中村文則『銃』あらすじ解説|デビュー作 銃を拾った青年

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銃 散文のわだち

中村文則の小説『』は、新潮新人賞を受賞したデビュー作です。

銃を拾った青年の心の葛藤が描かれます。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者中村文則
発表時期  2002年(平成14年)  
ジャンル中編小説
ページ数178ページ
テーマ消滅願望
孤児の精神状態
受賞新潮新人賞

あらすじ

あらすじ

「昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない。」

『銃/中村文則』

大学生の西川は雨の河原で男性の死体を発見し、側に落ちていた拳銃を持ち帰ります。それ以来、彼は取り憑かれたように拳銃を愛でるようになります。まるで人格を持つ存在として拳銃と対話を交わし、気持ちが高揚したり、時に嫉妬することもありました。

初めのうちは銃の外観や存在意義に魅せられていたのですが、次第に発砲することを考えるようになります。実際に主人公は夜の公園で負傷した猫を撃ち殺します。それがきっかけで、1人の警官が拳銃の行方を嗅ぎつけて西川の元を訪れます。証拠がないため逮捕することは出来ませんが、警官は人を撃つ前に拳銃を捨てろと西川に忠告します。ところが主人公は、とうとう人間を撃つことを決心します。標的は同じアパートに住む虐待をする女です。

孤児という過去、実の父親との再会、女性関係、それらを象徴するように主人公を狂わせる拳銃の存在。来るところまで来てしまった主人公は、果たして本当に人を殺してしまうのか・・・

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個人的考察

個人的考察-(2)

デビュー作の創作秘話

本作『銃』が新潮新人賞を受賞したのは、中村文則氏が24歳の頃です。

大学を卒業した作者は、2年間フリーターをしながら執筆に取り組んでいました。その間に4度新人賞に応募しており、いずれも一次審査で落選しております。

当初はデビューするために現代文学らしい作品を執筆していたみたいです。しかし4度の落選を経験し、ようやく自分が本当に書きたいものを書こうと決心して完成したのが『銃』だったようです。その結果、見事新人賞を受賞し、芥川賞候補にまで選出されました。

執筆にあたり、フランスの作家アンドレジッドの『背徳者』を参考にしたようです。善悪をジャッジせずに、意識の流れをありのまま描くという手法です。まさしく『銃』は、物語性よりも主人公の精神の部分に焦点を当てて描かれています。

あるいは、冒頭の文章はカミュの『異邦人』を想起させる形式になっています。

きょう、ママンが死んだ。 もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない。

『異邦人/カミュ』

「昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない。」

『銃/中村文則』

確かに接続詞の用い方が似ています。中村氏は意図せずに書いたようですが、フランス文学を日本語翻訳した特殊な文体の影響は確実に受けていると発言されています。

本作『銃』で新人賞を受賞した作者は、連続で文学賞を受賞していきます。

  • 2作目『遮光』:野間文芸新人賞
  • 3作目『土の中の子供』:芥川賞

以降はミステリー要素の強い作品や、SF要素のある長編大作を発表し、21世紀を代表する作家として活躍し続けています。

ちなみにデビュー前の作者は、フリーターは2年まで決めており、執筆の傍らで法務教官の試験を受けていました。中村氏の作品を読めば納得すると思いますが、彼は少年犯罪に興味があるため、少年たちの社会復帰に携わる法務教官を目指していたようです。

そして、法務教官と小説の新人賞の通知がほぼ同時期で、彼は作家としての人生を選んだみたいです。

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銃が象徴するもの(自己消滅・父親)

主人公・西川の銃に対する依存は異常でした。彼は拳銃と対話をすることで気分が高揚したり、不安になったり、嫉妬したりします。拳銃を所有する身でありながら、拳銃に支配されていたのです。

彼が拳銃に魅せられた理由は、拳銃が死のイメージと直結していたからだと思います。他者を殺すことも、自分を殺すことも当然叶うわけです。実際にそれを実行するかは別として、その可能性を自分の手中に収めたことに強い興奮を覚えていたようです。

あるいは彼は、拳銃の所持が警察にバレることに不安と恐怖を感じていたものの、それがもたらす刺激に興味を持っていました。彼にとって拳銃は、自分を破滅させかねない存在でありながら、その感覚に興奮を覚えていたのです。

このことから、彼の中には破滅願望のようなものが存在したと考えられます。

では、その破滅願望は何に起因するのか。

それは彼の孤児だった過去でしょう。

中村文則氏の作品には度々、孤児の主人公が登場します。そして彼らは一様に恐怖に対して依存するような状態に陥っています。本作『銃』の主人公は、酒飲みの父親から保護され、里親の元で育ちました。そして危篤状態になった実の父親に会いに行く場面では、主人公と父親は和解することはありませんでした。

さらに作中では、実の父親と拳銃を重ね合わせて描かれる場面があります。

「そして、遠くに転がった拳銃を眺めながら、なぜか、もうすぐ死ぬだろう父親のことを連想した」

『銃/中村文則』

実の親にどんな仕打ちを受けてきたのかは殆ど描かれません。ただし同じアパートの女が虐待していることに異常に過敏である点、あるいはその女を撃ち殺そうとする点から考えると、主人公は実の父親から酷い暴力を受けていた可能性があります。

ともすれば、彼にとって拳銃とは、自分が依存する存在、そして支配され翻弄される存在、つまり父親を象徴しているのだと考えられます。

拳銃で人を殺せば主人公の人生は滅茶苦茶になります。それはある意味で父親の支配によって自分が破滅してしまうことを意味しているのでしょう。彼にとって拳銃で人を殺すか殺さないかの葛藤は、実の父親との関係を克服できるか克服できないかの葛藤のメタファーなのだと思います。

ともすれば、女を撃ち殺すのを踏みとどまる展開は、主人公が葛藤を克服する兆しを意味していたのでしょう。

ところが、結局彼は人を殺めてしまいます。まるでアメリカンニューシネマくらい呆気ないバッドエンドが待ち構えていました。どうせ父親は間も無く死ぬ、という事実が一時的に主人公を解放しただけで、和解を果たさなかったため完全に克服はできていなかったのでしょう。

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母性を求めていた主人公

作中には二人の女性が登場します。

一人は「ト」という名前で携帯に登録している女性です。合コンで知り合った遊び相手です。彼女とは4度肉体関係を結びます。彼女とセックスをする時の主人公は、拳銃によって気持ちが高揚している場合もあれば、実の父親のことで精神的に参っている場合もありました。「ト」の女とのセックスの描写は、浮き沈みがある主人公の心理を表現するための舞台装置として利用されているのだと思います。

一方で、「ヨシカワユウコ」という女性は遊びではなく本命でした。ところが彼女とは一度も肉体関係を結びません。

ここで注目したいのが、ヨシカワユウコと肉体関係を結ぶチャンスはあったが、主人公は意図的にスルーしていたということです。そして、そのチャンスはいずれも主人公が拳銃を発砲する直前でした。逆に言えば、ヨシカワユウコに対する欲求が、拳銃を発砲する引き金になっていたのです。

おそらく主人公は、ヨシカワユウコに対して母性的な面影を見出していたのだと思います。それと同時に母性に依存することに恐怖を覚えていたのではないでしょうか。

作中では実の母親の存在は描かれませんが、主人公を捨てて逃げた事実だけは明かされます。主人公からは確実に母親の愛情が欠落しています。そのため主人公は欠落した母性を欲すると同時に、自分を捨てた存在に対する嫌悪を感じていたように思います。

母性的な愛情を欲しながら、その愛情を嫌悪し遠ざけていたのです。

そのため、母性を見出したヨシカワユウコに欲求を抱くと同時に、肉体関係を結ばず遠ざけようとしていたのではないでしょうか。その遠ざける行為こそ、拳銃の発砲で自らを破滅させることだったのでしょう。

ちなみに西川は異常に煙草を吸います。あらゆる場面で煙草を吸う描写が綴られます。一説では、煙草をやめられない人は、口唇期に満足が得られなかったと考えられています。つまり、主人公に母親の愛情が不足していることを煙草が物語っているのです。その歪みが、女性を求めると同時に無意識に拒否する主人公の複雑な心理を形成したのかもしれません。

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後の作品に引き継がれる主題

以上のように、本作『銃』では、自分を捨てた父母の存在が、銃を発砲するかしないかの葛藤に大きく関係していました。そして主人公はその葛藤に敗北しました。

この孤児としてのテーマは3作目の芥川賞受賞作『土の中の子供』で、克服の物語として引き継がれることになります。

さらには6作目の『何もかも憂鬱な夜に』では、主人公のみならず、他の登場人物にもその葛藤を背負わせて、より深い部分まで追求しています。

ぜひ、他の中村文則作品もチェックしてみてください。

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中村文則の代表作『去年の冬、きみと別れ』は2018年に映画化され、岩田剛典、山本美月、斎藤工ら、豪華俳優陣がキャストを務めた。

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