中島らも『今夜、すべてのバーで』あらすじ解説|アル中になった作者の実体験

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すべてのバーで 散文のわだち

中島らもの小説『今夜、すべてのバーで』は、最も人気がある傑作長編です。

連続飲酒で入院した作者の実体験を元に、アルコール依存症の狂気が描かれます。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者中島らも
発表時期  1991年(平成3年)  
ジャンル長編小説
ページ数312ページ
テーマアルコールの狂気
受賞吉川英治文学新人賞
日本冒険小説協会大賞

あらすじ

あらすじ

主人公の小島は、連続飲酒の末に倒れ入院することになった。目は黄色く濁り、肌は浅黒くなり、尿は真っ黒だ。このまま飲酒を続ければ肝硬変になって死ぬ。

元来小島は酒好きではなかった。精神の鎮痛を求める薬理的な飲み方を続けているのだ。会社員時代は日中しらふでいられた。しかし作家になり、職場のタイムカードから解放された途端、連続飲酒に陥った。

入院生活で断酒し、禁断症状に陥りつつも、目に見えて回復に向かう。一方で肉体的な活力を持て余し、退屈な入院生活に嫌気が差し、とうとう病院を抜け出してバーに行ってしまう。

そんな救いようのない小島には、自分の事務所で働く「さやか」が見舞いに来ている。彼女は父と兄をアルコールで失い、今まさに三人目の身近な人間を失おうとしているのだ。小島は彼女から資料を渡される。そこにはアルコールによって破滅した彼女の家族の悲惨な研究レポートが記されていた・・・

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個人的考察

個人的考察-(2)

中島らもの略歴

アルコールで破滅的な一生を送った中島らも。

本作『今夜、すべてのバーで』は、作者の実体験を描いた作品であるため、まずは中島らもの人物像を紹介する。

中島らもは1952年に兵庫県尼崎で生まれた。

学生時代は成績優秀で、名門校・灘中学に合格している。だが自分が勉強ロボットであることを自覚してからは、バンド活動や漫画創作に没頭するようになる。さらに当時盛んだったヒッピームーブメントに感化され、アルコール・煙草・薬物にのめり込んでいく。

高校卒業後は神戸のジャズ喫茶に通い、アルコールと薬物と思想談義に耽るフーテン生活を送っていたが、結婚を機に印刷会社で働き出す。

その後、フリーのコピーライターで食っていく決心をし、仕事を辞めるものの、暇になった彼の自宅は友人の溜まり場になり、またしても薬物遊びが再燃する。そのうちに、中島らもの家は「ドラッグが回ってくる」と噂になり、外国人バックパッカーが大勢押し寄せる。この頃の生活は、小説『バンド・オブ・ザ・ナイト』で描かれている。

その後、何度か入退社を繰り返した後に、「有限会社中島らも事務所」を開設し、作家活動を本格化させる。

関西人独特のユーモア溢れる作風で人気作家になるものの、一方でアルコールに溺れ、明らかに体調に異変が生じる。そしてアルコール性肝炎を診断され、50日の入院を余儀なくされる。この入院が、本作『今夜、すべてのバーで』の題材になっている。

また彼の逸話はアルコールに留まらない。ラジオにて「オランダで尻から煙が出るほど大麻を吸ってきた」と公言し、家宅捜索が入り、大麻とマジックマッシュールが発見され、執行猶予3年となった。

この薬物事件の翌年のことである。とあるライブに飛び入り参加した中島らもは、打ち上げで酒を飲み交わした後、飲食店の階段で転倒し、頭部を強打する。そして脳への重篤なダメージにより、意識が戻らなくなる。

かねてからの本人の意思により、人工呼吸器が停止され、52歳でこの世を去った。

まさにアルコールで破滅した男の一生である。

以上の略歴を踏まえて物語を考察する。

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なぜ主人公はアル中になったのか

主人公の小島は、連続飲酒の末に体調を崩して入院することになった。それは人生で初めて経験する長い断酒生活であり、同時にアル中の自分と真面目に向き合う期間でもあった。

なぜ自分はアル中になったのか。

この問題について、主人公はまず初めに、酒の好き嫌いとアル中は無関係だと明言する。むしろ晩酌で酒の味を楽しむ「酒が好きな人間」ほど、逆にアル中になりづらいようだ。

一方でアル中になるのは、酒を道具として飲む人間である。

■薬理的な飲酒

肉体と精神の鎮痛、麻痺、酩酊を渇望する者、そしてそれらの帰結として「死後の不感無覚」を夢見る者、彼等がアル中になる。

『今夜、すべてのバーで』

要するに、アル中になる人間は、不安や憂鬱や恐怖を麻痺させる薬理的な手段で飲酒するということだ。

初期症状として、眠る前に飲むようになる。やがて飲まずには眠れなくなる。次に週末だけ早い時間から飲むようになる。その時間はどんどん早まる。最終的に二日酔いを鎮めるために飲むようになれば、連続飲酒は目の前である。

不幸にも主人公は作家という会社に縛られない生活を送っていた。平日の昼間から飲酒しても他人に咎められないのだ。そして、小説が書けない、という葛藤が連続飲酒を後押しした。あるいは、創作のイマジネーションとして酒を欲した。それはある意味、芸術家の性である。

作中では多くの芸術家が引き合いに出され、彼らが決まってアルコールや薬物で死んだ事例が記される。芸術家は形のないものと対峙している。その途方もない葛藤に消耗した彼らは、最終的に薬理によって破滅する。

飲む人間は、どっちかが欠けてるんですよ。自分か、自分が向かい合ってる世界か。

『今夜、すべてのバーで』

確かにアル中の人間は、心に埋められない穴があるのかもしれない。そして自分はデリケートで傷つきやすくて、だからアルコールが必要なんだと開き直り、ますますアルコールに浸る。

こうした主人公の自己弁護は、医者に一蹴される。穴がない人間などいないし、だとすれば全人類がアル中になってしまうわけだ。

ではアル中になる人間とならない人間の違いは何なのか。

■人間の依存の仕組み

そもそも人間は依存せずには生きられない、と主人公は考える。それは例えば、アルコールであり、薬物であり、家族であり、恋愛であり、あるいは金や権力だ。

そして特定の対象に過度に依存しない人間は、依存の対象を分散させているのだろう。家族や恋人や趣味や嗜好品や地位名誉、それら多くのものに少しずつ依存することで、破滅的な依存を回避している。

一方でアル中になる人間は依存先が極端に少ない。対人関係が苦手だったり、家族と不仲だったり、趣味がなかったり・・・そうすると必然的に酒や薬物にのめり込んでしまうわけだ。

やはり主人公も、対人関係に問題があった。誰かと飲むよりも、一人で飲むことを好んだ。しかも酒が好きなわけではなかった。飲まなければ埋められない穴があったのだ。

こんな風に主人公(中島らも)は、自己分析が完璧にできていた。それでもアルコールでこの世を去った。一度アル中になったら、そこから逃げ出すのがいかに困難であるか、作者自身が人生を通して体現している。

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アル中を量産する政府への批判

主人公はアル中になった理由を、自己の内面から分析した。その一方で、外的要因についても分析している。

外的要因とは、アルコールと国家の関係性だ。

■アルコール大国・日本

日本政府は、酒税で年間二兆円も稼いでいる。街中の至る所で酒が販売されている状況を考えれば別に驚くべき事実ではない。日本は酒が買いやすい国なのだ。

あるいはテレビ局にとって酒の販売広告は巨大な収入源だ。そのターゲットは時代と共に拡大されている。かつての時代はアル中の大半は男だった。だがターゲットの拡大によって矛先は女性に向けられ、女性に人気の銘柄というイメージが普及し、キッチンドリンカーが増え、現在では病んだ若い女性が缶チューハイを片手に繁華街を浮浪する、というある種の流行が浸透している。

言い換えれば、国が主導で国民にアルコールを強いているのだ。おまけに、アル中になるのは自己責任というわけだ。

■国と企業のいたちごっこ

他にも深い闇が潜んでいる。それは国と企業のいたちごっこだ。

言うまでもなく酒には税金がかけられている。特にビールの税金は高額だ。すると企業は重税を免れるために、成分を変えた第二のビールを生み出す。国はそれにも税金をかける。すると企業は第三のビールを生み出す・・・といった具合にいたちごっこが続いているのだ。

逆に酎ハイの税金は極端に安い。ビール350mlあたりの税金は77円だが、酎ハイは度数10%未満であれば半分以下の28円だ。すると当然のことだが企業は9%の酎ハイを量産する。世の中に「安くてすぐ酔える」9%の缶チューハイが溢れているのはそういう理由だ。そして企業は原価を抑えるために、エチルアルコールに人工甘味料を加えた、粗悪な成分を使用する。口当たりがよく、ぐびぐび飲めるため、気づくと酩酊なんてことも珍しくない。

このように日本では粗悪なアルコールが蔓延している。そのため主人公はアルコールをリーガルドラッグと呼んでいる。主人公がアルコールを選んだのは、合法で安価に手に入るから、という単純な理由なのだ。

アル中を深刻に捉える一方で、販売をどんどん促進する、という矛盾を抱えた国家では、誰でもアル中になる可能性があるのだ。

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中島らもが抱く生への執着

こうした内的要因と外的要因に苛まれ、35歳で死ぬと予言された主人公だったが、最終的には断酒の意思をはっきり示す。彼を変えたのは、さやかという女性だった。

さやかは、かつての飲み仲間の妹である。兄はアル中になり交通事故で死んだ。父もアル中で癌になり死んだ。さやかにとっては、今まさに三人目の身近な人間をアルコールで失おうとしているのだ。

さやかに見せられた資料には、アル中で破滅した彼女の家庭の研究レポートが記されていた。暴力や精神病や離婚など、その内容は凄まじいものだった。少なからずそのレポートは主人公に影響を与えた。

だが根本的に主人公を変えたのは、さやかの哲学だと思う。それは、死んだ人間は卑怯だ、という生をとことん肯定する哲学だ。

死んだ人間は、思い出となって生きている人間を支配する。死者は二度と傷つけられることなく、恥ずかしい思いをすることなく、生きている人間の記憶に残り続ける。それが卑怯だと言うのだ。

中島らもは他の著書でも、死者について言及している。若くして死んだロックスターは、永久に若い頃の印象のまま人々の中で生き続ける。皺だらけになったり、髪が薄くなったり、そういうカッコ悪い印象を与えることなく、彼らは永久に美しいままなのだ。だが最後に中島らもは、老けて汚くなってダサくなって、それでも馬鹿みたいに生きている人間こそ美しい、と結論づけている。

つまり、さやかの哲学は、中島らもの死生観を投影させたものなのだろう。

生きることはカッコ悪いのかもしれないが、生きることは美しいのだ。

だからこそ主人公は最後に断酒の決意をしたのだろう。それは作者が自分の死生観に歩み寄ろうとする姿を映し出しているのかもしれない。

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