遠藤周作『白い人』あらすじ解説|「黄色い人」と対の芥川賞作

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白い人 散文のわだち

遠藤周作の小説『白い人』は、第33回芥川賞受賞作です。

フランス人でありながらナチのゲシュタポの手先となった主人公が、神学生の友人との対立を通して、神の必然性を追求する物語です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者遠藤周作
発表時期  1955年(昭和30年)  
受賞第33回芥川賞
ジャンル中編小説
ページ数85ページ
テーマ人間実存の根源
教義を超越した信仰

あらすじ

あらすじ

フランス人の父とドイツ人の母の間に生まれた主人公。彼は生まれつき片目に障害があり、その醜さを父親に揶揄されて育ちました。また、母は厳格なプロテスタントだったため、過剰な禁欲主義を強要されてきました。その反動で、彼はサディズムと無神論者に目覚めます。

大学生になった主人公は、ジャックという醜い容貌の神学生と知り合います。が、彼とは激しく対立します。ジャックは十字架を背負うことで、他者の醜さまでも背負っているような気になっており、主人公はそれが気に食わないのでした。ジャックにはマリーという幼馴染がいて、彼女の存在がジャックにとっての弱みだと主人公は気づきます。そのため、主人公はマリーがジャックを裏切るように仕向けて、彼を痛ぶるのでした。

ナチスによる占領時代が始まると、主人公はナチス側の手先になり、拷問の通訳者になります。そして、抵抗運動に従事するジャックが連行されてきます。かねてよりの確執が拷問という形で再燃したのです。主人公自ら拷問をしても、ジャックは「キリストは憎悪のためには闘わない」と主張します。そういった彼の英雄主義や自己犠牲の陶酔を、主人公はかつてのように忌み嫌います。

どうしても口を割らないジャックの元にマリーを連れて来ます。そして、抵抗運動の仲間を売らなければマリーの命は助けられない、という非人道的な選択を迫ったのです。ジャックはとうとう「ゆるしてくれよう。彼女をはなしてやってくれよう」とすすり泣き出します。そして、気がつくとジャックは、舌を噛み切って自殺していました。

ジャックが死んだことを知った主人公は、意味がない、意味がない、と脳内で繰り返します。自殺によって残酷な運命から逃れても、自分(主人公)という悪を破壊しない限り意味がない、と彼は考えるのでした。ジャックの死をマリーに伝えると、彼女は歌を歌い始め、遂に気が狂ったのだと悟ります。戸外に見える街は戦争によって真っ赤に燃え上がっていました。

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個人的考察

個人的考察-(2)

主人公の人格形成(斜視、禁欲)

生まれつき目に障害がある主人公は、父親の言葉に傷つき、醜い容姿にコンプレックスを抱えて生きてきました。

「腐魚の目のように」「血管で濁った目」など、主人公は他者の様子をあえて目の醜さで頻繁に表現します。いわば自分の醜さを精神的に緩和させるために、わざと他者の目を非難しているのだと思われます。

一方で、母親に過激な禁欲主義を強要された主人公は、12歳の頃にサディズムに目覚めます。きっかけは、女中が老犬に暴力をふるっている場面を目撃したことです。もちろん女中の肉体に対する欲情も含まれていましたが、それ以上に自分が小さい時に恐れていた老犬を暴力によって封じ込める様子に主人公は感銘を受けているように思われます。それと言うのも、醜い容姿にコンプレックスを抱えた主人公は、周囲の人間は自分を攻撃する存在だという強迫観念の中を生きていました。だからこそ彼にとっては、恐ろしかった老犬を力で封じ込めるように、暴力こそがコンプレックスや恐怖を克服する唯一の手段になり得たのでしょう。

アラビヤのアデンでは、娘に踏みつけられた少年の呻き声を聞いて、情欲というよりは倒れそうな感覚に陥ります。なぜ女中の時に感じられた情欲が、アラビア娘では感じられなかったのでしょうか。それは、アラビヤ娘に踏まれる少年の姿に、母親に支配される自分の姿を見出していたからのように思われます。ともすれば、主人公が少年を岩場に突き落としたのは、母に禁欲主義を強要される自分を殺害する行為と同等の意味があったのかもしれません。

コンプレックスと禁欲主義により、サディズムに目覚め、罪を犯した主人公は、絶対的な悪に身を投じることで、キリスト教の虚偽の証明に徹するようになります。

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ジャックとの対立の真相

暴力によってコンプレックスを克服しようとする主人公に対して、神学生のジャックは信仰によって自らのコンプレックスを克服しようとしていました。それどころか、自分以外の他者の醜さまで背負う心持ちのジャックは、醜い主人公に信仰の本を送り届けるようになります。しかし、キリスト教の虚偽を証明しようとする主人公にとって、ジャックの慈悲は「攻撃」のように感じられます。

そこで主人公は、キリストがユダに裏切られても弟子を愛していた、という信仰を逆手にとって、ジャックが裏切りを経験するように仕向けます。つまり、ジャックを陥れることでキリストの愛が偽りであることを証明しようとしたのです。

拷問の最中に「自分を憎んでいるか」と主人公が尋ねると、ジャックは「憎んでいない」と答えます。もちろんキリスト教の信念も含まれていると思いますが、単純に主人公の一方的な対立に過ぎないことを示唆しているようです。相互的な対立ではなく、恐怖やコンプレックスを乗り越えるために主人公が一方的に暴力を振りかざしていただけなのでしょう。

ともすれば、2人の対照的な人間模様は、信仰の有無によって人間の浅ましさはどう変わるかを表現していたのだと思います。

主人公の破滅願望とは

キリスト教の虚偽を証明するために主人公は、2度にわたってジャックに裏切りを経験させようとします。マリーが舞踏会に出席するようにそそのかした場面と、ラストの拷問の場面です。しかし、いずれにおいても主人公は、深い疲れのような悲しみを感じていました。

それどころか、恋をしたジャックに裏切られたような気持ちにすらなっています。ともすれば、主人公は本心ではキリスト教の虚偽を証明することを望んでいなかったという推測ができます。

拷問の苦痛から自らを保護するために仲間を密告する行為、これをジャックが実行すればキリスト教の虚偽を証明できます。しかし、主人公は心のどこかで「耐えろ」と念じ続けていました。

ジャックが自殺した後も、「俺を破壊しない限り、お前の死は意味がない」と繰り返し呟きます。まるで主人公は端から勝利ではなく敗北を望んでいたようです。

おそらく、主人公は絶対的な悪に身を投じながらも、悪が破滅することを望んでいたのだと思います。ジャックに密かな望みを抱いて、自分を裁いてくれるのを待ち続けていたのでしょう。だからこそ、彼の自殺は主人公を腑抜けにし、本当の意味での救いようのない敗北へと導いてしまったのだと思います。

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