カフカ『失踪者(アメリカ)』あらすじ解説|長編三部作の入門編

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失踪者 ドイツ文学

カフカの小説『失踪者(アメリカ)』は、死後に発表された未完の長編です。

『城』『審判』と併せた長編三部作の中で、入門編におすすめな作品です。

故郷ドイツを追放された少年が、異国アメリカを放浪する物語が描かれます。

本記事では、あらすじを紹介して上で内容を考察します。

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作品概要

作者 フランツ・カフカ(40歳没) 
ドイツ
発表時期1922年-1924年に執筆
1927年(死後に刊行)
ジャンル長編小説
ページ数361ページ
テーマ楽園の追放
産業社会の批判

あらすじ

あらすじ

女中に子供を宿した17歳のカールは、両親の手で故郷ドイツを追放され、異国アメリカを放浪することになる。

まず初めに、ニューヨーク行きの汽船で偶然出会った伯父に引き取られることになり、しばらくは不自由ない生活を送っていた。だがたった一度伯父の意志に反いたことで家を追い出されてしまう。

寝床を失ったカールは、安宿の相部屋で出会った二人の浮浪者と仕事を探し始める。だが途中で仲違いを起こし、カールは1人でホテルのエレベーターボーイになる。それも束の間、仲違いした浮浪者がホテルに現れ大暴れしたことが原因で、エレベーターボーイを解雇される。

無職になったカールは、仲違いした浮浪者にある女性の部屋へ連行される。彼らは裕福なブルネルダという女性に取り入り、部屋に転がり込んでいた。そしてカールはブルネルダの使用人になることを強要される。我儘なブルネルダの要求に辟易しつつ、それでもカールは手際の良さを誉められ、一握りの菓子を与えられるのだった。

■断章
カールは街角のポスターを見て、条件不問の劇場団員に志望する。正式に採用が決まったカールは、他の採用者と共に列車に乗せられ、二日二晩の旅が始まるのだった・・・

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個人的考察

個人的考察-(2)

入門編におすすめな未完の長編

本作『失踪者』は、長編三部作の中で最も読みやすく、入門編におすすめである。ただし物語は未完のまま中絶されている。

そもそもカフカの作品は、生前に数冊しか発表されておらず、その殆どは死後に未完の原稿を再編したものだ。

『失踪者』執筆の経緯

『失踪者』は1912年に着手された。

労働に忙殺される中、カフカは夜の時間を縫って日記帳に小説を書き始めた。しかもページがなくなれば、過去の日記帳の余白を使用したのだから、凄まじい創作意欲が見てとれる。

そんな執筆の経過は、当時の恋人に宛てた手紙に詳しく記されている。第6章までは順調に書き上げたが、それ以降はペンが進まなくなったようだ。年が明けた1913年には続きの章をなんとか書き上げるものの、やがて1行も書けなくなり、中断を余儀なくされた。

そこでカフカは、第1章「火夫」のみを、短編作品として出版している。

長編としての完成を諦めたように見えたが、カフカは1914年に執筆を再開している。だが結局いくつかの断章を仕上げただけで、最終的には未完のまま放棄された。

そのため、物語上の繋がりを欠いた断章が、本編の後に収録されている。

もう一つのタイトル『アメリカ』

現在では『失踪者』というタイトルが一般的だが、かつては『アメリカ』という別のタイトルが使われていた。

それと言うのも、カフカの未完の原稿にはタイトルが付けられておらず、多くは勝手に推測したものが使われているからだ。

恋人へ宛てた手紙の中では、カフカは本作のタイトルを『失踪者』と明かしていた。だが友人たちには、「アメリカの小説」という濁した表現を使っていたのだろう。そのため死後に友人の手で出版される際には、『アメリカ』というタイトルが使われたのだ。

『アメリカ』の内容は、現在刊行される『失踪者』とは構成が異なる。とりわけ終わりの部分は、カールが劇場団員として採用される断章が地続きの物語として構成されている。

しかし70年もの時を経て、当時の執筆状況が明らかになり、本来の姿である『失踪者』として発表されるに至ったのだ。

以上の背景を踏まえて物語を考察していく。

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楽園の追放/永久の失踪者

17歳のカールは、女中に誘惑され子供を宿した罪で、両親に故郷ドイツを追放され、異国アメリカを放浪することになった。

こうした設定は、カフカの従兄弟が題材になっている。ある従兄弟は両親の手でアメリカに送られた。また別の従兄弟は14才の時に女中との間に子供を作った。ちなみにカフカ自身はアメリカに行った経験がないため、想像上のアメリカを描いた物語ということになる。

カールのアメリカ放浪は、ある種のロードムービーのように、新たな居場所を探し求めるドタバタ劇である。実際に伯父に引き取られたり、エレベーターボーイになったり、不自由ない生活に安住する瞬間は何度も訪れる。だがその度にカールは居場所を追放され、再び放浪の生活を余儀なくされる。それはカールに強いられた運命であり、ニューヨークの港に到着した時点で決定づけられていた。

自由の女神が象徴する裁き

ニューヨークの港からは自由の女神が見えた。本来の自由の女神は松明を掲げている。ところがカールの目に映る自由の女神は胸元に剣をかざしていた。

彼はじっと自由の女神像を見つめていた。剣をもった女神が、やおら腕を胸もとにかざしたような気がした。

失踪者/カフカ

これは女中との罪に審判を下す、「裁きの剣」を意味していたことは明らかであろう。

罪を犯し楽園を追放されたカールは、永久に放浪する運命を既に決定づけられていたのだ。実際にカールはどこにも安住できない。どこかに辿り着けばすぐに追放され、また次の居場所を求めて放浪を再開する。それがカールに与えられた罰なのだ。

本編の後に収録される断章では、カールが劇団員として正式に採用され、列車に乗って安住の地へ向かう様子が描かれる。列車に揺られるカールの顔には冷気が吹き付けていた。それはまるでやがて訪れる悲劇や、それに対するカールの不安が読み取れる。

つまり、「裁きの剣」によって楽園を追放されたカールは、いずれ劇団員をクビになり、再び失踪者になる運命ということだ。

ともすれば、この物語には終わりがない。永久に安住と失踪を繰り返すからだ。そのため本作は未完であり、ある種の完成形とも言える。

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産業社会の批判

楽園を追放され放浪するカールは、奇妙なアメリカの姿を目撃する。それは近代化が進む都市社会の混沌だ。

カールは初めに伯父に引き取られる。伯父はアメリカで事業を展開する成功者だ。職場にはテーブルが敷き詰められ、従業員はイヤフォンをつけて電話の情報を素早く書き留めている。まさに近代化が進む都市社会を映し出している。そんな近代社会の権力者である伯父の意志に、たった一度反いただけで、カールは家を追放されてしまう。

続いてカールは高級ホテルのエレベーターボーイとして働き出す。過酷な12時間勤務で、共同部屋は喧しく、殆ど眠る暇を与えられない。それでもカールは二ヶ月ほど真面目に働いた。だがほんの一瞬持ち場を離れただけでクビになってしまう。情状酌量の余地はなかった。

これらは、近代化・効率化が進む都市社会で、労働者が消耗品のように扱われ、少しでも雇い主の意志に背けば簡単に捨てられてしまう実態を皮肉的に描いているのだろう。

エレベーターボーイをクビになり、ブルネルダの女中になったカールは、隣の部屋の学生にこんな会話を聞かされる。

学問か、勤め口かときかれたら、むろん、勤め口を選ぶとも。この選択が正しいのを実証するために勉強しているようなものなんだ

『失踪者/カフカ』

近代化の中で実践される学問は、産業化・効率化を進めるための教養であり、人類は文明を発達させることで自らの首を絞めている、という矛盾を訴えているのだろう。

この問題はカフカだからこそいち早く描くことができた。なぜなら彼は労働者傷害保険協会に勤務し、近代工場に書記官として出張し、近代化の流れを敏感に察知していたからだ。いずれ労働者が消耗品とした搾取される未来を見据えていたのだろう。

断章にてカールは劇団員に採用されオクラホマへ向かう。それは近代都市ニューヨークを離れ、原始的な共同体へ安住を求める旅である。

ところが採用面接では、得意分野によって窓口が異なり、また出生や学歴も区別され、カールは「ヨーロッパの中卒・技術者志望の窓口」に回される。近代化の中で人々は肩書きによって細分化され、その波は都市社会の外へも広がりつつあるわけだ。

いずれ近代化の波がオクラホマまで届いた時、カールの失踪は再開されるだろう。

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