太宰治『斜陽』あらすじを解説|太田静子の日記を題材にした最高傑作

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散文のわだち

太宰治の小説『斜陽』は、『人間失格』と並ぶ代表作です。

戦後GHQの農地改革によって、没落した貴族の人生が描かれています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者太宰治(38歳没)
発表時期  1947年(昭和22年)  
ジャンル長編小説
ページ数244ページ
テーマ没落貴族
恋と革命
道徳の過渡期の犠牲者

あらすじ

あらすじ

貴族出身のかず子は、敗戦後の華族制度廃止によって没落貴族になった。

慣れない貧困に疲弊する上に、母親の病状は悪化し、おまけに戦地から帰還した弟はアヘン中毒で破滅寸前であった。

かず子の唯一の希望は、弟の直治が親しく付き合う小説家・上原の存在だった。数年前に一度だけ顔を合わした際に、かず子は上原にキスをされ、それ以来彼に対する想いが募っていた。上原には妻子がいるのだが、かず子は愛人として彼の子供を望むようになる。

人間は恋と革命のために生まれてきた。そう信じるかず子は、母親の死後、強い決心によって上原に会いに行き、その夜に肉体の交わりを成就させる。同じ頃、弟の直治は自殺していた。弟の遺書には、彼がある人妻に恋していた事実が記されていた。

一夜の交わりの後、かず子は上原に捨てられた。だが子供を授かった彼女は、その子供を育てることで革命を完成させるのだと誓う。そして上原への最後のお願いとして、生まれてくる子供を弟の隠し子というていで、彼の妻に抱いてもらおうと考えるのだった。

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個人的考察

個人的考察-(2)

物語の時代背景

本作『斜陽』の物語を理解するには、執筆当時の時代背景を知る必要がある。

時はポツダム宣言を受諾した敗戦後である。GHQに統治された日本は、農地改革が発表され、華族制度が廃止された。それまでの日本では、土地を所有する地主が支配層に立ち、小作人を奴隷的に働かせる構造が取られていた。だが農地改革によって地主は土地を手放すことになり、多くの貴族が没落の運命を辿ったのだ。

貴族出身のかず子と母親が伊豆の山荘で侘しく暮らしているのは、こうした歴史的背景が原因である。

ちなみに太宰も他人事ではなかった。彼も地主の息子だったからだ。太宰は改革によって生家が寂れていく様子を見て、ロシア貴族の没落を描いたチェーホフの『桜の園』を想起した。そして、生家の没落を題材に、日本版『桜の園』とも言える本作『斜陽』を執筆したのだ。

執筆に際して、太田静子という女性が重要な題材になっている。彼女は主人公「かず子」のモデルになった女性だ。

静子の弟が熱心な太宰の読者で、その影響で彼女は太宰に日記風告白文を送りつけ、それを機に太宰と静子は交流を持つ。『斜陽』の物語は、静子の日記が題材になっている。日記の内容がそのまま使用されている箇所もある。

これらの交流を通して静子は、妻子持ちの太宰に恋し、愛人として子供を授かることになる。『斜陽』の物語の展開が、当初イメージしていたチェーホフの『桜の園』から外れ、かず子と上原の関係に焦点が当てられたのは、静子が妊娠した出来事に影響されたと言われている。

以上の時代背景・執筆背景を踏まえた上で、物語を考察していく。

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最後の貴婦人が意味すること

物語を二分割するなら、前半が「最後の貴婦人の物語」、後半が「かず子の闘争の物語」だ。

まずは「最後の貴婦人」について考察する。

最後の貴婦人とは、かず子の母親を指す。だが母親の言動は、一般的な貴族のイメージとはかけ離れている。食事の作法も間違っているし、立ち小便をする場面もあった。だが、かず子はそういった母親の言動をこそ、真の貴族だと主張している。反対に気取った振る舞いをしたがる人間は、本当の貴族とは言えないらしい。

それはつまり、母親がいかに世間知らずであるか、を言い表しており、かつての日本では貴族の女性は世間を知らなくても生きていけた、という事実を訴えているのだろう。

そういう意味で、世間知らずの母親は、純粋な貴族だったわけだ。

ところがGHQに支配された敗戦後の日本では、貴族は没落の一途を辿り、生き残るためには世間を知る必要があった。それは例えば、金銭感覚や、生計を立てる手段を知る必要性である。貴族の女性は自分の力で生活した試しがない。実際にかず子の母親は、お金の知識がまるで無かった。だから叔父に言われるがまま伊豆の山荘に引っ越し、されど、どうやって生活を遣り繰りすればいいのか分からなかったのだ。

だが幸か不幸か、母親にはあまり寿命が残されていなかった。貴族のアイデンティティを捨てて、泥臭く生きていく前に、彼女には死が訪れたのだ。それゆえに彼女は貴族のまま死ぬことができた。そういう意味で、母親は「最後の貴婦人」なのである。

一方で、かず子や直治は違う。彼らは新しい時代を生きていかねばならない世代だ。母親みたく貴族のアイデンティティを貫いたままでは生きていけない。それが後半の「闘争の物語」へ展開していく所以である。

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かず子が上原に恋した理由

ここからは、新しい生き方を迫られた、かず子と直治の闘争について考察する。

結論から言うと、かず子は新しい時代を生きる決意をし、直治は自ら命を絶った。それは古い道徳を捨てることができた姉と、捨てきれなかった弟の対照的な運命が表れている。その運命を左右したのは、恋の問題だった。

まずはかず子の話から始めることにしよう。

かず子は作家の上原と禁断の恋をしていた。上原には妻子があったのだ。実はかず子は離婚を経験しており、それは彼女が別の妻子持ちの男と関係を持っているという噂が原因だった。事実は不明だが、一つ分かっているのは、高貴な身分の女性が不貞を働くのは世間体が悪いということだ。かず子の母親も、妻子持ちの男との恋が叶うわけない、と作中で主張している。

それにも関わらず、かず子は上原との恋を成就させるための闘争を開始する。それは、古い道徳(貴族としてのアイデンティティ)を捨て、自分は新しい時代を生きていくのだ、という決心の表れとも言える。

人間は恋と革命のために生れて来たのだ。

『斜陽/太宰治』

かず子の決心は、作中のこの言葉に象徴されている。

そもそもかず子はなぜ上原に恋したのか。

それは上原の生命力を欲したからだろう。かず子と違い、上原は農民の出身であり、百姓特有の生命力・生活力を持っている。それはかず子の一族にはないものであり、だからこそ彼女は上原の子供を産みたいと考えたのだろう。

かず子の革命を達成するには、上原の子を産む必要があった。それは生命力に満ちた百姓の遺伝を授かることで、純粋な貴族の血縁を断ち切るという目的があったのだと考えられる。

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なぜ直治は自殺したのか

姉さん。僕は貴族です。

『斜陽/太宰治』

これは直治の遺書に記された言葉だ。この言葉から分かる通り、直治はかず子のように貴族のアイデンティティを捨てることができず、貴族のまま死ぬことを選んだのだ。

直治は上原を含む生命力溢れる庶民と親しくする中で、酒に狂い、アヘン中毒になった。それは自らをどん底まで堕落させ、自分が貴族である事実を放棄するための、彼なりの闘争だったのだろう。

僕はただ、貴族という自身の影法師から離れたくて、狂い、遊び、荒んでいました。

『斜陽/太宰治』

だがいくら自分を堕落させても、ふとした時に周囲の人間が自分を「所詮貴族」という扱いをすることに苦しんでいた。いくら直治が自らを傷つけて彼らに歩み寄っても、どうしても埋められない壁があったのだ。

決定的に直治を自殺に追い遣ったのは、人妻への恋だった。作中では直治の虚栄心から、ある画家の妻という設定で語られるが、実際は上原の妻に恋していた。姉弟は同じ夫婦に恋をしていたのだ。

だが直治は、上原の妻との恋を成就させる決心ができず、自殺を選ぶことになった。これは叶わぬ恋の苦悩によって自殺したというよりは、古い道徳(貴族としてのアイデンティティ)を捨てられない失望感に殺されたと言える。

直治にはかず子のように、古い道徳を犯してでも生きていく強い心が欠落していたのだ。貴族としての道徳が彼を縛り付けていたのだろう。

作中では「道徳の過渡期の犠牲者」という言葉が使われる。まさしく、新しい時代の生き方に適応できず、古い道徳に縛られて死んでいった直治は、過渡期の犠牲者である。

かず子も直治も、新しい生き方を強いられる「道徳の過渡期の犠牲者」だった。かず子は古い道徳を断ち切ることで生き延び、直治は古い道徳に囚われ自殺した。

このように別々の道を辿った二人の運命は、タイトルの『斜陽』に表れている。

斜陽とは、夕刻の傾いた陽光のことである。それは正午の巨大な太陽よりも鋭く、光と影の差が最も大きく現れる。光と影が同居する斜陽の中で、ある者は生命力を燃やし、ある者は深い影の中に取り込まれてしまうのだ。

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映画『人間失格』がおすすめ

人間失格 太宰治と3人の女たち』は2019年に劇場公開され話題になった。

太宰が「人間失格」を完成させ、愛人の富栄と心中するまでの、怒涛の人生が描かれる。

監督は蜷川実花で、二階堂ふみ・沢尻エリカの大胆な濡れ場が魅力的である。

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