ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』あらすじ解説|スペイン内戦の悲劇

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誰がために鐘はなる アメリカ文学

ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』は、スペイン内戦を舞台にした長編小説である。

アメリカ人のロバートが義勇兵として参戦し、任務で敵地の橋を爆破するまでの、壮絶な三日間が描かれる。

実際に内戦の支援に乗り出し、現地を視察して回った作者の実体験が題材になっている。

『武器よさらば』と並んで人気が高い作品で、1948年にはゲイリー・クーパー主演で映画化された。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語を詳しく考察していく。

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作品概要

作者アーネスト・ヘミングウェイ
アメリカ
発表時期1940年
ジャンル長編小説(上下巻)
ページ数上巻425ページ
下巻418ページ
テーマスペイン内戦の悲劇
戦場での愛
個の死と全体の損失

あらすじ

あらすじ

1936年に始まったスペインでの共和国派対ファシスト軍の内戦が舞台である。

アメリカン人のロバート・ジョーダンは、義勇兵として共和国派に参戦し、敵地の橋を爆破する任務を命じられる。任務を遂行するため現地のゲリラと協力することになる。

ゲリラのリーダーであるパブロは、内戦初期にファシスト虐殺を指揮していた惨い経験から、現在では酒に溺れ腑抜けになっている。彼の代わりに妻ピラールが実質ゲリラの指揮をとっている。そしてゲリラの中にマリアという女性がかくまわれていた。マリアはファシスト軍に村を襲撃され、両親を殺され、強姦された過去があり、危険な精神状態だったところをゲリラに助けられた。ロバートとマリアはひと目見た瞬間に恋に落ちる。

橋の爆破準備を進める中で、パブロだけが作戦に反対し、野次を飛ばしたり、夜中に姿を消したり、爆破に使うダイナマイトを持ち出したりと、幾度となく怪しい言動を見せる。ゲリラ内ではパブロを暗殺すべきという意見が高まるが、最終的にパブロは作戦に協力する意志を示す。

そして来る橋の爆破までの時間、ロバートとマリアはひたすら愛し合う。

橋の爆破には順序がある。まず味方の軍が敵の本拠地を空爆する。すると敵は必ず橋を通って加勢するから、そのタイミングで橋を爆破するのだ。しかし作戦を進める中で、敵の本拠地が変わっており、空爆はおろか橋の爆破が無意味であることに気づく。ロバートはその事実を手紙で指揮官に伝えるが、伝達が間に合わず、ロバートは無意味だと知りながら命令通り橋を爆破する。

無意味な爆破をやり遂げる中でゲリラの仲間が多く死んだ。そしてロバートも追手から逃げる最中に脚を負傷する。自分を置いて逃げるようゲリラに伝えるが、マリアだけは涙ながらに一緒に残ると駄々をこねる。そんなマリアをなんとか説得して独り戦場に残ったロバートは、追手を少しでも足止めできるよう銃を握って敵を待ち構えるのだった。

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個人的考察

個人的考察-(2)

創作背景

ヘミングウェイの小説は、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての、作者の戦争実体験を題材にしたものが多い。

赤十字として第一次世界大戦のイタリア戦線に赴き、砲弾を浴びて脚を負傷した体験は『武器よさらば』で描かれた。そして戦後の空虚なパリでの生活は『日はまた昇る』で描かれた。

これらの作品で脚光を浴び、揺るぎない作家的評価を獲得したヘミングウェイは、1936年にスペイン内戦が勃発すると、積極的に支援に乗り出し、現地に渡って内戦を視察して回った。この体験を材料に執筆したのが本作『誰がために鐘はなる』である。

戦争と恋愛を交錯させた悲劇は、『武器よさらば』に通づるテーマだが、しかし本作ではその悲劇はより暗澹たる様相を帯びている。ロバートとマリアは戦場で激しく愛しあうが、『武器よさらば』のようにひと時でも戦争を忘却する瞬間は訪れない。

物語はアメリカ人のロバートが、現地のゲリラと協力してファシスト軍の橋を爆破するまでの三日間を描いたものだ。たった三日の物語に上下巻を要したのは、人類史上最も残酷と言われたスペイン内戦について、あらゆる人物の視点で苦悩が描かれるからだ。

彼らの苦悩を理解するには、作中では説明されないスペイン内戦の惨い歴史的背景を知る必要がある。詳しくは次章にて解説する。

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スペイン内戦について

1936年に勃発したスペイン内戦は、国内で分裂した共和国(左派)とファシスト(右派)が衝突した戦争である。

両派のバックに様々な国がついたことで内戦は激化し、それが第二次世界大戦の火種になったとも言われている。

ピカソのゲルニカは、ナチスが支援したファシスト派による無差別爆撃を描いた作品として知られている。

内戦の原因は1918年に終結した第一次世界大戦まで遡る。

■第一次世界大戦のヨーロッパ

当時のヨーロッパでは、皇帝や国王が支配する帝国主義が主流だった。各帝国が植民地をめぐって二つの陣営に分かれ、両者の牽制が激化したことで第一次世界大戦が勃発した。

この世界大戦が終結すると、当時のアメリカ大統領ウィルソンが提唱した共和主義がヨーロッパに広まる。つまり国王が支配する帝国主義ではなく、市民が政治に参加する民主主義の国家が次々に誕生していったのだ。一見良い流れに見えるが、しかしこれは長く続かなかった。

1929年にアメリカの株式暴落の影響で世界恐慌が発生すると、戦後復興中だったヨーロッパは余計に不況に見舞われる。それで生活が困窮し不安的な状態に陥った結果、国民は苦しい現状を打破してくれる強い指導者を望むようになる。すると各地でクーデターが勃発し、イタリアのムッソリーニはじめ、ヨーロッパ中でファシスト政権が誕生する。その最たるものがヒトラーの台頭だ。

戦後の混乱と世界恐慌の影響で、国民自らファシストを望む皮肉な状態に陥ったわけだ。それが第二次世界大戦への引き金にもなった。

■当時のスペインについて

そしてここからがスペイン国内の話である。

スペインは第一次世界大戦で中立の立場を取っていたため、戦争特需で景気が向上した。しかし戦後ヨーロッパ全体の経済が落ち込むとスペインも同様に荒廃する。その結果、軍部がクーデターを起こし軍事独裁政権が誕生する。これには反発の声も強く、共和主義や共産主義によるデモが多発する。

やがて世界恐慌が発生すると軍事政権は経済政策に失敗し、続いて共和国派が政権を握ることになる。ところが共和国政権も恐慌に対して打開策を打ち出せず、またしても独裁政権を望む声が強くなる。

経済が低迷すると国民は新しい指導者に希望を託すようになり、その結果、共和国政権と独裁政権を行ったり来たりする不安定な状態が続いていたのだ。

これにはスペイン独自の歴史的影響も関係している。スペインはヨーロッパの中で最も貧富の差が激しい国だった。左派政党である共和国政権は、労働者を救済するため賃上げ政策などを実施し、既得権益層である資本家や軍部などを締めつけいく。それに反発する形で資本家や軍部が右派のファシスト政権を支持し、国内が真っ二つの勢力に分かれていた。

両政党の支持数は同じくらいで、毎回僅差で政権が入れ替わっていた。

そんな中、1936年にファシスト派のフランシスコ・フランコ将軍がクーデターを起こすと、緊張状態だった二つの勢力が衝突し、スペイン内戦が勃発した。

ファシスト側にはイタリアやドイツがつき、共和国側にはソ連がついた。欧米諸国は不干渉の立場を取ったが、自主的に義勇兵として共和国側につく者も多かった。

『誰がために鐘は鳴る』でアメリカ人のロバートが共和国派に参戦したのはそういう経緯だ。

そしてこの内戦がいかに悲惨なものだったかは次章にて解説する。

人類史上最も残酷な戦争

スペイン内戦が人類史上最も残酷な戦争と言われる所以は、国民たちが自ら武装して身近な人間同士で殺し合いを行ったからだ。

『誰がために鐘は鳴る』では、パブロ率いる共和国側のゲリラが、教会でファシストを処刑した過去が語られる。武装した労働者たちが、村長や地主や経営者つまり既得権益層の資本家たちを農具で殴り殺していく。昨日まで同じ村の住人だった者同士、あるいは親族の中でも共和国派とファシスト派に分かれて殺し合ったのだから惨すぎる。

パブロ率いる共和国側の村人たちは、初め処刑に対して躊躇していたが、声を荒げて熱狂する者が現れると、たちまち憎悪が全体に伝染し、彼らは暴徒となって狂ったように処刑に夢中になる。ときに彼らの胸中に、「あいつはそこまで悪い奴じゃないから殺さなくていいんじゃないか」という疑念がよぎりもするが、既に歯止めが効かない状態になっていた。

だがゲリラのメンバーは処刑を進めるうちに、物凄い渇きを感じ、なぜ自分がこんなことをしているのか分からなくなる。彼らの殺し合いには義がない。政府が内戦を勃発させたことで、国民たちはよく分からないまま身近な者同士で殺し合いをしなければいけなかったのだ。

印象的なのが、橋の爆破が無意味である事実を指揮官に伝えに行くアンドレスという男だ。彼は馬を走らせながらこんなことを考える。

もしおやじが共和国派でなかったら、おれも、いまごろ兵隊になって、ファシスト軍に入っていたことだろう。あいつらの兵隊になっていれば、何も問題はないわけだ。権力の下で生きるほうが、それと戦うよりは楽なんだ。

『誰がために鐘は鳴る』

彼は明確な思想があって共和国派になったのではない。父親がそうだったから自分もファシスト軍と戦わなければいけない。そして戦況が劣勢になった今、ファシスト軍に入れたらどんなに楽だろうと彼は考える。いっそこのまま逃げ出そうか。しかし戦場から逃げるのは恥だと自分を咎め、彼は任務をまっとうする。これが戦争の全正体である。

戦う理由もないまま殺し合い、仲間を殺された復讐心が憎悪を膨らませる。この連鎖によってゲリラのメンバーの心は荒んでいく。リーダーのパブロが酒に溺れ、ロバートに非協力的だったのは、あまりに無意味に人を殺しすぎて、戦意を喪失していたからだ。

そんなパブロを厄介者扱いする他のメンバーとて本当は病んでいる。ロバートの現地案内を務めるアグネスは、人殺しはしたくないが命令あらば殺す、というスタンスだった。彼らの人殺しを拒否したい良心は、政府という巨大な権威に取り込まれ、彼らは無意味に人殺しをする道具に成り果てていたのだ。

実際に主人公のロバートは、自分も彼らもただの道具に過ぎないことを自覚していた。

命令のおかげで、自分がどんな目にあうか、またこの老人(アグネス)が、どんな目にあうかを考えると、やたら腹がたった。(中略)自分だって、この老人だって、何ものでもありはしない。ただ、任務を果たすための道具にすぎないのだ。

『誰がために鐘はなる』

彼らが使い捨ての道具である事実は、無意味に橋を爆破する展開が皮肉的に訴えている。

敵の居場所が変更された以上、危険をおかしてまで橋を爆破する理由はない。それでもロバートは無意味と分かっていて爆破を実行する。道具である彼には自己判断の権利がない。橋を爆破しろという命令が下されたなら、それが無意味であろうと実行するしかないのだ。

そして無意味に橋を爆破した結果、ゲリラのメンバーが多く死に、ロバートも脚を負傷して絶望的な状態に陥る。全く無意味な作戦で死ぬのだから、彼らは犬死である。

戦争の犠牲者は常に末端の国民であることを、この物語は強く訴えている。

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ロバートが自殺しなかった理由

無意味に橋を爆破させ、追手から逃げる最中、ロバートは砲弾を浴びて馬の下敷きになる。もう逃げられないと悟った彼は、マリアとの悲痛な別れを終え、独りで戦場に残る。

どうせ長くない命なら、最後に追手を足止めしようとロバートは銃を握りしめる。無意味な道具としての生涯で、最後に意味のあることを成し遂げたいと考えたのだ。

しかしあまりの激痛に錯乱しそうになったロバートは何度も自殺の誘惑に駆られ、それを必死で払い除ける。彼が自殺を拒否したのは、死を恐れる思いもあったが、彼は運命というものを否定したかったのだと考えられる。

物語の中で幾度となく超感覚的な迷信じみた話が登場する。

ロバートは初めて現地のゲリラと合流した日、パブロの妻のピラールに手相を見られ、彼女が何か不吉な運命を読んだことに気づく。しかしロバートは非科学的な手相など信じないと言って全く気にしていない風だった。

さらに妻のピラールは、過去に仲間の1人から死臭のようなものが漂い、実際にその人間は数日後に死んだという、またしても迷信じみた話を聞かされる。

こうした迷信から、ロバートの作戦は失敗するのではないか、という不吉な予感が始終漂い、実際にロバートは最後に負傷した。その時になってロバートは手相の話を思い出し、運命通りの結果になったことに気づくが、それでも彼は手相など信じないと否定する。

彼が運命を否定したがるのには、父親の自殺が関係していたと考えられる。ロバートの家には不気味な因果を持つ拳銃があった。軍人の祖父が戦場で愛用した拳銃で、ロバートの父はその拳銃で自殺した。父の死後、ロバートはその拳銃を湖に捨てる。それは拳銃が持つ死の呪いを自分から払い除けたかったからだろう。

つまりロバートは、自分も父親のように自殺する日が来るかもしれない、と心のどこかで感じていたのだと考えられる。そして実際に自殺を迷う瞬間が訪れた。

作中では自殺と宗教の問題が語られる。キリスト教において自殺は大罪だ。しかし多くの人間が無意味に死ぬ戦争の時代、人々は既に神の存在など信じていない。神が存在しないなら自殺を否定する理由も存在しなくなる。

実際に負傷したロバートは、死は決して悪いことではなく、むしろ慰めだと考える。それでも彼が自殺を否定したのは、父親の自殺があったからだろう。不気味な因果を持つ祖父の拳銃が絶えず彼の人生につきまとい、自分もいずれその拳銃で死ぬ日が来るのではないか、という強迫観念を覚え、その運命から逃れたかった。だから彼は手相などの迷信を否定した。迷信を受け入れれば、自殺という運命を受け入れることになる。

それを否定すべく、ロバートは最後に運命からの脱却を図って、銃口を自分ではなく、追手に向けたのかもしれない。

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タイトルに込められた意味

タイトル「誰がために鐘はなる」は、16世紀のイギリスの詩人ジョン・ダンの詩に由来する。

ゆえに問うなかれ
がために鐘はなるやと
そはがために鳴るなれば

『誰がために鐘は鳴る/ジョン・ダン』

鐘には祝福のイメージがあるが、この詩に登場する鐘は、死者を送り出す弔いの鐘を指す。

詩を要約すれば次のようになる。

「死者を弔う鐘は誰のために鳴っているのかと問うな、それはあなたのために鳴っている」

これは見知らぬ他人の死でも、自分に大きく関係している、ということを訴えた詩である。

ジョン・ダンは、個と全の概念を説いた詩人である。知らない誰かの死であろうと、それは自分が属す世界の損失なのだから、自分にも関係があると説いたのだ。

ヘミングウェイがこの詩を引用したのは、スペイン内戦で人知れず死んだ者の悲劇は、世界中に関わる問題なのだから、戦争に無関心であってはいけないと伝えたかったからだろう。

個の時代が進むにつれ、人々は個人の幸福だけを追求し、他者の悲劇から目を背ける。ましてや遠くの国の他民族の死について、深く考えなくても平然と生きていける。

しかし彼らの死は自分と無関係だと考えているうちに、取り返しのつかない悲劇が自分の身に襲いかかるやも知れない。

我々は今世界で何が起こっているのか、ということを真剣に考えなくてはならない。

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