ドフトエフスキー『罪と罰』あらすじ考察 天才は人を殺してもいいのか?

罪と罰 散文のわだち
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ドフトエフスキーの小説『罪と罰』は、19世紀を代表するロシア文学の最高傑作です。

文章量、人物名の複雑さ、テーマの重さなどから、多くの人が挫折しがちな名作。

本記事では、天才は人を殺してもいいのか、という究極のテーマを、キリスト教の観点から考察します。

『罪と罰』作品概要

作者ドフトエフスキー(59歳没)
発表時期1866年
ジャンル長編小説
ロシア文学
テーマ殺人は悪か
論理の矛盾と崩壊
キリスト教とヒューマニズム

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『罪と罰』あらすじ

あらすじ

頭脳明晰な青年ラスコーリニコフは、貧困のために大学を中退する羽目になり、酷い生活苦に苛まれていました。

そんな彼は学生時代の論文に「世の中には凡人と非凡人が居て、大多数の凡人は社会に従属することが義務付けられており、一方僅かな選ばれし非凡人は、新たな世の中の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ」という独自の思想を展開していました。生活上にっちもさっちもいかなくなったラスコーリニコフは、その思想に乗っ取り、強欲な金貸しの老婆を殺害し、奪った金で世の中のために善行をしようと企てます。ところが殺害の現場に偶然居合わせた老婆の妹まで意図せず殺害してしまいます。それ以来ラスコーリニコフは、熱病のような精神状態に陥り、激しく苦悩することになります。

ラスコーリニコフは、幾度となく予審判事のポルフィーリとの神経戦を繰り返し、それでも決定的な証拠が存在しないため、法によって裁かれることはありませんでした。ところが彼は、母親や妹や友人に対して酷く気を塞いでしまい、常に不安定な精神状態を彷徨うことになります。そんな中、自分よりも陰惨たる生活を送る娼婦ソーニャと出会い、貧しい家族のために自己犠牲に尽くす彼女の生き方に徐々に心を奪われます。そして最後には自首を決意するのでした。シベリア流刑8年という寛刑になったラスコーリニコフは、服役中も気を塞いだままでしたが、後を追ってシベリアに移住したソーニャへの愛を初めて認め、遂に人間回帰の進路を歩み始めるのでした。




『罪と罰』個人的考察

個人的考察

ドフトエフスキーの境遇から紐解く

本作を紐解く上で、作者ドフトエフスキーの人物像を把握する必要があります。

処女作『貧しき人々』で華々しいデビューを飾ったドフトエフスキーは、「第二のゴーゴリ」と激賞されたものの、それ以降は鳴かず飛ばずの作家人生を歩むことになります。

さらに彼が所属していた社会主義思想のサークルが検挙され、死刑判決を受けるも、執行直前に特赦によってシベリア流刑に減刑され、危機一髪で窮地を免れます。(フランスの二月革命に怯えた当局が、ある種の見せしめとして演出したと言われている)

釈放後のドフトエフスキーは、妻の病気、愛人関係、その果てに賭博にのめり込み、貧困と報われぬ作家業に刻苦するようになります。さらに妻と実の兄が立て続けに死に、兄の遺族の家計を抱える必要を迫られます。こういった生活苦に苛まれた状況で、ドフトエフスキーは『罪と罰』を執筆したのでした。

あるいは社会主義思想のサークルに所属していた時期、ドフトエフスキーは、農奴解放の啓蒙を主張し、仮に暴力による蜂起以外に手段が残されていない場合は、それをも厭わないと明言していました。しかしこの件はサークル検挙によって実行されなかったものの、革命のためなら殺人も止むを得ないという、本作『罪と罰』に繋がらる思想が、明らかに彼の中に存在していたのです。

こういった作者の背景を踏まえた上で、本編の考察を進めていきます。

ラスコーリニコフが殺人を犯した理由

ラスコーリニコフは、世の中の人間を二種類に区別していました。

第一の層は、大抵の平凡な人間を指し、彼らは現状の秩序に従属し、繁殖によって生産性を高める存在です。いわば一般市民のことです。

そして第二の層は、少数の選ばれし天才を指し、彼らは世の中の発展のために現状の道徳を踏み外すことが許されている人種です。作中ではナポレオンやマホメットが例に挙げられ、彼らは現行の秩序を破壊し、人類を新たな発展に導く存在だと記されています。そして、選ばれし彼らは、人類の発展のためなら血を流すことも厭わないと言うのです。いわば殺人の権利が許された天才です。

一般市民が殺人を犯せば、法によって裁かれます。ところがナポレオンのような天才は、殺人を犯しても、最終的には英雄と称賛され、その罰を下されることはありません。戦争がその最もたる代表例であり、国家の発展のためなら殺人も厭わない事実が確かに存在します。

こういった思想を持つラスコーリニコフは、自身を第二の層の選ばれし天才だと考えているのです。貧困によって大学を中退する羽目になった彼が、仮に将来人類の発展に貢献する偉業を成し遂げるならば、現状の貧困を克服するために金貸しの老婆を殺しても、それは悪ではないという論理です。

頭脳と精神の強固な者が、彼らの上に立つ支配者となる!多くのことを実行する勇気のある者が、彼らの間では正しい人間なのだ。

『罪と罰/ドフトエフスキー』

この論理の決定的な欠点は、第一の層である凡人が、自分を天才だと勘違いし、殺人を犯してしまう危険性です。事実、ラスコーリニコフは自分が天才である決定的な確証がないままに老婆を殺害したため、その後熱病のような精神状態に苦しめられる羽目に陥ったのでした。




天才ラスコーリニコフが病んだ理由

精神的に病んだラスコーリニコフですが、彼は自首してシベリア流刑を下されてからもしばらくは、自分の行為を悪だとは認めていませんでした。

では彼は一体何に苦悩していたのか?

それは、殺人を犯した自分が苦悩している事実そのものです。仮にナポレオンのような天才であれば、自分が殺人を犯した事実を気に病むことなく、鋼鉄の精神で人類の発展に貢献したでしょう。ところがラスコーリニコフは、ナポレオンとは違い精神を患っています。自分が犯人であることが発覚するのを酷く恐れ、せっかく盗んだ金品も地中に隠してしまい、全く英雄として振る舞うことができなかったのです。その結果、自分は選ばれし天才ではないのかもしれない、という認めたくない事実が彼の上に重くのしかかっているのでした。

この愚劣な行為によって、ぼくはただ自分を独立の立場におきたかった、そして第一歩を踏み出し、手段を獲得する、そうすれば比べようもないほどの、はかり知れぬ利益によって、すべてが償われるはずだ・・・ところがぼくは、ぼくは、第一歩にも堪えられなかった、なぜなら、ぼくはーー卑怯者だからだ!

『罪と罰/ドフトエフスキー』

予審判事ポルフィーリは、幾度とない神経戦の中で、殺人犯を急速に捕らえるのではなく、わざと泳がせることで精神的に苦悩さえ、耐えきれずに自首させる、といった理論を展開していました。まさにラスコーリニコフは、熱病のような苦悩に耐えきれずに、ポルフィーリの予言通りの結果に至りました。

この耐えきれずに自首してしまう行為こそ、「第一歩にも堪えられなかった」という言葉が意味するところでしょう。

さらに服役中のラスコーリニコフは、ズヴィドリガイロフが自殺した一方で、自分は自首した事実を酷く苦悩していました。彼の思想が結果として失敗に終わったとしても、彼には最後の手段が残されていました。法の罪からも、周囲の人間や自分自身による罰からも逃れる手段。そう、自殺です。

ところが彼は、死の恐怖すらも克服できぬまま、罪と罰を受ける境遇を選んだのです。それは凡人には最も優しい境遇です。なぜなら罪を認め罰を受け入れれば、もう熱病のような苦悩を味わわずに済むからです。天才だけが耐えうる熱病のような苦悩、ラスコーリニコフは結局その恐怖に耐えられなかったのでした。

ソーニャの愛とキリスト教

ドフトエフスキーの作品の多くは、最終的にキリスト教の精神に帰結します。本作『罪と罰』でも、ラスコーリニコフが人間回帰したのは、ソーニャのキリスト教的な愛のおかげでした。

ラスコーリニコフは長らく無神論者の立場に徹していました。実はラスコーリニコフの正式名をロシア語にすると、イニシャルが「PPP」になります。それをひっくり返せば「666」になります。つまり「悪魔、反キリスト」といったメッセージが名前に隠されているのです。

では、なぜラスコーリニコフは無神論者に成り果てていたのか。

それは実生活の報われない惨めさのためでしょう。とりわけソーニャの境遇が象徴的です。仮にキリストが存在したとして、両親が酷い死に方をし、残された子どもたちを売春で養わなければいけない惨めなソーニャの境遇を取り上げて、神が何の役に立つのだ、とラスコーリニコフは訴えていました。

ところがソーニャは、聖書に描かれる「ラザロの復活」を取り上げて、ラスコーリニコフに更生を促していました。キリストの手によって復活したラザロの奇跡は、人類全体の罪をキリストが贖罪し、生に立ち返らせることの予兆として解釈されてきました。つまり、ラスコーリニコフの罪さえも、必ず信仰によって贖罪され、再び人間的に回帰できることを、彼女は深い愛によって訴え続けていたのです。

無論ラスコーリニコフはソーニャの愛を拒絶していました。ところが、シベリアでの服役期間も彼女がずっと側に居てくれて、決して彼を見捨てなかった圧倒的な慈愛に胸を打たれ、最後にはキリスト教的な精神に同化したのでした。

ひとえにラスコーリニコフが自らを天才と自負しなければいけなかった理由は、孤独の問題に起因していると考えられます。彼は罪を犯す前の学生時代から自分の片隅に篭るような傾向がありました。そういった精神的な孤独を肯定し維持するためには、自分は少数の選ばれし天才として孤高な存在である必要があったのでしょう。だからこそ、母親や妹が自分に過剰に気を遣っている様子などが耐えられず、仮に彼女たちの愛情に心を許してしまえば、自分が天才であることを放棄するのと同義になるため、わざと遠ざけていたのだと思います。

こういったラスコーリニコフの孤独の問題や、キリスト教に対する懐疑の原因をより深く解釈するには、ドフトエフスキーの転換期の作品『地下室の手記』が鍵になります。後期の有名な長編大作を理解する上で、かなり重要な作品なので、ぜひ読むことをおすすめします。

スヴィドリガイロフの自殺の原因

個人的には、ラスコーリニコフの葛藤と同じくらい作中で重要なのが、ズヴィドリガイロフの存在だと考えています。

正直、彼の素性は謎が多く、一体何のために作中に登場したのかが把握しづらいです。

ズヴィドリガイロフは、かつてラスコーリニコフの妹のドーニャを雇っていた資産家の主人です。ところが彼は妻子を持ちながらドーニャに恋をしてしまい、それがトラブルとなり、作中では姑息な男として描かれています。

彼はラスコーリニコフの犯行を知っている数少ない登場人物の一人です。一時はラスコーリニコフに接近し、犯行の秘密を利用して、脅しをかけるように思われたのですが、実際のところ彼はラスコーリニコフを陥れる魂胆を持っていませんでした。それどころか、ラスコーリニコフに海外逃亡を仄めかすなど、どこか味方のような立場を示し、その不気味さからあまり信用できない人物でした。

ひとえに彼がラスコーリニコフに逃亡を促したのは、妹のドーニャを手に入れたかったからです。自分の願望のためなら、何をも厭わない人間なのです。つまり、ラスコーリニコフが殺人を犯そうが、そんな人道的な問題は彼には関係のないことだったのです。つまり、彼もラスコーリニコフと同様に、キリスト教の精神から逸脱した場所にいたということになります。

ところがドーニャが手に入らないことを確信した彼は、拳銃によって自殺を決行します。

これはラスコーリニコフと対照的な進路を歩んだ人間の末路と言えるでしょう。ソーニャによってキリスト教的な愛を知ったラスコーリニコフは、罪と罰を受け入れ、人間回帰の道へ進むことが叶いました。一方でドーニャの愛を手に入れることができなかったズヴィドリガイロフは、キリスト教的な愛と出会わないまま、破滅の道を歩む羽目になったのです。

このようにキリスト教的な精神を中心に物語を捉えたときに、ラスコーリニコフとズヴィドリガイロフは対の存在だと考えられます。信仰の有無によって異なる人間の末路を提示するために、ズヴィドリガイロフの存在は必要不可欠だったのでしょう。




社会主義思想の矛盾を批判

以上の宗教的かつ哲学的なテーマを通して、ドフトエフスキーは何を訴えたかったのか。

おそらく当時の社会主義思想に対する批判だと考えられます。

貧しい立場の人間が蜂起し、革命を哀願する行為は、確かに格差を当然のように許容する社会に警笛を鳴らすことに繋がるでしょう。また社会主義思想を啓蒙する人間は、教養を持ち、論理的であるのが世の常です。戦後の日本の歴史を振り返っても、左翼教養主義的な風潮がありました。

しかし彼らは最終的にヒューマニズムを失い、テロリズムによって世の中を震撼させる事件を起こしてしまうのも、また世の常です。

こういった世情を捉えたドフトエフスキーは、革命に尽力するあまりヒューマニズムが失われてしまうことを懸念したのだと考えられます。

ラスコーリニコフのように、世の中を前進させるためには殺人さえ厭わないような人間が増えれば、果たして革命の先に本当に平和な社会が待ち受けているのだろうか。本作ではその問題を、キリスト教の善悪や博愛によってアプローチし、現実と理想との乖離や、論理の矛盾や崩壊などを露呈したのでしょう。

ドフトエフスキー自身が、社会主義思想のサークルにいたからこそ、かつての当事者として描くべきテーマだったのかもしれません。

いわば本作は、天才は殺人が許されるのか、という究極の問いに対し、キリスト教のヒューマニズムによって答えを導いた物語なのです。

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