ドストエフスキー『貧しき人々』あらすじ考察 デビュー作を徹底解説

貧しき人びと1 ロシア文学
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ドストエフスキーの小説『貧しき人びと』は、彼の記念すべき処女作です。

「新しいゴーゴリが現れた」と称賛され、一夜にして文壇に名を馳せることになりました。

『貧しき人びと』作品概要

作者ドストエフスキー(59歳没)
ロシア
発表1846年
ジャンル長編小説
書簡体小説
テーマ貧困生活の苦しみ
ヒューマニズム
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『貧しき人びと』あらすじ

あらすじ

初老の小役人マカールと、少女ワーレンカとの間で交わされる往復書簡で構成される。

ワーレンカの父は事業に失敗して気性が荒くなり、その後病気になって死んでしまった。残されたワーレンカと母は、債権者に家や土地や家具を全て奪われた。二人は遠い親戚に引き取られたが、そこでは酷い虐めを受ける羽目になる。母の死後ワーレンカは、フェドーラという婦人のアパートで極貧な生活を送っている。

そんなワーレンカを、小役人マカールは娘のように慕っていたが、彼自身も極貧であり、自分の生活を犠牲にしてでもワーレンカに贈り物をしていた。マカールは、貧困そのものに苦しむ以上に、ボロを纏った身なりのせいで周囲に嘲笑され軽蔑されることに最も苦しんでいた。一時は酒に酔い、破滅しかけたりもした。それでも彼は、愛しいワーレンカに尽くし、彼女が幸福であることが、彼にとっても一番の幸福なのであった。

最終的にワーレンカは、陰険な地主ブイコフと結婚することになり、マカールの元を去っていく。彼は必死にワーレンカを引き止め、自分がどれほど彼女を愛おしく思っているかを伝えるが、その手紙を最後に、往復書簡は打ち切られるのであった。

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『貧しき人びと』個人的考察

個人的考察

華々しいデビュー作

世界文学の中で大きな位置を占める、ロシアの大文豪ドストエフスキー。彼の作品なくして、文学の歴史を語ることは不可能である。

しかし、後年の大作『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』『白痴』等に行き着くまでに、ドストエフスキーの人生は非常に紆余曲折があった。

工兵局に勤めていたドストエフスキーは、仕事の傍らで文学への情熱に駆り立てられていた。23歳の頃にはバルザックの著書を翻訳し、そこから彼の作家人生が始まる。

処女作である『貧しき人びと』は、一夜にして無名の青年を有名にした。「第二のゴーゴリ」と称賛され、華麗なデビューを飾ることになった。半ば見くびっていた評論家も、本作を読んだ途端ドストエフスキーを呼びつけ、「偉大な作家になるだろう」と太鼓判を押したほどだ。

こうして偉大な作家への進路を歩み出したと思われたドストエフスキーであるが、次いで発表された作品たちは評価されなかった。おまけに革命思想のサークルに参加していた彼は、逮捕され、死刑宣告を受ける。結果的に死刑執行の直前に減刑になり、なんとか死を免れた。

この強烈な体験は、『死の家の記録』という作品に直接影響を与えているので、ぜひチェックしていただきたい。

こうした体験を経て、ドストエフスキーの作風に大きな変化が生じる。転換期の作品として重要なのが、地下室に引き篭もった無職の男を描いた『地下室の手記』である。後年の長編大作を読む上でも鍵となる作品なので、ぜひ読んでいただきたい。

転換後の作品は、「社会や理性への信頼を喪失した人間の深い闇」というテーマが強い。

しかし初期のドストエフスキーの作品はどちらかというと、ヒューマニズムの傾向がある。本作『貧しき人びと』は、まさに「写実的ヒューマニズム」と称賛された作品である。

以上の背景を踏まえた上で、物語を考察していこうと思う。




愛すべき卑屈なマカール

本作にはまるで物語が存在しない。初老のマカールと少女ワーレンカが、手紙を通して不幸な身の上話に嘆くばかりである。

どちらの人物に感情移入するかは読者によって異なると思うが、個人的にはマカールの「愛すべき卑屈ぶり」が作品の魅力だと感じる。

小役人のマカールは、いわゆる校閲のような仕事を行っている。取り立てて学があるわけでもなく、ただ品行方正に仕事をこなし、しかしその内情は貧困と孤独に喘いでいる。周囲からは軽蔑されているし、マカール本人も自分は軽蔑されるべき人間だと思っている。まるで自尊心が損なわれているのだ。

ともあれマカールは人目に付かぬようひっそりと暮らし、ただワーレンカを慕う気持ちだけを糧に生きている。ところが生活が困窮するごとに、マカールはどんどん卑屈になっていく。

マカールの卑屈ぶりは、世間の人間に対する陰口のような形で発揮される。

例えば、小説を書くような人間を扱き下ろし、最終的には小説など嘘を本当らしく書いているくだらないものだと非難する。それと言うのも、校閲を担うマカールは小説家から見下されており、その鬱憤が溜まっていたのだ。それでいてマカールは、小説家になった自分を妄想したり、自分の文章に型を見出そうとする。かと言ってワーレンカに詩を書くことを要求されれば、謙遜して断ってしまう。

いわばマカールは、自身の情熱や美的感覚を持て余し、それを表現することに気後れを感じているのだ。その臆病さを周囲から嘲笑され、貧困も相まって卑屈になっているわけだ。

この手の「愛すべき卑屈な人間」を書かせたら、ドストエフスキーの右に出る者はいない。

結局マカールは、実際的な貧困に加えて、精神的な貧困に陥っているのだ。精神的な貧困とは、自尊心の喪失である。周囲の目ばかりが気になり、そのせいで臆病になって何事にも一歩踏み出せないのだ。

実際にマカールが、どれほど精神的に困窮していたのかは、次章で詳しく解説する。

精神的な貧困の苦しみ

わたしを破滅させるのはお金ではなくて、こうした浮世の気苦労なんですよ

『貧しき人びと/ドストエフスキー』

マカールが苦しんでいた浮世の気苦労とは、つまり世間体や周囲の目のことである。

マカールは貧困ゆえに、新しい服や靴を買う金がなかった。そのためボタンが取れかけた服や、穴の空いた靴を履いていた。こういったボロを纏っているせいで、周囲から軽蔑され、いずれ仕事を含む何もかもを剥奪されるのではないかとマカールは懸念していた。

借金を断られたり、ワーレンカとの関係が周囲にバレたり、仕事で些細なミスをおかしたり、そういった場面で、マカールは周囲の目が異常に気になる。ボロを纏っていることへの気後れのせいだ。もっとマシな身なりなら、借金を断られず、ワーレンカとの関係にも堂々とでき、仕事のミスも取り沙汰されない、と思っていたのだろう。だからマカールは常にびくびくしながら過ごしていた。その屈辱から、マカールは周囲を心の中で毒突き、すっかり卑屈になっていたのだ。

結局ドストエフスキーが訴えていたのは、金銭的な貧困は、生活上の貧しさ以上に、心の貧しさを引き起こすということだろう。靴に空いた穴は、心にも大きな穴を空け、その穴から羞恥心や気後れがどんどん流れ込んでくるのだ。

その事実を裏付けるように、職場の閣下に金銭的な恵みを与えられたマカールは、急に自尊心を回復する。周囲の軽蔑が実は勘違いだったと思う始末である。

貧困とは必ずしも金銭的な貧しさだけを指すのではないのだ。つまり、タイトルに記される「貧しき人びと」とは、文字通りの貧しさ以外にもっと、人間の尊厳に纏わる意味が込められているのだろう。




自己犠牲の美しさ

金銭的にも精神的にも困窮した「貧しき人びと」だが、しかし彼らが唯一失わなかったのは自己犠牲である。

マカールはいくら生活に首を絞められ、周囲に軽蔑されても、ワーレンカに対する愛情と贈り物を欠かさなかった。あるいは裁判沙汰で家族を養えなくなった友人が訪ねてきた時には、なけなしの金を友人に渡してしまう。

こういった自己犠牲はワーレンカも同様だ。父親の死後に遠い親戚に引き取られたワーレンカは、その家で書生と出会う。書生の父親は幾分か放蕩の癖があり、息子に軽蔑され、いつもビクビクしていた。そんな書生の父親は、息子への名誉を取り戻すために、誕生日にプーシキンの詩集をプレゼントしようと企む。しかしお金がない父親は、ワーレンカに大半のお金を出してもらい、二人で一緒にプレゼントすることになる。だが最終的には、ワーレンカは自分の名を伏せて、父親のみからのプレゼントというていにする。自分よりも、書生の父親の尊厳回復を優先させたのだ。

このように、貧しい人間ほど利害を気にせず、自己犠牲で他人を優先してしまうのだ。一方で裕福な者ほど、貧しい者からの借金に担保を要求して貸し渋ったりする。

はっきり言えば、貧しい者ほど心優しいという言説は、ヒューマニズムが過ぎる気もする。どちらかというと、自分が貧しい故に、他者の惨めな境遇が見ていられないだけなのだろう。それでも愛し合うゆえに自己犠牲で相手に尽くすマカールとワーレンカはやはり美しい。

しかし最終的にワーレンカは地主の男に奪われる。そういう意味ではヒューマニズムの無力さを感じざるを得ない。

そう、ヒューマニズムは現実では無力なのだ。だからこそ、ドストエフスキーの後の作品は段々と、社会や理性に対する信頼を失い、もっと深い部分に潜っていくことになる。あるいは宗教的な救いが大きなテーマになっていく。

そういう意味でも、本作はドストエフスキー文学の出発点に過ぎない。ヒューマニズムの生ぬるさに違和感を覚えた人は、ぜひこの先に待ち受ける作品群に手を伸ばしていただきたい。

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