カフカ『変身』あらすじ解説 毒虫の正体と変身の意味を考察

change ドイツ文学

フランツ・カフカの小説『変身』は、近代ドイツ文学の金字塔です。

不条理文学の傑作として、カミュの『ペスト』と並んで評価されています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

映画作品の鑑賞方法もお伝えします!

目次

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『変身』の作品概要

作者フランツ・カフカ(40歳没)
ドイツ
発表時期1915年
ジャンル中編小説
テーマ人間界の追放、
不条理、
父子の対立

『変身』あらすじ

あらすじ

外交販売員のグレーゴルは、目覚めると巨大な害虫に変身していた。

職業柄、多忙で不摂生な生活を続けているせいで、気が動転しているのかと考える。だが夢でも幻覚でもなく、確かに彼は害虫に変身していた。その姿を見た家族は恐怖と混乱に包まれる。それ以降、自室に隔離され、唯一幼い妹だけが、食事を届けたり部屋を掃除してくれていた。

ある時、母が唐突にグレーゴルの姿を目にし、パニックで気絶する。事態を悪く捉えた父はリンゴを投げつけ、グレーゴルは大怪我を負った。その後も、良かれと思った行動が仇となり、グレーゴルは心身ともに消耗していく。

家族の方もグレーゴルの存在によって疲弊していく。痺れを切らした家族は、グレーゴルの追放を決心する。だがその頃には既に、グレーゴルは怪我と飢えによって死んでいた。

グレーゴルが死んだことで、家族は新たな生活の希望を見出すのだった。

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『変身』の個人的考察

個人的考察

「変身」は不完全な作品!?

巨大な害虫に変身するというユーモラスな理不尽が印象的な本作。しかし、実際は物語のほとんどが謎に包まれた奇妙な作品です。

まず、主人公グレーゴルが虫に変身した理由が一切明かされません。

目覚めると虫になっていた」という唐突な展開以外、確固たる理由どころか、暗示のようなものすら描かれません。「不条理文学」と称されるだけあって、まさに何の因果もなく虫になってしまうという、恐ろしい不条理のみが綴られているのです。

あるいは、周囲の人間がグレーゴルの変身に対して、それほど不審に思わない点も奇妙です。もちろん、巨大な害虫という容姿に対する嫌悪感は散々綴られますが、グレーゴルが虫になったことに対しては、ほとんど当然のように受け入れて物語が進行します。

これらの違和感に対して作者は次のように述べています。

とても読めたものではない結末、ほとんど細部にいたるまで不完全だ。出張によって妨げられなかったら、もっといいものができていたであろう。

『日記/フランツ・カフカ』

実際に、カフカが『変身』を執筆していた頃は、過酷な労働に時間を割かれ、あまり文学に費やすことができなかったようです。そのため、細部において解決しない部分、蟠りを残したままの部分が多く含まれているのです。

また、カフカは『変身』の出版に際して、扉絵に昆虫のイラストを描くことを断じて許さなかったそうです。この点から考えると、害虫に変身するというユーモラスは、単に童話的な変身ではなく、一種の観念的なメタモルフォーゼを意味しているのではないかと推測されます。

グレーゴルの変身は現実逃避!?

変身した理由が明かされないため、これまで様々な憶測が飛び交ってきました。

その中で有力なのが、現実逃避による人間生活の離脱です。

グレーゴルは外交販売員として、あくせく働いていました。それと言うのも、両親が事業で失敗し借金を背負ったため、自分が働かなくてはいけなかったのです。

しかし、グレーゴルは自らの職務に対して不満を抱いていました。過酷な労働を強いられ、人間関係を築く前に各地へ飛ばされ、少しでもサボったら嫌疑をかけられる、そんなサラリーマンの生活に飽き飽きしていたのです。もし両親の借金さえなければとっくに辞表を出しているとさえ綴られています。

主人公グレーゴルの境遇は、作者カフカと重なる部分があります。カフカはユダヤ人であるために、世間に歓迎されない民族というアイデンティティを幼少の頃から持っていました。そして、ユダヤ人という阻害された種族は、子供の頃から大人同様に労働を強いられる運命にあったのです。

カフカの父親はユダヤ人として商売に成功した一人だったので、カフカ自身も保健局の役人と執筆を両立しながら生活を送ります。それでも、『変身』を執筆していた頃は、午前は保健局、午後は父親の仕事の手伝いによって、文学に時間を割く暇がなく、かなり葛藤していたようです。

ひいては、当時のカフカの多忙、ないしはユダヤ人の過酷な労働を強いられる運命が本作のテーマであると考えられます。そしてグレーゴルの変身は、そういった過酷な運命から逃れるための、一種の現実逃避の意味合いが含まれていたのではないでしょうか。

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変身したのは父親との因縁から!?

変身したグレーゴルに対する疎外を象徴するのは、やはり父親の存在でしょう。

少なからず妹や母親はグレーゴルを気にかけていました。しかし父親は終始グレーゴルに対して敵意を示しています。実際に、グレーゴルが死に至った原因は、父親によるリンゴ襲撃でした。

他には、安楽椅子に座り込んだ頑固な父親が、母や妹を屈服させるような描写が必要以上に綴られています。

作者であるカフカ自身も、実の父親と対立していたようです。

横暴な父親に対して、母親は息子を守るよりも、父に従事することを優先したため、カフカは自然と父親の権威に丸め込まれて育つことになりました。あるいは、幼少の頃から両親とほとんど時間を共有することがなかったことも相まって、カフカは内向的な性格の人間へと形成されます。

つまり、家庭内における疎外感をカフカは感じていたのでしょう。もう一歩踏み込むと、ユダヤ人であることの疎外感も彼の内側に存在したと思われます。

ともすれば、グレーゴルが害虫に変身したことの真意とは、自らが感じた家族や社会における疎外感だったのではないでしょうか。

それは自らに原因があるわけではなく、偶然その家庭に生まれたから、偶然ユダヤ人として生を受けたから、という理不尽な境遇なのです。グレーゴルがある日目覚めると、理由もなく巨大な害虫に変身するのと同様に、カフカにとっては多くの疎外感が不条理そのものだったのでしょう。

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