芥川龍之介『桃太郎』あらすじ考察 帝国主義を風刺したパロディ

桃太郎 散文のわだち
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芥川龍之介の短編小説『桃太郎』と言えば、昔話を独自創作したパロディ作品です。

日本人にとって絶対的正義である桃太郎を、悪役として描くユーモア溢れる物語です。

『桃太郎』作品概要

作者芥川龍之介(35歳没)
発表時期1924年(大正13年)
ジャンル短編小説
昔話のパロディ
テーマ帝国主義批判
復讐と恩義の対立

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『桃太郎』あらすじ

あらすじ

大昔、天まで届く巨大な桃の木がありました。その木は1万年に1度だけ、中に赤子を孕んだ実を付けます。ある時、谷川へ落下した桃の実からは、誰もが知る桃太郎が生まれました。

桃太郎は、爺さんや婆さんのように山川へ仕事に出るのが嫌だったので、鬼ヶ島の征伐を思い立ちます。愛想を尽かした爺さんや婆さんも、早く追い出したかったので、桃太郎にきび団子をこしらえてやりました。金勘定にいやらしい桃太郎は、鬼退治のお伴である猿犬雉にきび団子をケチる始末です。

実際の鬼ヶ島は楽園で、平和主義な鬼たちが穏やかに暮らしていました。むしろ鬼からすれば、人間ほど野蛮な生き物はいないと思っているのです。桃太郎は無実の鬼たちを徹底的に殺し、鬼の酋長に降伏させます。宝と人質を持ち帰った桃太郎は、その後の生涯、ことあるごとに鬼の反撃を受ける羽目になりました。桃太郎は、かつて酋長の命を見逃してやった恩義を忘れた鬼を非難します。一方で鬼たちは鬼ヶ島の独立を計画して爆弾を仕込んでいるのでした。

1万年に1度だけ実を付ける桃の木。次の天才をいつ地上に産み落とされるのでしょうか・・・




『桃太郎』個人的考察

個人的考察

桃太郎を悪者として描くユーモア

児童教材である昔話『桃太郎』は、実は時代ごとに部分的な修正が加えられています。

  • 団子なしで自主的に家来になる
  • 団子を半分だけ与える
  • 気前よく団子を与える
  • 降参した鬼を許す
  • 鬼が自主的に宝物を差し出す

時期によって上記のような僅かな部分修正が加えられていたのは、多少なりとも政治的な問題が影響していると考えられます。ただし共通するのは、桃太郎は絶対的な正義である点です。

その根底を覆すように、芥川龍之介は、桃太郎を悪者として描きました。

  • お爺さんとお婆さんに追い出された
  • 思いつきで鬼退治を計画した
  • きび団子をケチった
  • 鬼を皆殺しにした

最も印象的なのは、降伏した鬼の酋長が、征伐の理由を尋ねる場面です。桃太郎は「鬼ヶ島を征伐したいと思ったから征伐した」という返事をします。それ以上深く詮索しようものなら殺す、という脅迫の言葉まで付け加えます。

このトートロジー的言い回し(『殴りたいから殴りたいのだ』といった同語反復)が、論理的な原因がない無差別な暴挙を象徴しています。

確かに我々は幼少の頃から「鬼は悪い存在」と漠然と認識しています。調べれば古来よりの言い伝えなど、理由が存在するのかもしれませんが、少なからず我々は「なぜ鬼が悪いのか?」を考えずに生きています。あえてそこに切り込むユーモアが、芥川らしい皮肉っぽさを漂わせています。




帝国主義批判

残虐な設定で描かれる桃太郎。発表時期が1924年であることから、おそらく芥川龍之介は、当時の帝国主義的な雰囲気を風刺していたのだと考えられます。

とりわけ日本に関しては、アジア侵略や、中国への過剰な権益要求などが背景にあります。平穏な島に押しかけ、トートロジー的に征服し、宝物と人質をふんだくって帰る桃太郎。まるで海の向こうに侵略して権益を要求する当時の社会情勢と重なります。

「(人間は)嘘はいうし、欲は深いし、焼餅は焼くし、己惚は強いし、仲間同志殺し合うし、火はつけるし、泥棒はするし、手のつけようのない毛だものなのだよ」

『桃太郎/芥川龍之介』

引用は平穏に暮らす鬼たちが人間に対して抱く印象です。嘘、欲、自惚れ、まるで帝国主義の権力を想起させる文句であり、当時の諸外国の暴挙を暗に風刺する意図が読み取れます。

また、本来の猿・犬・雉は忠誠心の象徴です。しかし、芥川龍之介が描く猿・犬・雉は利害関係によってのみ結ばれています。

そもそもこの三匹同士は仲がいいわけではなく、おまけにきび団子をケチられた猿は、お伴をやめると言って桃太郎にたてつきます。すると桃太郎は鬼ヶ島から踏んだくる宝の話を持ち出して、三匹の忠誠心を刺激します。

つまり、彼らは決して互いに信頼し合い、認め合い、尊重し合っているわけではなく、単に利益の欲しさに協力関係になったのです。これもまた、利害関係によって結束する外交の様子を揶揄していると考えられます。

この頃、森鴎外も『高瀬舟』という作品で、知足に関する主題を扱い、当時の日本の過剰な権益要求を暗に批判していました。

やがて昭和初期になると、本格的な思想啓蒙としてプロレタリア文学が台頭します。一方で軍国主義の風潮はいよいよ強まり、この手の風刺的な作品は一切発表できなくなります・・・。

天才として描かれる桃太郎

ああ、未来の天才はまだそれらの実の中に何人とも知らず眠っている。……

『桃太郎/芥川龍之介』

意味深長な文章で幕を閉じる本作。

この「天才」という言葉には芥川の皮肉が込められていると感じます。桃の実から生まれ、無差別に鬼を殺しまくった悪者としての桃太郎を天才と称することになるのですから。

爺さんと婆さんに養われた桃太郎は、山や川に出て仕事をするのが嫌なので、鬼ヶ島征伐を企てます。ある意味、凡人の生活を忌み嫌い、鬼退治という偉業を成し遂げ、金品を持ち帰るのですから「天才」と言えるでしょう。指導者、支配者としての天才です。

そもそも桃の木は、イザナギノミコトによって植えられ、黄泉の国まで届く背の高さでした。ともすれば地上に産み落とされた桃太郎は、神の子、天皇の子という解釈ができます。

当時は軍人が政治権力を握っていたにしろ、便宜上は天皇が指導者の頂点として利用されていました。そういった設定も、桃太郎が指導者の天才として描かれている裏付けになります。

そして、同じような才能を持つ人間が桃の実の中で何人も眠っていて、いずれ再び落ちてくることを示唆しているわけです。

桃太郎が行った暴挙は何度でも繰り返される。そんな人間社会の欲深さを悟った結末と言えるでしょう。




鬼の復讐に見る現代社会

鬼退治を成功させた桃太郎一味の生涯は惨めでした。人質に連れて帰った鬼の子供は、成長すると雉を殺し、鬼ヶ島に連絡します。それ以降は生き残った鬼たちが定期的に人間社会にやって来て、桃太郎の家に火をつけたりします。

鬼たちの執念深さに辟易した桃太郎や犬は、命を逃してやった何人かの鬼たちのことを引き合いに出して、自分達の恩義を忘れていると悪態を吐いていました。

あえて特定の国を挙げることはしません。が、まるでかつての歴史的事実のために今も続くいざこざを彷彿とさせます。信じられないようなテロ行為だってその限りです。

恩義だのを持ち出して、自らを正当化しようとするあたり、たちが悪いです。かつての事実に復讐心を燃やす被支配者と、歴史を都合よく解釈する支配者、この衝突は政治や外交だけに関わらず、もっと小さなコミュニティにおいても起こり得る身近な問題だと感じます。

何よりも辛いのは鬼たちの復讐心です。

鬼が島の独立を計画するため、椰子の実に爆弾を仕こんでいた。優しい鬼の娘たちに恋をすることさえ忘れたのか、黙々と、しかし嬉しそうに茶碗ほどの目の玉を赫かがやかせながら。

『桃太郎/芥川龍之介』

人を愛する、という絶対に忘れてはいけない感情さえも喪失させる復讐心。爆弾を仕込む目が嬉しそうに輝いたら、人間はおしまいです。愛することを忘れた人間は惨めです。

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