ヘミングウェイ『老人と海』あらすじ解説|ハードボイルド文学

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老人と海 アメリカ文学

ヘミングウェイの小説『老人と海』は、ノーベル文学賞の決め手となった、20世紀アメリ文学を代表する作品です。

ハードボイルドかつ、外面描写に拘った作風が特徴的です。作者の生涯から作品の主題を紐解いていこうと思います。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者 アーネスト・ヘミングウェイ 
アメリカ
発表1952年
ジャンル中編小説
ハードボイルド
ページ数121ページ
テーマ老いの葛藤
強い男への憧れ
受賞ノーベル文学賞

あらすじ

あらすじ

老いた漁師サンチャゴは、84日間の不漁が続いており、周囲からは落ち目を嘲笑されています。助手の少年マノーリンだけはサンチャゴに献身的ですが、両親から別の船に乗ることを命じられる始末です。それでもサンチャゴの目は死んでおらず、眠っている間も強さを象徴するライオンの夢を見るのでした。

ところが85日目に1人で漁に出たサンチャゴは、船のサイズを上回る巨大カジキを引っ掛けます。魚のかかった網を素手で掴み怒涛の戦いに挑むサンチャゴは、3日間に渡りる死闘の末に遂に巨大カジキを仕留めます。

魚を船の横に縛りつけて港へ戻る最中、傷ついた魚から流れる血の臭いに誘われ、アオザメの群れに襲撃されます。サンチャゴは銛やオールや棍棒で必死に闘いますが、港に辿り着いた頃には、巨大カジキの身は全て食い尽くされ、ただの骨になっていました。

生きて帰ったサンチャゴが眠る姿を見て、マノーリンは涙を流します。サンチャゴは性懲りもなく、強さを象徴するライオンの夢を見て勝利に焦がれているのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

ハードボイルドの魅力

「落ちぶれた老人が死闘の末に何も手に入れられなかった話」

ひと言で表せばそうなるのですが、作中に描かれる老人のロマンチシズム、ナルシシズムを理解することで初めて、ハードボイルドの魅力が実感できると思います。

大前提に主人公のサンチャゴが「老人」であることが重要です。かつては体格のいい現役バリバリの漁師だったのですが、老いによって肉体が衰え、既にピークアウト状態なのです。いわゆる、現役を過ぎて落ちぶれた男の物語だということです。

周囲からは嘲笑され、助手のマノーリンも両親に乗る船を変えさせられる始末ですが、サンチャゴはいまだ負け知らずの目をしており、決して諦めてはいません。

老いに抗うサンチャゴは、巨大カジキとの長い決闘の中で、若い頃にアフリカの岸辺で見たライオンの群れや、腕相撲勝負に勝った記憶を思い出して自分を鼓舞します。つまり、肉体の老いを上回る精神力でカジキとの死闘に挑んていたのです。

こういった、誰もが避けることの出来ない老いに逆らって、戦いに挑み続ける姿にハードボイルドの魅力が詰まっているのだと思います。

ある種、巨大カジキやサメの群れとの闘いではなく、自身の老いとの戦いが描かれていたのではないでしょうか。

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何も手に入れられない哀愁

ヘミングウェイの作風の特徴には、人間が死闘した末に何も手に入れられなかった、というバンドエンド的な哀愁があります。

『武器よさらば』という作品では、第1次世界大戦中にスイスに逃亡した男が、最後には恋人と子供を失うという物語が描かれています。

『誰がために鐘は鳴る』という作品では、橋を爆破する任務を受けた主人公が、連絡の不備で作戦変更が伝わらず、無駄に橋を爆破して死ぬという物語が描かれています。

2作品とも『老人と海』に通づる死闘の末の喪失が物語の基盤になっているわけです。これもハードボイルドの魅力のひとつでしょう。ただ死闘して勝つだけでは少年漫画的で、負けるからこその哀愁がより男の魅力を引き立てているように思います。

サンチャゴは死闘の末に敗北しましたが、それでも彼の魂だけは決して負けていないために、読者は胸を打たれるのではないでしょうか。

『老人と海』が今もなお人々に読み継がれるのは、先に挙げた2作品のような戦争との戦いではなく、「老いとの戦い」という普遍的な要素が描かれているからでしょう。全ての人間が避けられない運命の中で足掻いて、もがいて、全てを失ってもなお、勝利を夢見続けるサンチャゴに、いずれ自分を重ね合わせる時が来るやもしれません。

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ラインオンの夢が象徴するものとは

作品の主題は「ライオンの夢」に象徴されていると思います。

老いたサンチャゴは、いつからかライオンの夢以外は見なくなりました。かつて船員だった若い頃にアフリカの岸辺で見たライオンの群れを回想しているのです。若かった頃の栄光、あるいは、百獣の王としての強さを象徴しているように思われます。

肉体的に老いたサンチャゴは、潜在的に若き日の強い自分を求めていたのではないでしょうか。それは決して過去の栄光に縋っているわけではなく、今もなお勝利を追求していることを意味しています。なぜならサンチャゴは、いくら肉体が老いても、目だけは海の色をして死んでいなかったからです。

サンチャゴの強さに対する執着は、巨大カジキの捕獲を成し遂げますが、サメの襲来によって無情にも失われてしまいます。ツアーの客たちはウェーターの言葉の意味を勘違いして、サンチャゴが持ち帰った巨大な骨をサメだと思い込んでいました。つまり、サンチャゴの一時の勝利は周囲の人間には理解してもらえなかったと言うことでしょう。つまり、周囲によってサンチャゴの敗北は決定づけられていたのです。

しかし、サンチャゴは物語の最後でもライオインの夢を見ていました。巨大カジキを失い、周囲に勘違いされようとも、次の勝利を諦めてはいなかったということでしょう。一見、バッドエンドのように見えますが、サンチャゴの魂が死んでいない限り、陰気なエンドロールなど流れはしないのです。

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サンチャゴの狂人っぷり

真面目な考察にあえて笑える要素を入れるとすれば、サンチャゴの精神力が人間離れしすぎている部分ですね。

サンチャゴは丸3日間、巨大カジキに引っ張られる網を握り続け、掌が擦り切れたり、感覚がなくなって開閉すらできなくなっても、離さなかったのですから狂人です。ましてや五メートル越えの魚の力を想像すれば、いかに人間離れしていたかが分かるでしょう。

睡眠もほとんど取らず、食事は調味料も付けないマグロの身を片手で食らいついていました。さすがにワイルド過ぎるでしょう。もはやカジキとの戦いに必要な栄養を摂取していただけなのです。そんな野生的なサンチャゴも、塩を持ってくればよかったと後悔する場面が人間的で笑えます。

巨大カジキとの戦いの最中、自分を鼓舞するために、若き日にゴリゴリの黒人相手に勝利した腕相撲の記憶が回想されます。勝負が始まったのが朝一番で、お互いの力が均衡だったため微動だにせず、結局勝負がついたのは翌日の朝だったのです。時間軸が狂っています。腕相撲の勝負を24時間休みなく続行する狂人がどこにいるでしょうか。

それだけの精神力を備えたサンチャゴですから、巨大カジキとの常人離れした死闘の後にもかかわらず、サメの襲来に一切屈しません。銛をサメにぶっ刺し、銛がダメになれば、オールの先にナイフを括り付けてぶっ刺し、ナイフが折れれば、棍棒でどつき回し、棍棒がダメになれば、舵の棒を引き抜いてぶん殴ります。

改めてサンチャゴの行動を取り上げると、完全にイカれた老人ですね。老いで肉体が衰えたという設定が滲むくらい、タフ過ぎます。

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ヘミングウェイの生涯と自殺

『老人と海』を考察する上では、ヘミングウェイの生涯を知る必要があります。

娘が欲しかった母親の願望で、幼少の頃に女装を強要させられていたヘミングウェイは、その反動か、後に男らしい趣味思考に強く憧れを抱くようになります。ある種それは、作品に描かれるハードボイルド、つまり強い男の美学にも反映されていると思います。

ところが彼の運命は非常に残酷です。『老人と海』が決定的な要因としてノーベル文学賞を受賞したヘミングェイは、なんと同年に2度も飛行機事故に遭ってしまいます。奇跡的に命は助かったものの、肉体の損傷が大きく、授賞式には参加することができませんでした。

事故の結果、ヘミングェイの男らしさの象徴でもあった肉体面に回復の見込みがなくなります。その事実によって彼は躁鬱を患い、執筆活動が滞ってしまいます。そして1961年に彼は、散弾銃で自ら命を絶ってしまいました。

いくら肉体が老いても勝利を夢見たサンチャゴはきっと作者自身だったのでしょう。老いであれば抗えたはずなのに、事故によって肉体を損傷し、抗う余地さえ失ったヘミングウェイは、ライオンの夢を見ることの不可能性を認めてしまったのでしょう。強さに対する憧れが絶たれ、人生美学から外れた時点で、彼の生きる気力は損なわれ、死を選ぶ以外に術がなかったのだと思います。

自らの美を貫き通したヘミングェイの死を称賛する人もいます。しかし個人的には勝利に固執した人間の破滅に思えて胸が苦しくなります。

サンチャゴには、マノーリンという慕ってくれる少年がいました。周囲の人間が老いたサンチャゴをいくら揶揄しようとも、マノーリンだけはサンチャゴを尊敬し、ずっと気にかけてくれていたのです。それなのにサンチャゴは彼の優しさを素直に受け取らず、ただ強さの象徴であるライオンに焦がれてばかりいました。もしマノーリンの優しさに気づいていたら、強さではなく周囲の人間の優しさを大切にしていたら、いくら肉体がダメになっても精神が朽ちることはなかったでしょう。同様にヘミングウェイも、自ら死を選ぶことはなかったのではないでしょうか。そんなふうに物語と作者を重ね合わせて考えてしまいます。

このような観点から『老人と海』を考察すると、単純に「落ちぶれた老人が死闘の末に何も手に入れられなかった話」では片づけられない奥深さがあると思いませんか?

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