森鴎外『舞姫』あらすじ解説|教科書の代表作を現代語訳版で考察

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舞姫1 散文のわだち

森鴎外の処女小説『舞姫』は、教科書で馴染みのある明治文学の代表作です。

自身のドイツ留学の体験を元に創作された物語で、『うたかたの記』『文づかひ』と合わせてドイツ三部作と言われています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者森鴎外(60歳没)
発表時期  1990年(明治23年)  
ジャンル短編小説
ページ数35ページ
テーマドイツ留学の手記
西洋人との恋愛

あらすじ

あらすじ

日本に向かう船内客室で、豊太郎はドイツ滞在中に起きた悲劇を回想する・・・

役人に奉職する豊太郎は、官長の命令で法律を学ぶためにベルリンに赴いた。ひと時も娯楽に心を許すことなく、ひたすら学問に没頭する日々であった。

だが、ある日教会の前で美少女エリスと出会い、豊太郎の自制心は一気に解き放たれる。学問を投げ出し恋に夢中になったのだ。その様子を留学仲間が告げ口したことで、豊太郎は役人を免職され、留学費用が途絶えてしまう。それでも豊太郎はエリスと同棲を始め、新聞社で働いて生活費を工面する。やがてエリスは豊太郎の子供を身籠る。

エリート街道を外れた豊太郎だが、友人の紹介で大臣のロシア訪問に随行する機会が与えられる。元来優秀である豊太郎は、その働きぶりによって信頼を回復し、復職が約束され日本への帰国が決まる。それはエリスとの別れを意味していた。立身出世を優先するか、愛を優先するか。散々悩み苦しんだ挙句、豊太郎は帰国を決心する。豊太郎に捨てられたエリスは、裏切られた絶望からパラノイアを発症し、生まれてくる赤子のために用意したオムツを抱いたまま発狂するのであった。

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個人的考察

個人的考察-(2)

現代語訳版がおすすめ

『舞姫』の1番の難点はやはり文体である。

漢文調と和文調を組み合わせた古文形式であるため、口語体に慣れた現代人にはとっつきにくい。原文を読んで挫折した人も多いだろう。

そんな人には現代語訳版の『舞姫』がおすすめである。

筑摩書房出版の現代語訳版には、現代語訳と原文の両方が掲載されているので、非常に理解しやすい内容になっている。

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以上の問題を解決したところで、続いて物語の考察に入ろうと思う。

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負け知らずの超エリート森鴎外

森鴎外といえば、夏目漱石と肩を並べる近代文学の巨頭である。

だが漱石に比べて、鴎外に対してはネガティブな印象を抱く人も多いのではないだろうか。それは彼の作品から感じられる自尊心、根っからのエリート気質のせいだろう。

確かに本作『舞姫』にしても、悲劇的な恋愛を描いているが、どこかそんな自分に酔っている態度を隠しきれていない。あるいは学校教育で『舞姫』を習う際に、ドイツ人の恋人を捨てて自分の出世を優先した冷血なエリート、という印象を植え付けられたのかもしれない。

事実として森鴎外は、他の追随を許さぬほどの超エリートだった。島根県で医者の息子として生まれた鴎外は、9歳の時点で15歳の学力があったと言われほどの秀才だった。さらに規定より2歳若い年齢で東京大学の医学部に合格し、主席で卒業する。卒業後は帝国陸軍の軍医を務め、最終的には最高位である陸軍省医務局長まで昇り詰める。まさに負け知らずのスーパーエリートである。

陸軍省に入省した鴎外は、半年後にドイツ留学を命じられる。軍医を務める身として、西洋の前進的な衛生学を勉強する任務を課せられたのだ。五年間の留学を経て帰国した鴎外は、軍医学舎の教官と陸軍大学の教官を兼任する。まさに順風満帆の人生と言えよう。

同時に鴎外は、随筆を寄稿したり、海外文学を翻訳したり、文筆活動にも熱を入れていた。その流れで、ドイツ留学の経験を元に『舞姫』を発表し、芸術家としての名声も手に入れる。当時、欧州の情報が乏しい日本では、海外を舞台にした文学は異例であった。とりわけ日本人がドイツ人と恋愛関係になるなど、異例中の異例、読者に大きな衝撃を与えた。こうして芸術的才能を認められた鴎外は、歴史に名を刻む文豪になったのだった。

ちなみにドイツ留学の経験は、『うたかたの記』『文づかひ』でも描かれており、『舞姫』と合わせてドイツ三部作と言われている。

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エリス(エリーゼ)来日事件

しばしば我々は、『舞姫』の物語を森鴎外本人と重ねて考えている。とは言え、小説である以上、創作された物語と考えるのが一般的だ。いくら冷酷な印象の森鴎外でも、現地の女性を孕ませた上で棄て、発狂するのを見殺しにして帰国はしないだろう。

だが物語の大方は、鴎外が実際に体験した出来事だと考えられている。つまり鴎外は本当にドイツ人女性と恋仲関係になっていたのだ。その女性の名前はエリーゼである。

鴎外はエリーゼとの結婚を真剣に考えていた。だが当時は国際結婚など日本人の範疇を超えていたし、それが立身出世にどう影響するかも不確かだった。周囲からも、エリーゼとの関係を断つよう忠告されていた。それでもエリーゼに対する恋心を諦められない鴎外は、自分が帰国するのに合わせて、彼女を貨物船に乗せて、日本に送り出すよう企てた。

だがエリスの来日について、森家の人間は深刻に受け止めた。鴎外の出世は、森家の意志を体現したものであり、息子の不始末で森家の希望が損なわれるなど、あってはならないことだった。結果的に森家の人間はエリーゼをドイツに帰国させることに成功した。これが俗に言う「エリス(エリーゼ)来日事件」である。

エリーゼを追い返した事件については、『普請中』という作品の題材になっている。

あくまでこれらは一説であり、「エリーゼとの間に婚約は交わされていない」「鴎外の計らいではなくエリーゼが勝手に来日した」など様々な考察が存在する。

一つ言えるのは、「エリス(エリーゼ)来日事件」について、森家の意見が優先され、鴎外自身の主張が不明確だということだ。ここに鴎外が抱える深い闇が隠されているように感じる。

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エリートならではの悩みがあった?

余は父の遺言を守り、母の教に従ひ、人の神童なりなど褒むるが嬉しさに怠らず学びし時より、官長の善き働き手を得たりと奨げますが喜ばしさにたゆみなく勤めし時まで、ただ所動的、器械的の人物になりて自ら悟らざりしが・・・

『舞姫』の主人公・豊太郎は、ドイツ留学にて勤勉に努める一方で、心の中には言い知れぬ侘しさを抱えていた。それは上記引用の通り、両親の教育に従い、また周囲の人間に秀才だと誉められるままに、ひたすら機械的な人間を努める自分の人生についての空虚感である。

周囲の人間は、豊太郎がひと時も娯楽や放蕩に身を許さないのは、彼の強い意志のためだと思っていた。しかし実際は、豊太郎は両親や周囲が求める人生を受動的に生きることに慣れすぎて、逆に道を踏み外すことに臆病になっていたのだ。言うなれば、臆病であるゆえに、周囲の期待通りの人生を歩んでいたに過ぎない。

この臆病で受動的な性格が、エリスとの悲劇をも招く。

大臣にロシア訪問の同行を尋ねられた時、豊太郎は「もちろん同行する」と即答した。しかしこれは豊太郎の本心ではなかった。豊太郎は不意に物事を委ねられると、無意識に承諾してしまい、後になって気が進まない場合でも、我慢して実行する性格であった。まさに受動的な性格を象徴している。この受動的な態度が、結果的に日本への帰国をも承諾してしまい、エリスとの離別を余儀なくされたのだ。

もし豊太郎が自分の意見をはっきりと主張できる性格なら、エリスのことを優先したかもしれない。しかし周囲の期待を背負い、周囲の求める人生から外れることに臆病な豊太郎は、その臆病な性格ゆえにエリスを見殺しにせざるを得なかったのだ。

周囲に期待され過ぎたエリートの、誰にも打ち明けられない苦悩である。

これは森家の期待を背負ってエリートの道を進んできた鴎外自身の苦悩だったのだろう。「エリス(エリーゼ)来日事件」で森家がエリーゼを追い返した際、鴎外が抵抗したという文献は見当たらない。むしろ彼はそれを簡単に受け入れたのだと想像できる。

きっと鴎外は、本心をひた隠し、両親の意向に逆らえないまま、残酷な運命を受け入れることしかできなかったのではないだろうか。

そう考えると、冷血なエリートという鴎外に対する印象は払拭される。

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