筒井康隆『旅のラゴス』あらすじ解説|人生をかけた旅の目的とは

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旅のラゴス 散文のわだち

筒井康隆の小説『旅のラゴス』は、文明崩壊後の世界を舞台にした連作長編小説です。

他の実験的なSF小説に比べて、物語に特化して読みやすいので、初心者にもおすすめです。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者筒井康隆
発表時期  1986年(昭和61年)  
ジャンル連作長編小説
SF小説
ページ数258ページ
テーマ旅の目的とは
人生の意義
文明社会への問いかけ

あらすじ

あらすじ

20代のラゴスは旅の道中でムルダム族と遭遇し、一時的に彼らと旅を共にする。そしてムルダム族の少女デーデに恋心を抱く。しかしラゴスには本来の旅の目的があるため、デーデにいつか再会することを約束し、また旅に出るのだった。

長い旅の中でラゴスは宇宙船を発見する。それで判明するのが、この世界は、かつての高度な文明が原始に逆戻りした、文明崩壊後の世界なのだ。そしてラゴスの旅の目的は、先人たちの高度な知識を学ぶことだった。

ラゴスは先人が遺した書物を読み漁り、その知識を村人に伝授することで、村は急激な発展を遂げ、いつしかラゴスは王様に祭り上げられる。しかしラゴスは一処に安住できる性格ではなく、また旅の欲求が芽生え王国を逃げ出す。そして懐かしいムルダム族の村を数十年ぶりに再訪するが、その頃には再会を約束したデーデの姿はなかった。

諦めて帰郷したラゴスは既に50代だった。ある日ラゴスは一枚の絵を発見する。伝説上の人物「氷の女王」を描いた作品で、それがデーデそっくりだったのだ。もう一度デーデに会いたいと願うラゴスは、「氷の女王」を探す人生最後の旅に出かけるのだった。

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個人的考察

個人的考察-(2)

不定期掲載の連作長編

本作『旅のラゴス』は、1984年から1986年にかけて、雑誌に不定期で連載された連作長編小説である。

連作長編とは、独立した各章の物語を繋げて、1つの長編小説に構成したものだ。実際に『旅のラゴス』は、旅の中で訪れた村々での奇怪な出来事が、独立した物語として連なっている。しかし中盤以降からは、これまでの独立した物語を踏襲し、1つの大きな筋を持って進行していく。ラゴスの旅の目的や、この世界の仕組みが明かされていくわけだ。

一応SF形式の物語ではあるが、他作品に比べると実験的な要素が控えめで、とにかく物語が面白い作品である。非常に読みやすいので、初心者におすすめの1冊だ。

ちなみに本作『旅のラゴス』は、2014年頃から10万冊が増刷される謎のヒットを記録した。一説では、スタジオジブリによる映画化の依頼を筒井康隆が断った、というデマがツイッターで流れ、その影響で売上部数が伸びたと言われている。

そんな『旅のラゴス』最大の特徴は、文庫本で250ページほどの短い物語だが、その間に40年くらい時間が経過するということだ。その長い時間をラゴスはひたすら旅に費やした。

人生をかけた旅の最後に、ラゴスは一体何を見出したのか?

次章より詳しく考察していく。

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文明社会に対する問いかけ

旅の中で訪れた村々での独立したエピソードが続き、中盤にてようやくラゴスの旅の目的と、彼が旅をする世界の構造が明かされる。

ラゴスが旅をする世界は原始的な世界だが、しかしそれは、かつて高度に発展した文明が再び原始的な状態に戻った、いわゆる文明崩壊後の世界だった。

先人たちは秀でた教養で文明を発達させたが、その教養は機械ありきで実を結ぶものだった。そのため機械が壊れた途端に彼らの文明は崩壊の一途を辿り、わずか数年で原始に逆戻りしたというわけだ。そして2000年以上が経った世界で、ラゴスは先人が遺した書物から知識を得るために、旅を続けていたのだ。

ラゴスは10年以上かけて書物を読み漁り、その知識を人々に伝えることで、村は急激な発展を遂げ、いつしか王国になっていた。しかし急激な発展が必ずしも幸福とは限らない、という問題が生じる。

例えば、技術が発展して特産物を生み出せば、それを奪おうとする外部の人間が現れ、それを防ぐためには軍事力が必要になる。そうして人類は争いの歴史は甲斐なく繰り返すのだ。

また国内では格差が大きくなり、政治的な急進性が増すことで、改革を求める不穏な言動が見えるようになる。こうした文明社会のしがらみに巻き込まれていくわけだ。

せっかちな改革は歴史の逆行につながること、いかなる場合でもテロや戦闘による革命は避けるべきであり、それは新たな流血革命を呼ぶだけである

『旅のラゴス/筒井康隆』

もうひとつラゴスが懸念していたのは、最先端の科学技術が人類を幸福にするとは限らないということだ。

最先端の科学技術が一般庶民の生活感情と遊離するほどまでに進んだ社会は、必ず何らかの形で不幸に見舞われているのだ。

『旅のラゴス/筒井康隆』

例えば現代社会においても、デジタルにおける最先端の技術が、庶民の生活感情を無視して進化し続けている。庶民の生活を快適にするはずの科学が、いつしか庶民に目まぐるしい変化を要求するようになり、その変化に着いていけない者は切り捨てられる、過剰な実力主義社会になっているのだ。

それが果たして幸福か、という問題をラゴスは問うているのだろう。

その正当性を学ぶのは常に歴史からである。いかにして国家が滅び、いかにして文明が庶民を苦しめるか。良くも悪くもラゴスが生きる世界は、文明崩壊後の世界である。そのため先人たちの失敗を歴史から学ぶことができるのだ。

ラゴスは歴史を、全ての学問の基礎であり、最初の学問だと主張する。文明の実利は常に歴史と照らし合わせる必要があるし、庶民の生活感情に伴った構築が鉄則である。それを無視した過剰な資本主義社会では、必ず何らかの形で不幸に見舞われる。

本作『旅のラゴス』には、そういった文明人に対するメッセージ、警笛が込められているのかも知れない。

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なぜラゴスは旅を続けるのか

ひとつの村の文明を発達させ、人々から王様と祭り上げられても、あるいは偶然知り合った女性と何年間も同棲しても、ラゴスは一処に留まることができず、いずれ旅立ってしまう。

どうしてラゴスは平穏や安住を放棄してまで、旅を続けるのか?

その答えはやがて、「どう生きたいのか?」という問いかけと重なっていく。

そもそもひとっ処にとどまっていられる人間ではなかった。だから旅を続けた。それ故にこそいろんな経験を重ねた。旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生と同じようにね

『旅のラゴス/筒井康隆』

「目的はなんであってもよかった」とは、決して投げやりな思いではなく、「自分の望んだものであればなんでもいい」という信念の表れだろう。その証拠にラゴスはこうも言っている。

人間はただその一生のうち、自分に最も適していて最もやりたいと思うことに可能な限りの時間を充てさえすればそれでいい筈だ。

『旅のラゴス/筒井康隆』

これはラゴスが、先人の残した書物を読むのに10年以上かけた場面の台詞だ。そう、ラゴスは自分の興味のためなら、世間から離れて何十年でも時間を費やす男なのだ。

ラゴスが書物から知識を学んだのは、決して誰かの役に立つためではなく、自身の探究心のためであった。たとえその道中に、盗賊に襲われたり、人買いに捕まる危険があっても、あるいは美しい恋の感情に胸が一杯になっても、彼は探究心を優先したのだ。

その純粋な欲求に正解も間違いもなく、望んだ「何か」に費やした時間こそが、人生に意味を与えるのだろう。その「何か」は、なんであっても構わないのだ。それを望むのであれば。

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氷の女王を探す最後の旅

あらゆる郷愁を置き去りにして、旅を続けたラゴスだが、唯一執着したものがあった。それは物語の最初に出会い恋心を抱いたムルダム族の少女デーデある。

いずれ再会すると約束したものの、実際にラゴスがムルダム族の村を再訪したのは、20年以上もあとのことだった。まさか独身を貫いて自分を待っているわけがない。

ラゴスの予想は的中した。デーデは村の暴れ者ヨーマと一緒に村を去っていたのだ。村人たちはヨーマに愛想を尽かし、しかしデーデだけが彼を哀れでいた。その慈悲の心から、デーデは彼と一緒に村を去ったのだった。

この事実に胸を痛めたラゴスは、諦めて故郷の村に帰り、数年間は教員の仕事を請け負っていた。ところが書物を読み漁る中で、ある画家が描いた、伝説上の人物「氷の女王」の絵を発見し、それがデーデであることに気づく。もう一度デーデに会いたい気持ちが強くなり、60代になったラゴスは人生最後の旅を決意する。

この愛するデーデを探す最後の旅にこそ、本作の最重要テーマ、人生を費やしたラゴスの旅の本質的な意義が詰まっていると思う。

ラゴスは自分の探究心のままに旅を続けた。その純粋な欲求に正解も間違いもなく、望んだものであれば、それは何でも構わないのだ。例えそれが、存在しないものであっても。

本当にデーデが存在するかは判らない。むしろ伝説上の人物となった彼女は、伝説であるゆえに存在しない可能性の方が大きいのだ。それでもラゴスは旅をする。ある意味それは、形而上学的なものを追求する宗教的な旅とも言える。

それは無意味であろうか、滑稽であろうか、徒労であろうか。しかし、存在しないものであろうと、それを望むのであれば、それ自体に意味があるだろう。

氷の女王を探して最北端の森にやって来たラゴスは、そこでドネルという老人と出会う。それはデーデと共に村を去った暴れ者ヨーマを彷彿とさせる。ドネルは言う、この先には人間は1人もいないと。そして、これ以上先に進むと死ぬだろうと。

だがラゴスは言う。

旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生と同じようにね

『旅のラゴス/筒井康隆』

するとドネルは最後にはラゴスの意志を尊重して見送ってくれる。

あんたはきっと氷の女王に逢えるだろうよ。氷の女王は美しいひとに違いねえ。そしてそこは、きっと素晴らしいところだよ。

『旅のラゴス/筒井康隆』

「そこ」とは一体どこであろうか?

もしかしてデーデはとっくに・・・

ともすれば二人が再会する場所とは・・・

これ以上の深読みは控えることにしよう。

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