サン=テグジュペリ『夜間飛行』あらすじ解説|人間の尊厳と勇気の物語

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夜間飛行 フランス文学

サン=テグジュペリの『夜間飛行』は、20世紀フランス文学の傑作として名高い小説です。

航空事業の成長に粉骨砕身、命を燃やした人々を描く本作は、飛行士だった作者の体験からなる実録的な物語です。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者  サン=テグジュペリ  
フランス
発表1931年
ジャンル中編小説
ページ数136ページ
テーマ人間の尊厳と勇気
受賞フェミナ賞

あらすじ

あらすじ

ファビアンが操縦する飛行機を、ブエノスアイレスで待ち受ける支配人リヴィエール。彼は部下に対し冷徹でした。上司が部下に嫌われることで現場の規律が保たれる、という信念があったのです。ところが実際は、飛行士の命を預かる立場という使命感から、彼は不安に苛まれていました。

リヴィエールは、整備不良のかどでロブレという整備工を解雇します。解雇の撤回を懇願するロブレを前に、リヴィエールに迷いが生じます。しかし、過誤を排除しなければ、飛行士が、会社が、事業が、事故に怯やかされ続けると考え、彼は撤回を承諾することはありませんでした。

ファビアンの操縦するパタゴニア機が暴風雨に遭遇し、消息不明になります。平然を装うリヴィエールもとうとう、夜間飛行の事業に飛行士を犠牲にする価値があるのか、と自問自答します。もはやファビアンが無事に戻る見込みがないことは明らかでした。そのまま燃料の限界時間が訪れ、リヴィエールはうなだれます。

ファビアンを失ったこと、郵便飛行が頓挫するであろうこと、二重の意味で打ちのめされたリヴィエールでしたが、彼は夜間飛行の続行を告げます。続行の報せが届いた操縦士は、湧き上がる力をもってふたたび危険な夜間飛行へと旅だっていきます。事務室には、勝利も敗北もすべて乗り越えて歩みつづけるリヴィエールの姿があったのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

作者:サン=テグジュペリについて

作者のサン=テグジュペリは一体どんな人物だったのか。

彼はフランスの貴族出身で、その生涯の殆どを空の上で過ごしました。航空会社の飛行士だったのです。

航空業の傍ら、彼は自身のパイロットの経験を基に執筆を行います。

デビュー作『南方郵便機』は構成技法の問題からさほど評価されませんでしたが、ついで発表された本作『夜間飛行』は、20世紀のフランス文学を代表する作品となりました。

1935年、フランスーベトナム間を飛行中だったサン=テグジュペリは、機体のトラブルでサハラ砂漠に不時着します。それから4日間、食うものも飲むものもなく、炎暑の中を彷徨うことになります。一時彼の遭難は絶望視されていましたが、なんと彼は徒歩でカイロに生還したのでした。この時の経験を基に、代表作『星の王子さま』が創作されたと言われています。

生涯を空に費やした男、サン=テグジュペリ。その最期もまた、空での出来事でした。第二次世界大戦中に偵察のために単機で出撃し、そのまま帰還せずに消息不明となったのです。

飛行士の経験を綴ったエッセイ『人間の土地』がおすすめです。新航路開拓に果敢に挑む友人、飛行中に消息不明になった友人など、彼の小説の原材と言える出来事が記されています。

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郵便飛行の開拓機とその奮闘

『夜間飛行』は、文学的価値に加えて、歴史文献としての価値を有す作品と言われています。

第一次世界大戦を経て、大きく発展した飛行機は、旅客機や郵便運送としての役割を担うようになります。そして作者のサン=テグジュペリが生きた第二次世界大戦までの時期は、郵便飛行の開拓機、成長期だったのです。

つまり本作『夜間飛行』は、まだ致命的なリスクを伴う郵便飛行の事業を、確固たるものにするために奮闘した人々の物語なのです。

せっかく、汽車や汽船に対して、昼間勝ち優った速度を、夜のあいだに失うということは、実に航空会社にとっては、死活の大問題だ

『夜間飛行/サン=テグジュペリ』

当時の夜間運行は、その危険性から、かなり批難されていたようです。

夜間でなくとも、そもそも航空機の危険性は作者自身が証明しています。彼は幾度となく死を覚悟するような経験をしています。サハラ砂漠に不時着し、4日間飲み水もないまま炎暑の中を遭難した経験。新造機の試験中に海中に墜落した経験。

ましてや夜間ともなれば、いかなる災厄も予測できないため、危険視されていたのです。

されど、日中のみしか運行できないのは、航空事業としては痛手だったわけです。そのため、実験的な夜間運行によって、危険率を少しでも下げる必要がありました。その中で不慮の事故で命を落とした者は多くいました。(作中のファビアンがそうであるように)

果たして倫理問題はどうなのか、と考えた読者もいるでしょう。事実、物語の中でもリヴィエールは事業と世論の板挟みにありました。非常に難しい問題です。

ただし一つだけ言えるのは、現在我々が遠方の国々を旅行できるのも、外国の物資を入手できるのも、そんな命を落としてでも郵便飛行の成長に貢献しようとした彼らのおかげなのです。

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支配人リヴィエールの苦悩

「人間の尊厳と勇気」というテーマで称される本作ですが、飛行士ではなく支配人にスポットを当てた点が非常に興味深いです。

実際に空で死闘するのは飛行士であり、支配人リヴィエールは彼らに指揮する立場です。リヴィエール自身は死と隣り合わせにはいないのです。その事実を本人も理解しているからこそ、彼には支配人としての信念があり、それが時に彼を苦しめました。

リヴィエールは飛行機の遅延に対して厳格でした。整備士が整備ミスをした場合には一発で解雇を通達しました。厳しい処罰を設けることは、夜間運行のリスクを軽減させ、飛行士の命を守ることにも繋がります。リヴィエールの厳格さは現場の秩序を保つためには不可欠だったのです。

しかし、リヴィエールの信念は厳しい処罰に留まりません。監督のロビノーが、部下の飛行士と親しくすることも許しませんでした。

なぜそこまでして自分たち指令側の人間が現場の人間に嫌われる必要があったのか。それは下記のようなリヴィエールの信念に起因します。

「部下の者を愛したまえ。ただそれと彼らに知らさずに愛したまえ」

『夜間飛行/サン=テグジュペリ』

リヴィエールやロビノーは、飛行士の命を預かる監督者としての立場です。事実上、飛行士たちは彼らに服従することになります。仮に監督者と飛行士の間に友情が芽生えれば、飛行士は友情のために服従することになり、監督者はその友情を裏切ることになるのです。

だからこそ、監督者は厳格な態度で嫌われ者に徹したのです。その冷徹さが結果的に部下を愛する行為でもあったのです。

この役回りに徹するリヴィエールは、内心では苦しんでいました。エゴイズムとしての良心を優先するなら、部下を処罰することも、解雇を通達することも、したくないわけです。されど本当の意味での良心を優先するからこそ、リヴィエールは彼らのために嫌な役回りに徹しなければならなかったのです。

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最後に夜間運行を再開した理由

ファビアンを失ったことで打ちのめされたリヴィエール。ところが彼は、最後には夜間運行の再開を指揮します。

世論としては、死者を出したのだから、もうこれ以上の夜間運行は倫理的に悪だ、となるはずです。ところがリヴィエールは批判を押し退けてでも、夜間運行を再開しました。

なぜリヴィエールが再開を命じたのかを考えるよりも、これっきり夜間運行を断念したらどうなっていたかを考えるべきだと思います。

ファヴィアンの死によって航空会社内の従業員は酷く消沈していました。それはもちろんファビアンの死に対するショックによるものですが、それに加えて、夜間運行が廃止になることに対する悲嘆も含まれていたように思います。

なぜなら、航空会社の従業員は、無理やり命を危険にさらされているわけではないからです。航空事業の発展に貢献したいと思う人間が集っているのです。ともすれば、リヴィエールが夜間運行の廃止を通達すれば、彼らはこれまでの自分の労力を全て否定されることになります。ましてやファビアンのように命を落とした人間の努力は無駄骨になるわけです。

死者を出しても夜間運行を続行するのは、人間の尊厳を否定する行為と世論は捉えるかもしれません。しかし、従業員にとっては、夜間運行が廃止になることの方が、尊厳の否定だったのでしょう。

夜間運行が再開され、空に飛び立とうとするパイロットの台詞を読めば納得するはずです。

「あのわからずやのリヴィエールめが・・・僕がこわがると思っているんだよ!」

『夜間飛行/サン=テグジュペリ』

彼は同僚の忠告にも耳を傾けず、力強い微笑を浮かべて、自ら空に飛び立つのでした。

まさに「人間の尊厳と勇気」の物語。彼らは誰に強要されることもありません。自ら夜間の航路を開拓したくて堪らないようです。

「一旦道を開いた以上、続けないという法はない」

夜間飛行/サン=テグジュペリ』

さすれば、上記引用のようなリヴィエールの判断は相応しかったのでしょう。

彼らの葛藤と奮闘が、今日の我々の生活に貢献してくれたわけです。

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『夜間飛行』名言

あの連中はみんな幸福だ、なぜかというに、彼らは自分たちのしていることを愛しているから。

愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ。ところが僕は決して同情はしない。

人生には解決法なんかないのだよ。人生にあるのは、前進中の力だけなんだ。その力を造り出さなければいけない。それさえあれば解決法なんか、ひとりでに見つかるのだ。

この芸術は、君にも僕にもただ退屈なのだが、ただ君はそれを白状しないだけなんだ

部下の者を愛したまえ、ただそれと彼らに知らさずに愛したまえ

一旦道を開いた以上、続けないという法はない

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