谷崎潤一郎『卍』あらすじ解説|同性愛レズビアン文学の元祖

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卍 散文のわだち

谷崎潤一郎の小説『』は、『痴人の愛』と並ぶ最高傑作です。

不倫・同性愛による愛欲の物語を、大阪弁の語り口調で書く作風が特徴的です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者谷崎潤一郎(79歳没)
発表時期  1931年(昭和6年)  
ジャンル長編小説
ページ数272ページ
テーマ同性愛
不倫
悪魔主義

あらすじ

あらすじ

日本画の趣味を持つ園子は、夫である孝太郎にすすめられて女子技芸学校に通っています。ある時、園子が描く観音様の絵の顔が、他のクラスの光子という女性に似ていると校長に指摘されます。二人は同性愛なのではないか、という謂れのない噂まで広まります。それがきっかけで園子と光子は親しくなり、本当に同性愛の関係へと発展します。

夫である孝太郎は二人の関係を怪しみ、夫婦喧嘩にもなりましたが、二人の愛を止めることはできません。しかし光子に綿貫という異性の恋人が居たことが発覚し、園子は利用されていたことに気づき疎遠になります。されど光子の巧みなやり口によって、二人の同性愛は夫に内緒で再燃します。一方で綿貫は園子を邪魔な存在だと思っていました。表面上はお互いを尊重する誓約書を交わしていましたが、その誓約書を裏で孝太郎に密告し、同性愛をやめさせようとします。

ところが次は孝太郎が光子に心を奪われてしまい、二人は肉体関係を持ってしまいます。まるで同性愛と不倫とが複雑に絡み合った「卍」模様の恋愛です。光子は、園子と孝太郎を薬漬けにして、両方が自分だけを愛するように仕向けるのでした。

そんな矢先に例の誓約書が新聞社に出回り、同性愛が白日の元に晒され、もう生きていけないと3人は睡眠薬を飲んで心中を図ります。ところが皮肉なことに、園子だけが生き残りました。自分は光子に捨てられたのだという気持ちと、それでも彼女を愛おしく思う気持ちが残るのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

執筆当時のある事件

本作『卍』の歪な恋愛劇には、当時の谷崎潤一郎のある事件による心境が関係していると言われています。

「小田原事件」と聞いてピンと来る人もいるかもしれません。

慎ましく従順な千代との結婚生活に物足りなさを感じていた谷崎。そんな時に千代の妹である当時14歳の「せい子」の面倒を谷崎家で見ることになります。姉とは対照的にせい子は奔放でわがままな性格で、谷崎に対して口答えをするほど威勢のいい少女でした。

谷崎はせい子を「野獣のような女」と言いながらも、実際ではM心が刺激されて恋に落ちてしまいます。

不倫である点、不倫相手が妻の妹である点、おまけに14歳の少女である点。今の世の中だったら確実に追放されていますね・・・。

夫が自分の妹に惹かれていることを知って塞ぎ込んだ千代は、佐藤春夫に同情されるうちに彼と恋仲関係になります。2人の関係を知った谷崎は、妹のせい子に完全に惚れていたので、妻の千代を佐藤春夫に簡単に譲ってしまいます。

これがいわゆる「小田原事件」です。

ところが、谷崎はせい子にあっさり求婚を断られてしまいます。何言ってんの、おっさん、ってな感じでしょうね。せい子に振られて焦った谷崎は、千代を返して欲しいと佐藤春夫に訴えます。さすがの佐藤春夫も彼の身勝手さに激怒し、一時的に絶縁状態になったようです。

こういった谷崎自身のいざこざが、愛欲によって生活が崩壊する『卍』の物語に反映されているのだと思います。

谷崎潤一郎が属する耽美派は、道徳公理性を排除してでも美を追求する作風が特徴です。そういう意味では、家族や生活といった社会的な道徳を超越してでも、多種多様な性のカタチを作中で肯定していたのかもしれません。

ちなみに谷崎が恋した野獣のような少女「せい子」は、代表作『痴人の愛』のモデルになっています。併せて読んでみてください。

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谷崎潤一郎が描く女性像

谷崎潤一郎の作品の多くは、女性崇拝がキーワードになっています。彼は幼い頃に母親を亡くしたために、その幻影として女性を神格化する傾向にあったと言われています。

その神格化はしばしば悪魔主義とも言われ、彼の作品には決まって悪女が登場します。

『卍』で言えば、光子の巧みな悪女ぶりは周囲の人間を次々に泥沼に陥れていきます。園子と孝太郎に睡眠薬を過剰に摂取させ体調を弱らせて、自分だけに想いを注がせようとする行為は、もはや道徳を超越した悪魔のやり口です。

ただし谷崎の作品の特徴は、悪女が絶対的な悪ではないという点です。その巧みなやり口によって周囲の人間を支配するのですが、支配される側もそれを強く望んでいるのです。

ラストの3人で睡眠薬自殺を図った場面では、園子だけが生き残りました。自分だけ裏切られたのではないかと園子は疑っていましたが、その一方で光子を愛おしく思う気持ちは止みませんでした。いくら振り回されても愛おしく思ってしまう依存状態に陥っていたのです。

側から見れば異常で、悪意を感じても、当の本人たちからすれば無くてはならないもの。恋愛に限らず世の中には沢山そういうものが溢れていますし、誰だって一つや二つは持っているはずです。ある種、自分の欲望に忠実である美学を表現しているのかもしれません。

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推理小説としての醍醐味

マゾや女体美など、自身の性癖に根差した作品の印象が強い谷崎潤一郎。

実は、ミステリー・サスペンスの先駆け的な作品も評価されています。

これは谷崎潤一郎の文学が、学問のみならず大衆娯楽の要素としての側面も有することを意味しています。

かつて谷崎と芥川は、芸術小説における物語性の必要不要について論争を繰り広げました。

谷崎は物語性を重要とする立場でした。それは、ミステリー・サスペンスが持つ起承転結の抑揚や意外性をも含むところだと思います。

つまり谷崎の作品は、物語を読み進めるうちに謎が解明される構造や、どんでん返しのような意外性がひとつの特徴なのです。

『卍』においても下記の解明がありました。

  • 同性愛の噂の原因
    当初:市会議員が裏で手を回して、光子の縁談を横取りするために校長を利用した
    事実:縁談相手とは別に好いていた綿貫と結婚するために、光子本人がわざと噂を流した
  • 光子の妊娠
    当初:綿貫との子供を身ごもった
    事実:園子と復縁するための芝居(綿貫は生殖能力が欠落していた)
  • 綿貫の誓約書
    当初:園子と綿貫がお互いを尊重し、光子を同時に愛することを約束
    事実:夫の孝太郎に密告して同性愛をやめさせるための企み

このように物語は一転二転し、まるで恋愛におけるミステリーを紐解いていくような娯楽性が備わっています。

ただし語り手が園子である点もひとつの醍醐味でしょう。つまり、単なる大衆娯楽としてのミステリー・サスペンスと違い、園子が知る限りの事実のみしか語られず、判らないままの部分も大いにあると言うことです。

ラストの睡眠薬自殺で園子だけが生き延びた原因は、まさに事実が明かされないままでした。偶然生き延びたのか、仕組まれたものなのか。

解釈の余地を与えるのが文学です。あるいは、事実がどうであれ光子への愛しさを止められない歪な感情こそが根本の主題なのでしょう。

道徳公理性を排除してでも自らの美学を追求する作風に、大衆娯楽としての物語性も調和させたからこそ、谷崎潤一郎の作品は広い層に読み継がれているのかもしれません。

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