坂口安吾『太宰治情死考』あらすじ解説|太宰は富栄を愛していない?

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太宰治情死 散文のわだち

坂口安吾の作品『太宰治情死考』は、太宰治について記した随筆です。

山崎富栄と情死した太宰治について、坂口安吾が独特の視点で考察しています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者坂口安吾(48歳没)
発表時期  1948年(昭和23年)  
ジャンル随筆
ページ数10ページ
テーマ太宰治の自殺について
太宰治へ向けた追悼文
芸術家の苦悩
収録随筆集『不良少年とキリスト』

あらすじ

あらすじ

①太宰治が自殺した

太宰治の月収は20万円(当時の労働者の平均的な月収は1万円)でした。ところが毎日2000円分もの粗悪な酒を飲み、そのくせ50円の借家で雨漏りも直さずに生活していました。

戦後の市場では粗悪なアルコールが出回っていました。メチルアルコールと言って、飲めば目が見えなくなる劇薬さえ平気で売られる始末です。そう言った状況で、ある程度質の良いウィスキーなどを飲むとなれば、贅沢な飯を食わなくとも、生活費は嵩張るものです。

ところが、太宰治は粗悪な安酒2000円分を一晩で飲むのですから相当です。精神状態が危険であったことは確かですし、案の定女と二人で死んでしまいました。

②相撲の世界と文芸の世界

坂口安吾には相撲取りの知り合いがいて、彼らのところでちゃんこ鍋を食べたことがあります。なんでも彼ら相撲取りは、相撲のテクニックは一流でも、それ以外の政治など世間並みのことは何も知らないようです。

あるいは、囲碁の世界では新興宗教に入門した有名な棋士がいました。彼らは宗教の資金を稼ぐために、対局量を高く請求します。事実、坂口安吾が宗教に傾倒した棋士と対局した際には、彼らの取り分が多いために、安吾への対局料等々は支払われなかったみたいです。安吾は間接的に新興宗教に献金したのだと皮肉を溢していました。

どうして一流の人間たちは、このようにある面において無知で鈍感になり得るのでしょうか?

坂口安吾が言うには、彼らは時代の最も高度な技術専門家・文化人である故に、複雑な真理を抱えており、迷信に陥ってしまいやすいようです。だからこそ、世間知らずだとか、新興宗教だとか、それらの滑稽な性格によって、人々が彼らの魂の苦悩を笑殺するのは大間違いだと主張します。

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③文学者も同様に

文学者も同様に、無学である作家はいませんが、こぞって非常識なのは芸道を志すものの定めなのです。

一般の人間にとっては戦争は非常事態ですが、芸道においては常時が戦争状態、魂の戦いなのです。この文化人の葛藤は内省的なものであり、世間の勝手な批評とは直接関係しません。芸術家の魂の葛藤が、一般人の娯楽として批評されるのは常ですが、芸術家はもっと自分の内側に裁かれ苦悩しているのです。

このような点において、文化人と一般人は別世界にいることを認めざるを得ません。ところが文化人は好き好んで芸道を志しているため、悲痛な表情は見せられず、平気なふりをしないといけないものなのです。

④太宰治の死と山崎富栄について

以上の文化人の苦悩を理解すれば、太宰治が1晩で2000円分もの粗悪な酒を飲む理由も見えてくるはずです。彼は確かに馬鹿者でありますが、芸道で大成するとは、馬鹿者になることを意味するのです。

太宰治の自殺は、山崎富栄との情死として判定されています。しかし、坂口安吾曰く、こんな筋の通らない情死はないとのことです。山崎富栄は呆れるほど頭の悪い女で、太宰治も真面目に惚れているようには見えなかったそうです。太宰治が泥酔して書いた遺書に便乗して、尊敬する先生のお伴して死ぬのは光栄である、と勝手にその気になったのに過ぎないようです。

芸道の人間は本当に女に惚れるということができません。だからこそ、太宰治が本気で山崎富栄に惚れていたなら自殺することはなかったでしょう。太宰治の遺書には「小説が書けない」という動機が記されていました。しかし、彼は山崎富栄についての小説を一度も書いたことがありません。作家に作品を書かせないような女は、つまらない女だと坂口安吾は主張します。もし山崎富栄が取るに足る女であったなら、彼女の小説を描くために太宰治は自殺などしなかったでしょう。

そんなつまらない女にまで惚れた気分になったりする太宰治を、馬鹿馬鹿しく、体をなしていないと坂口安吾は揶揄するのでした。

⑤死ぬべきではなかった

太宰治の口癖は「死ぬ死ぬ」でした。作品の中でも何度も自殺を暗示してきました。しかし、作品の中で自殺しても現実に自殺の必要はないのだ、と坂口安吾は語ります。

泥酔して過ちを犯し、翌日に後悔するのは文化人にとって常ですが、自殺してしまえば、翌朝目が覚めて後悔もできないのだから始末が悪い、と坂口安吾は太宰治の死を悔みます。

一時的のメランコリを絶対のメランコリに置き換えてはいけないと、太宰治自身も理解していたはずですが、彼は一時的なメランコリで死んでしまったのしょう。

太宰治の様々な馬鹿馬鹿しさを列挙した坂口安吾ですが、彼が残した作品だけは偽りのないものだと主張します。太宰治の自殺は、芸道人の身悶えの一様相であり、いたわって静かに休ませてやるべきなのです。生前の馬鹿馬鹿しさなど問題ではなく、作品が全てなのです。

そして随筆は幕を閉じます。

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個人的考察

個人的考察-(2)

坂口安吾は太宰治と共に無瀬派と呼ばれ、戦後の日本文学の確立に大きく貢献した作家です。文壇における良きライバルであり、戦友であったからこそ、太宰治の自殺を悲しみ、作品として彼の死にまつわる文章をこの世に残しておきたかったのでしょう。

本作では、謎多き太宰治の自殺が、坂口安吾の独特の目線で語られます。果たして彼は戦友の死に対して何を感じていたのか、考察していこうと思います。

山崎富栄への批判の風潮

太宰治の死因は、愛人である山崎富栄との情死ということになっています。しかし、実際のところは様々な憶測が飛び交っており、一部では山崎富栄による他殺説も浮上している次第です。本作の坂口安吾の主張においても、他殺と名言してはいませんが、山崎富栄に対する非難は甚だしいものです。

それというのも、当時の太宰治は戦後の日本文学の礎を築く上で重要な人物とされ、文壇の仲間や出版社からも期待されていました。あるいは遺作となった「グッドバイ」は連載中でしたし、死後に発表された「人間失格」はベストセラーとなり世間に広く認知されました。世間や仲間から期待され、人気があった分、太宰治の自殺はショッキングな出来事であり、必然的に山崎富栄を悪に仕立て上げる風潮が生まれたのだと思われます。

結果的に残された山崎富栄の親族はかなり肩身の狭い生活を強いられたようで、しばらくは文京区にある墓に彼女の名前は彫られなかったみたいです。

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太宰治は山崎富栄を愛していなかった

坂口安吾が言うには、太宰治は山崎富栄を愛しておらず、それどころか軽蔑しているようにも見えたとのことです。仮に本当に愛していたとしたら、彼女の小説を書くために生きただろう、と言うのです。

山崎富栄の日記には太宰治と出会ってからの彼女の恋心と傷心が綴られていたのですが、それらは過剰な執着に感じられる内容でした。とてつもない恋心を抱いている分、太宰治が心身ともに弱っていく様子に苦悩し、ひいては自らも泥沼にはまり込んでいる、典型的なメンヘラカップルの所作です。しばしば太宰治との関係に齟齬を来すようになり、自分が捨てられる運命を案じて、山崎富栄の嫉妬の念は高まっていたとの見識もあります。

坂口安吾は、作家に作品を書かせないような女はつまらない女だ、と主張しています。太宰治は山崎富栄についての作品を書かなかったようです。当然、彼の代表作である「人間失格」にも山崎富栄の影は一切感じられません。作家である太宰治を尊敬していた山崎富栄だからこそ、自分を題材に作品を書いてもらえないことに強い嫉妬感情を抱き、凶暴な執着に発展したのかもしれません。

太宰治が酔っ払って遺書を書いたのを間に受けて、山崎富栄は情死を実行に移したのではないか、と坂口安吾は推測しています。

「私ばかりしあわせな死に方をしてすみません。」

山崎富栄の日記兼遺書にはこのような一文が記されています。あるいは、愛人として今世で刹那的に愛するのではなく、死後の世界で永遠に愛するという強い意志が綴られています。ともすれば、太宰治が情死を望んだと言うよりは、半ば山崎富栄の嫉妬と執着によって実行されたという推測は大方間違いではないのかもしれません。

※山崎富栄の日記兼遺書は下記です。

ただし、坂口安吾の非難は痛烈で、本当に惚れているなら天国ではなく現世で生きぬくがよい、という主張も最もな気がします。

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作品が全てという坂口安吾の慈しみ

芸道は常時に於て戦争だから、平チャラな顔をしていても、ヘソの奥では常にキャッと悲鳴をあげ、穴ボコへにげこまずにいられなくなり、意味もない女と情死し、世の終りに至るまで、生き方死に方をなさなくなる。こんなことは、問題とするに足りない。作品がすべてゞある。

『太宰治情死考/坂口安吾』

山崎富栄に否定的な坂口安吾は、太宰治の情死を馬鹿馬鹿しいと散々揶揄します。しかし、最後には、どんなに馬鹿馬鹿しくてもいいではないか、と生前の辱めが問題ではないことを主張します。

いくら生前の所作に仮面が被せられていようとも、彼が残した作品だけは偽りのないものだと言うのです。それは坂口安吾による、太宰治の自殺についてあれこれ憶測する世間に対してのプロテストでしょう。序盤に、政治に無知な横綱や、宗教に系統した棋士を馬鹿にするのは大間違いだという例が記されたのは、まさにこのためだったのです。

いずれにしても、坂口安吾は太宰治の死を深く悲しんでいたようです。おでん屋の店主が、敬遠する詩人の訪問に寝たふりをかました結果、翌日詩人は店の前で首を吊っていたという話が唐突に綴られます。その物語が暗示するものを想像すれば、坂口安吾の後悔の念が感じられてなりません。

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映画『人間失格』がおすすめ

人間失格 太宰治と3人の女たち』は2019年に劇場公開され話題になった。

太宰が「人間失格」を完成させ、愛人の富栄と心中するまでの、怒涛の人生が描かれる。

監督は蜷川実花で、二階堂ふみ・沢尻エリカの大胆な濡れ場が魅力的である。

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