芥川龍之介『杜子春』あらすじ解説|原典との比較考察

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杜子春4 散文のわだち

芥川龍之介の小説『杜子春』は、中国の伝奇を童話化した、中期の代表的な短編作品である。

『蜘蛛の糸』『羅生門』と並ぶ傑作で、エゴイズムと親子愛のテーマが描かれる。

本記事では、あらすじを紹介した上で、原典との違いを比較考察する。

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作品概要

作者  芥川龍之介(37歳没)  
発表時期1920年(大正9年)
ジャンル 短編小説
童話
ページ数19ページ
テーマ人間のエゴイズム
親子愛

あらすじ

あらすじ

唐の都に、金持ちの息子から一文なしに転落した、杜子春とししゅんという男がいた。

途方に暮れる杜子春の元に、1人の老人が現れてこう言う。「お前の影の頭の部分に黄金が埋まっている」その助言通り杜子春は都で1番の大金持ちになるが、贅沢がたたって三年で一文なしに戻る。再び老人が現れ、今度は影の胸の部分から黄金を掘り当てるが、同じく三年んで一文なしに戻る。

三度目に老人が現れた時、杜子春はもう金はうんざりだと訴える。金の有無で態度を変える世間に愛想を尽かしたのだ。代わりに弟子にして欲しいと老人に頼む。老人は鉄冠子てつかんしという仙人だった。

仙人の修行は、何があろうと声を出してはいけない、という内容だった。次々に恐ろしい幻覚が襲い掛かるが、杜子春はひたすら耐え忍ぶ。しかし両親が拷問を受ける様子を見せつけられ、ついに声を漏らしてしまう。

修行に失敗した杜子春は、いくら仙人になれたとしても、両親があんな目に遭っては黙っていられないと話す。すると鉄冠子は、もしあのまま黙っていたらお前を殺すつもりだった、と告げる。

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個人的考察

個人的考察-(2)

原典『杜子春伝』との違い

芥川の小説は、古典作品が題材になっていることが多い。本作『杜子春』も、中国の伝奇『杜子春伝』を独自の物語に作り替え、童話化したものである。

■原典『杜子春伝』のあらすじ

遊び呆けて一文なしになった杜子春は、ある老人から大金を授かったが、また遊び呆けて貧乏に戻り、その次も同じことを繰り返す。

自分の不甲斐なさを恥じ、杜子春は二度も助けてくれた老人の薬作りを手伝う。薬を飲むと恐ろしい幻覚に襲われるが、絶対に声を出してはいけない、というのが約束だった。それを成し遂げれば薬作りは成功し、杜子春は仙人になれる。

幻覚の中で杜子春は女に生まれ変わる。約束通り声を出さずに過ごすが、それに癇癪を起こした夫が我が子を殺し、杜子春は約束を忘れて声を出してしまう。

幻覚から覚めると老人が責め立て、杜子春は約束を守れなかったことを恥じる・・・

一文なしの杜子春が、老人のおかげで大金持ちになり、しかし贅沢がたたって二度も貧乏に戻る設定は原典通りだ。そして薬作りや、その幻覚といった点は異なるものの、声を出さなければ仙人になれる、という設定も同様である。

大きく異なる点は、親子の関係性と、修行に失敗した杜子春の心持ちである。

原典の場合は、杜子春が女に生まれ変わり、我が子の死に際して声を漏らしてしまう。それを芥川は、自分の両親が拷問を受ける設定に書き換えている。

そして修行に失敗した杜子春の心持ちだが、原典の場合は、杜子春は自分の失敗を恥じる。これは仙人になるために、喜・怒・哀・・悪の五情に打ち勝ったものの、「愛」の試練に落第した後悔を寓話的に描いている。

一方で芥川の場合は、「愛」の試練に落第したものの、自分の両親が拷問を受けて黙っているくらいなら、仙人にならなくていい、という通俗的な道徳に回帰させている。そこにこそ、芥川独自のシニカルさと美しさがある。

以上の違いを踏まえた上で、さらに詳しく芥川版の『杜子春』を考察していく。

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輪廻から解脱するための試練

杜子春は転落者であり、元は財産に恵まれた金持ちの息子だった。

ややあって杜子春は仙人になる修行に挑み、幻覚の中で両親の拷問を見せつけられる。両親は畜生道に落ちていることから、生前に何か罪を犯したと考えられる。想像できる罪としては、人の道に外れた方法で財産を得たのだろう。

ここに因縁がうかがえる。杜子春は親の財産を使い果たし、二度老人から大金を授かるが、いずれも使い果たして孤独と貧乏に回帰してしまう。それは両親が犯した罪の因果で、杜子春は金を手に入れても最終的には貧乏と孤独に苦しむ輪廻の中にいたのだろう。

興味深いのが、杜子春が金持ちになる方法だ。老人の助言通り、自分の影の「頭」の部分を掘ると黄金が出てきた。二度目は「胸」の部分だった。数を重ねるごとに影の部位は下がる。もし杜子春が懲りずに黄金を求めれば、最後には「足」の部分を掘ることになる。足のない者は幽霊を想起させる。つまり金欲の果てに杜子春には死が待ち受け、両親と同じ畜生道に落ちる運命だったのかもしれない。

幸い杜子春は二度で金に懲りる。金の有無で態度を変える世間に愛想を尽かしたのだ。それは老人が与えた金欲の試練で、杜子春は見事その試練に克服したのだろう。

老人の試練の先には仙人の道が開けている。それは悟りを開くことであり、仏教で言う、全ての輪廻から解放される解脱を意味する。親が犯した罪の輪廻に縛られた杜子春は、試練を越えて解脱を望んでいたのかもしれない。

ところが杜子春は最後の試練に敗北する。輪廻の根源である両親を切り捨てられなかった。両親の拷問を前に声を漏らした杜子春は解脱に失敗し、元の運命に回帰したのだろう。

こんな裏設定を深読みすれば、物語が一層面白くなるかもしれない。

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母親を捨てきれない芥川の葛藤

仙人になる修行に失敗した杜子春だが、原典とは違い彼はそのことを少しも恥じない。

いくら仙人になれた所が、私はあの地獄の森羅殿の前に、鞭を受けておる父母を見ては、黙っている訳には行きません。

『杜子春/芥川龍之介』

この杜子春の主張に対して老人は、「もしお前があのまま黙り続けていたら、俺がお前を殺すつもりだった」と打ち明ける。それこそ、老人が与えた最後の試練だったのだろう。

愛を捨てて人の世を離れることと、愛を捨てずに人の世を生きていくこと。その二つを天秤にかけた時、芥川は後者の方が大事だと考えたのかもしれない。

それは世間との和解を意味する。金の有無で態度を変える世間に愛想を尽かした杜子春は、人の世を捨てて仙人になる決意をした。ところが最後の最後に両親の愛情に直面し、彼は人の世を捨てることを喜んで諦めたわけだ。

1つ疑問なのが、なぜ芥川は、子への愛情を親への愛情に書き換えたのか。

それは芥川自身が、両親、とりわけ母親に対する愛憎に苦しんでいたからだろう。

■気が狂った母親の存在

11歳の頃に死別した芥川の母親は、精神に異常をきたしていた。理由は定かではないが、長女が7歳で死んだことや、自分の妹と夫が不倫関係にあり、その不貞によって子供ができたことなどが関係していると言われている。

母親の死後、芥川は母方の叔父に引き取られるが、父の不倫が原因で、父方の親族と母方の親族のいがみ合いは続く。その弊害は芥川にも降りかかる。芥川が学生時代に恋をした女性の家は、父方の一家と仲が良かったため、母方の親族の反対によって彼の恋は叶わなかった。

さらに芥川は37歳の若さで自ら命を絶つまで、母親の存在に苦しめられた。当時は精神病は遺伝するという考えが強く、芥川はいずれ自分は母のように気が狂う、という強迫観念に苦しめられていた。

そう、芥川は母親という輪廻の中で暗い運命に縛られており、それが本作『杜子春』の輪廻に重ねて描かれているのではないだろうか。

杜子春は仙人になりたいと望み、しかし最終的には両親に対する愛情を損なわなかった。それは母親という輪廻からの解脱を望み、しかしそれを捨てきれない芥川の葛藤が表れているのかもしれない。

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身近な人間を愛することの大切さ

両親に対する愛情によって、人の世と和解した杜子春は、正直に生きていくことを決意する。

何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです。

『杜子春/芥川龍之介』

この言葉を聞いた老人は、山の麓にある一軒の家を杜子春に与え、そこに住むことを勧める。

唐の都を離れ、人里離れた一軒家に住む。それはまるで隠居生活を想起させる。人の世と和解したはずの杜子春が、隠居生活をすることにどんな意味があるのか。

杜子春が果たした人の世との和解とは、決して金の有無で態度を変える世間を許すことではないだろう。老人が杜子春に説いたのは、たとえ金がなくとも裏切らない人間の重要さだと考えられる。

両親の拷問を前に、修行を貫くか破るか。凄まじい葛藤に迫られた杜子春に、母親はこんな言葉をかける。

心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何とっても、言いたくないことは黙って御出おいで。

『杜子春/芥川龍之介』

金の有無で態度を変える世間とは異なり、母親は自己犠牲を厭わず、杜子春のことを一番に考えてくれたのだ。

この経験によって杜子春は、大衆ではなく最も身近な、無償の愛を与えてくれる人間の大切さを学んだのだと思う。だから彼は人里離れた一軒家に住んで、大衆と距離を取ることにしたのだろう。もしそこで心から信頼できる人間と出会えたなら、杜子春は母親のように、自己犠牲を厭わずその人を愛せるだろう。

身近な人を愛する。それが正直な生き方。

素晴らしい教訓である。

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