ヘミングウェイ『武器よさらば』あらすじ解説|戦争と恋の悲劇

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武器よさらば アメリカ文学

ヘミングウェイの小説『武器よさらば』は、第1次世界大戦を舞台にした戦争文学である。

イタリア戦線に従軍したヘミングウェイの実体験を元に、悲痛な恋の物語が描かれる。

『誰がために鐘は鳴る』と並んで、最も人気が高い代表作の1つだ。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語を考察していく。

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作品概要

作者アーネスト・ヘミングウェイ
アメリカ
発表時期1929年
ジャンル長編小説
戦争文学
恋愛小説
ページ数565ページ

あらすじ

あらすじ

第一次世界大戦中、アメリカ人のフレデリックは、イタリア兵に志願し、オーストリアと衝突する前線にいた。そこで赤十字の看護師キャサリンと出会う。

前線で脚を負傷したフレデリックは、ミラノの赤十字病院でキャサリンに看護され、瞬く間に二人は恋に落ちる。脚が回復すると再び前線に送り返されるが、キャサリンの腹には子供が宿っていた。

戦況はかんばしくなかった。長く停滞していた前線は、ドイツ軍の参戦で突破され、イタリア軍は退却を余儀なくされる。戦場は混乱に陥り、部隊に敵兵が紛れ込んでいるという噂が流れる。アメリカ人のフレデリックは嫌疑をかけられ、危うく処刑される直前で、川に飛び込んで逃亡する。

キャサリンと再会を果たす。しかし脱走兵のフレデリックは捜索されている。追手から逃げるため二人はスイスに亡命し、戦争とは無縁の異国で平穏に過ごす。

ついにお産が始まる。絶望的な難産の末、帝王切開で生まれた赤子は死んでいた。キャサリン自身も衰弱し切って危篤状態に陥る。フレデリックは神に祈るが、あえなく彼女は息を引き取る。フレデリックは雨の中、歩いてホテルに戻るのだった・・・

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個人的考察

個人的考察-(2)

創作背景:作者の実体験

初の長編『日はまた昇る』で脚光を浴びたヘミングウェイは、次作『武器よさらば』で、一層その名をとどろかせることになった。

物語は彼の創作の原点と言える、第1次世界大戦の実体験が題材になっている。

高校を卒業した翌年、ヘミングウェイは赤十字としてイタリアに渡り、傷病兵の搬送要員で前線に配置された。不幸にも砲弾を浴びて両脚を負傷した彼は、ミラノの赤十字病院に入院するのだが、そこで運命的な出会いをする。7歳上の看護師アグネスに一目惚れするのだ。

やがて二人は愛し合うようになる。しかしその恋は長くは続かない。

アグネスとの婚約を信じ、アメリカに戻ったヘミングウェイは、程なくして彼女から1通の手紙を受け取る。

あなたを好きという気持ちに変わりはありません。でもそれは、恋人としてではなく、母親のような感情に近いと思います・・・・

その手紙には、アグネスが別の男と結婚する旨も記されていた。彼女は7歳も離れた恋人を母性的な目でしか見れなかったのだ。

数年後にヘミングウェイは、この悲しい恋をシニカルに描いた『ごく短い物語』を執筆する。短編集『われらの時代』に収録されている。

イタリア戦線にて、ヘミングウェイは、身体的な負傷に加え、破局という心の傷も負った。

それから9年を経て、彼は『武器よさらば』の執筆に着手する。既に戦争の物語や、恋の物語は短編小説で描いていた。しかし、その二つを結びつけて長編に昇華するには、9年の年月を要したのだ。

9年も経てば物事は変化する。ヘミングウェイは様々な女性と関係を持ち、離婚や再婚を経験した。あるいは戦争に対する視点も変化するだろう。ゆえに『武器よさらば』は実体験よりも創作の要素が強い。

物語の舞台タリアメント川周辺の前線に、ヘミングウェイは訪れたことがない。さらにキャサリンの女性感は、彼が恋したアグネスのそれとは乖離している。終盤の出産の部分は、2番目の妻が18時間の陣痛に苦しんだ挙句、帝王切開をした出来事が反映されている。

前作『日はまた昇る』が大方実体験であるのに対し、本作『武器よさらば』は小説らしい創作が施された作品というわけだ。

余談だが、『武器よさらば』発表の同年に、奇しくも『西武戦線異常なし』という、同じ第一次世界大戦を題材にしたレマルクの小説が発表された。この作品の評判をヘミングウェイはかなり気にしていたらしい。

以上の創作背景を踏まえた上で、物語の内容を考察していく。

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第1次世界大戦について

物語を理解する上で、第1次世界大戦について知る必要がある。日本とは関わりが薄い戦争のため、詳しく知らない人も多いだろう。

■第1次世界大戦の経緯

第1次世界大戦が勃発する以前、ヨーロッパでは帝国主義が主流だった。大英帝国、フランス帝国、ドイツ帝国、ロシア帝国など、大国による植民地支配が蔓延はびこっていた。

それで生じる問題が、植民地を巡る大国同士の牽制けんせいだ。特にイギリスとフランスが、ドイツを脅威とみなし、ロシアも交えて同盟を組んで牽制する。それに対抗すべく、ドイツはオーストリアと同盟を組む。

・三国協商(イギリス、フランス、ロシア)
➡︎ドイツを牽制するため

・中央同盟(ドイツ、オーストリア)
➡︎三国協商に対抗するため

このようにヨーロッパは、二つの大きな勢力に分断され、ピリピリしていた。

そんな緊張状態の中、東欧のバルカン半島で、サラエボ事件が発生する。ボスニアの首都サラエボに訪問中のオーストリア皇太子が、隣国セルビアの青年に暗殺されたのだ。これが世界大戦の火薬となった。

皇太子を殺されたオーストリアは、当然セルビアに報復する。しかしセルビアはロシアと兄弟国の関係だった。セルビアに手を出すならロシアは黙っていない。よってロシアとオーストリアの争いが勃発する。二国の背後には、それぞれ同盟関係があるため、他の大国も参戦する。こうして第1次世界大戦に発展した。

植民地を巡って緊張状態だった二つの勢力が、サラエボ事件を引き金に爆発したわけだ。

■イタリア戦線について

では『武器よさらば』の舞台である、イタリアはどのような状況だったのか。

イタリアは中世以降、ずっと小国に分裂し、未統一の状態だった。分裂した小国には、オーストリアやスペインの後ろ盾があった。それらを取り返すためイタリアは統一戦争を起こし、奪還に成功してイタリア帝国が誕生する。しかし1部未回収の土地があり、そこはオーストリア領だった。だから第1次世界大戦では、イタリアは三国協商側につき、オーストリアと戦うことになる。

作中でアメリカ人のフレデリックは、イタリア兵に志願して、オーストリアと戦っていた。しかし彼は前線にいながら、恋をしたり、休暇を取って旅行をしたり、妙に平穏な時間を過ごしている。これは第1次世界大戦の戦況が関係している。

第1次世界大戦では、塹壕を使った戦法が主流だった。塹壕に隠れて敵兵を撃ち殺すのだ。この場合、守りの方が有利で、攻める側は不利になる。ゆえに両者が守りに徹し、前線が停滞していた。だからフレデリックは前線にいながら案外のんびり過ごしていたのだ。

ぼくは戦死しないことはわかっていた。この戦争では戦死しない。この戦争はぼくとは何の関係もないのだ。映画のなかの戦争と同じように、ぼくには危険はないように思われた。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

もちろんフレデリックは両脚を負傷するし、部隊の何人かは命を落とす。しかし彼らは、食事中に砲弾されたり、味方の兵隊に殺されたり、同じく味方の憲兵に処刑されたり、本来の激しい戦闘で死んだわけではない。

ところが負傷したフレデリックが、再び前線に戻ると事態は急変していた。

戦況が一転して、イタリア兵は前線から退却を余儀なくされる。これは「カポレットの惨敗」と呼ばれ、ドイツがオーストリアに加担したことで、イタリアは撃退され、長らく硬直していた前線が突破されたのだ。

戦場は大混乱に陥った。味方の部隊に敵兵が紛れ込んでいるという噂が広まり、フレデリックはドイツ兵のスパイと疑われて処刑されそうになる。間一髪、川に飛び込んで逃亡し、列車に飛び乗ってミラノに帰還する。しかし脱走兵の彼は捜索されており、生き延びるためスイスに亡命する必要があったのだ。

以上が『武器よさらば』で描かれたイタリア戦線の大まかな流れである。

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キャサリンの死という伏線

この世は彼らを一人残らず撲滅する。(中略)それ以外の人間にしてもいずれ確実に殺されるのだが、そう急いで処理されないだけの話なのだ。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

このフレデリックの台詞は、物語の伏線になっている。

戦争という死の運命に目をつけられたフレデリックは、両脚を負傷したり、憲兵の処刑を間一髪免れたり、何度も命拾いをする。それは迫り来る死の運命に抗い、そこから逃亡を図る生の奮闘とも言える。戦場から逃亡しても、運命は彼を追いかけ回し、スイスに来て初めて完全に解放されたように見えた。しかし最後には、キャサリンの死という、違った角度から運命に捕らえられる。

彼が逃れようとする運命との距離感は、彼の戦争に対する意識の変化に表れている。

脱走兵のフレデリックは、ストレーザ行きの列車の中でこう考える。

新聞を持っていたが、戦争についての記事は読みたくなかったので読まなかった。戦争のことを忘れるつもりだった。ぼくは単独講和をしたのだ。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

彼は意識して戦争を忘れようとする。忘れることで運命を遠ざけようと足掻いているのだ。

ホテルに到着し、バーテンに戦争について質問されると、「戦争の話はごめんだ」と話題を逸らす。旧知の伯爵にビリヤードを誘われる場面でも、彼は戦争の話題を避けるし、キャサリンに新聞を勧められても拒否する。

しかしいくら忘れようとしても、心の中は絶えず戦争の亡霊に支配されている。

戦争ははるか遠くにあった。もう戦争などないのかもしれない。ここには戦争など存在しないのだ。ぼくにとって、戦争はもう終わっていることを思いだした。でも、本当に終わったのだという実感は持てない。なんだか学校をずる休みした少年が、いま頃学校では何が起きているのだろうと考えているような、そんな感じだった。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

学校をずる休みした少年のように、肉体は戦場を離れても、心は戦場に残されたままなのだ。

不安な気持ちのままスイスに亡命するが、そこでの平穏な生活によって、彼は次第に戦争の不安を忘れていく。

「ときどき前線のことや、あそこで知り合った連中のことを考えたりするけど、特に気に病んだりはしないし。何であれ、あまり深く考えることはないんだ、最近は」

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

スイスに来てようやく、肉体だけでなく心も戦場から解放されたのだ。

それ以降は、あれだけ拒否していた新聞を読むようになる。そして戦争の記事を見ても、知らない大学のフットボールの試合のように、縁遠いものに感じられる。ずる休みした学校みたく気になっていた戦争は、知らない大学のフットボールの試合くらい無縁になったのだ。

こうして彼は完全に運命から解放されたように見えた。

ところがキャサリンの難産によって、全てがフラッシュバックする。

そうして、最後の瞬間につかまってしまった。この世の中、何をしたって罰が当たるようにできているのだ。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

戦争という悲惨な運命からいくら逃げても、最後には捕らえられることを彼は悟った。しかも愛する者の死という、もっと残酷なやり方で捕らえられた。

キャサリンが生死を彷徨う間、彼は戦場の記憶を思い出したり、食堂の客が読む新聞に戦争の記事を発見したりする。逃げ切ったと思った戦争の亡霊が、再び彼の前に姿を現したのだ。そしてキャサリンはあえなく息を引き取る。

あるいは彼自身は、死の運命から逃亡できたのかもしれない。しかしその代償として、愛する者の命を奪われてしまったのだった。

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信仰心の問題について

作中では、信仰も重要なテーマになっている。

まずヘミングウェイ自身の信仰だが、彼は2人目の妻と再婚するために改宗した経歴がある。それは再婚のための不純な動機と捉えられ、ヘミングウェイに篤い信仰心はないと軽んじられてきた。実際に『武器よさらば』の主人公は、無宗教の人間として描かれている。

しかし再婚後のヘミングウェイは、聖堂の前で涙を流して祈ることがあったようだ。理由は判らないが、再婚の前後で信仰心が篤くなるきっかけがあったのかも知れない。

『武器よさらば』は再婚後の作品だ。そして物語は、現在の主人公が過去の自分を回想する形式で描かれる。ともすれば、信仰を持つ現在の主人公が、信仰を持たなかった過去の自分を回想する、という形式が想定できる。

フレデリックが駐在する戦場には神父がいた。部隊の仲間たちが神父を茶化す中、フレデリックは神父に対して友好的であるが、しかしそこに信仰心は皆無である。

神父は善良だが退屈だ。将校たちは善良ではないが、退屈だ。国王は善良だが、退屈だ。ワインは性悪だが、退屈ではない。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

戦場において、善良なものは退屈であり、酒だけが退屈を紛らわす。信仰よりも酒の方が信頼できるという、かなりの皮肉である。

戦場から逃亡したフレデリックが、ホテルで伯爵とビリヤードをする場面で、再び信仰にまつわる会話が交わされる。フレデリックは、いずれ信仰心が篤くなるかもしれないが、今は夜にしか宗教的感情は訪れない、と口にする。それは本来の意味での信仰心というより、恋のことをほのめかしているのだ。実際に彼は、最も貴重なのは愛する人だと明言する。

つまり彼は宗教より恋に強く縋っている。実際に戦場から逃れて以降の不安は、キャサリンといる時間においてのみ慰められる。

そんな無宗教な彼だが、キャサリンの難産に立ち会い、赤ん坊の死を知った時には、こんなことを考える。

ぼくは無宗教の人間だが、赤ん坊には洗礼を受けさせるべきだったと思った。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

さらにキャサリンが生死を彷徨う間、彼は無宗教にも関わらず、ひたすら神に祈り続ける。

ああ、神さま、どうか彼女を死なせないでください。彼女を生かしてくれれば、どんなことでもします。(中略)彼女を生かしてくれれば、あなたのおっしゃることは何でもします。あなたは赤子をお奪いになった。でもキャサリンだけは死なせないでください。(中略)どうか、お願いです、神さま、彼女を生かしてください。

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

恋にのみ縋っていた彼は、その恋が絶望に直面して初めて、信仰に救いを求めたのだ。

キャサリンの死に際して、彼は神父を呼ぼうとする。しかし彼女はそれを拒否し、こんな言葉を口にする。

二人でしたことを、他の女の人たちとしないでね。私に言ってくれたことを、言ったりしないでね

『武器よさらば/ヘミングウェイ』

彼女は最期まで宗教ではなく恋の力を信仰し続けたのだ。そして息を引き取った。

この悲劇の結末は、一見ロマンチックにさえ見える。だが重要なのは、なぜ彼らが宗教より恋に強く縋ったかということだ。殺戮や破壊に満ちた世界では、神など信用できない。だから戦場では神父が揶揄いの的にされていた。そしてキャサリン自身、前夫を戦争で亡くしている。それでどうして神を信じられよう?

しかしそれでもフレデリックは、最後には神の救済を渇望した。神が不在となった世界で神の救いを求める。その矛盾した想いを、ヘミングウェイは描きたかったのかもしれない。

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