大江健三郎『飼育』あらすじ考察 黒人の飼育は何をもたらした?

飼育 散文のわだち
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大江健三郎の小説『飼育』は、芥川賞を受賞した初期の代表作です。

戦後の日本文学を代表し、ノーベル文学賞をも受賞した大江健三郎が、大学時代に発表した本作に込められたメッセージとは?

『飼育』作品概要

作者大江健三郎(87歳没)
発表時期1958年(昭和33年)
ジャンル短編(中編)小説
テーマ戦争がもたらす秩序崩壊
子供から大人への成長
受賞第39回芥川賞

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『飼育』あらすじ

あらすじ

主人公の少年は、外部から軽蔑され遮断された、谷間の村に住んでいる。戦時中のある日、村にアメリカの飛行機が墜落し、黒人兵が捕えられる。村の大人達は処置に困り、県の指令が来るまで、主人公の家の地下倉で黒人兵を「飼育」することになる。

主人公は黒人兵に対する恐怖心、しかし妙な誘惑の感情に駆られながら、やがて人間的な交流を果たすようになる。ところが、県の指令で黒人兵の移送が決まると、今まで従順で大人しかった黒人兵は、主人公を人質にして抵抗する。最終的には、父がなたをふるって、主人公の手ごと黒人兵の頭を切りつけて殺害する。主人公は、家畜のような黒人兵が敵だったこと、村の大人が自分を犠牲にしたことに大きなショックを受け、嘔吐感が消えなくなる。

父の鉈によってぐちゃぐちゃになった主人公の手を指して、友達は臭いを指摘する。すると主人公は、「これは黒人の臭いだ」と答える。その時に主人公は、自分がもう子供ではないことを悟るのだった。




『飼育』個人的考察

個人的考察

閉鎖され軽蔑された村

物語の舞台は、谷間に存在する未成育な開拓村である。洪水の影響で町に続く橋が崩れ、外部から遮断された空間になっている。

そしてこの外部から遮断された村は、しばしば「町」と比較され、村人の醜さが指摘される。村人は町の人間から汚い動物のように蔑まれ、女教師からは汚れて臭いと侮辱され、書記という愛称の人物からは「蛙」と呼ばれている。

実際に村人の生活は歪である。物語の冒頭では、主人公が死者の骨を掘り起こす場面が描かれ、また骨を見つけられなかった主人公が、友人を殴りつけて奪おう、と考える点は異常だ。あるいは川辺では、全裸の友人が、村の少女達に性的な行為をさせる場面なども描かれる。

これら非近代的で野蛮な生活文化が意味するところは、外部から遮断されているゆえに、世間とは異なる死生観の中にいるということではないだろうか。

時代は太平洋戦争の頃である。ところが主人公にとって戦争は外部の世界の出来事ととして認識されている。米軍の飛行機が通過しても、それは鳥の一種にしか感じられない。つまり、主人公の少年には「戦争による死」という感覚が欠落しているのだ。一方で、死者の骨を掘り起こすなど、野蛮な死生観は蔓延っている。

要するに、「自然界における原始的な死生観」を持つ村に、米軍の飛行機が墜落することで、「戦争による卑劣な死生観」が入り込む、という構造で物語が展開するのだろう。その新たな死生観は、主人公に恐怖を与え、同時に奇妙な誘惑を引き起こすのであった。この奇妙な誘惑こそ、その後の主人公と黒人兵の交流に関係してくる。

では、主人公が感じた奇妙な誘惑とは何だったのか?

黒人兵の「飼育」が意味するもの

「飼育」という言葉の通り、村人に捕らえられた黒人兵は、家畜のような扱いを受ける。その結果、村には新たな支配構造が生まれる。

そもそも村の人々は、街の人間から差別され蔑まれていた。いわば、村人は被支配者の立場にあったのだ。ところが黒人兵を飼育するようになり、村人達は支配する側の権利を有することになる。

決定的な場面は、主人公が黒人兵に食べ物を与える部分だ。主人公は、黒人兵が食べ物を拒絶することを恐れていた。「食べ物を拒絶する」=「自分の手中に収まることを拒絶される」という意味になるからだろう。だからこそ、黒人兵が食べ物を口にした瞬間に、主人公は言いようのない喜びの感覚を覚える。黒人兵を飼育すること(支配すること)に、特権的な喜びを見出したのだろう。

黒人がやって来る前は、少年達にとって、家畜こそが自分の手中に収まる存在だった。山犬を無理やり捕獲する場面があるが、それは差別される彼らにとって、野良の動物だけが支配対象なのだと考えられる。そして家畜の延長線上に黒人が現れたため、一層他者を飼育(支配)する感覚への興奮が高まったのだろう。

とりわけ子供達にとっては、街の人間のみならず、村の大人達とも踏み込めない乖離がある。黒人をどう対処するかの話し合いに子供は混ざれないし、地下倉に監禁された黒人を見にいくことも禁じられていた。だからこそ、主人公は黒人を飼育する権利を与えられ、狂気的な誇示の感覚に目覚めたのだと思う。

ところが、やがて主人公と黒人は、家畜としてではなく、人間的な絆を築いたように綴られている。とは言え、主人公達は、黒人に山羊とセックスを強要したり、あくまで素晴らしい家畜という感覚は抜けきっていない。しかし、黒人が県に引き渡されることが決定した時に、主人公は彼に注意を促したい感情が芽生える。それは、自分達の素晴らしい家畜を奪われる感覚に対する抵抗に過ぎないのかもしれないが、しかしその奥には子供の純粋な絆が存在したようにも考えられる。




子供から大人への成長

黒人と人間的な交流を果たしたのも束の間、黒人の移送が決まると、一気に二人の関係は崩れる。主人公にとって、自分が支配する存在、敵ではない存在が、急に自分を人質にし、敵へと変わるのだ。

あるいは、村の大人達に対する感情も変化する。彼らは主人公の犠牲を厭わずに、抵抗する黒人を鉈で殴り殺す。その結果、主人公の手はぐちゃぐちゃになった。

前述の通り、原始的な村に、戦争という要素が入り込んだことで、秩序が崩壊したのだ。人間的な絆を築いた黒人が敵に変わり、村の大人達でさえ自分を守る存在ではなくなった。

これらの経験をした主人公は、二度と子供達の遊びには混ざれなくなる。戦争による死、秩序の崩壊を知った主人公は、もう少年ではいられず、大人の世界(外の世界)に押し出されてしまったのだろう。

ぐちゃぐちゃになった手の悪臭を友人に指摘される場面で、主人公は「自分の臭いじゃない、黒人の臭いだ」と答える。かつて主人公に恐怖と羨望をもたらした黒人の体臭、一時的に人間的な絆を築いた黒人の体臭、それを象徴する手は粉々に潰され、自分の所有物ではなくなっていた。人間が築き上げたものを、戦争が奪い去ってしまうという作者の主張が、ここに描かれているのだと思う。

書記の死に込められた意味

物語のラストでは、唐突に書記が死ぬ。子供と戯れるために義足を外した書記は、谷から落下してしまうのだ。

書記は町の人間であるが、主人公とは対等に会話をする存在だった。外部から遮断された主人公にとって書記は、外の世界、あるいは乖離のある大人達との、仲介人のような役割を果たしていたのだ。

書記がなぜ義足なのかは語られない。あえて深読みするなら、戦争による負傷と考えられる。ともすれば、書記も主人公と同様に、戦争による秩序の崩壊によ、大人の世界(外の世界)に押し出された存在だったのかもしれない。だからこそ、唯一主人公と対等な結びつきがあったのではないだろうか。

そして書記の死因は子供と戯れた結果だった。一度外の世界に押し出された人間は、二度と子供の世界に回帰できないことを意味するのではないだろうか。既に少年ではなくなった主人公にとって、書記の死は、成長の不可逆性を訴えていたのかもしれない。

さらに義足が主人公の手に渡されたことで、内外の世界の仲介人である書記の役割を、主人公が引き継いだとも考えられる。

書記の死後、主人公が弟を探しに行く場面で物語は幕を閉じる。まだ外の世界に押し出されていない弟と外の世界を仲介することが、今後の主人公の役割なのかもしれない。




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