宮沢賢治『なめとこ山の熊』あらすじ解説 資本主義の殺生問題

なめとこ山の熊 散文のわだち

宮沢賢治の『なめとこ山の熊』は、『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』と並ぶ人気作品です。

資本主義や殺生問題に対する賢治の痛烈なメッセージが落とし込まれています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

おすすめ代表作や、映像作品も紹介します。

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『なめとこ山の熊』作品概要

作者宮沢賢治(37歳没)
発表時期  1934年(昭和9年)  
ジャンル童話
テーマ殺生問題
資本主義に対する問題提起
収録作品集『注文の多い料理店
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『なめとこ山の熊』あらすじ

あらすじ

なめとこ山の麓に小十郎という猟師がいました。十分な畑を持っておらず、熊を撃つしか家族を養う道がありませんでした。本当は熊に申し訳ない気持ちでいっぱいで、胸を痛めながら肝と皮を担いで帰るのでした。

熊の肝と皮は安値でしか売れません。荒物屋の主人がずるいのです。生活がかかっている小十郎は、それが不当な値段と分かりながらも、仕方なく受け入れるのでした。

ある日、小十郎が熊を撃ち殺そうとすると、何が欲しくて自分を殺すのだ、とその熊に問われます。手厳しい質問に対して、小十郎は熊を殺すよりも自分が飢えて死んだ方がいいような気がしてきます。するとその熊は2年間だけ殺すのを待ってほしいと懇願してきます。それを聞いた小十郎は切なくなって見逃しました。すると2年後、本当にその熊は小十郎の家の前で死んでいたのでした。

小十郎は猟が嫌になったと母に弱音を吐いてから、山に出かけて行きました。すると不意に熊に襲われます。小十郎は心の中で熊に懺悔しながら死んでいくのでした。多くの熊たちに弔われた小十郎の死顔は、笑っているように見えたそうです。

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『なめとこ山の熊』個人的考察

個人的考察

殺生問題のしがらみ

食肉に関する思想を持っていた宮沢賢治は、殺生問題を題材にした作品を多く残しています。ところが本作は、他とは異なる独特な観点で描かれています。それは主人公が猟師である点に関係しています。

例えば『注文の料理店』の場合であれば、西洋風の紳士2人は、スポーツとしての狩猟を楽しんでいました。人間の娯楽による殺生などは、賢治が最も忌み嫌う行為でしょう。

一方で、『なめとこ山の熊』の小十郎は、職業としての猟師です。生活のためには熊を殺す他なく、それをやめてしまえば自分や家族が死ぬことになるのです。

「熊。おれはてまへを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめへも射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめへも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ」

『なめとこ山の熊/宮沢賢治』

自分が生きるためには他者の命を奪う必要があり、他者の命を尊重すれば自分の命を失うことになる。食を考える上で決して逃れることのできないしがらみに、小十郎は絶えず悩んでいたようです。

小十郎は熊を殺すことに対して罪悪感を抱いていました。できることなら罪悪感が伴わない他の職業に就きたいとも考えています。あるいは、小十郎と熊は対立関係にあるわけではなく、お互いが非常に近く親しい存在として認め合っています。熊は小十郎のことが好きだったと記されています。小十郎も、熊の言葉が分かるようになるくらい心を傾けていました。

悪意や娯楽や人間のエゴによって必要以上に命を奪う行為であったなら、正面から批判的に描くことができたでしょう。ところが小十郎の場合は、殺生に対して真剣に向き合っています。逃げることも叶いません。そんな彼の葛藤を単純な大儀で断罪できるはずがありません。

以上のように、職業猟師の苦悩という観点から殺生問題にアプローチする、賢治にしては少し珍しい物語でした。

資本主義がもたらす闇

本作には、資本主義の構造に対する警笛も綴られていました。

ここでは熊は小十郎にやられ小十郎が旦那にやられる。旦那は町のみんなの中にいるからなかなか熊に食われない。

『なめとこ山の熊/宮沢賢治』

荒物屋の主人は、小十郎の生活が苦しい事を知っているため、足元を見て不当な値段で交渉していました。これは資本主義による金銭の搾取を意味するでしょう。

あるいは山で狩猟する小十郎は、自分も殺されるリスクを背負っていますが、荒物屋の主人は決して自分の身が危険にさらされることはありません。これも資本主義による肉体の搾取を意味するでしょう。

そもそも小十郎が熊を殺さなくてはならない根本的な原因は、十分な資源や機会を有していないことでした。これは資本主義における持つ者と持たざる者の格差であり、持たざる者は望まない労働を強いられるわけです。

また本作は、第三者が物語を話している、というメタフィクションの手法で描かれています。

僕はしばらくの間でもあんな立派な小十郎が二度とつらも見たくないようないやなやつにうまくやられることを書いたのが実にしゃくにさわってたまらない。

『なめとこ山の熊/宮沢賢治』

ある種、この第三者の主張は賢治そのものの声であるように感じます。善良な小十郎が搾取される様子を書きながら、自ら激しい憤りを感じて、そのまま文章に落とし込んでしまったように見えます。

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命を提供するということ

ある時、小十郎は撃とうとした熊に、殺生の理由を問われます。

「おまえは何がほしくておれを殺すんだ」

なめとこ山の熊/宮沢賢治』

手厳しい質問をぶつけられた小十郎は、命の価値について考えます。熊の肝と皮があまりに安価に扱われていることを思うと、小十郎は殺生の理由を失います。つまり、自分が飢えて死ぬ方が正当な気がしたのです。

ところが熊は2年の猶予を求めたのちに、本当に自らの命を小十郎に提供します。

一般的に熊が子供を産んで、子離れするまでが2年と言われています。おそらく熊が「し残した仕事がある」と言って2年の猶予を求めたのは、生物として子孫を残すという使命が残っていたからでしょう。

生物としての使命を果たした熊は、死後に安価に扱われると知りながら命を無償で人間に提供しました。それは小十郎の背後に家族がいることを悟っていたからではないでしょうか。熊は小十郎によって2年間生かされ、その間に生物の役割を終えました。それ故に役割を終えた命を、小十郎の家族を生かすために提供したのかもしれません。

この熊の行為は、殺生の正当さや、道徳的な生悪を超越した部分で、生命の循環を担ったことになります。とは言え、やはりこの生命の循環は人間優位な考えです。小十郎は与えられるばかりで、自分は熊に何も与えていないのです。小十郎が猟を辞めたいと母に弱音を吐いたのは、その所以でしょう。

小十郎の笑顔の理由

熊に殺された小十郎の死顔は笑顔に見えたと記されていました。ともすれば、小十郎は熊に殺されることを望んでいたと考えられます。

自ら命を提供する熊の行為は、確実に小十郎に大きな影響を与えました。前述の通り、与えられるばかりの人間優位な関係に悩み苦しんでいたのでしょう。

小十郎が猟を辞めたいと嘆いたとき、母親は笑っているような泣いているような表情でした。それは息子が殺生の苦しみから解放される喜びと、死別への悲しみによるものではないでしょうか。つまり、この日の小十郎は、自らの命が熊に殺されることを悟っていたのかもしれないのです。

とは言え、熊は大型動物を捕食しないため、小十郎の死が熊の役に立つとは考えにくいです。あえて小十郎の死が与える恩恵を深読みするなら、これ以上なめとこ山で殺生が行われないということでしょう。片方が生きるためには片方が死ぬ、というしがらみが解消するわけです。

それ故に小十郎の死顔は笑っていたのではないでしょうか。何より自分が殺生の苦しみから解放された喜びも大いにあったことでしょう。

死によって現世の苦しみから解放されるという仏教的思想が感じられます。

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