世界のことだとも考えられる。ある老人は、この秘密の館で絶命したようだが、それは一つの成仏だったと考えることも可能だろう。

しかし、成仏に際して、全裸の美少女を用意したのは、川端康成の願望なのだろうか・・・?

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少女の唐突な死

物語の結末は唐突である。江口老人が添い寝する美少女が突然生き絶え、その遺体が近くの温泉宿に運ばれる場面で、物語の幕が閉じる。

老人が「死」の象徴だとすれば、美少女たちは「生」の象徴である。ともすれば、江口老人ではなく、美少女が死ぬという結末は非常に裏切りの要素を孕んでいる。

個人的な考察としては、死んだ少女は、実際的な死ではなく、少女としての死を経験したのではないだろうか。もしかすると、江口老人が訪れる前に、別の老人によって禁止されているイタズラを受けたのかもしれない。現実に凌駕された美少女は、その偶像性や処女性を失い、二度と「魔界」にはいられなくなったため、館から連れ出されたのではないだろうか。

簡単に陵辱され、あるいは自分がその張本人になり得る危うさの中で、片時でも純粋無垢であり得る美少女たちの性こそが、本作で描かれる美意識であり、儚さであり、圧倒的なエロティシズムなのだと、個人的には感じられた。

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映画『伊豆の踊子』おすすめ

川端康成の代表作『伊豆の踊子』は、6回も映画化され、吉永小百合や山口百恵など、名だたるキャストがヒロインを務めてきた。

その中でも吉永小百合が主演を務めた1963年の映画は人気が高い。

撮影現場を訪れた川端康成は、踊子姿の吉永小百合を見て、「なつかしい親しみを感じた」と絶賛している。

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