谷崎潤一郎『秘密』あらすじ解説|女装癖の男の犯罪的なロマンス

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秘密 散文のわだち

谷崎潤一郎の小説『秘密』は、『刺青』と並んで人気のある初期の短編作品です。

ミステリー・探偵小説の作品群に位置する代表作です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者谷崎潤一郎(79歳没)
発表時期  1911年(明治44年)  
ジャンル短編小説
ミステリー
探偵小説
ページ数26ページ
テーマ真実を知った後の虚無
秘密がもたらす愉悦

あらすじ

あらすじ

今の環境から逃げ出したくなった主人公は、とあるお寺に住み着いて、他者との交際を一時的に絶っています。夜な夜な読書をしたり、酒を飲んだり、変装して街に繰り出したりしています。

ある日、古着屋で見つけた袷の着物に心を惹かれた主人公は、女装をして街を徘徊するようになります。完全に女性になりすまし、人々を欺いている感覚にある種の愉悦を感じていたのです。

女装して映画館に行った際に、昔関係を持っていたT女と再会します。彼女の美しさに敗北した主人公は、男性としての支配欲が芽生え、逢瀬を重ねるようになります。ただしお互い今の身の上を明かさない約束が条件なので、主人公は目隠しをされたまま彼女の住居に訪問することを強いられます。

当初は秘密の関係が現実離れした幻想的な魅惑を演出していましたが、主人公は次第に秘密が知りたくなり、T女の住処を突き止めてしまいます。秘密を知った主人公はたちまちT女への興味を失くしてしまうのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

女装に隠された主人公の心理

厭世的、ないしは不感気味に陥っていた主人公にとって、女装は一種の娯楽的愉悦になっていました。彼は一体女装の何に興奮を覚えていたのでしょうか。

ひとつは、現実逃避の愉悦だと推測できます。

現状から逃げ出したいと思っていた主人公の隠居願望の延長線に、自らの姿を取り繕う行為がありました。付け髭やほくろやあざを使った変装に凝り始めたのです。

やがて変装はエスカレートして、女装で街をさすらう行為に発展していきます。性別すらも超えた別人格を装うある種の自己消滅には、現実逃避の心理が働いていたのでしょう。

ふたつめに、他者を欺く優越感という推測もできます。

本当は男であるにもかかわらず周囲の人間に女だと認識させている、いわば他者を欺く感覚に興奮を覚えていたのでしょう。道行く人々に本性を悟られるかもしれない緊張感、しかし上手く騙し切る優越感、それらは殆ど犯罪的な興奮にまで到達していました。

犯罪を行わずに、犯罪に付随して居る美しいロマンチックの匂いだけを、十分に嗅いで見たかったのである。

『秘密/谷崎潤一郎』

誰も知らない事実を自分だけが所有するという、犯罪のロマンスを主人公は女装に見出していたのでしょう。

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秘密を共有する興奮

女装という一人きりの秘密に愉悦する主人公。やがてT女との出会いによって、お互いの素性を隠し合う秘密の関係へと発展していきます。

T女との逢瀬は目隠しで行われ、住処が判らないよう仕組まれていました。この秘密の関係が主人公の性癖をくすぐります。

文中で「夢の中の女」「秘密の女」と記される通り、非現実的な「Love adventure」に主人公は陶酔していました。女装癖からも分かるように、現実逃避的な種類の性癖があるため、この手の秘密の関係、魅惑な雰囲気に興奮を覚えていたのでしょう。

ただし、「秘密の女」との関係における問題点は、持続不可能な種類の興奮だということです。詳しくは次の章で解説します。

秘密の末路

秘密の関係による興奮が飽和点に達した途端、主人公はT女の秘密を暴きたくなります。その結果、真実を知ったことで、T女に対するを興味は完全に失われてしまいました。

これには視点の変化が関係しています。

女装をしていた頃の主人公は、他人から見られる立場としての優越感に陶酔していました。ところが映画館でT女と出会った途端、自分の美しさが全く彼女には敵わず、周囲の視線が自分から彼女に移り変わるのを実感します。敗北感を抱いた主人公は、男性として彼女を支配し優越感を取り戻そうとします。

この時点で、見られる立場だった主人公は、(T女を)見る立場に切り替わります。

見る立場になった主人公は、秘密を暴く探偵のような愉悦に心酔していきます。それは住み慣れた東京の街に、自分の知らない場所がまだ存在する、という少年期のときめきを彷彿とさせました。愉悦に任せてT女の家を突き止めた結果、主人公は彼女を捨てて、さらなる興奮を追求しようとするのでした。

要するに、見る立場としての探偵的な愉悦は、真実を知った時点で興奮が失われてしまうということでしょう。

平凡な事実よりも、面白可笑しく作り替えられたフェイクニュースに人々が夢中になる心理にも当てはまるかもしれません。ある意味、推理小説をシニカルな目線で分析したような作品だと言えるでしょう。

この人間の心理を知ってか、後に発表される『春琴抄』では、お嬢様に熱湯をかけた犯人を最後まで明かさずに物語を終わらせます。故に、読者はいつまでも心の中に不思議な魅力を抱いたままなのです。

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T女の正体とは!?

女は芳野と云うその界隈での物持の後家であった。

『秘密/谷崎潤一郎』

物持ちとは財産を所有する人間を指し、後家とは未亡人を指します。つまりT女は、財産家の夫と死別した、比較的裕福な未亡人であることが推測されます。主人公が初めて目隠で住居を訪問した際にも、内装が上品であるような描写が記されていました。

明治時代といえば、「家」制度が明確に規定された頃で、良妻賢母としての女性像を是とする風潮がありました。あるいは後の太平洋戦争中には、未亡人の恋愛を小説に書くことが禁じられていました。つまり、「家」制度を存続させる政府の意図によって、日本では長い間、未亡人の恋愛はタブーとされてきたのです。

ともすれば、T女は未亡人である境遇を知られて男が離れていく恐れから、詮索しない約束を持ち出していたのでしょう。様々な男のもとを渡り歩いていたことからも、身の上がばれたら次の男、なんて具合に「秘密の女」としての居場所を求め彷徨っていたのでしょう。

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