魯迅の小説『故郷』は、中学の教科書で読み親しまれる名著です。
『阿Q正伝』『狂人日記』と並ぶ、当時の封建的な中国社会を痛烈に批判した物語です。
本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。
目次
『故郷』 作品概要
作者 | 魯迅(55歳没) |
国 | 中国 |
発表時期 | 1921年(大正10年) |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 封建的な格差の悲痛 辛亥革命後の中国社会 |
『故郷』 あらすじ

主人公は20年ぶりに故郷に帰ってきます。かつては地主だった生家も没落し、家を引き払う必要があったのです。想い出の中では美しかった故郷はすっかり色あせ、人々の心さえも貧しく荒み果てていました。
主人公は、少年時代に仲良く遊んでいた閏土(ルントー)との再会を楽しみにしていました。生家が雇っていた小作人の息子である閏土は、少年時代の主人公にとって自分の知らない世界を教えてくれる特別な存在だったのです。ところが再会した閏土との間には、少年時代には感じなかった、地主と小作人という悲しい身分の壁が存在しました。
主人公は閏土との別れ際、 甥の宏児(ホンル)が、閏土の息子の水生(シュイション)と再会を約束したことを知ります。自分たちのようにうらぶれた世代とは異なる、新しい世代に期待を託し、明るい未来の存在を願うのでした。
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『故郷』個人的考察

時代背景
1920年頃を舞台にした物語なので、辛亥革命以降の中国社会ということになります。
革命の成功によって、民主共和国を発足させたものの、実際は理想的な成果を出すことはありませんでした。富国強兵によって列強の侵略は進み、革命前の清朝末期よりもかえって困窮する結果になったのです。
これらの時代背景を踏まえると、主人公が生家を引き払うために帰郷したのは、まさに地主としての没落、国家の経済状況が窮している様子が想像できると思います。
主人公の記憶の中の美しい故郷のイメージとは裏腹に、風景はすっかり色あせ、人々の心も荒んでいました。豆腐屋の楊おばさんは主人公の足元を見て、意地汚く物品を乞う始末です。
これらは一様に、革命を起しても民政の困窮を救うことができなかった、当時の中国社会の悲惨な状況が関係しているのだと考えられます。
封建的な格差社会という隔たり
少年時代には隔てなく親しんだ閏土が、大人になって再会すると、「旦那様」という敬称によって主人公に身分の違いを感じさせました。
学校教育においては、少年時代の純粋な友情が、いずれ社会的な地位によって分断されるという残酷な運命を主題に取り上げていたように思います。地主の息子であろうが、小作人の息子であろうが、子供の頃は関係なく親しくでいたにもかかわらず、大人になれば「旦那様」という言葉が象徴する、明確な隔てが生じてしまうのです。
これは、辛亥革命以降も、いまだ封建的な考えから抜け出せない中国社会に対する批判であると推測できます。 実際に閏土は飢饉や税金や地主に生活を苦しめられており、地主と小作人との格差が拡大している実態が見て取れます。つまり、主人公と閏土の間に生じた隔たりとは、封建的な格差社会を象徴しているのでしょう。
少年時代の主人公にとって閏土は、自分の知らない知識を教えてくれる特別な存在でした。
彼等は本当に何一つ知らなかった。閏土が海辺にいる時彼等はわたしと同じように、高塀に囲まれた屋敷の上の四角な空ばかり眺めていたのだから。
『故郷/魯迅』
つまり、裕福な家庭に生まれただけで外の世界を何も知らない主人公に、塀の外にも空が広がっているという事実を教えてくれたのが閏土だったわけです。
封建的な格差によって人々を支配することによって、閏土のように知識や教養を持つ人間の未来を破壊している、そんな当時の中国社会に魯迅は警笛を鳴らしていたのかもしれません。
皿を隠した犯人
主人公の引き払う生家の灰溜に皿がいくつか隠してあり、 楊おばさんが閏土を犯人だと決めつける場面がありました。貧しい閏土がこっそり持ち帰ろうとしていたと言うのです。
この皿を隠した犯人についてはしばしば議論の対象になるのですが、恐らく楊おばさんの自演自作でしょう。そもそも閏土は、必要なものを持ち帰ることを許可されていましたので、わざわざ隠す必要がありません。小作人として幼いころから主人公の生家に仕えていたという信用や恩があったのです。
閏土に対する贔屓に僻んだ楊おばさんが、 彼を陥れることで自演自作の手柄にして、自分も物品を貰おうと企んでいたのだと思います。楊おばさんは頻繁に家にやって来ていましたし、足元を見て物乞いをする場面もありました。
困窮した当時の中国社会で民衆の心がいかに荒んでいたか、という実態を物語に落とし込んでいたのだと思います。
子供たちに託す希望
甥の宏児(ホンル)が、閏土の息子の水生(シュイション)と再会を約束したことを知った主人公は、次の世代に希望を託すような心情を語っていました。 自分と閏土のように封建的な格差で分断されないでいて欲しい、という主人公の願いが込められていたのでしょう。
主人公は、香炉と燭台を持ち帰ろうとする閏土の偶像崇拝を内心で笑っていました。閏土は崇拝によって自らの苦しい境遇に救いを求めていたのです。ところが主人公は、子供たちの世代に希望を託す自分の行為も、手製の偶像崇拝であることに気づきます。つまり、次の世代に押し付けて、自分は何も行動を起こさない、他力本願の愚かさを訴えていたのでしょう。
希望は本来有というものでもなく、無というものでもない。これこそ地上の道のように、初めから道があるのではないが、歩く人が多くなると初めて道が出来る。
『故郷/魯迅』
初めから道など存在しないのだから、まずは自分自身が歩いて道を作り、それがやがて理想の社会を築く希望になるのだ、という自国民に対する強いメッセージが込められているのではないでしょうか。
主人公と閏土との間に生じた封建的な格差の隔たりは、自分たちの歩み次第で、いずれ取っ払うことが出来るのかもしれませんね。
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