夏目漱石『坊っちゃん』あらすじ解説|登場人物と内容考察

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坊っちゃん 散文のわだち

夏目漱石の小説『坊っちゃん』は、教員時代の体験を題材にした初期の代表作です。

漱石の作品の中では特別大衆的で、入門編としておすすめです。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者夏目漱石(49歳没)
発表時期  1906年(明治39年)  
ジャンル長編小説
ページ数240ページ
テーマ義理人情
江戸から明治への変遷

300文字あらすじ

あらすじ

坊っちゃんは幼い頃から無鉄砲な性格でした。多くの悪戯をしてきた彼は、家族から疎まれています。しかし、下女の「清」だけが坊っちゃんを可愛がってくれました。

両親の死後、坊っちゃんは愛媛の松山で中学教師として働き始めます。しかし、赴任先は教師の陰湿な嫌がらせが横行していました。とりわけ教頭の「赤シャツ」が、気に入らない教員を学校から追い出したり、他人の婚約者を奪ったり、やりたい放題です。

坊っちゃんは、「赤シャツ」を懲らしめるために、悪戦苦闘します。唯一信頼できる教員「山嵐」と協力しながら、「赤シャツ」の弱みを握り、遂には復讐を果たすのでした。

その後、坊っちゃんは東京に戻り、再び清と生活するのでした。

登場人物特徴
坊っちゃん主人公
無鉄砲な性格 正直で正義感が強い
坊ちゃんの生家で働く下女
赤シャツ教頭 本作の悪役
帝国大学文学部出身のエリート
学内で陰湿な嫌がらせを行なっている
野だいこ美術教師 教頭のごますり担当
おべんちゃらばかり口にして、
権力者の懐に入ろうとする金魚の糞
山嵐数学教師
「赤シャツ」との決闘における協力者
うらなり英語教師 本作の犠牲者
人が良すぎるため、かもにされる

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あらすじを詳しく

①無鉄砲な坊ちゃん

坊っちゃんは幼い頃から無鉄砲な性格で、突拍子のないことをすることがあります。そのため両親や兄弟からは疎まれていました。

しかし、下女として働く「清」だけが、坊ちゃんのことを可愛がってくれました。坊ちゃんの無鉄砲さを、「正直な性格だ」と唯一理解してくれる存在だったのです。

両親の死後、遺産を譲り受けた坊っちゃんは、その資金で商売か学問の選択に迫られます。特段、商売に気が向かない坊っちゃんは、何となく3年間物理の学校に通い、校長の言うままに、愛媛県松山の中学教師として務めることになりました。

生涯坊ちゃんの家に仕えるつもりの清には、来年の夏には帰ると約束し、松山に旅立つのでした。

学園ドラマの鉄則①
主人公は決まって破天荒・無鉄砲な性格。これから起こる理不尽に歯向かうであろうキャラ設定

②中学教師として松山へ赴任

松山の中学校に赴任した坊ちゃんは、個性的な教員たちと出会います。

インテリ臭い雰囲気で、赤いシャツを着た教頭、通称「赤シャツ」。顔色の悪い太った英語教師、通称「うらなり」。最初から距離感が近い毬栗坊主の数学教師、通称「山嵐」。芸人風でおべんちゃらに長けた美術教師、通称「野だいこ」。

個性的な教師に抵抗感を持つ坊っちゃんが、勝手に付けた皮肉満載のあだ名です。その中でも唯一同じ数学教師の「山嵐」とは多少なりとも親しくなります。下宿先は彼に手配してもらいました。

田舎の教員になって気づいたのは、世間は狭く、人々が幼稚だということです。蕎麦屋で天婦羅蕎麦を4杯食べれば、翌日黒板に「天婦羅四杯也。」と悪戯書きされます。近所の風呂屋で泳げば、「湯の中で泳ぐべからず」と黒板に悪戯書きされます。

当初は生徒の幼稚な悪戯を相手にしていませんでした。しかし、悪戯は徐々にヒートアップしていき、ついに坊っちゃんは我慢できずに怒り狂い、学校に告発します。

ところが、「生徒の悪戯は教員の至らぬ部分も関係している」と教頭は最もらしいことを主張します。ごますり係の野だいこも教頭に便乗します。

途端に誰も意義を唱えなくなります。それどころか、生徒の目につく場所で軽率な行為をしないようにと、坊ちゃんの方が注意を受ける始末なのでした。

学園ドラマの鉄則
新任教師は、赴任当初は必ず生徒から姑息な悪戯を受ける。学校は問題を公にしたくないので、生徒を罰しない。

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③赤シャツの真の顔

教頭の「赤シャツ」にそそのかされた結果、坊っちゃんは一時的に「山嵐」との関係が悪くなります。生徒たちの悪戯は全て「山嵐」が裏で操っていると、「赤シャツ」にたぶらかされたのです。

しかし、全ては真っ赤な嘘でした。それどころか、「赤シャツ」はこのような陰湿な方法で、教員たちを牛耳っていたのです。

例えば、坊ちゃんの下宿先のお婆さんが言うには、「赤シャツ」は「うらなり」の婚約相手を略奪したようです。挙句、邪魔になった「うらなり」を転勤させる始末です。

さらには「うらなり」の席が空いた分、坊ちゃんの給料を上げるという条件を持ち出して、「赤シャツ」は坊ちゃんを自分の味方に付けようとします。坊ちゃんは正直な性格です。汚い手に加担するつもりはないため、昇給の話は断りました。

「うらなり」の送別会の日、坊ちゃんと「山嵐」は、事前に2人で相談します。正義感の強い2人は、何とかして「うらなり」の無念を晴らしてやりたいと考えているのです。

ここから、坊ちゃんの「赤シャツ」に対する復讐劇が始まります。

学園ドラマの鉄則
大概、教頭が姑息な悪役。なぜか校長は正義とも悪ともつかない、優柔不断で意思のない立場をとる。

④赤シャツの陰謀

「うらなり」の送別会にて、「赤シャツ」がある芸者と耳打ちする様子を目にします。

周囲には品性だの精神的娯楽だの、厳しく取締る「赤シャツ」です。彼が芸者と馴染みがあるとなれば、復讐の糸口になるに違いありません。坊ちゃんと「山嵐」は、「赤シャツ」が芸者といるタイミングを狙って問い詰める作戦を計画します。

とある式の日、生徒を牽引している最中に、中学校と師範学校の生徒が喧嘩を始めます。その時ばかりは大ごとにならずに済みましたが、後ほど再び喧嘩が勃発します。

喧嘩の仲裁に入った坊ちゃんと山嵐は、後日新聞に取り上げられます。彼らが中学生と師範学生の喧嘩を指揮し、生徒に暴力までふるったとデタラメの記事が掲載されたのです。

これも全て「赤シャツ」の仕業です。それと言うのも、彼がわざと2人に喧嘩を仲裁させ、自ら記者にデタラメの情報を流したのです。「うらなり」追放の件に歯向かった2人を学校から追放しようと企んでいるのです。

結局「山嵐」のみ辞職を迫られます。坊ちゃんは単純な性格であるため、追放する価値がないと判断されたようです。

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⑤復讐劇

一連の赤シャツの指金に耐え兼ねた2人は、温泉街の宿の2階に身を潜めて、「赤シャツ」が芸者といる瞬間を捕らえることに専念します。

しかし1週間見張りを続けても、なかなか決定的瞬間を押さえることは出来ません。

8日目には坊ちゃんは卵を8つ買って、いつものように偵察を始めます。

夜の10時を過ぎた頃、遂に「赤シャツ」と「野だいこ」が温泉街の宿にやって来ます。

明け方まで坊ちゃんと「山嵐」は待ち続け、朝の5時に彼らが宿を出たタイミングで、その後を追いかけて問い詰めました。

言い訳がましい彼らを前に、決定的な証拠などどうでも良くなった2人は、ほとんど感情的に卵を投げつけたり、ゲンコツを食らわせたり、これまでの因縁を晴らすのでした。

「警察に連絡するならしろ」と彼らに告げて立ち去りましたが、結局2人の元に警察がやって来ることはありませんでした。

復讐を遂げた坊ちゃんは、不浄な地を離れ、東京に帰ります。そして、鉄道の技手に転職し、家を構え、清を雇って暮らしました。

残念なことに今は既に清は肺炎で亡っています。清の願い通り、彼女の骨は坊ちゃんの御寺で埋葬されたようです。

そして物語は幕を閉じます。

個人的考察

個人的考察-(2)

学園ドラマ定番のキャスト構成

本作『坊っちゃん』の魅力は個性的な登場人物でしょう。

いわゆる現在でも頻繁に使われる、連続ドラマの定番キャスト構成になっています。大衆が喜ぶこの手のベタな法則を築き上げたのは夏目漱石だったのかもしれません。

まず、「主人公は無鉄砲で正直で正義感が強い」、これは外せない特徴です。頭から腐った組織に、突然無頼な男がやって来て、既存の仕組みに楯突く。我々が何度目にしても飽きない黄金の設定です。

そして、「悪役は知的でずる賢くて陰湿」、まさに「赤シャツ」です。彼は東京大学文学部出身のインテリ教頭です。いわゆるエリートで地位も高く、教員たちを牛耳る存在です。そして頭が良いため、証拠を残さない陰湿な方法で悪事を働きます。この手の物語はなぜか校長が意見や決断力を持たないため、その一つ下の教頭が出しゃばりますよね。インテリで陰湿な悪役を、無鉄砲で真っ直ぐな主人公が成敗する、これだけで大衆ドラマの骨組みが完成です。

頭から腐った組織にも、1人くらいは主人公に協力的な仲間が存在するものです。まさに「山嵐」が最後まで坊ちゃんの復讐に協力してくれました。

ちなみに作中で、「江戸っ子は負けず嫌い、会津っぽは強情」という表現が出て来ます。江戸生まれの坊っちゃんと、会津生まれの山嵐がお互いを冗談で揶揄し合う場面です。これは当時の時代背景が反映されたジョークです。明治維新において、江戸と会津は幕府側として最後まで討幕を食い止めようとした藩です。そのため、お互いの出身を「負けず嫌い、強情」と冗談で表現し合っているのです。

キャストは他にも、赤シャツの金魚の糞としてごまをすってばかりいる「野だいこ」や、「赤シャツ」の目の敵にされる気の弱い「うらなり」などが登場します。

これらの個性的な登場人物の相関図は普遍的ですね。無知だが人情的な主人公が、私欲に塗れた権力者をギャフンと言わせる構成は、元来日本人が好きな設定なのでしょう。大河ドラマ、月9、「半沢直樹」なんてのはこの類の典型だと思います。

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「江戸時代」VS「明治時代」の裏設定がある!?

以上のように、連続ドラマの鉄板の構成が使われた大衆作品でした。

しかし、夏目漱石が「単純に面白いだけ」の娯楽作品を書くわけがありません。彼の作品には必ず、彼が生きた頃の時代背景が含まれています。

例えば、代表作『こころ』では、明治時代を生きた人々が、明治の終わりとともに抱えた喪失感が裏テーマとして描かれていました。

一方、『坊っちゃん』では、江戸時代から明治時代への変遷が、裏テーマとして描かれています。

主人公である坊ちゃんは江戸出身です。そして、下女の清は、いわゆる討幕によって没落した元貴族の女中だったわけです。また、坊っちゃんが赴任作で唯一協力し合った戦友「山嵐」は会津出身でした。

このように本作で正義として描かれる登場人物はいずれも、江戸時代に幕府側に従事していた存在なのです。

一方、本作で全ての悪事を司っていた「赤シャツ」は旧帝国大学、現東京大学の卒業生でした。まさに、明治時代になって新たに創設された教育システムの象徴です。

ともすれば、坊っちゃんと赤シャツの対決は、江戸時代的な旧思想と、明治時代の新思想の衝突を意味しているのだと考えられます。

江戸時代の武士たちの精神に、「敵討ち」という美学があります。まさに坊っちゃんと山嵐は、婚約者を略奪された挙句、左遷まで食らった「うらなり」の敵討ちを決行したのです。

対する明治を象徴する帝大出身の赤シャツは、権力によって学内を支配しています。明治と言えば、日清日露の戦争によって日本が列国に肩を並べ、急激に世界の中で権力を築き上げた時代です。要するに、この江戸と明治の思想の衝突は、「人情という旧思想」と「権力という新思想」の戦いを表現していたのだと思います。

ちなみに、坊っちゃんの敵討ちは成功したように見えましたが、結局彼は土地を離れる羽目になりました。前時代的な暴力で盾付いたものの、学内の構造自体を変革させることはできず、ある意味逃げるように帰京したのです。新時代の権力の前では、義理人情なる精神は意味を為さなかったということです。

こうして、江戸の精神は敗北し、明治の新しい概念が時代を席巻したことを、大衆的な物語に乗せて表現していたのではないでしょうか。

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