サン=テグジュペリ『星の王子さま』あらすじ解説|名言「大切なものは目に見えない」

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星の王子さま フランス文学

サン=テグジュペリの小説『星の王子さま』は、200ヶ国以上の言語で翻訳される、世界中で愛される文学作品です。

児童文学の形式で書かれた小説ですが、生命や愛といった人生哲学のエッセンスは、大人にこそ響く内容となっています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者サン=テグジュペリ
フランス
発表1943年
ジャンル児童文学
ページ数143ページ
テーマ「大切なものは目に見えない」
関連2015年フランスで映画化

あらすじ

あらすじ

サハラ砂漠に不時着した主人公は、砂漠のど真ん中で1人の少年と出会います。なんと彼は別の星からやってきた王子さまでした。

故郷の星にいた頃の王子さまは、バラの花を世話していました。しかし、ある日バラの花と喧嘩したことをきっかけに旅に出ます。そして旅の中で色々な大人と出逢います。

・自分の体面を保つことに必死な王
・賞賛の言葉しか聞き入れない自惚れ屋
・恥を忘れるために酒を飲むアル中
・夜空の星の所有権を主張する実業家
・規則通り点火や消火を行なう点燈夫
・自分の机を離れたことのない地理学者

これら不思議な大人たちと交流したのちに、次は地球に降り立ちます。すると地球にはたくさんのバラが咲いていました。故郷の星に咲く1輪のバラがありふれたものだと知った王子さまは泣きます。そんな王子さまを救ったのはキツネでした。キツネは、ありふれた存在の中で、たった1つを特別なものだと考えることの重要性を教えてくれます。それを聞いた王子さまは、いくら他にたくさんのバラがあろうとも、自分が世話をしたバラは自分にとって1番のバラなのだと悟ります。別れ際にキツネは、「大切なものは目に見えない」という秘密を教えてくれます。

これら王子さまの話を聞くうちに、主人公は彼と親しくなります。その矢先に王子さまが自分の星に帰る事実を知らされます。主人公は別れを悲しみます。すると王子さまは「夜空の星のどれかで、僕が笑っていると想像すれば、全部の星が笑っているように見える」という大切な教訓を口にするのでした。

翌日には王子さまは姿を消しており、星に帰ったのだと主人公は悟ります。王子さまが笑っていると考えるときには、夜空は笑顔で満ちているように見えますが、逆に悲しんでいると考えると、夜空が涙でいっぱいになっているように見えるのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

作者:サン=テグジュペリについて

作者のサン=テグジュペリは一体どんな人物だったのか。

彼はフランスの貴族出身で、その生涯の殆どを空の上で過ごしました。航空会社の飛行士だったのです。

航空業の傍ら、彼は自身のパイロットの経験を基に執筆を行います。

デビュー作『南方郵便機』は構成技法の問題からさほど評価されませんでしたが、ついで発表された『夜間飛行』は、20世紀のフランス文学を代表する作品となりました。

1935年、フランスーベトナム間を飛行中だったサン=テグジュペリは、機体のトラブルでサハラ砂漠に不時着します。それから4日間、食うものも飲むものもなく、炎暑の中を彷徨うことになります。その時の様子を彼は次のように語っています。

日向を三日も歩き続けると、人は勇気の命令には従わなくなって、蜃気楼の命令に従うようになる。次から次へと現れる幻影が人を支配するようになる。

一時彼の遭難は絶望視されていましたが、なんと彼は徒歩でカイロに生還したのでした。この時の経験を基に、本作『星の王子さま』が創作されたと言われています。

生涯を空に費やした男、サン=テグジュペリ。その最期もまた、空での出来事でした。第二次世界大戦中に偵察のために単機で出撃し、そのまま帰還せずに消息不明となったのです。

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「大人」は不思議な生き物

大人は誰でも元は子供だった(そのことを覚えている人は少ないのだけれど)

『星の王子さま/サン=テグジュペリ』

この有名な序文で始まる本作は、まさしく「大人」という生き物に対する問いかけによって構成されています。

主人公が子供の頃に、ゾウを丸呑みした巨大なヘビの絵を描くと、大人たちはまるで何の絵かを理解しませんでした。挙句、算数や文法の勉強をしないさいと注意する始末です。

それからと言うもの、聡明な人間に出会うたびに主人公はこの絵を見せましたが、誰も絵を理解する者はおらず、彼らは一様にゴルフや政治の話ばかりをするのでした。

大人に対する懐疑を抱いていた主人公の絵を初めて理解したのが、砂漠で出会ったの星の王子さまだったのです。

王子さまは旅の中で出会った多くの種類の大人について話してくれます。

自分の体面を保つことに必死な王
→自分の権威しか考えない大人
賞賛の言葉しか聞き入れない自惚れ屋
→自分が最も偉いと思う大人

恥を忘れるために酒を飲むアル中
→酒で現実逃避をする支離滅裂な大人

夜空の星の所有権を主張する実業家
→独占欲に塗れた利益至上の大人

1分ごとに点火や消火を行なう点燈夫
→規則の奴隷だが役に立つ大人

自分の机を離れたことのない地理学者
→机上の空論に支配された大人

まるで作者の皮肉がふんだんに現れています。何故なら、彼らは遠くの星々に対して権威や自尊心や利益を主張していますが、実際は本人がそう思い込んでいるだけ、あるいは帳簿を付けているだけなのです。

ある人にとっては心の励みになる美しい星々が、大人には利益や権利や数字にしか見えていないのです。

子供の頃は見えていたものが、大人になると見えなくなる。それもまた「大切なものは目に見えない」というキーワードに内包されるメッセージでしょう。

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第二次世界大戦に対する風刺

『星の王子さま』が執筆されたのは第二次世界大戦の最中です。そのため、戦争にまつわるテーマが含まれていると考えられています。

序文には「レオン・ウェルト」という宛名が記されています。彼はサン=テグジュペリの生涯の親友でした。レオンはユダヤ人であったため、当時はナチスによる弾圧対象でした。そういった背景から紐解くと、作中に登場する生命や愛にまつわるメッセージが、戦争に対する言及として解釈可能です。

中でも「バオバブ」という植物は非常に象徴的です。

王子さまが住んでいた小さな星には、バオバブという植物が生えており、放置しておくと星が壊れてしまうようです。作中に三本のバオバブが星を侵食するイラストが掲載されています。一説では、これは当時のドイツ・イタリア・日本を象徴しており、第二次世界大戦における情勢を表現していると考えられています。

とりわけバオバブのイラストだけ手が混んでおり、その理由は次のように記されています。

バオバブを描いたときだけは、なにしろことが緊急だったので、ぼくに力が湧いたというわけ。

『星の王子さま/サン=テグジュペリ』

戦争が激化し一刻を争う状況だと、作者は訴えていたのだと考えられます。

以上のような解釈をすると、前述した大人たちの特徴はより深刻な意味合いを持つでしょう。つまり、権威や利益や自尊心のために戦争を行う大人たちに対する、痛烈な風刺の意が込められていたことが分かります。

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王子さまにとっての「バラ」とは

王子さまとバラの花の関係こそが、本作の最も重要な教訓を表しているでしょう。

王子さまはかつて自分の星で、美しいバラの世話をしていました。ところが、バラの気まぐれな態度に苦心した王子さまは、彼女を置き去りにして自分の星を離れてしまいます。

こういった経緯で地球にやってきた王子さまですが、地球にはたくさんのバラが咲いており、自分がかつて大切に思っていたバラがありふれた存在だと知って泣きます。

そんな彼を救ったのはキツネでした。悲しみに暮れた王子さまは、気を紛らわすためにキツネに遊びを誘います。するとキツネは、まずは二人が仲良くなる必要があると言います。そして「仲良くなる」とは、お互いが相手にとってのたった1人の存在になることだと教えてくれます。相手のために多くの時間を費やすことで、ありふれた存在の中で、たった1つの特別な存在になるのです。

こういった考えを教わった王子さまは、自分がかつて愛したバラは、ありふれた存在には違いないが、自分にとってはたった1つの特別な存在だと気づきます。

いわば、バラとの関係が拗れた王子さまが、広い世界の知らない価値観に触れることで、改めてバラの大切さに気づく物語だったのです。

別れ際にキツネは「大切なものは目で見えない」という秘密を教えてくれます。

そのバラが自分にとって特別である、という大切なことは目では見えない。なぜなら、目で見るだけでは他と同じありふれた存在だからだ。

そういうことでしょうか?

相手を思う気持ち、愛情、絆、責任。そういった目に見えないものがいかに大切であるかを、王子さまとバラの関係を通して表現していたのでしょう。

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王子さまが主人公に伝えたかったこと

王子さまが砂漠にやって来た本当の目的は、自分の星に帰ることでした。そして自分の星に帰るには、ヘビに噛まれる必要がありました。肉体を地球に残し、魂だけ星に帰る、というある種の死を彷彿とさせる結末だったのです。

別れを惜しむ主人公に対して、王子さまは次のような言葉をかけます。

夜の空を見て、あの星の1つにぼくが住んでいて、そこでぼくが笑っている、ときみは考えるだろう。だからぜんぶの星が笑っているように思える。きみにとって星は笑うものだ!

『星の王子さま/サン=テグジュペリ』

かつて王子さまがキツネとの別れを悲しんだ時に、お別れがこれほど悲しいなら初めから出会うべきではなかったと考えます。するとキツネは、「金色の小麦を見るたびに、金髪の王子さまのことを思い出す、だから小麦畑が好きになる」と説明し、誰かと出会い親しくなることは無意味ではないと伝えます。

それと同じく、王子さまは主人公に対して、「何かを特別好きなることは、それを取り巻く世界すら美化させる、だから自分が星に帰っても、主人公にとって夜空は特別であり続ける」と伝えるのでした。

その言葉通り、彼が星に帰った後の主人公は、王子さまが笑っていると考えるときには、夜空は笑顔で満ちているように見えますが、逆に悲しんでいると考えると、夜空が涙でいっぱいになっているように見えるのでした。

これほど重要な問題を大人たちは理解できないのだ、と作者は最後に訴えかけるのでした。

権威や自尊心や利益のために、星々を自分のものにしようと考える大人たち。彼らの目には何も見えていない。その星がなぜ特別なのか、そしてたった1つが特別であるだけで全てが素晴らしくなる、そんな大切なことも知らない。

社会的な動物として、習慣に飼い慣らされた我々の目には一体何が見えているのか。その実からっぽな見栄で手に入れたものは本当に自分にとってたった1つの特別なものなのか。

私は私が疑わしくなる。だから、今一度私は自分自身に忠告する。

「大切なものは目に見えない」

と。

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