宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』あらすじ解説|自己犠牲の美学

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グスコーブドリ 散文のわだち

宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』は、生前発表された数少ない童話のひとつです。

SFの世界観で描かれる物語には、農業と科学の問題提起が秘められています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者宮沢賢治(37歳没)
発表時期  1932年(昭和7年)  
ジャンル短編小説
童話
ページ数42ページ
テーマ自然科学
自己犠牲の美学
収録作品集『風の又三郎』

あらすじ

あらすじ

ブドリはイーハトーブ(岩手県をモチーフにした理想郷)で暮らす、きこりの息子でした。妹のネリとは仲睦まじく、家族と共に幸福な日々を送っています。

ある年、記録的な冷害がイーハトーブを襲います。その結果、飢饉で両親を失い、妹のネリとは生き別れになってしまいます。

残されたブドリは、工場での労働や農業に携わったのちに、クーボー大博士と出会い学問の道に進みます。その後ペンネン老技師のもとでイーハトーブ火山局の技師になり、噴火被害の軽減や、人工降雨を利用した肥料の散布などを実現させ、飢饉に苦しむ農夫たちを救います。妹との再会も果たしました。

ところが、ブドリが27歳になった年に、かつてのような冷害がイーハトーブを襲います。あの忘れ難い飢饉を防ぐために、ブドリはある手段を提案します。火山を人工的に爆発させることで大量の炭酸ガスを放出させ、温室効果によって冷害を回避するつもりです。しかし、その作戦を実行するには、誰か1人が火山で噴火の犠牲にならなければいけません。ブドリは人々を救うために、自ら犠牲を担うのでした。

火山爆発による温室効果は、作戦通り冷害を食い止めるに至りました。かつて飢饉で死んだ両親や、自分と同じ境遇になるはずだったたくさんの命を、ブドリは救ったのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

実用的な科学知識が詰まっている

宮沢賢治と言えば、大正時代を代表する作家ですが、当時の文学者の中では極めて珍しく、理系の知識を有していました。

例えば彼の作品は、度々宇宙をテーマに描かれることがありますが、単なる空想の宇宙ではなく、天文学的な知識を理解した上で執筆しているため、学術的に的外れではない言及が多く含まれています。

同様に、本作『グスコーブドリの伝記』では、自然科学の知識、とりわけ環境問題にまつわる実用的な知識が記されています。火山局の技師を勤めるブドリが、冷害の再来に対して人工的に火山を噴火させ、大量の温室ガスを放出させることで、温室効果を図ろうとした部分です。

これはいわゆる、CO2排出による地球温暖化の仕組みを言及していることになります。今でこそ我々一般人でも漠然と問題意識を持っている内容ですが、なんと宮沢賢治は100年近く前に地球温暖化の構造を理解していたのですから驚きです。それ故に、21世紀の初頭になり地球温暖化の問題が大々的に言及されるようになった頃に、温室効果の実例として、本作『グスコーブドリの伝記』が説明に用いられたようです。

我々が宮沢賢治の作品を読んで、リアリティのある問題意識を感じたり、自他を見つめ直すきっかけになり得るのは、単なる机上の空論ではなく、実用的な知識がそこに内包されているからではないでしょうか。

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SF的な世界観の魅力

物語の舞台は「イーハトーブ」と呼ばれる、宮沢賢治が作り出した実存しない理想郷です。

「イーハトヴとは一つの地名である。(中略)実にこれは、著者の心象中に、この様な状景をもって実在したドリームランドとしての日本岩手県である。」

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作品集『注文の多い料理店』には、「イーハトヴ童話」という副題が付けられています。つまり、宮沢賢治が描く奇妙かつメルヘンな童話の世界観とは、彼の出身地である岩手県をSF的に作り変えた、ある種の心象風景だったのでしょう。

「イーハトーブ」には、近未来的な要素が多く含まれていました。クーボー大博士が小型の飛行船を運転したり、電気信号によって点滅する地図が登場したりします。あるいは火山を人工的に噴火させたり、肥料を空から巻いたりするのもSF的です。当時の宮沢賢治が、厳しい寒さの東北にて、農業を実践する上で、「できたらいいのに」と思っていた空想が、物語の中で描かれているのだと思います。

前述したような実用的な科学知識が用いられる一方で、必ず理想的な空想の要素も含まれています。あくまで童話性を無視しない作家としての側面があるからこそ、いつまでも義務教育の教科書で読み親しまれるのでしょう。

ちなみに、作中に登場する「オリザ」と呼ばれる作物は稲、「泥ばたけ」は水田に相当するものだと考えられています。

『銀河鉄道の夜』にも「天気輪」など作者の造語が登場することで有名ですが、本作でもあえて架空の物体を描くことで、SF的な要素を際立てていたのだと思います。 ただし、稲の学名は「オリザ・サティヴァ」であることから、やはり学問的な知見は抜かりないわけです。

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自己犠牲の美学

宮沢賢治と言えば「自己犠牲の美学」、殆ど代名詞と言っても過言ではないでしょう。

代表作『銀河鉄道の夜』で描かれる「ほんとうのさいわい」、それは他者を救うために自分の命を燃やす素晴らしさだと言われています。

ブドリは冷害によって両親を失い、妹とも生き別れになり、過酷な幼少時代を送ってきました。だからこそ、冷害の再来によって、自分の両親や、かつての自分のような境遇を、多くの人が強いられる事態を何としてでも食い止めたかったのでしょう。

人工的に火山を噴火させるには誰か1人が犠牲にならなければいけない、という設定はハリウッド映画の鉄則ですね。人類を救うために、一人の男が自らの命を燃やす、まるでアルマゲドンです。

ただし、宮沢賢治の「自己犠牲の美学」には、仏教的な焼身願望があったように思われます。

『銀河鉄道の夜』に登場する、宇宙で燃え続けるサソリの物語や、『よだかの星』の、空で燃え続けて星になる結末。宮沢賢治の作品には、「焼身」によって自らの存在を美しいものに昇華しようとする描写が多く記されています。『グスコーブドリの伝記』においても、ブドリは噴火の犠牲になったのですから焼身を想起させます。身を燃やすことで、他者を救い、美しい存在に昇華したのでしょう。

現世における罪を燃やすことによって、美しい存在に生まれ変わるという仏教的な自己犠牲。裕福な家庭に生まれた宮沢賢治だからこそ、そこはかない罪の意識みたいなものが存在したのかもしれません。少なからず、その素性が彼の描く自己犠牲の根底にあるように感じます。

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賢治の願望が反映された物語

宮沢賢治には「トシ」という妹がいました。宗教的な問題や賢治にとっての天職について、父親と対立することが多かった中で、妹のトシは賢治にとっての理解者の一人だったようです。

ところがトシは結核によって24歳の若さでこの世を去ってしまいます。賢治にとっては妹の死が大きな傷心となり、その後の彼の作風の変化に影響を与えたと言われています。

『グスコーブドリの伝記』では、ブドリは妹のネリと生き別れになりますが、火山局の技師として成功を収めた頃に再会を果たします。ネリは牧場の夫婦に拾われ、そこの長男と結婚して、子供を出産し母親になっていました。 

これは宮沢賢治のある種の願望が含まれているように思います。

幸福な家庭を築くネリは、結核で若くして死んだ実の妹トシが本来歩むはずだった未来の幻影ではないでしょうか。生き別れた妹と再会を果たす設定を挿入したのは、トシの魂を物語の中で生き続けさせようとした、そんな宮沢賢治の思いが感じられてなりません。

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ドラマ『宮沢賢治の食卓』

宮沢賢治の青春時代を描いたドラマ、『宮沢賢治の食卓』が2017年に放送された。

農学校の教師をしていた頃の、賢治の恋や、最愛の妹トシとの死別を、鈴木亮平主演で描いた感動ドラマである。(全5話)

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▼ちなみに原作は漫画(全2巻)です。

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