村上龍『オーディション』あらすじ解説|三池崇史の映画化で世界中が震撼

※ 当サイトではアフィリエイト広告を利用しています
※ アフィリエイト広告を利用しています
オーディション 散文のわだち

村上龍の『オーディション』は、三池監督の映画化で話題になったサイコホラー小説です。

世界中の映画祭で途中退出者が続出し、病院に搬送された者もいました。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

スポンサーリンク

作品概要

作者村上龍
発表時期  1999年(平成11年)  
ジャンル長編小説
サイコホラー
ページ数236ページ
テーマ虐待によるトラウマ
愛情と狂気
関連三池監督が映画化(2000年)

あらすじ

あらすじ

ビデオ制作会社を経営する青山は、7年前に妻を亡くし、息子と二人で暮らしている。ある日息子に再婚を勧められ、青山は本気で考えるようになる。

友人の提案で、映画のオーディションを開催し、応募者から再婚相手を探すことになる。応募書類をチェックする青山は、直感的に山﨑麻美という女性に興味を持つ。実際に麻美と対面し、一気に魅了された青山は、数回のデートを重ねる。

一方で不可解な情報が浮上する。かつて麻美がいた事務所の担当者が死んでいること。彼女の家族の消息が不明なこと。

旅行先で初めて肉体関係を交わした後、麻美は突然姿をくらます。それ以降音沙汰がなかった彼女は、ある日突然、青山の部屋に姿を現す。彼女は青山に麻酔薬を飲ませ、足を切り落とそうとする・・・

スポンサーリンク

オーディブル30日間無料

Amazonの聴く読書オーディブルなら、12万冊以上の作品が聴き放題。

近代文学の名作から、話題の芥川賞作品まで豊富なラインナップが配信されています。

通勤中や作業中に気軽に読書ができるのでおすすめです。

・12万冊以上が聴き放題
・小説やビジネス書などジャンル豊富
・プロの声優や俳優の朗読
・月額1,500円が30日間無料

╲月額1,500円が30日間“無料”╱

■関連記事
➡︎オーディブルのメリット解説はこちら

個人的考察

個人的考察-(2)

90年代という時代背景に注目

終盤に向けて急激に右肩上がりになるサイコホラー作品でした。約200ページの小説のうち、クライマックスの恐怖体験は、わずか25ページ程度です。

つまるところ、本作は事実に到達するまで、説明的な描写が長く続きます。謎に包まれた山崎麻美の人物像を紐解くための説明だけに留まりません。日本という国がどういう風な過渡期にあり、それに伴い人間社会や、人々の価値観がどのように変化しているのか。そういった時代背景が十分に記されています。それは結果的に、山崎麻美のような人間が実社会に存在するという論証の裏付けにもなっているわけです。

自国の変化について違和感を論ずる、青山と吉川の会話が印象的でした。

けどね何かが変わってるぞ、ムチャクチャになってる

『オーディション/村上龍』

お酒の味を判らないアベックが増えて、男同士で静かに飲めるバーが無くなった。あるいは、女性ポップス歌手のライブに同じ容貌の客が何万人と集まり、その全員が寂しそうに見える。こういった象徴的な具体例が指し示す、日本の変化とは何なのか。

本作の刊行は1997年、いわゆる平成不況の真っただ中です。俗に言う「失われた10年」と題される、バブル崩壊後の景気後退が、作品の背景にあるわけです。

90年代と言えば、阪神淡路大震災と、地下鉄サリン事件が一種の象徴になっています。立て続けに通り魔殺人が多発したり、酒鬼薔薇聖斗で知られる神戸連続児童殺傷事件など、少年犯罪が世の中を震撼させたのも同時期です。不況による社会の歪の中で、変遷する人々の価値観。青山の息子は、高校生にして妙に悟りきった考えを持っていました。希望的観測を持つには閉塞的過ぎる、バブル崩壊後の日本社会。悟りきった高校生は、希望を失った日本社会の写し鏡として描かれていたのかもしれません。

同時期に発表された『ラブ&ポップ』という小説では、援助交際をしてでも手に入れたいトパーズの指輪が、他者との繋がりをメタファー的に表現していました。

要するに、90年代の人々にとっては、不況の閉塞感によって枯渇した他者コミュニケーションが最大のテーマだったのかもしれません。そういった時代背景が、本作『オーディション』にも少なからず反映されています。青山や山崎麻美の不安定な心に潜む陰り、他者を激しく必要とする欲求、まさに時代の過渡期の弊害と言えるでしょう。

スポンサーリンク

山崎麻美のトラウマとは

山崎麻美が抱えていたトラウマは、幼児期の虐待でした。両親の離婚後に叔父の家で酷い暴力を受け、母親の再婚相手には存在を否定されるような暴言を言われ続けていました。物語の終盤には、青山の妄想の中で、初老の男がバレエを踊る少女の様子を見ながらマスターベーションをする描写が記されます。もちろんこれは山崎麻美が、母の再婚相手に強いられた性的虐待の詳細です。

山崎麻美本人は、虐待のトラウマを、バレエに熱中することで克服したと口にしていました。ところが実際はクライマックスの展開から分かるように、彼女は依然としてトラウマを抱えたままでした。

「あとがき」の村上龍の文章にも、一度トラウマを抱えた人間が、自由になることは無く、山崎麻美には救いという概念が存在しない、と記されています。こういった種類の人間は根本的に愛情が不足している故に、狂暴化しないと生きていけない精神状態にあるようです。同時にそういった人間は過度に愛情を求めます。山崎麻美の台詞からも、その狂気じみた求愛が見て取れます。

「あなただけは他の人とは違うでしょ? わたしだけ、いい? わたしだけ、わたしだけよ、わたしだけを愛してくれたらわたし何でもしてあげる、ね、わかるでしょ?」

『オーディション/村上龍』

本作の「(巻末の)解説」は、精神科医が記しており、非常に興味深い考察でした。

彼によると、幼児期に虐待を受けた子供は、自分を愛してくれるパートナーに対して「子供がえり」をして、失われた親の愛情を取り戻そうとする傾向にあるようです。成人としての抑制が捨てられるため、思い通りにいかなければ衝動的になることも珍しくなく、結果的に暴力に走ってしまうようです。山崎麻美も、青山に対して激しく求愛し、自分の意に反する出来事があれば、途端にサイコキラーへと化しました。

以前「三鷹ストーカー殺人事件」にまつわる文献を読んだことがあります。加害者は幼いころから惨い虐待を受けてきたそうです。なんでも、虐待を受けた子供は、アイデンティティの形成過程で、自分の存在価値を認めることが叶わず、結果的に他者の中に自分の存在価値を見出そうとするようです。その結果、破局すると自分の存在が消滅する危機感を覚え、衝動的な手段に駆られることがあるみたいです。

なるほど、山崎麻美もまた、他者に激しく求愛することでしか、自分の存在証明が叶わず、それはバレエなどでは決して克服することの出来ない、幼少の自己喪失に起因するのでしょう。

村上龍は、90年代の日本では、国民全体が山崎麻美のように狂暴化してもおかしくない状況が進行している、と記しています。直接的な虐待でなくとも、不況による孤独感や閉塞感は、自己喪失に繋がるある種のトラウマを国民に植え付けたということなのかもしれません。

スポンサーリンク

足を切断する行為

山崎麻美は、青山の片足を切断しました。

なぜ足の切断なのか。

それは虐待のトラウマの張本人である義父に、両足が無かったことに起因しています。自分に嘘をついたり、傷つけてきた男を義父に見たてて、同じように足が無い状態にしてやろう、という衝動が彼女の中に存在したのです。

ラスト25ページで全ての真実が明らかになるサスペンス仕立て。序盤に散りばめた伏線を見事に回収します。ストーリーテラーとしての村上龍の技量に圧倒されます。

初めて青山が山崎麻美とデートをしたカフェテリアでのことです。偶然通りかかった車いすの青年は、山崎麻美の姿を目撃した途端、酷く怯えている様子でした。恐らく、過去に山崎麻美と関係を持った結果、足を切断された男性の一人だったのでしょう。終盤に差し掛かってようやく点と点が繋がります。

山崎麻美が足を切断するのは、相手が嘘をついたり、傷つけてきたりした場合でした。青山が犯した失敗は、再婚を持ちかけたにもかかわらず、息子の存在を伝え忘れていたことでした。旅行先のホテルでまぐわっている最中にその事実を告白したことで、山崎麻美は姿をくらまし、ラストの猟奇的な犯行に至ります。

ホテルでの置手紙には、「うそはゆるさない 名まえをなくした女より」と記されていました。他者に激しく求愛することで自分の存在価値を見出そうとしていた彼女ですから、嘘をつかれた(裏切られた)ことで、自分の存在価値が途端に喪失したのでしょう。その喪失感を「名まえをなくした女(=存在を証明する記号の喪失)」で表現していたのだと思います。

トラウマを抱える人間は、不思議なことに自らトラウマを求める傾向があるようです。性的虐待を受けた少女が売春に手を出すのが一つの実例です。山崎麻美の場合も、裏切った男の足を切り落とすことで、義父のトラウマに自分を回帰させていたのかもしれません。

スポンサーリンク

青山のナルシズム

山崎麻美の強烈な人物像に注目しがちですが、本作は主人公の青山の精神的な弱さもひとつのテーマだと考えられます。

妻を亡くした青山は、うつ病の手前の症状に陥ります。その危機感から脱却するために、ドイツのパイプオルガンの演奏者を日本に招く、というハードな仕事に尽力します。他の物事に意識を向けなければ、精神的にダメになってしまいそうだったのです。このように孤独に耐えることが出来ない種類の人間は、他者に強く依存する傾向にあります。友人の吉川や、懐石料理屋の女将さんが、山崎麻美に関する忠告をしていたのに、青山は聞く耳を持ちませんでした。むしろ、山崎麻美に向けられる否定的な意見に対して腹を立てていました。

山崎麻美のようにトラウマを抱える、危険なバランスの人間は、弱々しく、求愛が強く、それでいて神秘的なオーラを放っているため、思わずハマってしまう男が一定するいるわけです。陳腐な表現で言い換えるなら、メンヘラ好きの男ですね。こういう種類の男は自尊心が極端に低いため、他者に頼られることで自分の存在価値を見出そうとします。そのため、精神的に弱っている女性と一緒にいると、ヒロイズムが刺激され、自尊心が高まるわけです。その結果抜け出せなくなるのです。パートナーから酷い暴力を受けているのに、逃げ出そうとしない人間は、自尊心が低く、それを相手に握られているために、逃げ出すことが出来ないのでしょう。「逃げ出す=自己喪失」なのですから。

山崎麻美と青山の両方が、自尊心に関するエラーを抱えていて、お互いが激しく求愛した結果、破滅的な展開に至る。なるほど、川に溺れている人間が、他の川に溺れている人間を助けることは不可能です。不健康な人間同士が救いを求めあえば、必ず共倒れしてしまいます。共倒れならまだしも、足を切断されたら堪ったもんじゃありません・・・。

スポンサーリンク

映画『ラブ&ポップ』おすすめ

村上龍の代表作『ラブ&ポップ』は、庵野秀明が監督を務め1998年に映画化された。

家庭用デジタルカメラで撮影され、特殊なアングルのカットや、庵野らしい明朝体のテロップが施されている。

➡︎U-NEXT無料トライアルで鑑賞できます!

・見放題作品数No.1(26万本以上)
・毎月1200ポイント付与
 ➡︎電子書籍や映画館チケットが買える!
・月額2,189円が31日間無料

╲月額2,189円が31日間“無料”╱

■関連記事
➡︎U-NEXTのメリット解説はこちら


タイトルとURLをコピーしました