太宰治『親友交歓』あらすじ解説|有名になれば僻まれる

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親友交歓 散文のわだち

太宰治の小説『親友交歓』は、作品集「ヴィヨンの妻」収録の短編作品です。

実家津軽に帰省していた時期に起きた、同級生とのトラブルがユーモラスに描かれています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者太宰治(38歳没)
発表時期  1946年(昭和21年)  
ジャンル短編小説
ページ数26ページ
テーマ理不尽
共産主義
有名になると僻まれる
収録作品集『ヴィヨンの妻』

あらすじ

あらすじ

「忘れ難いやりきれない出来事である」

その出来事とは、津軽に帰省していた時期に起きた、同級生とのトラブルだった。

ある日、同級生の平田が訪ねて来る。彼は妙に馴れ馴れしい態度だったが、主人公には彼との学生時代の記憶がなかった。全く親交がなかったのだ。

平田は同窓会の企画相談という名目で、主人公の家の高級なウィスキーをたらふく飲む。酔っぱらった平田は散々自慢話を垂れ流し、終いに主人公の妻にまでちょっかいを出す。それでも主人公は愛想を欠かさなかった。

ようやく帰る時分になって、平田は最後の1本になったウィスキーを容赦なく持ち出す。そして別れ際に平田は、「威張るな!」と主人公に激しく囁くのだった。

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個人的考察

個人的考察-(2)

平田の悪態の真意

何とも理不尽な話だと思うでしょう。主人公に感情移入してしまい、平田の厚かましさに腹立たしくもなります。

平田はなぜここまで主人公に対して悪態を吐いたのでしょうか?

考えられる推測としては、当時の共産主義的な時代背景があげられます。当時は共産主義と保守主義の論争が激しい時代だったようです。そのため、太宰治も本作の序盤で下記のような弁解を綴っています。

私はこの手記に於いて、一人の農夫の姿を描き、かれの嫌悪すべき性格を世人に披露し、以て階級闘争に於ける所謂『反動勢力』に応援せんとする意図などは、全く無いのだという事を、ばからしいけど、念のために言い添えて置きたい。」

『親友交歓/太宰治』

共産主義者は資本家や地主を攻撃して、労働者や農夫を美化する傾向があります。ともすれば、太宰治が一人の農夫について嫌悪的な物語を執筆するのは、反共産主義的な思想に勘違いされる恐れがあります。そのため、太宰治は事前に「反動勢力」に加担する意図は無いと明言しているのです。

平田に関しては、農夫そのものです。だからこそ、彼は共産主義的な風潮の中で、資本家や地主に敵対心を持っていたことが予想されます。一方主人公、つまり太宰治の両親は大地主であるため、少なからず平田にとって敵対する存在であったのでしょう。

平田は自分が農夫であることに誇りを持ちつつ、主人公に付け込もうとします。政治家である主人公の兄に投票したのは農夫の人情のためだと訴える場面です。貧しい農夫が金持ちの弱みに付け込んで、間接的に脅迫しようとする意図が垣間見れます。おそらく、主人公の家から帰った平田は農夫の仲間たちに、「奴の家で大暴れして酒を引ったくってやった」くらいの自慢話はするでしょう。

太宰治は決して、このような農夫の醜い性格を非難していたわけではないでしょう。もちろん、平田という人間に苛立っていた部分はあると思います。しかし太宰治は、父親の生前は実家とはほとんど無縁でした。それどころか太宰治は左翼活動に身を据えていた過去があります。思想的にも反動勢力に加担するはずがありません。

おそらく、父親が大地主だったために、無関係な自分まで悪態を吐かれることのやりきれなさ、それを訴えていたのでしょう。

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「木村重成と茶坊主」「神崎与五郎と馬子」「韓信の股くぐり」

作中に、「木村重成と茶坊主」「神崎与五郎と馬子」「韓信の股くぐり」の例えが挙げられ、これらは自分のモラルに反するという文章が綴られています。おそらく、何の話をしているのか、内容を見失った方も多いのではないでしょうか。

「木村重成」は、大坂の陣で有名な豊臣家の武将です。彼は茶坊主(武家で茶道を司る役)に侮辱されたが、それをスルーしたという逸話があります。

「神崎与五郎」は、江戸時代の武士です。彼は馬子(馬を使用して武士に仕える人)に侮辱されたが、それをスルーしたという逸話があります。

韓信は古代中国の武将で、ヤクザに絡まれ、股くぐりをしろと侮辱されたが、それを受け入れたという逸話があります。

これら3人は、「侮辱を受け入れて後に大活躍する」という忍耐力を象徴する存在です。

主人公は、これら3名のスルー行為には、いやらしい優越感が含まれていると思っていました。周囲の人間の同情を買って、自らの境遇を優勢に変えようとする下品な精神が感じられるからです。

しかし、暴君平田を目の前にして、面倒な相手はスルーするのが最善だと考えが変わりました。途端に主人公は例の3名に同情します。自分が彼らと同じ境遇に遭ったことで、侮辱を無視する時には、とてつもない孤独が伴うことを知ったからです。成功者とは孤独に打ち勝つことができる人間だけに与えられた栄光なのでしょう。

平田の無遠慮さに直面した時の主人公の心情を、古人に例えて表現していたようです。

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本当は農夫を非難していた!?

当ブログの筆者は、この「親友交歓」という作品において、太宰治の陰湿な攻撃性を感じます。

作中には何度も、弁解や前置きのような言葉が設けられます。つまり、反動勢力に加担して農夫を非難しているわけではないとか、平田という人間の良い悪いを判断しているわけではなく、新しいタイプの人間である事を読者に提供しているとか、読者の判断に委ねるとか、その類の建前が過剰に記されています。

それらは、要するに下記のためでしょう。

「ちかごろ甚だ頭の悪い、無感覚の者が、しきりに何やら古くさい事を言って騒ぎ立て、とんでもない結論を投げてよこしたりするので、その頭の古くて悪い(いや、かえって利口なのかも知れないが)その人たちのために一言、言わでもの説明を附け加えさせていただく次第なのだ。」

『親友交歓/太宰治』

何か自分の考えを強く主張すれば、世間に批判されるのは今に始まったことではないのです。

頭の悪い人間ばかりの世間で、太宰治がわざと弁解や前置きを過剰に用意したのは一種の皮肉でしょう。

まさに先程考察した、侮辱を受け入れて後に活躍した古人たちに通づる手段です。世間の同情を買って読者を味方につけるという下品な手段によって、太宰治は平田を攻撃していたのではないでしょうか。

私には太宰治が容赦のある人間には思えません。自分を非難する者は、いかなる理由があろうと文学を通して仕返しするような男のはずです。

タイトルに「親友」を用いたのも、彼の最大限の皮肉に思てなりません。

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人間失格 太宰治と3人の女たち』は2019年に劇場公開され話題になった。

太宰が「人間失格」を完成させ、愛人の富栄と心中するまでの、怒涛の人生が描かれる。

監督は蜷川実花で、二階堂ふみ・沢尻エリカの大胆な濡れ場が魅力的である。

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