有島武郎『カインの末裔』あらすじ考察 旧約聖書を題材にした物語

カインの末裔 散文のわだち
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有島武郎の小説『カインの末裔』は、旧約聖書における教義を題材にした作品です。

キリスト教に傾倒した作者の、凄まじい人生を紹介しながら作品を考察していきます。

『カインの末裔』作品概要

作者有島武郎(45歳没)
発表時期1917年(大正6年)
ジャンル短編小説
テーマ旧約聖書の教義
嫉妬と憎悪

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『カインの末裔』あらすじ

あらすじ

冬の厳しい北海道が舞台です。

主人公の仁右衛門は、妻と子供と痩せた馬を連れて、農場にやって来ます。この地で小作人として働くためです。事実、移住後の彼は誰よりも働きました。農作業ができない時期は、漁師として出稼ぎをして、その収入でたくましい馬と新しい農具を買います。春が来れば皆が寝静まっても農作業の手を止めませんでした。馬による運送の仕事にも勤しみ、無一文だった仁右衛門の暮らし向きは良くなっていきました。

ところが不意に仁右衛門の人生は暗転します。なんと子供が赤痢で死んでしまったのです。元より乱暴な正確だった仁右衛門はますます荒くれてしまいます。さらには、自慢のたくましい馬が、草競馬の最中に意図せぬ事故で前脚を折ってしまいます。窮地に立たされた仁右衛門ですが、ずっと横柄だった彼に援助をするものは一人もいませんでした。それどころか農場を出ていくよう催促されます。小作人の機嫌を取るために、仁右衛門は地主を訪問して小作料の軽減を懇願しますが、まるで相手にされません。

翌朝、仁右衛門は前脚の折れた馬を斧で殺し、荷物をまとめて、妻と二人、厳しい冬の北海道を再び放浪することにします。かつてこの農場に来た時は子供も馬も居たのに、今はそのいずれも失っているのでした。




『カインの末裔』個人的考察

個人的考察

旧約聖書における「カイン」とは

本編のあらすじ考察に入る前に、タイトルの意味について触れようと思います。

ご存じの方も多いと思いますが、「カイン」は旧約聖書の登場人物です。楽園を追放されたアダムとイヴが授かった子供が、カインとアベルなのです。

カインは人類の祖先ということになります。

ところが旧約聖書の中では、カインは罪深い人間の象徴として描かれています。

ある時、カインとアベルは神へ供えものをします。カインは農夫のため穀物を、アベルは羊飼いのため子羊を捧げます。すると神はアベルの供えものしか受け取りませんでした。嫉妬にかられたカインは、弟のアベルを殺してしまいます。怒り狂った神は、カインをエデンの東へ追放し、彼の子孫が一生収穫を得られない呪いをかけたのでした。

上記の神話から、カインの子孫である人間は生まれながらに罪深い存在とされています。だからこそ信仰心を大切にしましょう、というのが西洋の宗教思想なのです。

こういった宗教的な背景から分かるように、カインの末裔とは我々人類を指します。そして、カインの中にあった憎悪や嫉妬といった醜い感情が、本作『カインの末裔』の重要な主題になっているのです。

仁右衛門の悲劇は身から出た錆

怒り狂った神は、カインをエデンの東へ追放し、彼の子孫が一生収穫を得られない呪いをかけた・・・。

カインの末裔とは人類であり、作中ではとりわけ仁右衛門のことを指します。子供も馬も金も失って農場を追放される結末は、旧約聖書の教義の通りです。

農場にやって来た当初から、仁右衛門は横柄な態度でした。唾を吐く癖があり、気に食わなければ暴力を振るいます。おまけに彼は巨体だったため、農場の人々は怯えていました。あるいは小作人たちが厳しい小作料を徴収される中、仁右衛門だけは誤魔化していました。そのため地主からもよく思われていませんでした。

そんな彼は、度々小作人と衝突します。その殆どは仁右衛門の理不尽が原因でした。

例えば、賭博に負けた仁右衛門が帰宅すると、自分の畑に近所の子供が侵入していることがありました。彼は子供を殴り、その親にも血を浴びせます。子供に命令して畑を荒らさせた、と仁右衛門は睨んだのです。

あるいは自分の子供が死んだ時には、死因は赤痢にもかかわらず、笠井という小作人が殺したのだと憎悪を募らせます。馬の脚が折れたのも、急に笠井の子供が飛び出して来たのが原因で、ますます彼に対する恨みが倍増します。

仁右衛門は自分の利益のために周囲に迷惑をかけ、その因果として自分に不幸が降りかかれば周囲のせいにし、最終的には皆に見放されて追放されてしまったのです。

旧約聖書のカインが、憎悪や嫉妬を募らせた結果エデンの東に追放されたように、尼右衛門も同様の末路を辿ったのです。

仁右衛門という横柄な人間を通して、無知で罪深い人間の末路を描き、憎悪や嫉妬を募らせることの愚かさを説いたのかもしれません。




農場にいる全員が罪人

本作『カインの末裔』の醍醐味は、あらゆる事件の真相が明かされないことでしょう。

前章では、子供に畑を荒らされて暴力を振るった仁右衛門を理不尽だと記しました。しかし、実際は仁右衛門の被害妄想なのか、本当に小作人の嫌がらせなのか判りません。

事実、仁右衛門は誰よりも農作業に懸命になり、皆が不作の中、彼だけはたくさんの収益を得ていました。村社会ですから、抜きん出たものを気に食わなく思う風習は確実に存在します。ともすれば、子供を使って彼の畑を荒らさせたという推測もあながち間違いではないように思えます。

赤痢で子供が死んだのを小作人の笠井のせいにするのは流石に無理があります。あるいは、笠井の子供が飛び出したことで馬の前脚が骨折したのも、不慮の事故でしょう。しかし、これらの出来事に際して、笠井は憐れむような態度を見せつつ、どこか白々しい感じがします。おそらく、腹の中で仁右衛門の不幸を喜んでいるのだと思います。

極め付けは笠井の娘がレイプされた事件です。その夜に仁右衛門にアリバイがなかったため、農場では彼が犯人だと決めつけられます。もちろん、仁右衛門には疑われるだけの筋合いはありましたし、彼が笠井に恨みを持っているのは周知の事実でした。しかし、この事件に関しても真相は明かされません。仁右衛門が犯人かもしれませんし、他の誰かが仕組んだのかもしれません。

この疑惑だらけの混沌とした村社会こそ、有島武郎が描きたかった主題の一つなのではないでしょうか。

エデンの東に追放されたカインの末裔は、仁右衛門だけではありません。誰しもがカインの子孫なのです。ともすれば、作中の全員が憎悪と嫉妬を抱えた罪深き存在と言えます。

村社会の中で互いに嫉妬し、激しく憎み、わざと陥れ、出る杭を打つ。本作はそういった人間社会の醜悪を風刺していたのかもしれません。

有島武郎の被支配者に対する想い

有島武郎は明治11年生まれで、父は薩摩藩郷士出身の官僚です。明治時代に入り、かつての士族たちは没落者と成功者に分かれましたが、幸い有島家は後者でした。父は官僚として活躍し、一方で事業でも成功を収めます。

要するに、有島武郎は、大地主の両親の元に生まれたお坊っちゃんだったわけです。

ともすれば、地主に支配される小作人の物語を描くのは、どうも矛盾しているように思われます。これには色々と残酷な理由があります。

ブルジョワ出身の有島武郎ですが、彼は大学生の頃にキリスト教に心酔し、西洋的な思想に傾倒します。さらに時代は大正です。大正デモクラシーの名の通り民主主義的な思想が日本に流入し、さらにはソ連の誕生により、社会主義の風潮が一気に日本国内に広がります。まもなくプロレタリア文学も登場します。

有島武郎は社会主義に傾倒した文豪として有名です。そして社会主義者にとって、支配層である地主は最もたる敵です。されど彼自身は地主の子供です。この葛藤が有島武郎を苦しめます。ところが父親が死んだ後、一つのタガが外れた彼は、実家の農地を小作人に解放します。地主側からすればあり得ない行動であり、当然家族との関係が悪くなってしまいます。

このような作者の経緯を知ると、彼が『カインの末裔』のような、被支配者側の小説を執筆した理由が分かるのではないでしょうか。

仁右衛門が小作料の軽減を求めて地主の元を訪れる場面で、その豪華な暮らしぶりに圧倒される描写などは、プロレタリア文学と言っても差し支えないほど、支配者に対する風刺の意が感じられます。

社会主義の思想を持つが、生家が大地主という葛藤の中で描いた作品だと考えれば、また違った解釈で楽しむことができると思います。

ちなみに有島武郎はその後、とんでもない不幸な人生を歩むことになります。一つだけ言うなら、彼の最期は自殺です。

詳しくは下記記事で紹介していますので、併せてご覧ください。

今回の参考文献は下記になります。




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