谷崎潤一郎の小説『春琴抄』は、実験的な文体を駆使した代表作です。
何度も映画化されており、山口百恵や、斎藤工など、名だたる俳優が主演を務めてきました。
本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。
作品概要
作者 | 谷崎潤一郎(79歳没) |
発表時期 | 1933年(昭和8年) |
ジャンル | 中編小説 耽美主義 |
ページ数 | 144ページ |
テーマ | マゾヒズム 献身的な愛 |
関連 | 1976年映画化 (山口百恵、三浦智和) |
あらすじ
「琴」の死後に「佐助」が作らせた伝記の内容が語られます。
琴は生まれながら容姿が美しく、学才もありましたが、9歳の時に病気で失明します。盲目になってからは三味線の練習に励み、誰もが認めるほどの才能を発揮します。そんな琴の世話係を担当していたのが佐助です。元来のお嬢様気質に、盲目の意地悪さが加わった琴ですが、佐助は彼女に献身することに喜びを感じています。
師弟ごっこの一環として、佐助は琴に三味線を教わります。しかし、彼女の暴力的・嗜虐的な指導に不安を抱いた父親は、二人の師弟関係を禁止し、その代わりに琴と佐助を同じ師の元で習わせ、二人は愛弟子になりました。
20歳になった琴は、師匠の看板を掲げて弟子を取るようになります。彼女の指導の厳しさは度が過ぎており、他人の恨みを買うこともありました。弟子の中に、自信家のお調子者、利太郎という男がいました。利太郎はしつこく琴に言い寄りますが、全く相手にされません。それでも懲りずに稽古に来る利太郎に対し、琴の指導はエスカレートし、彼の頭をバチで殴ります。その他にも、琴が怪我をさせた弟子は数知れません。
ある夜に、佐助は琴の呻き声によって目を覚まします。急いで彼女のもとへ駆けつけると、何者かが雨戸から侵入し、眠る彼女の顔に熱湯をかけていました。皮膚は焼けただれ、醜い顔になってしまいました。すると佐助は、琴の美貌を記憶の内に留めるために、自ら縫針を眼球に突き刺して失明させます。そして二人は、盲人同士の第六感によって、師弟の関係を超えた部分で愛し合うのでした。
58歳で琴はこの世を去りました。83歳まで長生きした佐助は、琴以外の女性を知らずに、暗闇の中の在りし日の彼女の面影を生涯愛し続けたのでした。
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個人的考察
佐助視点でのひいきが強い!?
本作を理解する上で最も重要なのが、琴の人物像を記した「鵙屋春琴伝」が佐助によって作られたということです。つまり、琴に溺愛する佐助の私情が少なからず反映されているわけです。
実際に、琴が盲目になった原因は病気であるのに対して、「鵙屋春琴伝」には琴の妹の乳母が恨みを抱いて失明させたのではないかという推測が記されていました。
琴の嗜虐ぶりに多くの人間が恨みを抱いていたのは事実でしょう。だからこそ、彼女を溺愛する佐助は、彼女に起こる災難に対して非常に主観的で、原因を勝手に憶測するような力任せなニュアンスになっているのだと思います。
要するに、自分たちに降りかかった不幸には主観的で、妊娠など彼女のプライドを傷つける可能性がある問題は濁してしまう傾向があるのです。おかげで、読者は読了後に多くの謎を抱えたまま、あれこれと推測できるカラクリになっています。
琴に熱湯をかけたのは誰なのか?
読了後に抱える謎の最もたるが、琴に熱湯をぶっかけた犯人でしょう。
屈辱を味わった利太郎がその復讐のために実行したと落とし込めば納得できます。ところが、怪我を負わされた別の弟子の父親の可能性を持ち出して、終いには、多くの人間に恨みを買っていたので断言できないと言うのです。
それと言うのも、結局は「鵙屋春琴伝」ベースで物語られるので、佐助の都合のいい描かれ方しかしないのです。そして、彼が犯人を有耶無耶にするということは、知られてはいけない事実が隠されている可能性があります。
こういった読者泣かせな技巧に飛んだ難解な構成で描かれているため、佐助が犯人である説や、琴の自殺未遂だった説などがあります。
個人的には、事件後に琴の覇気が失われた点から、マゾヒズムの佐助の犯行とは考えにくいと思います。ただし、自らが盲目になって琴と同じ境遇に陥り、より一層彼女に屈服するためのシナリオだったとしたら・・・考えすぎですね。しかし、耽美派の道徳欠如は、それくらいの狂気の美を描いていてもおかしくはありません。
琴の自殺未遂説は、少し唐突のように感じられます。ただし、佐助が犯人を明確にしなかったのは、彼女にとって何かしら都合の悪い事実があったからだと推測されます。(あくまで深読みですが)それが自殺未遂なのかは判りませんが、琴をかばっての結果だとしたら辻褄が合いそうです。
足フェチの描写が隠れていた!?
本作の主題とはほとんど関係ありませんが、谷崎潤一郎は足フェチで有名な作家です。自身の墓を女の足の形にしてほしいと言ったのは有名な逸話です。
本作『春琴抄』ではおもむろな性表現はありませんが、一部足フェチを思わせる不可解な描写がありました。
琴は非常に冷え性であるため、佐助が寝転んで、彼女に踏まれる体勢になって懐で足を温めるというマゾっぽい場面がありました。さらに、佐助は虫歯で頬のあたりがズキズキ痛んでいたため、思わず彼女の冷たい足を顔に持ってきて頬に当てがいます。すると琴は、師匠の足をこっそり顔に当てがうのは無礼だと言って、思いっきり佐助の顔を踏み付けます。
琴の嗜虐っぷりを表現するための描写の一部なのでしょうが、作者の性癖がガッツリ滲み出ているのでは、と少し気になってしまいました。谷崎のファンであれば、本筋とそれほど関係なくても、このような描写が登場するとうれしい心持になってしまいますね・・・。
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映画『春琴抄』がおすすめ
代表作『春琴抄』は1976年に映画化され、山口百恵と三浦友和のコンビで話題になった。
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