芥川龍之介『あばばばば』あらすじ考察 奇妙な題の意味は母親への懐疑!?

あばばばば 散文のわだち
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芥川龍之介の短編『あばばばば』と言えば、「保吉もの」と呼ばれる作品群のひとつです。

主人公が「保吉」という名で描かれる、実生活から着想を得た作品群を指します。

その中でも『あばばばば』は、艶聞の多い芥川が抱く女性像が顕著に現れた作品です。奇怪なタイトルも読了後には納得させられます。

『あばばばば』作品概要

作者芥川龍之介
発表時期1923年(大正12年)
ジャンル短編小説、私小説
テーマ女性像
母性に対する懐疑

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『あばばばば』簡単なあらすじ

あらすじ

保吉の行きつけのお店には、あまり愛想のない主人が居ます。保吉はこのお店でマッチや煙草を買うことが多くありました。

ある夏の日、保吉が店に寄ると、勘定台には主人ではなく若い女性が座っていました。どこか恥ずかしそうな様子で、注文をするだけで顔を赤らめる、非常にうぶな女性です。頻繁にお店に通う内に、この女性の人馴れしていないシャイな性格に保吉は好感を抱くようになります。彼女が恥ずかしがるのを面白がって、わざとからかったりもしました。

しかし、ある時から彼女の姿が見えなくなります。そして再び店に現れた時には、彼女は赤ん坊を抱いていました。「あばばばばばば、ばあ!」と言って子をあやしています。保吉は彼女のシャイな反応を期待していましたが、以前のように顔を赤らめることはなく、澄ました女性に変貌していました。彼女はもう「あの女」ではなく「母」になったのだ、と保吉は実感するのでした。




『あばばばば』個人的考察

個人的考察

お洒落に描く娘から母への変遷

ユニークなタイトルからは想像できないくらいお洒落な物語でした。「あばばばば」とは、母が子供をあやす時の言葉だったのです。

些細な言動のひとつひとつに顔を赤らめていたシャイな娘。それは芥川にとって処女的な慎ましさの象徴だったのでしょう。男に慣れない娘をからかって、オジギソウのように反応する様子を保吉は好感的に楽しんでいました。

ところが子供が生まれた途端に、彼女のシャイな性格は払拭されてしまいます。処女的な慎ましさを失う代わりに、母としての奥行きのようなものを手に入れたのでしょう。

夫のためなら死ねないが、子供のためなら死ねる、とは言ったものです。赤ん坊が生まれたことによって、彼女は母子という絶対的な価値観の中に身を置くことになったのでしょう。保吉との間にあった「男/女」というコードは遮断され、もう恥ずかしがることはなくなったしまったのです。

処女から非処女、娘から母、色恋から我が子。そういった女性像の変遷を、「あばばばば」という子供をあやす言葉に内包させるのですから、芥川龍之介は非常にお洒落な作家だと改めて実感させられます。

女にまつわる芥川の中の悪魔

保吉は女と目を合せた刹那に突然悪魔の乗り移るのを感じた。この女は云はば含羞草おじぎそうである。一定の刺戟を与へさへすれば、必ず彼の思ふ通りの反応を呈するのに違ひない。

『あばばばばば/芥川龍之介』

自分のさじ加減で女性を反応させることが出来る保吉。彼はシャイな彼女の目を見るうちに、悪魔に支配されそうな心持ちになります。

保吉にとっての悪魔を紐解く上では、芥川の女性問題を知る必要があるでしょう。

芥川の艶聞は多くあります。若くして人気作家に上り詰め、容姿が端麗な彼です。女性にモテないわけがありません。妻以外に多くの女性と関係を持っていたのは有名です。晩年の独白的な特徴が強い作品群では、関係を持った女性を匂わせるような描写が多く登場します。

中でもひとり、芥川をしつこく付き纏っていた女性がいました。姦通の末に子供ができ、彼女はそれに託けてストーキングしていたのです。当時は姦通罪が存在し、不倫がばれれば告訴される恐れがありました。脅迫に怯えた芥川は、社会の断罪を恐れて中国に3か月間逃亡します。普通に考えれば、なかなかのクズっぷりですが、逃亡中に自殺を考えるくらい彼は思い詰めていたようです。

本作のシャイな娘も、色男である保吉(芥川)だったからこそ、頻りに照れて頬を赤らめていたのでしょう。そして保吉(芥川)は自分のモテっぷりを把握している故に、性愛という名の悪魔が頭を過ぎったのでしょう。

ところが、女のために魂を悪魔に渡すことに葛藤した末に、保吉は煙草の煙と一緒に邪な考えを退散させます。刹那の欲求を何とか理性で食い止めたのでしょう。

色男である芥川の、女性に対する葛藤が垣間見える、暴露的な私小説でした。




母性に対する懐疑

女はもう「あの女」ではない。度胸の好い母の一人である。一たび子の為になつたが最後、古来如何なる悪事をも犯した、恐ろしい「母」の一人である。

『あばばばばば/芥川龍之介』

芥川の作品には、母が子に向ける絶対的な愛情がテーマとして描かれることがあります。代表作『杜子春』ではまさに子のために命を惜しまない母の無償の愛が描かれていました。

しかし本作では、娘から母に変遷した女性に、どこか懐疑的であるように思われます。

(娘から母への)この変化は勿論女の為にはあらゆる祝福を与へても好い。しかし娘じみた細君の代りに図々しい母を見出したのは、……

『あばばばばば/芥川龍之介』

女性が母になることは世間的に祝福すべきものだが、しかし・・・」と与吉は何か言いたげな様子でした。

好感を持っていた娘が自分に興味を示さなくなったことを惜しんでいる、という単純な解釈も良いでしょう。

個人的には、母になった彼女が子供に愛情を注ぐ様子を見て、母の愛情とは本当に絶対的なものなのだろうか、という疑心暗鬼になっているのだと思います。

それと言うのも、芥川の生涯には母親が念慮として付き纏い、それが自殺の原因のひとつとも言われているからです。芥川の母は精神病を患っており、幼い頃から狂人の母を目撃しながら、実質上は伯母に育てられました。そして、芥川が11歳の頃に母は亡くなりました。

自殺前に執筆された破滅的な私小説『歯車』では、母はどうして狂ってしまったのか、という彼が最期まで抱えていた闇が独白されます。

精神に異常をきたし、子供の頃に死んでしまった母親。芥川龍之介には確実に母親の愛情が不足していたのでしょう。だからこそ、母が子に与える愛情が絶対的であるか、という懐疑を本作で露呈したのだと思います。

死期は数年後に迫っています。いよいよ破滅的な作風へと変わっていきます。そう意味では、本作は芥川にとって殆ど最後に近い平穏でお洒落な物語と言えるかもしれません。




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