川端康成『雪国』あらすじネタバレ考察 トンネルを抜けると・・・

雪国 散文のわだち
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川端康成の『雪国』は、日本文学の最高峰にして、非常に難解な文学作品でもあります。

抒情小説と呼ばれるほど、登場人物の繊細な心情が描かれる、美的表現が特徴的です。海外での人気も高く、ノーベル文学賞の審査対象となった作品でもあります。

『雪国』の作品概要

作者川端康成
発表時期1937年(昭和12年)
ジャンル長編小説、抒情小説
テーマ哀愁、郷愁、虚無感の美

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『雪国』あらすじ

あらすじ

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

『雪国/川端康成』

主人公の島村が列車で会いに行ったのは、駒子という芸者でした。昨年に19歳の駒子と一夜を過ごしてから、初めて再会を果たしたのです。

駒子の身の上は複雑で、肺結核を患う元婚約者の治療費のために芸者として働いています。しかしその男には葉子という新しい恋人がおり、女2人の関係はギクシャクしています。駒子はこれらの身の上を否定していますし、元婚約者が危篤になっても頑なに島村の見送りを優先したりするのでした。

駒子の直向きな性格に惹かれながらも、島村は妻子持ちのため、彼女との関係が発展する見込みはありません。 駒子もその事実を悟っているからこそ、毎晩のように酔っ払って島村の宿に訪れては、急に突き放すような態度を取ったりするのでした。

島村は葉子にも惹かれており、彼女と二人で話す機会がありましたが、やはり駒子との間にいざこざがあるようです。いざこざについて改めて駒子に尋ねても、妙に向きになるだけで、開き直ったりふてくされたりするばかりです。

ある夜、映画場で火事が発生し、炎に包まれた2階から葉子が落ちてきます。虫の息の葉子を抱いた駒子は「この子、気がちがうわ」と叫んでいました。島村には、その駒子の姿が、まるで自分の犠牲か刑罰を抱いているように見えたのでした。




『雪国』個人的考察

個人的考察

物語が省略手法で切り取られている?

本作『雪国』を読んで難解だと感じるのは、物語全体が「省略」という手法によってぼかされているからでしょう。

作者である川端康成は、小説の語り手である島村は男としての存在でもなく、ただ女たちを写す鏡のようなものだと主張しています。要するに、島村が駒子や葉子をどう思っているかという叙情的な部分はさほど問題ではなく、駒子や葉子がどういう女性かが物語の趣旨だと言うことです。

だとすれば問題になるのが、島村を語り手にしたことで、駒子や葉子の日常がバッサリ切り取られてしまっていると言うことです。あくまで島村が国境のトンネルを越えて雪国にやって来ない限り、彼女たちの生活は存在しないのです。事実、島村は1、2年程度のスパンでしか雪国にやって来ません。会わない期間に彼女たちの生活がどうであったのかは当然知る由もなく、切り取られた期間に実存する、生きることに切羽詰まった女たちの姿が見えてこないのです。

つまり、トンネルを境界線にした現実と非現実が存在し、我々読者もまたトンネルを抜けた先に存在する省略された世界のみしか覗くことができないわけです。

性描写をあえて描かない

省略という点で言うなら、性描写がまるまるカットされている点も独特な技法でしょう。

島村は駒子と毎晩のように関係を持っていたにも関わらず、あからさまな性描写は愚か、その夜の出来事がごっそり省略されています。改行された時点で駒子は早朝の部屋で人目を憚って帰ろうとする場面に切り替わっているのです。

これはある意味、島村の存在自体が駒子の人間を映し出すためのメタファーであり、実際に存在しない人間であるという考え方もできます。島村が駒子に惹かれたのは、生きることに切羽詰まっていながらも直向きに日常を送る純真さから来る魅了があったからです。つまり、駒子の生活苦と純真さにまつわる部分を叙情的に描くのが目的であり、島村を主体とした性描写は必要ではなかったのだと思います。島村が駒子を抱くことで表現される人間性よりも、酔っぱらって部屋にやって来て「帰る・帰らない」の茶番をして、明け方に人目を忍んで帰っていくと言う、ある意味慎ましい女性像を表現したかったのでしょう。事実、妻子持ちの島村と不貞を働く駒子に対して、下卑た印象を抱かないのは、彼女が観念的に慎ましい女性哀れな境遇の女性として描かれていたからではないでしょうか。




「いい女」に激怒した駒子の心情

毎日のように島村の部屋に酔っ払ってやって来る駒子でしたが、島村が「いい女だ」と言った台詞に突然激怒して泣き出してしまう場面がありました。

島村は駒子と肉体的な関係を結んではいますが、あくまで妻子持ちであり、「僕には何もしてやれないんだ」という言葉通りの超えられない壁があります。それはある意味、トンネルによって分断された境界線とも言えるでしょう。駒子は島村に思いを寄せてはいますが、それ以上はどうにもならないということを理解しているので、仕切りに「東京に帰りなさい」とわざと突き放そうとしていたのだと思われます。今ある幸福がいずれ無くなってしまうのならば、いっそ早く消えてしまった方が楽だ、という辛い境遇が伝わってきます。

こういった切ない境遇の駒子にとって、「いい女」という言葉は、「性欲を満たすだけの都合のいい女」というふうに捉えられたのだと思います。自らの哀れな境遇が飽和点に達して、遂に怒りと悲しみが爆発してしまったのでしょう。

ラストの意味ー駒子と葉子の関係

駒子と葉子の関係はほとんど描かれず、漠然と軋轢があることしか理解できません。

判っている情報としては、駒子と行男は許嫁(婚約者)であったが、葉子が新しい恋人になっている、されど駒子は行男の治療費を払っている、ということです。

駒子自身は許嫁ではないと主張し、行男とは何の関係もない素振りを続けています。しかし墓参りに頑なに行かないことや、葉子の話題になるとむきになる点から考察すると、やはり葉子に行男を奪われたことに恨みを持っていたのではないかと考えられます。直接的に奪われたと言うよりも、いずれ許嫁として結婚するかもしれないという淡い期待を葉子に潰されたことに心の内で悲嘆していたように思われます。

島村が葉子に惹かれ始める展開は、まさにかつて行男を巡って葉子と齟齬を起こした出来事を具現化していたのではないでしょうか。だとすれば、葉子を自身の荷物と揶揄して島村に押し付けようとする場面も、自分に正直になれずに失った行男との関係を暗喩的に表現していたのかもしれません。

その一方で、駒子は自分の人生を葉子に重ね合わせているように見えます。

愛するものを失い、いずれ芸者として一生田舎で貧しい生活を営む惨めな境遇です。

「気狂いになる」と駒子が言っていたのは、葉子が自分のような惨めな境遇になってしまうと暗示していたのだと思います。島村のような人間が葉子を背負い、東京へ連れて行ってあげれば気が違わずに済むという言葉も、自分みたいにならずに済むという意味に捉えられます。だからこそ、火事の2階から落ちて来た葉子の境遇に対して、「気がちがうわ」と惨めな運命を自分のことのように嘆いていたのではないでしょうか。それはある種、道連れにしてしまったような罪悪感が伴ったのかもしれません。




川端康成の映画化作品がおすすめ

映像で楽しむ

川端康成の小説は多数映画化されています。

  • 伊豆の踊子(吉永小百合
  • 伊豆の踊子(山口百恵
  • 古都(松雪泰子、橋本愛
  • 美しさと哀しみと(加賀まりこ
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