芥川龍之介『羅生門』あらすじ解説|黒澤明『羅生門』紹介

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羅生門 散文のわだち

芥川龍之介の小説『羅生門』は、大学時代に執筆された初期の傑作です。

今昔物語を題材に、人間の利己主義を描いた物語です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者  芥川龍之介(35歳没)  
発表時期1915年(大正4年)
ジャンル短編小説
ページ数9ページ
テーマ人間のエゴイズム
生きるための悪事は悪か?

あらすじ

あらすじ

時は平安末期。かつて貴族文化が栄えた京の街も、災害や飢饉で荒廃しきっています。羅生門は引取手のない死体を不法投棄する場所になっています。

ある夕暮れ時、1人の下人が羅生門で雨宿りをしていました。職を失い途方に暮れていたのです。手段を選んでいたら餓死する、されど生きるためには盗人にならなければいけない。彼は道徳問題で葛藤しています。今夜の寝床さえない下人は、羅生門の2階で夜を明かすことにします。梯子を上ると多くの死体が捨てられていました。そして、なんと生きた老婆が、死骸から髪の毛を抜き取っています。

憎悪を感じた下人は老婆を捕まえ、何をしているのか問い詰めます。すると老婆は、生活のために死体から毛を抜いてかつらを作ろうと思っていたと打ち明けます。死体の女も生前は悪事を働いていたので、そんな人間の髪を抜いても悪くない、というのが老婆の言い分でした。生きるために悪事を働く行為を正当化しているのです。

老婆の主張を聞いた下人は、無理やり老婆の着物を奪います。老婆の主張に則って、下人も生きるために悪事を働く決心がついたのでした。下人は老婆を蹴り飛ばし、羅生門を去って行きました。その後の下人の行方を知る者は誰もいません。

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個人的考察

個人的考察-(2)

羅生門は実在した?

『羅生門』は芥川が帝国大学在学中に執筆した、初期の代表作です。

全体主義の風潮が強かった当時の日本で、「人間のエゴ」に焦点を当てた彼の作品は、文学界において革新的でした。明治を代表する文豪・夏目漱石ですら、芥川龍之介の作品を絶賛し、「新しい時代の作家になる」と提言したほどです。その言葉通り、芥川龍之介は大正時代を代表する天才作家の1人になりました。

そんな本作『羅生門』は、今昔物語を題材にした作品で、実際に京都に実在した門が舞台になっています。

羅生門は、平安京の中央大通り朱雀大路の南端に実在しました。雨乞い・外交使節送迎など様々な儀式が行われた場所と言われています。

しかし現在は存在しません、816年の台風で倒壊し、一度は再建されますが、980年の暴風雨で再び倒壊し、その後は再建されていません。

今でも羅生門跡地として、公園の中に石碑が建設されていますので、興味がある方はぜひ観光に行ってみてください。

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他人の悪事は絶対的な悪になる

生きるために悪事を働くのは悪なのか?

下人は羅生門で雨宿りをしながら、こんな途方もないテーマについて考えていました。そして、生きるために悪事を働く老婆と出会うことで、自分も悪事を働く決心をします。

下人は当初、悪事を働くことに対して躊躇していました。「盗みは悪だ」という漠然とした道徳と、「盗みをしなければ自分は餓死する」という個人的な問題が相反していたからです。

つまり、「道徳を守れば自分は死ぬし、生きようとすれば道徳に逆らうことになる」という極論を強いられていたわけです。

そのため、下人はどちらを選ぶこともできずに羅生門の下で佇んでいました。

ところが、死人の髪の毛を抜く老婆を見た時に、下人は憎悪を感じます。

悪事を働く人間を目にして、悪を憎む気持ちが彼に芽生えたのです。しかし、下人も数分前には悪事を働くかどうか迷っていました。それどころか、いまだ結論を出せず、いつ悪事を働いても可笑しくない心持ちです。それなのに、他人が悪事を働いている様子を目にすると、自然と絶対的な正義感によって悪を憎んでしまうのです。

自分の悪事は「生きるために仕方ない」という建前で許され、他人の悪事は絶対的な悪として憎んでしまう、人間の利己的な心情が描かれています。

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老婆は下人の将来の姿!?

老婆の言い訳を聞いた下人は、生きるために悪事を働く選択をします。

老婆は「生前に悪事を働いていた女の死体だから、髪の毛を抜いても許される」と主張します。

「盗みは悪」ですが、「盗みをしなければ自分は死ぬ」状態です。それならば、悪事を働いている人間に対して悪事を働けば、自分は許されるという中間をついたような理論が主張されたわけです。

その理論に則れば、悪事を働く老婆に悪事を働けば下人も許されるということになります。自分の悪事を正当化すると同時に、他人の悪事をも正当化してしまう理論であるためです。その結果、老婆は下人に着物を盗まれてしまいました。

つまり、悪事の犠牲者のバトンが下人に渡されたわけです。下人は老婆の着物を盗んだことで、今後自分が誰かに悪事を企てられても文句が言えない立場になりました。このように、悪事の犠牲者のバトンは永遠に繋がれる因果なのです。

人間の道徳のフェンスは非常に低いものです。我々はフェンスの内側にいる時は向こう側の人間を批判するくせに、いざ自分が危機に直面すれば簡単にフェンスを飛び越えます。人間の正義感とは自分の都合の良いように解釈する行為でしょう。いざとなれば、道徳など何の役にも立たないという、リアリスト的な視点で、利己主義の醜さを表現した物語でした。

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「人間のエゴ」が革新的だった理由

芥川龍之介が生涯を通して表現したテーマは「人間のエゴ」でした。つまり「人間の醜さ」です。

例えば、『羅生門』の主人公である下人は、道徳に対する葛藤を抱えていました。悪事を働かなければ餓死してしまう、しかし悪事を働く決心もつかない、という不安定な状態です。しかし、死人の髪の毛を抜く老婆と出会ったことで、下人の考えは確固たるものになります。生きるために悪事を働く選択をするのです。

要するに、「自分さえよければいい」という人間のエゴが、下人の心理描写、ないしは老婆の主張によって秀逸に表現されています。

では、こういった人間のエゴに焦点を当てた作品が、なぜ当時は革新的だったのでしょうか?

芥川龍之介は大正時代を代表する天才作家です。前時代、明治の天才作家と言えば夏目漱石です。この2つの時代の間にどんな変化があったのでしょうか。それは二人の作家の特色を比較すれば見えてくると思います。

まず、夏目漱石の作品の特徴は、「明治」という時代背景に焦点を当てている点にあります。要するに、前時代的な不自由さに葛藤する人間が描かれていることが多いです。全体主義の風潮の中で、個人主義的な考えが受け入れられない窮屈さが彼の一貫したテーマです。

例えば、「こころ」や「三四郎」では、全体主義的な風潮には受け入れられない恋愛感が描かれていました。あるいは「こころ」に関しては、乃木希典の自殺や明治時代の終焉などの喪失感も裏テーマとして描かれています。

簡潔にまとめるなら、夏目漱石の作品は、時代や周囲の人間など外的要因によって、人間が葛藤するという描かれ方なのです。尚且つ、葛藤した結果、外的要因に敗北する傾向にあります。「こころ」の先生は自殺します。「三四郎」の恋は叶いません。

一方で、芥川龍之介の作品は、外的要因が一切無視されています。

あくまで自己の内部の葛藤のみに焦点が当てられ、最後にはエゴを貫き通します。まさに、「羅生門」の下人は、「生きるために悪事を働くか」という完全に個人的な問題と葛藤しており、最終的には「自分がよければいい」という結論に至ります。

このように、芥川龍之介の作品は、人間がいかに利己的であるか、という個人主義の果てのテーマが前提にあります。芥川龍之介は前時代の作家よりもさらに個人の内側に踏み込んだのです。個人の内面を奥深くまで追求し、人間の本質的な醜さを露呈するという表現方法が、前時代にはなかった新しい作風として評価されたのです。そこには、明治から大正へ移る過程で、全体主義よりも個人主義的な風潮が強くなった時代背景が関係しているのだと思います。

こういった個人主義の風潮は、やがて芥川龍之介の中期の傑作『地獄変』に見られる、「芸術至上主義」的な考えへと発展します。

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映画『羅生門』がおすすめ

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