乙一の『夏と花火と私の死体』あらすじ考察 一人称・三人称・神の目線の融合

夏と花火と私の死体 散文のわだち
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乙一の小説『夏と花火と私の死体』と言えば、16歳で執筆した作者のデビュー作です。

普遍的なサスペンス・ホラー小説ではありますが、物語が死体の目線で描かれるという斬新な構成が特徴的です。

サスペンスであるだけに伏線が多く存在したので、考察していこうと思います。

作者乙一
発表時期1996年(平成8年)
受賞ジャンプ小説-
・ノンフィクション大賞
ジャンルホラー小説
テーマ死体目線で描かれるサスペンス
巧みな田舎の風景描写

集英社主催の『ジャンプ小説・ノンフィクション大賞』を受賞した本作は、作者乙一の故郷である福岡が舞台になっており、「昭和の風景がよく書かれている。」と評価されたようです。

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『夏と花火と私の死体』の簡単なあらすじ

①誘拐事件

9歳の五月ちゃんは、同級生の弥生ちゃんと神社のお宮で遊んでいました。すると村に住み着く「66」と呼ばれる獰猛な野良犬が襲いかかってきます。恐怖で体が動かない2人を助けてくれたのは弥生ちゃんの兄の健くんでした。

数日後に開催される村の花火大会の話合いが終わった健くんは、「66」を追い払ってから、2人を連れて家へ帰ります。弥生ちゃんと健くんの家には、年上の従姉妹の緑さんがアイスクリームを持って待っていました。彼女はアイスクリーム工場で働いているため、度々差し入れとして商品を持って来てくれるのです。

テレビでは男の子ばかりを狙った連続誘拐事件について報道されています。緑さんが気をつけるよう忠告すると、緑さんに恋をしている健くんは顔を赤らめて頷くのでした。

②死体になる「五月ちゃん」

裏山に遊びに行って木登りをしている最中に、弥生ちゃんは自分の兄である健くんが好きだと告白します。彼女だけが告白したことに不公平さを感じた五月ちゃんは、自分も健くんが好きだと打ち明けます。

次の瞬間、弥生ちゃんは木の上から五月ちゃんを突き落とします。五月ちゃんの体は踏み台の石に衝突し、呆気なく死んでしまいます。

駆けつけて来た健くんは、涙声の弥生ちゃんを慰めてから、五月ちゃんの死体を隠すことを提案します。どこか嬉しそうな様子で・・・。

森の端にあるコンクリートの蓋がされた溝に、五月ちゃんの死体を隠しましたが、どうしても五月ちゃんが履いていた片方のサンダルが見つかりませんでした。

翌日警察の捜索が始まり兄妹は急いでサンダルを探しに行きますが、やはり見当たりません。それどころか隠した五月ちゃんの死体がバレそうになりますが、健くんの自演自作の怪我で警察の気を引いて間一髪免れたのでした。

③神社の石垣

溝に隠したままではいずれバレると悟った健くんは、一時的に死体を自分の部屋の押し入れに隠し、最適な遺棄場所を考えます。

神社のお宮の石垣には一部空洞が出来ており、死体を隠すには最適な場所でした。五月ちゃんの不在は、例の誘拐事件の一環として推測されているために、石垣の深い空洞に投げ入れれば絶対に気づかれないと企んでいたのです。

夏祭りの日、田んぼの中に隠していた死体を運んで、群衆が花火に見惚れている隙を狙い石垣の上に運び上げようとします。五月ちゃんの母親に話しかけられる危機的状況すらも潜り抜け、なんとか石垣の上にたどり着きます。

ところが、石垣の上には兄妹の計画に気づいている緑さんが待っていました。

④冷凍庫_

季節が移ろいでいく最中、神社の石段を取り壊す工事が行われています。その様子を眺める緑さんは「自分の言う通りにしてよかったでしょ」と健くんに語りかけます。

緑さんは五月ちゃんの死体を、職場のアイスクリーム工場の冷凍倉庫に隠したのでした。そこにはどこか健くんの顔に似た男の子の死体がたくさん隠されています。

五月ちゃんの死体は、健くんに似た男の子たちとかごめかごめをして遊ぶのでした。




『夏と花火と私の死体』個人的考察

誘拐事件の犯人は緑さん

あえて解説する必要もないと思いますが、頻発していた誘拐事件の犯人は緑さんでした。

子供の頃に健くんに似た男の子に恋をしていたが結局実らなかった、という緑さんの過去が作中で語られます。恐らくその失恋が尾を引いて、結果的に常軌を逸した愛情になってしまったのでしょう。彼女が務めるアイスクリーム工場の冷凍倉庫に、健くんに似た男の子の死体が多く隠されていたことからも、緑さんは、かつて恋した相手の幻影を所有する男の子ばかりを狙って誘拐していたことが推測できます。

物語の中盤で、緑さんが兄妹に宿題を教えに来てくれる場面がありました。五月ちゃんの行方不明は連続誘拐事件の一環だろうと健くんが推測します。今までこの村で事件が発生していなかったのが不思議なくらいだ、と自分の犯行を誤魔化していました。

すると緑さんは、「もしかすると犯人はわざと、この県で子供を誘拐するのを外していたのかもね」と不可解な推測を口にします。自分が犯人である故に犯行場所を選んでいることを示唆する台詞ですね。感の良い読者であれば、この時点で緑さんが犯人であることを察知し、今後彼女の存在が物語に大きく関与するのを期待していたことでしょう。

緑さんは自分が誘拐事件の犯人であるだけに、五月ちゃんの不在が誘拐事件の一環として扱われることに違和感を抱いており、誰の犯行かを裏で捜索していたのでしょうね。

野良犬「66」のメタ

意外にも獰猛な野良犬「66」が物語において重要な役割を果たしていました。

冒頭で五月ちゃんと弥生ちゃんに威嚇する場面で登場し、五月ちゃんのサンダルを隠す役割を担います。緑さんが子供の頃から村に居たという設定も語られます。

緑さんが「66」と名付けたことから推測されるように、「66」は緑さんに忠誠を誓った、彼女に都合のいい存在として描かれていたように思います。つまり「66」の行動には緑さんの意思が入り込んでいるということです。

例えば冒頭の五月ちゃんと弥生ちゃんに威嚇する場面は、彼女たちが健くんに恋をしていることに対してのマウンティングのように感じられます。緑さんが健くんにかつて恋した相手の幻影を見出していたからこそ、彼に行為を向ける存在を威嚇して遠ざけようとしていたのではないでしょうか。

五月ちゃんの片方のサンダルを隠した行為は、一見健くんを困らせたように思いますが、実質的には証拠となり得る物体を誰にもバレない場所に隠滅してくれた救世主でもあります。要するに緑さんの健くんを救おうとする意思が「66」を通して具現化されていたのでしょう。

「66」がサンダルの場所を緑さんに教えたのは、事件の捜索をしている彼女に事の真相を伝える役割を果たしたわけです。結果的にサンダルを見て緑さんは全てを悟ったようでしたから、ある種「66」は緑さんの化身、意思を具現化させた存在だったと推測できるでしょう。

「かごめかごめ」の意味

冒頭ないしは物語の中で幾度となく「かごめかごめ」の歌が登場します。何かを象徴するために用いられていると思うのですが、その解釈は非常に困難です。

それと言うのも、「かごめかごめ」の歌詞の意味には様々な説が存在するので、どの説からこの物語にアプローチするべきかが問題になるからです。

数多くある説の中で最も妥当なのは、「姑によって突き飛ばされて流産した妊婦の物語」に起因する説かと思われます。相続争いの最中だった一家で、新たに子供が生まれ相続人の候補が増えることを快く思わなかった姑が、妊婦の背中を押して腹の中の子供を流産させたという物語です。腹の中の子供が死んだ母親が、自分の背中を押した犯人は誰か、と嘆いている恨みの歌になります。

健くんを奪われることを快く思わなかった弥生ちゃんが、五月ちゃんの背中を押して殺すという構図とどこかしら似ている気がしますよね。

他にも「かごめかごめ」には、逃げられない遊女の嘆きであったり、誰にも見つけられない徳川埋蔵金を示唆しているという説も存在します。いずれにしても、アイスクリーム工場の冷凍倉庫で、誰にも見つけてもらえずに一生逃げ出せない五月ちゃんの悲しき魂を象徴しているとも考えられるでしょう。

ちなみに、ラストの神社の石垣が取り壊される様子を眺めている3人は、健くんを真ん中にして左右に緑さんと弥生ちゃんという状態でした。ともすれば、これから訪れる健くんを取り合っての狂気的な未来を想像する余地が残されています。

死体目線という都合の良さ

本作の魅力は殆ど「死体目線での語り」という斬新な設定でしょう。

死体目線という現実にはあり得ない設定を使用することで、ある意味何もかもが超越しているのですが、破綻することはありません。

例えば、死体である五月ちゃんが、自分のいない場所での出来事を詳細に語ったりするのですが、それすらも不自然には感じられません。なぜなら、我々は死体になった後の魂が包括的な視点で世界を見えるやもしれないという仮説を完全に否定することはできないからです。もしかすると死後の魂は、自分のいない場所の出来事も詳細に知ることが出来るかもしれません。

こういった現世の我々が知り得ない、殆ど架空の設定を物語の基盤にしたことで、どんな語りで物語が進行しようとも、全てが都合よくなってしまうのです。言ってしまえば、一人称の語りでありながら、三人称(ないしは神の目線)でもある、という支離滅裂な構成を、斬新な設定でやってのけたということです。その都合の良さが、ある種作品を軽くしているのかもしれませんが、作者の発想力の圧勝と言わざるを得ませんね。

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以上、乙一の『夏と花火と私の死体』のあらすじ考察を終了します。

長い間お付き合いありがとうございました。この文章が気に入った方は、是非シェアをお願いいたします。




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