太宰治『女生徒』あらすじ解説|ファンの日記が題材の思春期の葛藤

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女生徒 散文のわだち

太宰治の小説『女生徒』は、ファンの日記が題材になった代表的な短編作品です。

芥川賞を巡って太宰とトラブルになった川端康成が後に称賛したことでも有名です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者太宰治(38歳没)
発表時期  1939年(昭和14年)  
ジャンル短編小説
ページ数46ページ
テーマ思春期の自意識
厭世的な心理

あらすじ

あらすじ

濁って濁って疲れ切って虚無のうちに目覚める。それが少女の1日の始まりである。

寝床を出て布団を畳み、味噌汁を温めて1人で食べる。そんな何気ない生活に、いちいち自分が大人になっていく虚しさを覚える。大人の女性はいやらしくて不潔なもの。自分の中にも女性特有の醜さが芽生えつつある事実にやるせなくなる。

少女は世間と折り合いを付けられずにいる。純粋に理想を貫いて生きたら、その人は永久に敗北者だ。それでも理想と乖離した大人を目にするたびに、嫌悪感を覚える。

母のことは愛しているが、世間付き合いを優先し、嘘の笑顔を浮かべる姿は恨めしい。母は弱い女なのだ。そう思うと、母を大切にしたいと感傷的になり、泣き出したくなる。

ずっとお人形さんのようにありたい。だけど自分の意思とは裏腹に肉体は成長していく。大人になってから思い返せば何でもないこの瞬間が、今の自分には耐え難い苦痛で、深い場所に落ち込んでしまう。明日もまた同じ日が訪れる。幸福は一生来ない。そう思いながら少女は眠りにつくのであった。

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個人的考察

個人的考察-(2)

憎っき川端康成が絶賛した作品

出世作とも呼べる『女生徒』は、川端康成が絶賛したことで有名な作品だ。

ともすれば一見二人は友好的に感じられるが、実際はその真逆、二人の間には軋轢が生じていた。原因は芥川賞の選考会である。

記念すべき第1回芥川賞では、太宰は『逆行』という作品が候補作に選ばれたが、しかし最終結果は落選だった。

選考委員だった川端康成は、太宰の落選理由を次のように述べている。

「作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる恨みあった。」

「荒んだ生活のせいで本来の才能を発揮できていない」という意味である。薬物中毒になり、薬を購入するために借金を重ねていた、太宰の荒んだ生活面を指摘した内容だ。

この川端康成の発言が太宰の逆鱗に触れることになる。

太宰は芥川賞の賞金で借金を返済する目論見があった。それがおじゃんになった上に、人間性まで非難された太宰は、その屈辱から川端康成への抗議文を文芸通信に投稿する。

「刺す。そう思った。大悪党だと思った。」

「小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんなに立派な生活か」

この脅迫じみた抗議を受けた川端康成は、太宰の文学性を非難したわけではない、と詫びを入れたようだ。果たして本心から謝罪したのか、それとも太宰の狂気じみた態度に怖気付いたのか、実際のところは不明なのだが・・・

だが後に『女生徒』を絶賛したということは、やはり太宰の文学的な技量に関しては本心から評価していたのかもしれない。

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ファンから送られてきた日記が題材

川端康成は、本作『女生徒』で描かれる、少女の意識の流れの手法を評価している。それはもちろん太宰の優れた技量に違いない。だが実は創作材料には女性ファンから送られてきた日記が使われている。

そのファンとは有明淑ありあけしずという19歳の女性だ。

有明淑は熱心な太宰文学のファンで、その影響で自分も約4ヶ月分の日記を大学ノートに執筆し、それを太宰に郵送したみたいだ。

ちょうどその頃原稿を依頼されていた太宰は、日記が届いたことを天佑てんゆうだと思い、約4ヶ月にわたる少女の日記を、朝目覚めてから眠るまでの1日の物語に創作し直し、自分の作品として雑誌に発表した。そして創作のアイデアを提供してくれたお礼として、『女生徒』の掲載誌と単行本を、有明淑に贈呈したようだ。

有明淑は自分の日記を尊敬する太宰に作品にしてもらえたことに感激し、改めて太宰に礼状を送っている。その手紙は後に『俗天使』という作品で引用された。

こういった経緯から、有明淑は太宰文学を知る上で重要な人物の1人と言える。

以上の背景を踏まえて、物語の考察に入る。

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思春期特有の自意識の揺らぎ

14歳の少女の1日を綴った物語は、川端康成が評価した通り、繊細な意識の流れが巧みに描かれている。それは思春期特有の自意識の揺らぎとも言える。

思春期の自意識の揺らぎ、それは心と肉体のバランスを上手く維持できなくなる状態だろう。自分の気持ちとは関係なく、ひとりでに肉体が成長していくことに、少女は困惑している。少女にはまだ純粋無垢な気持ちが残っている。だが肉体が「女性らしさ」を帯びることで、自分が大人の女性に近づいていることを意識せずにはいられない。

作中では、大人の女性が「醜さの象徴」として描かれている。それはつまり、社会が要求する「女性らしさ」に従い、「自分らしさ」を放棄してしまうことへの嫌悪感だろう。

実際に少女が考える「女性らしさ」とは、無性格な同級生の女子や、旧式の奥さんに象徴される、献身と慎ましさである。こういった社会的な「女性らしさ」に反発したい気持ち、つまり「世間向きな自分」と「自我」との対立に少女は苦しんでいるのだ。

表向きの教育は個性を伸ばすことを主張する。だが純粋に個性を持ち続ければ、周囲から変人扱いされ敗北者になってしまう。自分のことだけを考えて生きていけたらいいが、それ以上に「世の中」という大きな力が自分を押し流していく。それに反発するだけの勇気は持ち合わせていない。それでも世の中に習って、自分を押し殺して生きるのは苦しい。

少女が周囲の大人に嫌悪感を抱くのは、彼らが世の中に順応して生きているからだろう。それは、いずれ自分もそうなってしまうという強迫観念に近い。

例えば、母親は世間付き合いを大切にし、客人に媚びへつらってばかりいる。そんな母親の態度を見ていると、自分を押し殺して無理に笑ったり相槌を打ったりするなど愚かで、自分は絶対にそんな風になりたくないと思う。だけどいざ自分が客人の前に出れば、母親と同じように世間向きな仮面を被ってしまう。知らず知らず自分が社会に順応しつつあることを認めざるを得ないのだ。

こうした女性の弱さを実感した時、少女は泣きたい気持ちになる。

いずれ大人になればこんな葛藤は何でもなかったと笑えるかもしれない。だけど少女にとっては今この瞬間が死ぬほど苦しくて、いずれ大人になれば、なんて綺麗事は救いにならない。

思春期になり、世の中のことが大体分かり始めると、社会が理想を凌駕していく。それに抗うから苦しい。だけど諦めることはもっと苦しい。その渦中にいる少女の葛藤をここまで生々しく描いた太宰の才能たるや、凄まじい。

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個性を持ちたがる無個性な自分

こうした社会と理想の葛藤は、思春期の少年少女なら誰でも経験するものだが、『女生徒』の主人公はとりわけ個性に固執しているように感じられる。

少女は読書を生活の救いのように考えている。読書から得られた知見に共鳴し、それを自分のもののように作り替える癖があるのだ。それは10代の少年少女が、文化芸術を愛好し、そんな自分に酔っている感覚と近いものがある。

アイデンティティが不安定であるゆえに、他者の知見に縋ることで、何者かになれた気分に浸っているのだろう。だけど少女は、そういう思い上がりが、まるっきり虚構であることにも気づいている。自分から読書が失われて、真似するお手本がなくなれば、空っぽな自分が露見すると感じているのだ。上品ぶっていても、まるで気品がない、と少女は自分を卑下している。

個性を強く意識するとき、無個性な自分が露見する。自分は特別な存在だと思うとき、自分が誰とも違わぬ存在だと気付かされる。

1日の終わりに少女はこんなことを考えながら眠りにつく。

「おやすみなさい。私は、王子様のいないシンデレラ姫。私、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。」

『女生徒/太宰治』

シンデレラは、ガラスの靴のサイズがぴったりだったことで、王子様に見つけてもらえた。仮に王子様に見つけてもらえなかったら、シンデレラは姉たちの虐めから逃避するために、一時的に魔法のドレスを纏った空虚な存在だ。それはまさに、何者かに憧れているだけで、何者にもなれない思春期の憂鬱と似ている。

あるいは「私、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?」という台詞は、自分が東京の「どこか」にいる誰とも違わない大衆の1人に過ぎないことを、訴えているように見える。

そんな静かな諦念を持つ少女は、眠る前に考える・・・

幸福は一生、来ないのだ。

『女生徒/太宰治』

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