太宰治の『親友交歓』あらすじ考察 有名になれば僻まれる!?

親友交歓 散文のわだち
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太宰治の小説『親友交歓』をご存知ですか?

1946年に発表された短編小説で、作品集『ヴィヨンの妻』に収録されています。

実際に太宰治の身の上に起こった出来事が綴られているため、随筆や私小説の要素がかなり強くなっています。「先日こんな出来事がありましてんけど、読者の皆さんはどう思いますー?」みたいな形式です。

終戦直前から約1年ほど、太宰治は実家の青森県に疎開していました。疎開中、ある程度作家として有名になっていた太宰は、学生時代のクラスメイトたちの訪問を頻繁に受けていたようです。そのクラスメイトの内の1人について描かれたのが本作です。

太宰治はいつになく冷静な態度で、読者にクラスメイトの言動をどう思うかと訴えてきます。果たして、彼はどんな”親友”で、太宰治は腹の中で何を考えていたのでしょうか?

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『親友交歓』の作品概要

作者太宰治
発表時期1946年(昭和21年)
ジャンル短編小説、随筆、私小説
テーマ理不尽、共産主義
有名になると僻まれる

※Kindleでは無料で読めます。

『親友交歓』の300文字あらすじ

津軽の実家に疎開してきた主人公の元に、「平田」という同窓生が尋ねてきます。

平田は妙に馴れ馴れしく接してくるのですが、主人公には彼との学生時代の記憶がほとんどありません。実際に、仲が良かったわけではないのです。

平田は、同窓会を開催するにあたっての相談という名目で、人の家の高級なウィスキーをたらふく飲みます。酔っぱらった平田は散々自慢話を垂れ流し、挙句、妻にまで絡んで、家を掻き乱します。

帰りには最後の1本である高級なウィスキーのボトルを容赦無く持っていきます。玄関まで彼を送り、いよいよ別れ際となっと時に、平田は主人公の耳元で「威張るな!」と激しく囁くのでした。

『親友交歓』のあらすじを詳しく

①平田の訪問

大した出来事ではないが、死ぬまで忘れ難いやりきれない出来事である」という前置きから物語は始まります。

なんでも、ある男と2人で酒を飲み、表面上は和気藹々と過ごしただけの単調な出来事のようです。ところが、その男が原因で主人公は内心蟠りを感じています。今まで東京で最下等の人間と酒を飲み交わした経験はあれど、その男の悪態はズバ抜けていたようなのです。

果たして、その男は一体どんな「親友」だったのでしょうか?

男の名前は「平田」と言い、小学校の同級生でした。地元に疎開して以来、旧友が訪ねてくることがあり、彼もまた同じように家を訪ねてきたのです。主人公は微かに見覚えがあったため、社交辞令として彼を家に上げます。

自分たちはかつてよく喧嘩をした仲だと、平田は思い出話に花を咲かせます。その時にできた傷だと言って、彼は手の甲を見せて来ますが、それらしい傷は見当たりません。それどころか、主人公には彼とケンカをした記憶すらないのです。

奇妙な違和感を抱きながらも、主人公は曖昧に微笑して、彼の話に傾聴していました。

どうやら平田は、同窓会を計画しているようです。そして、同窓会のために酒を集めるのを手伝ってほしいと相談されます。主人公は紙幣を取り出し、先に酒代を少し渡そうとすると、平田は断ります。なんでも、今日は親友の顔を見に来ただけだと、彼は人情味のあるセリフを口にするのでした。

②酒をせびる傲慢さ

人情味がある男かと思えば、突然平田は酒をせびり始めます。

急に訪ねて来て、「酒を飲ませろ」と言う平田の厚かましさには流石に驚きましたが、主人公は断るのも気後れなので、仕方なく彼を書斎に案内します。戦後当時かなり高級であった角瓶のウィスキーに目をつけられ、主人公は渋々飲ませてやります。

すると平田は、主人公の妻にお酌をさせろと遠慮なく好き勝手なことを言い始めます。妻はあまり愛想が良いタイプではなかったので、平田に会わせるのは気が重く、今は不在だと嘘をつきます。

茶飲み茶碗にウィスキーを注いでやると、平田は何の風情もなく、ぐいぐい飲みます。そして間も無く、新しい角瓶を開ける羽目になりました。主人公は流石に忌々しくなります。

自分はケチな方ではないのですが、入手困難な高級ウィスキーを、こうも無遠慮に飲まれると流石に我慢なりません。

③下品な自慢話を聞かされ

酔っぱらった平田に聞かされる自慢話は、チャチな武勇伝ばかりで、全く共感ができませんでした。

「俺の東京時代は」というセリフに始まる、かつて女遊びをしていた武勇伝を散々聞かされるのです。

それだけならまだしも、自分も平田も同類の人間であるかのような調子で話されるのが、主人公は鼻につきました。確かに主人公は女性問題で何度もトラブルを起こしました。しかし、色男ぶって、やにさがっていたわけではないので、平田の偏見にうんざりするのでした。

もちろん女性トラブルに関しては散々批評家たちにみくびられてきたので、受け流すことは慣れています。しかし、平田にはこの話題を相手の弱みにして、付け込もうとしている様子があるので、主人公はあさましく感じられたのでした。

続いて、話題は政治に移ります。自分たち百姓は政治のことは知らなくても、人情さえあればいいと、妙なことを言い始めます。その言葉の裏には、政治家である主人公の兄に人情で投票を入れたのだから、酒くらい飲ませろという下心が潜んでいました。

百姓の人情という美談を建前に、相手に付け込もうとしているだけなのです。平田は地主や政治家を非難して、百姓である自分を美化しているに過ぎないのです。




④妻に悪態を吐く平田

次第に、平田は妻にお酌をさせろとしつこく要求して来ます。

仕方なく主人公は妻を紹介しました。すると、平田は妻の前でもろくでもない下卑た自慢話を続けるのでした。

さらには、配給で貰った毛布をよこせと言ってきます。主人公たちは決して裕福なわけではなく、むしろ戦争で家を失い貧しい生活を送っています。戦後の日本で裕福な生活をしている人間などいるわけがありません。それなのに、実家の立派な家に住んでいるというだけで、平田はすこぶる無遠慮なのです。

主人公は、口論になった際に周囲の人間に色目を使って、相手に上部で詫びる行為は卑怯だと思っていました。周囲の人間を味方につけて、相手を陥れるのは下品な手段だからです。しかし、平田を目の前にして、自分の考え方は変わりました。卑怯だろうが何だろうが、危険な相手からは逃れるべきなのです。この親友を怒らせ、家の中で暴れられては困るので、何とか彼が機嫌を損ねないように努めなければいけません。

酷く酔っぱらった平田は、妻に度が過ぎたちょっかいを出します。愛想のない妻は、子供が泣いていることを理由に奥に下がってしまいます。途端に平田は怒り、立ち上がって寝室に勝手に入ろうとしますが、主人公は慌てて彼をなだめて座らせます。

⑤帰り際に一言

なんとか怒りをなだめることに成功し、落ち着いた平田でした。

急に平田は歌を歌い始めます。しかし、歌の後半を忘れたため帰ると言い出しました。気分屋もいいところです。とは言え、帰ってくれるに越したことはないので、当然主人公は引き止めませんでした。

覚悟していた通り、平田はウィスキーを持って帰ろうとします。飲み刺しのボトルを渡そうとすると、「押し入れにもう1本新しいボトルがあるだろ」と問い詰められます。仕方なく最後の角瓶を彼に渡しました。悔しさのあまり、ウィスキーの値段を打ち明けてやろうかと思いますが、さすがにそのような下品な真似は主人公にはできませんでした。

主人公には小学校時代の同級生に5、6人の親友はいましたが、平田との思い出はほとんどありません。それでも半日の間、彼に厚遇を欠かしませんでした。主人公は、ほとんど強姦されたような気持ちでした。

玄関まで送り、いよいよ別れ際になって、平田は主人公の耳元で、烈しく囁きました。

威張るな!

そのセリフを以て、物語は幕を閉じます。




『親友交歓』の個人的考察

平田の悪態の真意

何とも理不尽な話だと思うでしょう。主人公に感情移入してしまい、平田の厚かましさに腹立たしくもなります。

平田はなぜここまで主人公に対して悪態を吐いたのでしょうか?

考えられる推測としては、当時の共産主義的な時代背景があげられます。当時は共産主義と保守主義の論争が激しい時代だったようです。そのため、太宰治も本作の序盤で下記のような弁解を綴っています。

私はこの手記に於いて、一人の農夫の姿を描き、かれの嫌悪すべき性格を世人に披露し、以て階級闘争に於ける所謂『反動勢力』に応援せんとする意図などは、全く無いのだという事を、ばからしいけど、念のために言い添えて置きたい。」

『親友交歓/太宰治』

共産主義者は資本家や地主を攻撃して、労働者や農夫を美化する傾向があります。ともすれば、太宰治が一人の農夫について嫌悪的な物語を執筆するのは、反共産主義的な思想に勘違いされる恐れがあります。そのため、太宰治は事前に「反動勢力」に加担する意図は無いと明言しているのです。

平田に関しては、農夫そのものです。だからこそ、彼は共産主義的な風潮の中で、資本家や地主に敵対心を持っていたことが予想されます。一方主人公、つまり太宰治の両親は大地主であるため、少なからず平田にとって敵対する存在であったのでしょう。

平田は自分が農夫であることに誇りを持ちつつ、主人公に付け込もうとします。政治家である主人公の兄に投票したのは農夫の人情のためだと訴える場面です。貧しい農夫が金持ちの弱みに付け込んで、間接的に脅迫しようとする意図が垣間見れます。おそらく、主人公の家から帰った平田は農夫の仲間たちに、「奴の家で大暴れして酒を引ったくってやった」くらいの自慢話はするでしょう。

太宰治は決して、このような農夫の醜い性格を非難していたわけではないでしょう。もちろん、平田という人間に苛立っていた部分はあると思います。しかし太宰治は、父親の生前は実家とはほとんど無縁でした。それどころか太宰治は左翼活動に身を据えていた過去があります。思想的にも反動勢力に加担するはずがありません。

おそらく、父親が大地主だったために、無関係な自分まで悪態を吐かれることのやりきれなさ、それを訴えていたのでしょう。

「木村重成と茶坊主」「神崎与五郎と馬子」「韓信の股くぐり」

作中に、「木村重成と茶坊主」「神崎与五郎と馬子」「韓信の股くぐり」の例えが挙げられ、これらは自分のモラルに反するという文章が綴られています。おそらく、何の話をしているのか、内容を見失った方も多いのではないでしょうか。

「木村重成」は、大坂の陣で有名な豊臣家の武将です。彼は茶坊主(武家で茶道を司る役)に侮辱されたが、それをスルーしたという逸話があります。

「神崎与五郎」は、江戸時代の武士です。彼は馬子(馬を使用して武士に仕える人)に侮辱されたが、それをスルーしたという逸話があります。

韓信は古代中国の武将で、ヤクザに絡まれ、股くぐりをしろと侮辱されたが、それを受け入れたという逸話があります。

これら3人は、「侮辱を受け入れて後に大活躍する」という忍耐力を象徴する存在です。

主人公は、これら3名のスルー行為には、いやらしい優越感が含まれていると思っていました。周囲の人間の同情を買って、自らの境遇を優勢に変えようとする下品な精神が感じられるからです。

しかし、暴君平田を目の前にして、面倒な相手はスルーするのが最善だと考えが変わりました。途端に主人公は例の3名に同情します。自分が彼らと同じ境遇に遭ったことで、侮辱を無視する時には、とてつもない孤独が伴うことを知ったからです。成功者とは孤独に打ち勝つことができる人間だけに与えられた栄光なのでしょう。

平田の無遠慮さに直面した時の主人公の心情を、古人に例えて表現していたようです。

本当は農夫を非難していた!?

当ブログの筆者は、この「親友交歓」という作品において、太宰治の陰湿な攻撃性を感じます。

作中には何度も、弁解や前置きのような言葉が設けられます。つまり、反動勢力に加担して農夫を非難しているわけではないとか、平田という人間の良い悪いを判断しているわけではなく、新しいタイプの人間である事を読者に提供しているとか、読者の判断に委ねるとか、その類の建前が過剰に記されています。

それらは、要するに下記のためでしょう。

「ちかごろ甚だ頭の悪い、無感覚の者が、しきりに何やら古くさい事を言って騒ぎ立て、とんでもない結論を投げてよこしたりするので、その頭の古くて悪い(いや、かえって利口なのかも知れないが)その人たちのために一言、言わでもの説明を附け加えさせていただく次第なのだ。」

『親友交歓/太宰治』

何か自分の考えを強く主張すれば、世間に批判されるのは今に始まったことではないのです。

頭の悪い人間ばかりの世間で、太宰治がわざと弁解や前置きを過剰に用意したのは一種の皮肉でしょう。

まさに先程考察した、侮辱を受け入れて後に活躍した古人たちに通づる手段です。世間の同情を買って読者を味方につけるという下品な手段によって、太宰治は平田を攻撃していたのではないでしょうか。

私には太宰治が容赦のある人間には思えません。自分を非難する者は、いかなる理由があろうと文学を通して仕返しするような男のはずです。

タイトルに「親友」を用いたのも、彼の最大限の皮肉に思てなりません。

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満島ひかり、森山未來など個性的な俳優陣が太宰治の世界観を演じきっています。実写だけではなくアニメやCGなど様々な手法で、代表的な短編小説が楽しめます。個人的に非常に面白かったのでおすすめです。

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太宰治の女性関係に特化した映像作品であれば、小栗旬主演の『人間失格 太宰治と3人の女たち』がおすすめです。

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当ブログの筆者は元々アンチ電子書籍でした。しかし紙の本より価格が安く、場所を取らず持ち運びが便利で、紙媒体と大差ない視覚感で読むことが出来る「Kindle」は、思わず買ってしまいました・・・

今ではもう手放せない状態です。

「Kindle」の魅力については下の記事にて紹介していますので、アンチ電子書籍の人は騙されたと思って読んでみてください。

以上、太宰治の短編小説『親友交歓』のあらすじと考察の説明を終了します。

長い間お付き合いありがとうございました。この文章が気に入った方は、是非シェアをお願いいたします。




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