ヘッセ『クヌルプ』あらすじ解説|自由で孤独な人生

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クヌルプ2 ドイツ文学

ヘッセの小説『クヌルプ』は、『車輪の下』に次いで多くの版を重ねる代表作です。

放浪を続けるクヌルプが、人生とは、芸術とは何かを追求する物語が描かれます。

本記事では、あらすじを紹介して上で内容を考察しています。

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作品概要

作者ヘルマン・ヘッセ(85歳没)
ドイツ
発表時期1915年
ジャンル中編小説
ページ数159ページ
テーマ人生の意義とは
芸術の魂

あらすじ

あらすじ

クヌルプは家も職も持たず放浪の旅を続けている。その陽気な性格から、旅の所々で人々に歓迎され愛されるが、しかしクヌルプにはそこはかとない哀愁が漂っている。

少年時代のクヌルプは、ラテン語学校に通う優秀な学生だったが、ある女性に恋したことで人生が急変した。その女性は勉学に励む少年よりも、手に職をつけた大人の男に憧れていた。そして、クヌルプがラテン語学校を辞めたら恋人になると彼女は約束した。だが実際に退学した時には、彼女は別の男と愛し合っていた。裏切りを経験したクヌルプは、もう誰の言葉も信じず、自由で孤独な人生を望み、放浪の旅が始まったのだった。

長年の放浪生活が祟り、体を壊したクヌルプは、最期に故郷に帰ってきた。雪深い道を歩きながら、自分の人生は正しかったのか、神に問う。すると神は、あるがまま生きることの重要性を説くのであった。

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個人的考察

個人的考察-(2)

『クヌルプ』の執筆背景

本作『クヌルプ』は、初期と中期の間に位置する転換期の小説である。

この転換の意味を理解するために、軽くヘッセの生涯に触れておく。

詩人になれないなら、何にもなりたくない

少年時代には既にこうした信念を持っていたヘッセは、神学校の詰め込み教育にノイローゼを起こし、ピストル自殺を仄めかすような不安定な状態にあった。その後は工場や書店など職を転々し、27歳で処女作『郷愁』を発表する。そして次作『車輪の下』で一躍文名を高めた。

そんなヘッセの初期の作風は、ノスタルジックな雰囲気が漂う牧歌的な作品が多い。ところが中期に差し掛かると、深い精神世界を追求した問題作『デミアン』『シッダールタ』をなどを発表する。この変化は、第一次世界大戦の影響で、ヘッセの精神が危機的状況に陥ったことが原因と言われている。

そして本作『クヌルプ』は、ちょうど初期と中期の狭間に位置する作品だ。いわば、平穏な時代に描かれた最後の作品である。実際にこの頃のヘッセは結婚生活に身を修め、三人の子供に恵まれ、比較的に精神が安定していた。

しかしヘッセの内部には既に陰が生まれつつあったのだろう。本作『クヌルプ』発表直後に、ヘッセは家庭や欧州での生活に疲弊し、インド旅行に出かけ、内面の追求を始める。そうしたアウトサイダー的な生き方が、本作の主人公クヌルプに反映されている。

クヌルプは家も職も持たず放浪している。自由で孤独な人生の中に、自分だけの芸術や哲学を見出そうとしているのだ。その一方で、彼は絶えず自分の生き方に疑念を抱いている。果たして自分の人生は正しいのか?

これは当時のヘッセが抱いていた疑念だろう。根っからのアウトサイダーである彼は、結婚生活や欧州での生活、その安定した生活に懐疑的になり、そこから飛び出して芸術に身を捧げる使命を感じていたのかもしれない。だがそうすることが本当に正しいのかも分からない。

こうした人生の動揺が、本作『クヌルプ』を通して描かれているのだろう。転換期を目前とした迷いの時期の作品と言える。

以上の執筆背景を踏まえて物語を考察する。

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なぜクヌルプは放浪を続けるのか

クヌルプは家も職も持たず、放浪の旅を続けている。そうした世間に染まらない純粋な生き方、そして人々を楽しまる愛嬌ある性格から、どこに行っても歓迎され愛される。

だがクヌルプには絶えず孤独な雰囲気が漂っている。いい加減家庭に安住した方がいいと友人に忠告されたり、女性に深く愛されそうになると、ふらふら別の場所に旅立ってしまうのだ。

表面上は愛想を振り撒き、しかし本心では誰にも心を開かない。そんな性格になったのは、少年時代のある悲しい経験が原因だった。

恋愛の裏切りと悟り

クヌルプは少年時代に年上の女性に恋をした。その女性は、勉学に励む少年よりも、手に職をつけた大人の男に憧れていた。そこで彼女は、クヌルプが学校を辞めたら恋人になると約束した。だが実際にクヌルプが退学した頃には、その女性には別の恋人ができていた。

初恋の裏切りを経験したクヌルプは、悲しい悟りに到達する。人間の魂は他者と混じり合うことは不可能だという悟りだ。

「ぼくはもう人間のことばを信用したり、ことばで束縛されたりしなくなった。もう二度としなくなった。自分にふさわしい生活を送った。自由と美しさに事欠くことはなかったが、始終ひとりぼっちだった」

『クヌルプ/ヘッセ』

誰にも心を開かず、自由で孤独な生活を送るようになったのは、人間不信に陥ったからだ。

それは、言葉や行為でいくら愛を伝えても、魂の部分では永久に混じり合えない、という失望でもあった。

だがクヌルプは他者への失望以上に、自分への失望を強く感じていた。彼は夢の中で、初恋の女性と、二番目の恋人を間違えるという奇妙な体験をした。それは二人を強く欲した結果、彼女たちを都合のいい存在に歪曲させていた事実を暗示している。他者に裏切られる以前に、自分が彼女たちの本質を理解することができず、勝手なイメージを彼女たちに押し付け、思い通りになるよう期待していたのだ。

結局人間の本質は、その人間だけが所有するもので、他者に委ねたり、求めることは不可能なのだ。そう悟った時から、クヌルプの自由で孤独な放浪が始まった。

しかしクヌルプには迷いがある。その証拠に、夢には故郷や昔の恋人が登場する。いくら愛を恐れ遠ざけても、深層心理では愛を求めずにはいられない矛盾の中で苦しんでいたのだろう。

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クヌルプの生き方は正しかったのか?

裏切りを経験した時からクヌルプの放浪は始まった。若いうちは愉快な旅だった。その場限りの友人と出会い、その場限りの恋人を持った。美しい女性とダンスに出かける夜もあった。

だが年老いた今、彼は本当の孤独になり、長年の旅で肺病を患い、一人きりで死を待つだけになった。死期を悟った彼は故郷に戻り、雪深い道を歩きながら、果たして自分の人生は正しかったのかと神に問う。そこには、もっと別の人生を歩めたのではないか、という悔恨の思いが含まれていた。

あるいは、若き日に死んでいたら自分の人生は美しいまま完結したとも考えていた。

彼の中には、物事は儚いから美しいという美的価値がある。それは例えば、花火は一瞬で消えるから美しいのであり、長く夜空にあり続ければ美しいと思わなくなる、という考えだ。同様に恋も失った時に本当の美しさを実感する。だから彼は放浪の旅を続け、刹那的な生き方に身を費やして来た。その場限りで失うアレコレに美的価値を見出していたのだ。

いちばん美しいものはいつも、満足とともに悲しみを、あるいは不安を伴うとき、美しいのだ、と考える。

『クヌルプ/ヘッセ』

放浪の中であらゆる物は美しく刹那に消えていった。だが自分の人生だけが長くあり続けた。花火のように一瞬で消えることなく、年老いて病気になるまで消えることがなかった。それだけが彼の美的価値に反していたのだ。

こうしたクヌルプの悔恨に対して、神は「あるがままの精神」を説く。つまり、全ての人生は後悔するに値しない、なぜなら全てはあるがままに存在し、そのままで意味を有するからだ、という考えだ。

もし仮に今からまともな生活者・労働者になったとて、クヌルプはすぐに逃げ出し、元の放浪生活に戻るだろう、と神は訴える。クヌルプはあるがままに自分の人生を全うし、仮にやり直せたとしても別の人生は歩めない。なぜなら彼は今の自分を望み、それ以外の人生など欲しないから。

ぼくがたった今ちょっとお辞儀をしさえすれば、かわいい小さい男の子になれるとしても、そしてきみがお辞儀しさえすれば、上品なやさしい老人になれるとしても、ぼくたちのどちらもお辞儀はしないだろう。それよりも今のままでいたいと思うだろう。

『クヌルプ/ヘッセ』

これは若き日のクヌルプが口にした台詞だ。彼は自分の人生に迷いつつも、本当の部分では、今の自分の生き方が「あるがまま」だということに気づいていたのだ。

それにクヌルプの放浪の人生にはちゃんと意味があったと神は言う。その場限りの友人や恋人を楽しませ、彼らに生きる美しさを与えた。その連続によってクヌルプの人生に価値が生じたのだ。そして、その一つでも欠けたら人生は美しくなり得なかっただろう、と神は言う。

こうした神の説教を聞いた時に、クヌルプの中から迷いや嘆きは消え、深い眠りが訪れた。

あるがままの精神。それはキリスト教圏の作家らしい宗教的な結論だ。迷い、悩み、苦しむ人間にとって、自分の人生には意味がある、だからあるがままに生きればいい、という教示は心の支えになる。

後にヘッセは東洋思想にのめり込む、より深い部分まで真理を追求することになるが、この時点では、西洋的な「あるがままの精神」が、彼の人生哲学のひとつの解だったのだろう。

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