谷崎潤一郎『痴人の愛』あらすじ解説|魔性の少女に翻弄される中年男

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痴人の愛 散文のわだち

谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』は、マゾの観点から小悪魔女性の美を描いた傑作です。

将来自分の妻にするつもりで育てた15歳の少女「ナオミ」が、手の付けようがない性悪淫乱娘に豹変するという、非常に興味をそそられる物語です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者谷崎潤一郎(79歳没)
発表時期  1924年(大正13年)  
ジャンル長編小説
私小説
ページ数464ページ
テーマ悪魔的心理
女体の美
異国趣味

あらすじ

あらすじ

28歳の譲治は品行方正、これまで女性と交際した経験すらない田舎ものでした。 彼が結婚しない理由は、真っ新な少女を自分で教育し、立派に育ててから結婚しようという企みがあったからです。 その願い通り、カフェの女給である15歳のナオミを引き取ることにしました。

ハイカラな関係を望んだ2人の暮らしは非常に幸福でした。譲治はナオミのおねだりを叶えてあげることに自らの幸福を感じるために、散々甘やかして育てることになりました。しかしナオミの美しさに翻弄されたあまりに、彼女の素行の悪さや浪費癖を治せないまま、次第に彼女のわがままな性分を飼い慣らす羽目になります。

ナオミと譲治はダンスホールに出かけることがありましたが、そこでのナオミの男友達との関わりに違和感を抱き始めます。ナオミは男友達との間に後ろめたいことは一つもないと主張しますが、譲治はどこかやきもきするのでした。

ナオミの主張を信じた末路として、ついにナオミが複数の男と関係を持っている事実が露わになります。決定的な証拠を掴んでも尚、他の男と密会する彼女にしびれを切らした譲治はナオミを追い出します。一次は後悔したものの、もう彼女のことをきっぱり忘れると決心したのです。

ところが、追い出されたナオミが荷物を取りに来る度に、譲治は彼女の魅力に再び翻弄されていきます。ついには肉体的な魅力に逆らえなくなり、全面降伏して彼女に絶対服従する形で夫婦生活を再開するのでした。これらは全て魔性の女ナオミの策略だったのです。

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個人的考察

個人的考察-(2)

谷崎の実体験!?ナオミのモデルは?

魔性の小悪魔的な女を総称する「ナオミズム」という言葉が生み出されるくらい、当時は影響力のある作品でした。

谷崎潤一郎は本作を私小説だと主張しており、「ナオミ」のモデルになったのは、谷崎潤一郎の妻であった千代の妹「せい子」だと言われています。

慎ましく従順な千代との結婚生活に物足りなさを感じていた谷崎。そんな時に千代の妹である当時15歳の「せい子」の面倒を谷崎家で見ることになります。姉とは対照的にせい子は奔放でわがままな性格で、谷崎に対して口答えをするほど威勢のいい少女でした。谷崎は彼女を「野獣のような女」と言いながらも、実際ではM心が刺激されて恋に落ちてしまいます。

夫が自分の妹に惹かれていることを知って塞ぎ込んだ千代は、佐藤春夫に同情されるうちに彼と恋仲関係になります。2人の関係を知った谷崎は、せい子が好きだったために、千代を佐藤春夫に譲ってしまいます。

これが俗にいう「小田原事件」です。

ところがせい子にあっさり求婚を断られた谷崎は、千代を返して欲しいと佐藤春夫に訴えます。さすがの佐藤春夫も彼の身勝手さに激怒し、絶縁状態になったようです。これが有名な妻譲渡の小田原事件です。

最終的には、佐藤春夫が千代と生涯を寄り添うことになりました。一方で谷崎は20歳年下の新しい奥さんを迎え入れたのですが、直ぐに飽きてしまい不倫に走ったようです。

なんとも支離滅裂なエピソードですが、つまるところ本作『痴人の愛』は、妻の妹に恋した作者の実体験が基になっているということです。

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ナオミに象徴される脱封建的な生き方

本作のテーマはナオミの人間像に集約される、脱封建的な生き方をする新時代の女性の美しさではないでしょうか。

物語の冒頭では譲治が自分たちのことを「特異な夫婦」と表現します。そして今後自分たちのような恋愛観を持った夫婦が増えることを示唆していました。

要するに、物語の舞台となる大正時代の日本人の恋愛観について、作者の谷崎潤一郎がどういった主張を持っていたかが重要になってくるわけです。

大正時代と言えば、西欧の思想や文化が流入され、民主主義や社会主義の風潮が日本にも芽生え始めた時期です。だからこそ譲治はナオミに対して、従来の「良妻賢母」的な女性の役割を強いることはなく、むしろ英語や音楽を学ばせたり、西洋の活動女優のような服を拵えたり、欧化政策を押し進める主義をとっていました。

その一方で、譲治には真っ新な少女を自分で教育して、立派な妻に育てあげたいという願望がありました。これは当時の大正政府が、儒教主義に基づく制度を強化していたことと関係しているように思われます。つまり伝統的儒教によって、女性を家庭内に押し戻そうとする風潮があったと言うことです。

譲治は欧化主義として新しい道徳観に柔軟である素振りを見せつつも、結婚に対する夢は儒教主義であったと言えるでしょう。ナオミを自分だけの所有物にして、大森の家に閉じ込めておきたいという願望があったことが判ります。

ところがナオミは譲治の押さえ込みをいとも容易く潜り抜け、様々な男と関係を持っていました。譲治は怒りのあまり一時的にナオミを追い出しますが、最終的には彼女が何をしても口を出さないという口約のもとで、絶対服従することを認めて夫婦生活を再開します。

譲治の敗北は、儒教主義や家族制度が個人を束縛することはできないという主張を内包しているように思われます。そして今は自分たちが「特異な夫婦」でありますが、いずれ脱封建的な生き方が一般的な価値観として世間に広がっていくことを予想していたのでしょう。

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譲治の危険な没入

魔性の女ナオミに服従する形で夫婦生活は再開されました。そこまでしてナオミに注ぐ譲治の情熱は殆ど執着のように感じられます。

譲治は品行方正で模範的なサラリーマンと評されるほど真面目な人間でした。会社の中では「君子」と呼ばれ、実際に28歳の今まで女性と交際した経験がなかったのです。

そんな譲治が突然にナオミという真っ新で何も知らない少女を所有したことで、過剰に依存していく様子はあらゆる場面から見て取れます。

ナオミに大量の服を拵える行為は、ナオミ以上に譲治が充足感に包まれていました。美しいナオミを側において周囲に見せびらかすことが、譲治にとって誇りであり、自尊心にすらなり得たのです。

その結果として、譲治はナオミに没入し過ぎたあまりに、彼女を立派な妻に育て上げるという当初の願望よりも、彼女を失う恐怖の方が強くなっていきます。ナオミの自堕落な浪費癖や素行の悪さを指摘して、仮に彼女が出て行ったら困るので、最終的には必ず譲治が謝って事を済ませるのです。

終盤の本当にナオミが出てい行った場面でも、開放感を覚えたのはほんの一時間程度で、直ぐにとてつもない恐怖に襲われます。

譲治はナオミの存在自体が自尊心になっていたので、彼女を失うことは自分の存在価値が脅かされることと直結していたのだと思われます。だからこそ不安や恐怖が強く、ますますナオミに没入していく羽目になったのでしょう。

ナオミが魔性の女と言われるのは、単純に淫乱だったからではなく、譲治の没入を意図的に操作していたからだと思います。自分無しでは生きていけなくなる状況を、彼女は最初から計画的に、あるいは本能的に築き上げていたのです。一度足を踏み入れたら二度と抜け出せない蟻地獄のような悪女なのでした。

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