有島武郎『一房の葡萄』あらすじ解説|作者が学んだキリストの教訓

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一房の葡萄 散文のわだち

有島武郎の小説『一房の葡萄』は、自身の少年時代の体験に基づいて創作された童話です。

生前に残した唯一の創作童話集の表題作でもあります。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者有島武郎(45歳没)
発表時期  1920年(大正9年)  
ジャンル短編小説
童話
ページ数13ページ
テーマ作者の少年時代の疎外感
分け与えることの大切さ

あらすじ

あらすじ

横浜に住む主人公は絵が描くことが好きで、美しい海岸通りを絵で再現しようとします。しかし、自分が所持している絵具では、その美しさを上手に表現することが出来ないのでした。

クラスメイトのジムが、上等な西洋絵具を持っていることを知った主人公は、それが欲しくて堪らなくなります。そして休み時間、誰もいない教室で衝動的に盗んでしまいます。呆気なく犯行はバレてしまい、先生に言いつけられます。先生は泣き続ける主人公に一房の葡萄を与えます。そして「明日はどんなことがあっても学校に来なければいけませんよ」と諭すのでした。

翌日、暗い気持ちで学校へ行くと、ジムが笑顔で駆けよって来ます。そして主人公の手を引き、先生の元へと連れていってくれます。そこで2人は葡萄を分け合い、無事仲直りをすることができました。

今でも先生の白い手と美しい葡萄の房を思い出します。とっくに所在は分かりませんが、先生を思う気持ちは変わらないのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

有島武郎の生い立ち

本作は、作者である有島武郎が、実際に少年時代に経験した出来事を基に執筆されました。そのため、主人公がジムの絵の具を盗んだ動機について深読みする前に、有島武郎の生い立ちを軽く紹介します。

有島武郎は明治11年生まれで、父は薩摩藩郷士出身の官僚です。いわゆる士族の家庭です。明治時代に入り、かつての士族たちは没落者と成功者に分かれましたが、幸い有島家は後者でした。父は官僚として活躍し、一方で事業でも成功を収めます。

要するに、有島武郎は完全に、良いとこのお坊っちゃんだったわけです。

それが幸か不幸か、有島武郎は長男だったため、後継ぎとして厳しく育てられました。

父は長男たる私に対しては、殊に峻酷な教育をした。少い時から父の前で膝を崩す事は許されなかった。朝は冬でも日の明け明けに起こされて、庭に出て立木打ちをやらされたり、馬に乗せられたりした。母からは学校から帰ると論語とか孝経とかを読ませられたのである。一向意味もわからず、素読するのであるが、よく母から鋭く叱られてメソメソ泣いた事を記憶して居る。

『私の父と母』より

厳粛な父に支配され、母に勉強面で叱られる。そんなキツい教育を強いられた有島武郎にとって、両親とはある一定の壁が存在したことは言うまでもないでしょう。

本作『一房の葡萄』では、主人公は上質な絵の具を欲しがっています。有島武郎の裕福な家庭を考えれば、決して金銭的な問題で手に入らないわけではありません。主人公は父母の存在に怯え、絵の具を買って欲しいとねだることが出来なかったのです。

けれども僕は何だか臆病になってパパにもママにも買って下さいと願う気になれないので・・・

『一房の葡萄/有島武郎』

裕福な家庭だから幸福とも限りません。有島武郎のように、厳粛な父母に対して心を開けなくなる場合もあるようです。作中の主人公が犯行に及んだ原因は、一部にはこういった家庭環境の問題も関係していたと考えられます。

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西洋人の街での疎外感

やり手の両親の元に生まれた有島武郎は、父の先見の明により、早くから英語教育を受けていました。西洋人が多く住む横浜に移住し、知人の米国人に教育を受け、就学期には英語系のミッションスクールに通うことになります。

作中にも、横浜は西洋人ばかりが住む町で、学校の教師も西洋人ばかりだったと記されています。そこで暮らす主人公は、臆病者で、言いたいことを言えない質で、友達も少なかったようです。これは西洋人コミュニティの中で、疎外感を抱いていた当時の有島武郎の心情が反映されているのだと考えられます。

皆が運動場で遊ぶ中、主人公だけは教室に残っていました。挙句、西洋人のクラスメイトたちが笑いながら話す様子を見て、自分が絵の具を盗むことを予感されているのだと、被害妄想に囚われる始末です。確実に主人公は、西洋人たちに気後れを感じ、その恐怖から敵対心すら抱いている様子が見て取れます。

以上の西洋人コミュニティにおける主人公の疎外感から考えると、彼がジムの絵の具を盗んだのは、決して絵の具が欲しかったばかりではないように思います。彼が絵の具を盗む相手は西洋人でなければだめで、それは意図的な人選であったように感じます。

不良少年が非行によって周囲に許容されたいと願うのと似ているかもしれません。つまり、主人公には疎外感を払拭したい願望があり、されどあまりに不器用な性格のため、絵の具を盗む愚行に至ったのだと思います。

未熟な少年時代に、誰しもが似たような思いを抱いた経験があるのではないでしょうか。

単に主人公の盗みと、その懺悔ばかりに注目するのではなく、なぜ主人公が犯行に及んだのかを作者のバックグラウンドから読み解けば作品の深みが一層増します。

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先生と一房の葡萄の意味

主人公は、西洋人の女性の先生に対しては好意を抱いていました。

主人公は誰にも可愛がられない性格だと自負しています。それは西洋人コミュニティにおける疎外感の表れでしょう。その中で分け隔てなく自分にも優しく接してくれるから、唯一先生にのみ主人公は心を開いていたのだと思います。

主人公の先生に対する好意は強く、ジムの絵の具を盗んだことがバレた時も、先生に嫌われることを最も恐れていました。結果的に主人公はこの先生の取り計らいによって救われます。

先生は主人公に一房の葡萄を与えました。これにはどんな意味があったのでしょうか。

その答えは、物語の構造を俯瞰視すれば見えてくるかもしれません。

絵の具を盗んだ主人公は、先生に一房の葡萄を貰います。そして翌日にジムと仲直りを果たした場面では、先生は一房の葡萄を半分に切って、主人公とジムの両方に分け与えます。

つまり、一房の葡萄を分ける行為が、主人公とジムの復縁を象徴しているのでしょう。

この分け与えるという行為は、キリスト教的な意味合いが含まれていると思います。西洋人の先生ですし、有島武郎自身も将来的にキリスト教にのめり込みますから、作品の主題にそういった思想が落とし込まれていることは容易に想像できます。

「与えなさい。そうすれば、自分も与えられます。」

これはキリストの言葉です。

主人公はジムの絵の具を盗みました。上質な絵の具を求めると同時に、西洋人コミュニティに許容されたいという願望の意もあったと考えられます。つまり主人公は、自分が与えられることばかりを考えていたのです。

しかしキリストの教えに則るなら、与えられたいなら自分から与える必要があります。主人公がジムに対して自分から与えることを怠っていなければ、案外簡単に仲間として許容され、絵の具を使わせてくれたかもしれません。

そういった教訓の意を込めて、先生は一房の葡萄を二つに切って主人公とジムに与えたのではないでしょうか。一房の葡萄を独り占めするのではなく、他者と分け合うことの重要性を主人公は先生から学んだのだと考えられます。

だからこそ先生が居なくなった現在でも、まるで恩師の様にいつまでも忘れられないのかもしれません。

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