思い返せば、プロレタリア文学と言えば『蟹工船』の印象だけが強く、その他についてはあまり知られていないのが事実でしょう。
今回はネクストステップとして、プロレタリア文学の代表作家とおすすめ作品を紹介します。
- 『蟹工船』を読んだが、他に何を読めば良いのかが判らない
- 代表作家の代表作だけを知りたい
以上のような悩みを解決します。
目次
プロレタリア文学とは?
プロレタリア文学とは、労働者に焦点を当てた小説ジャンルのひとつです。大正時代に先駆的に誕生し、ソ連の社会主義革命の影響によって注目を集め、昭和初期頃に一世を風靡します。
当時日本では資本家による搾取が酷く、その現状をリアリズムな手法で描いたプロレタリア文学は大衆に支持されるようになります。いわば貧乏人の鬱憤を代弁する役割だったわけです。
やがてプロレタリア文学の作家たちの思想は先鋭化していき、国家を脅かす存在とみなされるようになります。資本家の利益至上や、利権拡大のための軍国主義、そういった当時の日本国内の風潮に逆らった彼らは、特攻警察によって弾圧されます。
結果的に多くの作家が転向し、第二次世界大戦の頃にはプロレタリア文学のブームは完全に消滅してしまいます。
今回は5人の代表作家と、彼らの代表作品を紹介します。リンクも掲載しておくので、気になる作品があれば是非読んでみてください!
小林多喜二
ペンネーム | 小林多喜二(29歳没) |
生没 | 1903年ー1933年 |
出身地 | 秋田県 (のち北海道の小樽に移住) |
プロレタリア文学の旗手として最も馴染みがあるのが小林多喜二でしょう。
実は比較的裕福な農家の生まれで、北海道の小樽に移住後も、作家業と銀行員を兼務して生活していました。
当初は小説の神様である志賀直哉を崇拝して執筆活動をしていました。ところが軍国主義の風潮の中で、プロレタリア文学や共産主義思想に傾倒していき、特攻警察に目をつけられるようになります。
『蟹工船』で一躍有名になった小林多喜二は、弾圧から免れるために地下で活動を行います。ところが党内にスパイが潜入しており、築地警察で拷問を受けて死亡します。
代表作『蟹工船』
- 発表時期:1929年(昭和4年)
- 中編小説
漁船と工場の役割を持つ故に、漁船と工場いずれの法律も潜り抜けた、今で言うブラックな労働環境で搾取される労働者を描いた物語です。
暴力、拷問、違法漁、過労が当然のように蔓延る蟹工船。
偶然ソ連の人々と遭遇したことで、プロレタリアートを尊重する思想を知り、ストライキに踏み切る男たちの末路はいかに・・・?
プロレタリア文学云々ではなく、単純に文学好きなら読んでおくべき1冊です。
代表作『党生活者』
- 発表時期:1933年(昭和8年)
※正式タイトルでの発表は1946年 - 中編小説
『蟹工船』のような労働者の集団ではなく、思想活動をする個人に焦点を当てた作品です。
工場に勤める主人公が、世間向きには社会主義者であることを隠しながら、裏で党組織を作ろうと企てます。仲間が検挙されたり、一緒に暮らしている女性が「赤」だと疑われ仕事を首になったり、様々な困難が押し寄せます。特攻警察が近づく主人公の運命はいかに・・・?
地下で活動を行なっていた小林多喜二の実体験に基づく、共産党員の物語です。
葉山嘉樹
ペンネーム | 葉山嘉樹(51歳没) |
生没 | 1894年ー1945年 |
出身地 | 福岡県 |
小林多喜二と並んで、プロレタリア文学の旗手とされる作家です。初期プロレタリア文学の礎を築いた人物と言っても過言ではありません。
士族の生まれで早稲田大学に進学した葉山嘉樹は、学費未納で除籍後、貨物線やセメント工場など職を転々とします。労働組合立ち上げ失敗の経験など、労働運動に従事する傍ら、その実体験を題材に執筆活動を行います。
既存のプロレタリア文学が図式的であったのに対し、葉山嘉樹は人間の感情をのびのびと描きました。芸術的な完成度も高かったため、文壇の新進作家として評価されるようになります。
ところが思想統制が強まると、プロレタリア文学から転向し、翼賛体制への指示を強めます。植民地開拓にも積極的で満洲に移住しますが、敗戦後の帰国途中に脳溢血で死亡します。
代表作『海に生くる人々』
- 発表時期:1926年(大正15年)
- 長編小説
貨物船で働いた作者の実体験を基に創作された長編小説です。日本プロレタリア文学の傑作と言われています。
室蘭・横浜間の石炭船を舞台に、船員たちの生態を快逆的に描いているのが特徴です。過酷な労働条件とそれへ反発する自然発生的なストライキ、その些細な勝利と弾圧による挫折までの過程を物語にしています。
小林多喜二の作品よりも文章が読みやすいので、『蟹工船』を読破された方なら抵抗なく、むしろさくっと読めるのでおすすめです。
代表作『セメント樽の中の手紙』
- 発表時期:1926年(大正15年)
- 短編小説
貧しい労働者の男が、勤務中にセメント樽の中から謎の手紙を見つける物語です。
手紙の差出人は女工でした。セメントを作るために石を砕くクラッシャーに飲み込まれた恋人が、石と共に砕かれ「セメント」になってしまった出来事が記されていました。つまり、主人公が作業していたセメント樽には、手紙の差し出し人の恋人の血肉が含まれていたわけです。
果たし手紙の最後には女工のどんな思いが綴られているのか・・・?
テーマが奇抜で、短編小説としての文章力も秀逸で、個人的に今回最もおすすめな作品です。
徳永直
ペンネーム | 徳永直(59歳没) |
生没 | 1899年ー1958年 |
出身地 | 熊本県 |
小林多喜二を筆頭に裕福な出身の作家が多い中、徳永直は本当にプロレタリアート出身だったため、プロレタリア文学の作家として独自の位置を占めるようになります。
貧しい小作人の出身である徳永直は、労働者仲間の影響で、文学・労働運動に身を投じるようになります。
ところが小林多喜二の虐殺に動揺した彼は、日本プロレタリア作家同盟から脱退し、皆と同様の転向作家になります。
その一方で、小林多喜二の『党生活者』の原稿を戦後まで保管し発表に協力するなど、裏では反軍国主義の思想を持ち続けていたようです。
代表作『太陽のない街』
- 発表時期:1929年(昭和4年)
- 長編小説
共同印刷株式会社でのストライキに参加し、敗北の末に解雇になった、作者の実体験を基に執筆された物語です。
ストライキの実態や、敗北に追いこまれる労働者の様子をリアルに描いたことから、発表直後に文壇で評判になります。なんとあの川端康成が評価したことでも有名な作品です。
小林多喜二の虐殺を受けて転向した徳永直は、本作『太陽のない街』の絶版宣言までしてしまいます。しかし裏で思想を持ち続けていた彼は、戦後に絶版宣言を解除します。
小林多喜二の『蟹工船』と並んで、プロレタリア文学の記念碑的作品と言われています。
黒島伝治
ペンネーム | 黒島 伝治(45歳没) |
生没 | 1898年ー1943年 |
出身地 | 香川県小豆島 |
シベリア出兵した経験がある黒島伝治は、兵役終了後に反戦小説で文壇に登場します。
戦争文学以外に農民文学も評価されています。殆どのプロレタリア作家が労働者の実態を描く中、農村の貧困に焦点を当てた作風が斬新で、好感を持って受け入れられたようです。
全日本無産者芸術連盟に参加するものの、肺病を患って故郷の小豆島に隠居します。その後は特攻の監視下に置かれ、小説を発表することなく生涯を終えました。
代表作『豚群』
- 発表時期:1926年(大正15年)
- 短編小説
小作料の代わりに家畜の豚で生計を立てる百姓の物語です。
支配層である地主はすぐに豚に目をつけて、差し押さえを企んでいます。そのため百姓たちは全員で協力して、偵察の日に一斉に豚を放し、どれが誰の豚かを判らないようにして、差し押さえから免れようと計画しています。しかし、仲間の中に裏切り者が潜んでいたのです。果たして百姓たちの運命はいかに・・・?
百姓と支配層の戦いより、「裏切り」という百姓同士の人間関係が巧みに描かれていて、非常に面白いのでおすすめです。
平林たい子
ペンネーム | 平林たい子(67歳没) |
生没 | 1905年ー1972年 |
出身地 | 長野県諏訪郡 |
プロレタリア文学では珍しい女性の作家です。
平林たい子は職を転々としながら、同棲、離別、検挙、生活破綻、中国や朝鮮での放浪などを経て、執筆活動を始めます。
ところが戦後は、転向文学の代表作家として、政治的に反共・右派色を強めていきました。
同時代の文学者や平林自身をモデルに創作された小説のほか、社会時評、随筆、あるいはヤクザものの物語を執筆するなど、多岐にわたる作品を残しています。
代表作『施療室にて』
- 発表時期:1927年(昭和2年)
- 短編小説
アナーキストである恋人との実体験を基に執筆された物語です。
テロを企てた夫と共に逮捕された主人公は、妊娠していたため一時的に収監が猶予され、病院で無事に出産します。しかし脚気を患う主人公の母乳を飲んだことで赤子は死んでしまいます。自分の乳を与えれば危険だと知っていて、なぜ主人公は授乳したのでしょうか。そこには宗教に対する問題提起があった・・・?
プロレタリア文学だからと言って、社会主義に救いを感じているわけでもなく、徹底的に現実の絶望だけが描かれています。
まとめ
- 『蟹工船』小林多喜二
- 『党生活者』小林多喜二
- 『海に生くる人々』葉山嘉樹
- 『セメント樽の中の手紙』葉山嘉樹
- 『太陽のない街』徳永直
- 『豚群』黒島伝治
- 『施療室にて』平林たい子
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映画『蟹工船』がおすすめ!

『蟹工船』は2008年に松田龍平の主演で映画化されています。
実は2000年代に「ブラック企業」という認知が広がり、労働者の感情を代弁するプロレタリア文学が再注目されていたのです。
映画はある程度原作に忠実ですが、個別の登場人物にスポットを当てているため、その分感情移入がしやすい作品になっています。
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